初心の民

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L:初心の民 = {
 t:名称 = 初心の民(人)
 t:要点 = 船、緊張、初心者
 t:周辺環境=グランパ



「初心」
1学問、芸能の学びはじめであること。また、その人。
2仏道に入ったばかりであること。また、その人。
3まだ物事に馴れないこと。世馴れないこと。うぶ。未熟。
4“初めに思い立った心。”初志。



初心の民

―最初は遠い世界の出来事だった。

―何の報酬も見返りも求めず、人知れず戦う者達がいることを知った。

―自分の信じる義のために、日々を戦い抜く人がいたことを知った。

やがて、憧憬は最初の一歩を踏み出す原動力となる。
その一歩は人知れず戦う誰かの助けとなるための一歩であったかもしれない。
その一歩は日々を戦い抜く誰かを追いかけ、並び立つための一歩であったかもしれない。

―いつしか、誰からともなく彼らは「初心の民」と呼ばれるようになり、自身もそう名乗るようになっていた。

 初心の民、という人々がこの国、ビギナーズ王国にはいるらしい。らしい、と言ったのには訳がある。まず最初に、彼らはどこそこへ行けば会える、という類のものではない。「民」と言っても民族集団のような遺伝子学的特徴や血縁関係によって規定される集団とは趣を異にする、彼らを定義する条件はただ一つ。自らの初心を、その最初の志を、ただ大切にする事。その一点のみであった。考えが誤っていれば改めれば良い。知識が足りなければ補えば良い。力が足りなければ自らを鍛えるか他で補えば良い。大切なのは自らの最初に思い立った心を忘れない事、ただ一つ。……まあ、そういう意味では人によっては、ビギナーズ王国の国民全員どころか場合によっては他の国の人々にも「初心の民」と呼んで差し支えない人がいると考える程度にはゆるい定義の言葉なのであった。

 とはいえ、これではあまりに曖昧すぎるので具体例を1つ挙げて説明の代わりとしたい。では、これより一機のBALLSと共に旅に出た一人の青年の、その未完の物語について語る事にしよう。



#(~筆者の脳内会議~  


(メードガイ) (以下、メ)「……え、これ本当に書くですか?派生がひどいことになっても知りませんよ?」

(隠居したメードガイ) (以下、隠)「メタな事言うな。とりあえず面白いから許可」

メ「……これってセルフ秘宝館な気が」

隠「……いいから書け」(遠い目) )



 ……唐突に目が覚めた。

 「う……なんか変な夢を見た気が……ドッペルゲンガー……?」

何かの夢を見ていたような気がするが断片的にしか思い出せない。まあ、いいかと思い、体を起こそうとして……動かなかった。

 「む……?」

かろうじて動くうろんな頭で自分の体を見下ろし、次いで天井を見上げ、そこにドアがあるのに気付いた所でやっと自分の置かれている状況を思い出した。

 「そうか、今ミアキスの中だったんだ」

 ―昨日はあまりに目まぐるしい一日だった。

 着のみ着のまま最小限の荷物だけもってグランパと共にFVBを訪れ、宇宙港へ向かうシャトルに乗り込み、それから自分の乗る船の名前を知り、旅の行き先と目的を知った。
憧れていた世界に一歩踏み出しつつある、という実感がじわじわと心に染み入ってくる。昨日の興奮がいまだに心の中に熱を宿しているようだった。叫びたい気持ちをぐっとこらえるが、このわくわくはすぐには止まりそうにない。

 「むう……。」

 と、同時に色々後戻りの出来ない所に来てしまったのだ、という思いも脳裏をよぎる。

 「ほとんど何の断りも無しに出てきちゃったもんなあ……」

国の人達が笑顔でハリセンを構える姿を幻視して、一瞬遠い目になる。

 「……よし、ともかく起きよう。船内も見て回りたいし」

 強引に気持ちを切り替えると、天井ではなく、壁に固定された寝袋から抜け出そうとし……そのまま体が回転を始めた。

 「うわ、ちょっ、これは!?」

慌てて手足ををじたばたさせるが空しく宙を切るばかりで何の役にも立たない。そのまま本来の天井にぶつかって跳ね返る。

 「いかん、これはまずい……!」

とっさに机の角に手を伸ばす。ぎりぎりの所で手が届き、なんとか体を止めることが出来た。

 「ふう、危な……」

安堵のため息をつく。どうやら不用意に飛び出すのは危険らしい。

「おはよう、よく眠れたかね?……ふむ、まずは普通に動けるように訓練が必要じゃな」

と、不意に声が聞こえた。少しばつが悪い。

「あー……おはようございます」


目の前に居たのはどことなく甲殻類を思わせる四本の脚がついた球形のボディ、その前面には誇らしげなひげが描かれた一機のロボット、―より正確に言うならBALLS―その名をグランパと言った。
 絢爛世界で産み出された人類の友、BALLS。その最初の数体の一機。地球から見た宇宙開発の歴史のほとんどにおいて常に最前線に立ち、その後の最低接触戦争から汎銀河大戦に至るまで重要な局面を経験してきた存在であり、その200年近くに及ぶ莫大な経験は最初期の機体であり、本来最低レベルの能力しか持たないはずの彼を最新鋭機に比肩させている。全てのBALLSの中で最も長命であり、ゆえに他のBALLS達から神様として敬われる存在。

 ……まあ、話すと長くなるので省略するが、色々あって彼の冥王星行きに同行した次第である。

 「本当に宇宙まで来たんですね……。正直、まだ夢を見ているようです」

 「なに、すぐに慣れる。それに先は長い、まだ最初の一歩を踏み出したに過ぎん」

 「ええ……」

目的地は冥王星。teraからの距離は、太陽からteraまでのおよそ38倍。あまりに遠すぎて果てしない旅路、しかし、それでも宇宙全体から見ればあまりにも微小な距離。

 「あ……」

 あまりにも茫洋とした世界の広がりに足元が崩れ落ちるような錯覚に囚われた。

 「怖いかね?」

不意にグランパの声で引き戻される。

 「ええ……。これからの事を考えて少し緊張してしまったみたいです」

 「新しい世界を知るということは物の見方も大きく変わるということじゃ。これまで自分が拠り所としていた価値観が崩れておるのじゃろう」

 「自らの原点を忘れぬことじゃ。迷った時は、自らがその道を選んだその時の思いを思い出せば良い」

原点……。自分の原点はどこだろう。そう考えた時、胸に去来したのは桜の舞う春の園だった。あの日グランパと誓った約束、それが始まりだった。

 「そう、それを忘れぬことじゃ」

 「……ありがとう。きっと忘れません」

 「仕事があるのでな、ワシはこれで行くよ。今日は部屋にいるとよかろう、まずは体の動かし方に慣れることじゃ」

そう言ってくるくるっと回った後、グランパは部屋を後にした。この後、自分が体の動かし方を覚えるまでに数日かかり、あちこち生傷だらけになっていたりしたのだが、それはまた別の機会に。




(文:タルク/絵:yuzuki)

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