会議の前後の情景

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 携帯端末に緊急事態のコールを受けて、国内待機時の吏族の執務室に走るamurは、むしろ走るコントラバスであった。
後ろから見ると丁度コントラバスが腕と足を生やして走っている様に見える。
バンドのメンバーとのリハーサル中に呼び出しを受け、すれ違う人々の邪険な眼差しをいつもの事と受け流し、
学生街の貸しスタジオから出来るだけ急いできたのであった。
 と、政庁の廊下を右手に持った紙を鋭く睨みつけている人物がいる。
ビギナーズ王国は執政、最近敵方の人物と恋に落ちた刻生・F・悠也である。
外から戻って自分の執務室へ向かう途中の彼は左手で己のあごをさすりつつ難しい表情であった。
 そこに後ろから走ってくる大きな足音を聞いて彼はふと振り返った。
迫り来る大きな物体であるamurに一言、うお、と感想を述べる。
amurは立ち止まり、自分の上司に辞儀をする。
「緊急の呼び出しを受けて登庁致しました」
「うん。いや頭下げなくて良いから。危ないって」
「は……あ、失礼しました」
 amurは頭を上げた。コントラバスのネックがぶん、と持ち上がる。見れば、
執務室にほど近い廊下は天井が低く、ネックの先がつきそうである。
「ところで、このビラを見たかい?」
 刻生は紙を叩いた。ばしんと鳴る。
「全くとんでもない事だと思わないか」
 そう続けて言う表情が狷介を極めた。王国執政は近寄りがたい雰囲気で恐れられているのである。
だが、amurは、思い切って自分の思う通りの返事をした。
「はい。しかし、私は我が国民の頭の悪い事を確認できて嬉しい限りです。首都の人々の士気昂揚は著しいものがありました」
 刻生はamurの目を見た。amurは思わず軍隊の気を付け、の姿勢をとる。
刻生はため息をつきながら振り返った。そして言った。
「こんな事をされては私もネタを仕込まねばならない気になる」
「は?」
 王国執政は見た目と裏腹な気さくな人柄で部下に慕われている人物であった。
「とにかく会議が必要だ。まず調整しよう」
「は」
 二人は廊下を急ぎだす。国内全体が戦時体制に移行するのは、その会議を重ねたとはいえ数刻後である。
 まず、アイドレス開発に予算が出るとあって会議中から即時に試作兵器完成を命じられた整備工場から飛行場、
開発技局が急激な稼働を見せ、技族達を中心に設計試作されていたもののブラッシュアップを開始された。
幾人もの整備員たちがつなぎを汚し、膨大な量の開発データ演算試算結果が電網を流れた。
 と、嵐の如く、といった首都付近工場にやってきたのは北国人にしては小柄なtactyである。
戦時体制令が国内に発動され、令に伴う付帯文をまとめた吏族たちは、その後事務やら何やらを分担し、
報告書を次々と片付けて行った彼は各地の国民用シェルターが正常に稼働されているか確認を次に任された。
とはいえ、政庁の公用車は会議中に発令した案件に従って既に全て出払っており、
近くて頑丈な車のありそうな兵器工場にやってきたのである。
 ID認証を受けて車庫に案内される彼は、ふと思い立って開発の行われている工場を覗いてみた。
 軍用トラック、がある。その周りを工具や部品を持ってうろちょろしている整備員達。
その後ろに女王の様に巫女の様に君臨している、と見えるつなぎの女性がいる。西條華音である。
 ぼーっとしているようにしか見えないな? とtactyは思ったが、よく見ればヘッドセットを付けている。
 ヘッドセットでこの場の外との情報をやり取りし、整備員達に指示を出しているのである。
先のビラ散布の機体整備の為につなぎはすでに汚れている。
会議を挟んでそのまま工場に現れ、休む事なく開発制作を続けるその姿は確かに整備の女王なのであった。
 頷いて、tactyは待っている案内にごめん、行こうと声をかけ、急いだ。自分もやるべき事をやろうと思ったのだった。
 スキール音が鳴った。ギアは1速からダブルクラッチで2速へ。
シェルターのチェック。戦争は好きではない。いたわる事は大事だ、とtactyは思う。
スキャンゲートを通り抜け、幹線道路を郊外へ、車をぶっ飛ばした。

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