戦争準備~整備の戦い~

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匿名ユーザー

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「違う!もっと滑らかに仕上げろ!そこっ!早くもってこい!」

人員が通常の倍、速度も倍の整備工場に刻生の声が響く。
パーツを満載したカートがその声を受けて速度を上げた。
転倒するなよー、とひやひやしているとことに、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「刻生さん!こっち手伝いますよ」
「私もお手伝いします!」
「SWさん、西條さん!ありがとう。関節と骨格は?」
「S×Hに任せてきました。それよりジャンプロケットです」

ドリンクを手渡しながらSW-Mが言う。
トモエリバー内蔵機構のうち、最も重要なものの一つ、多目的ジャンプロケット。
火のついた棺桶と言われるこれの改良が今刻生に課せられた任務であった。
先ほど声をかけたカートが、ロケットの燃料を入れるタンクを作業台へと運ぶ。
それを一つ手に取って忌々しげに見る。

「こんなもの制式だとしても絶対使ってやるものか」
「え?どうしてですか?しっかり出来るじゃないですか」
「西條さん、これは『制式』仕様、何にもいじってない状態なんだよ。
 量産性重視で内蔵機器は簡便なものばかり。つまりこれが棺桶の本体だ」

説明しながらこんなもの、と燃料の吹き出し口を見るSW-M。
刻生はうなずいて端末を開いて設計図を呼び出す。

「このまま使ったら爆死の確率は高いまま。そんなもの許さん。
 俺たちはビギナーズだ。ビギナーズで戦死者なんぞ出すものか」

ドリンクホルダーを握りつぶし、設計図を拡大していく刻生
いまだかつて見たことの無いその顔に、西條が感想を漏らす。

「なんか、刻生さんがカッコイイ」
「それは違うよ西條さん。俺はいつでもカッコイイ……ぐべっ」
「いいから仕事しましょう。まずはこの状態で出来るだけ試用ですね」

ポーズまで決めていたところをハリセンでツッコまれる刻生。
SW-Mと西條は何も気にせずタンクを手に取り、これ試験室持ってってと手すきの者に渡す。
そこに後頭部を抑えている刻生が近づく。

「SW-Mさん、今のはひどいんじゃあないかな」
「彼女にばらしますよ」
「とりあえず噴出口の問題だな。ここの構造が簡易すぎる」

端末と実際の構造を見比べる刻生。
変わり身早ぇーなと振っておいて思うSW-M、かっこ悪いと思う西條。
これが三者三様というものである。

構造簡易なのは動作が素早くなるということであり、高速戦闘するにはいいことである。
ただ簡易すぎることによって燃料タンクへ火が入りやすいということにもなる。
複雑且つ燃料タンクへ入りづらくすれば、爆死の危険は少なくなる。
しかしその2つの間には確かにコンマ1秒レベルの差が存在する。
それは白兵戦を敢行する場合には致命的な差になりえるのだ。
よってその間をどこまで、どうやって詰めるか。それが今必要なことなのだ。

「構造を一段階変えたらどうなるかな」
「さっきまでそれを試してたんだよ。でもダメだった」
「画期的な構造でもない限りダメ、ってことですよね」
「そもそも液体燃料という時点で誘爆の可能性が大きいってもんだからなぁ」

試験室から爆発音と共に届く結果に、三人してあーでもないこーでもないとバインダー型の端末に書き込んでいく。
うーん、と悩みながらもこのノズルか?いやこっちだ、と新しい燃料噴出口を溶接しては
あ、そこの君タンクの中の凸凹しっかり取ってと溶接面の研きを任せる。
そこに資料を届けにきたニーズホッグとタルクが通りかかる。

「お、何やってるんですか?」
「ニーズさんにタルクさん。いや、ジャンプロケットが上手いこといかないくてねぇ」

答えたのは刻生である。
I=Dについての最新情報を受け取り、目を通す。
試験室から本日何度目かの爆発音が聞こえた。
はぁ、と大きなため息をつく刻生。

「これもだめと、これで何個目だ?」
「7個目ですね。まぁ、帝國の頭脳が集まってもどうしようもなかったってモノですからねぇ」
「だからと言って諦めんぞ」
「もちろんですよ」

SW-Mと西條がそれぞれ合いの手を入れる。
といいつつもどうしたもんかという空気は否めない。
そんな三人を見ていたタルクが、ふと口を開く。

「燃料の方はどうなんですか?」
「燃料を変えてみたらってことかい?」
「それはもう考えました。というより、おいそれと変更できないんですよ」

刻生と西條がそれに答える。
そうかぁ、と納得して大変ですねぇと感想を漏らすタルク。
ニーズホッグもそれじゃあ頑張れーと戻っていく。
手を振りながらまたがんばるかーと刻生が伸びをした。

「そうか、燃料だよ!」

その時、SW-Mが声を上げた。
ビックリする2人。刻生は後ろにひっくり返る。
遂にボケに転向したのか?と思いながら刻生が声をかける。

「燃料は燃焼効率優先だからそうそう変えられないってあれほど」
「だから、燃焼効率を上げつつ燃えにくくすればいいんですよ」

二人しては?という顔になる。
SW-Mはバインダー型端末を手に取ると何かを書き始めた。

「いや、構造は複雑にはなりますが、ポンプを強力にして燃料をより強く噴出、
 つまり燃料粒子を細かくすることで燃焼しやすくできるんじゃないかなって思ったんですよ」

タンク回りを書き上げ、そこに絡まるようにタービンを書いてゆく。
それを見て何を言おうとしているかを理解した刻生。

「そうか、トモエリバーは省スペースのためにあまり強いポンプは使えず、簡便な構造になった。
 ならある程度大きくして強いポンプにしてやればいいってことか」
「ええ、動作速度もこれなら今の状態に近づけることが出来るはずです」

書き上げた設計を見せるSW-M。
大きさが大分変わっているのを見て西條が疑問をもつ。

「そこまで大きくしても大丈夫なんですか?」
「外装のマイナーチェンジくらいは問題ない。なら多少大きくなっても大丈夫」
「重さも大分増えるんじゃないですか?」
「出力も少し増えるからある程度相殺できるはず。密度は劇的に変わらないしね」

刻生が端末を操作して設計をコピーする。
そして必要な部品のリストを作ってゆく。
二人に一拍遅れて理解した西條が、あ!と声を上げて自分の端末を操作し始める。

「たしか、高温から極冷温まで対応できる金属が新しく入ったはずです。
 金属密度は高くなくて軽く仕上がるかも」
「ここのパイプ、もっと径を細くしてもいけるかもしれないぞ?」

自分の端末を操作していた刻生も告げる。
三人で顔を合わせ、目で合図。
刻生が今作業させている整備の作業を止め、近くにある部品からリストにあるものをとって来させる。
SW-Mが現状ある部品で試作品を作るため、手すきのものと一緒にタンクにかじりつく。
西條がヘッドセットをつけて整備ではない工場、部品を作っているところに直に注文をする。
同時に関連する部署から情報を集め、有用なものをやりとりし始めた。


「さて、ビギナーズの意地だ、お前を棺桶と呼ばせんぞ」
一つだけ組みあがったままのジェットロケットを前に、刻生がポツリともらす。
ぽんぽんと叩いて、また声を上げ始める。

これからが本当の戦いなのだから。

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