希苑組SS


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タイトル<点数/コメント>






ダンゲロス・プロセルピナプロローグSS1『登場』


夜の校庭の中央に……ほんの小さな、一点の赤い光が灯っていた。
近づけば分かるだろう。中央に立っているのは、一人の少女。
そして赤い光は、彼女の発する炎だと。

「弱いものいじめは好きじゃあねェんだよなァ……」

――そしてもう一つ、夜の暗闇の中では気付かなかった事もあるだろう。

彼女の周囲を取り囲むように、地面に『何か』が敷き詰められているのだ。
中心の赤い光とは対照的に完全に色を失った、黒い物体。
黒く、焦げた……

「……アンタ達はこいつらとは違うよなァ?
 喧嘩売ってくるならよォ……
 せめてアタシにまともな『喧嘩』をさせろよ?」

うず高く積まれたその『山』から眼下を睥睨し、
彼女が少女らしからぬ凶暴な笑みを浮かべる。

その視線の先で――無数の魔人が彼女を取り囲んでいる。
しかし圧倒的優位の状況にも関わらず、既に彼らの目に既に闘志はない。
あるのは絶対的な力に対する怯えと、死の恐怖のみである。

「ゆ、許ひ……て……」

「お願いします! も、もう希苑組には逆らいません……ッッ!!」

「命だけは! どうか……! どうか!」

彼らの口からは堰を切ったように次々と、嗚咽と懇願が漏れる。
そしてそれを聞いた少女は――

「……そーか。
 アンタ達もアタシに弱いものいじめをさせるのか。ムカつくな」

全く表情を変えずに、

「ムカつく奴は死ね」

校庭の中心に灯る赤い光が、大きく、舞い上がって―――

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              01 ダンゲロス子

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「あ、ああ……」

彼らは生きていた。

一瞬だけ閃光のように眩く瞬いた炎の後には既に、
彼らを慄かせた凶人、ダンゲロス子の姿は消えていたのだ。

「生きてる……俺達は生きてるぞッ!」

「奴にも慈悲が……あったんだ……」

先ほどの絶望とは裏腹に、口々に快哉を叫ぶ群衆。
しかし。

「……『夕陽』」

その中の誰かが、うわごとのように呟いた。

とっくに日の沈んだはずの夜空の雲の向こうから光が差し込んで……
赤とオレンジで染め上げられた、幻想的な光景を映し出していたのだ。
地獄の釜の底のような、鮮やかで凶悪な紅色を。

「夕陽じゃない」

校舎の中へと歩み去りながら、ダンゲロス子は一人呟く。
彼らにはもう、興味はない。
雑魚共の最期など見飽きている。

そして、彼女の背中の向こう側。校庭に集う群衆の真上から――

「アタシの『能力』だ」

世界に夕陽が降ってきた。



ダンゲロス・プロセルピナプロローグSS2『飛来』


「怖い。ただ怖いんだ」

生徒会の仲間から病状だけは聞いていたが、さすがに驚いた。
以前のこいつは、こんな人間ではなかったはずだ。

「裸が……怖い……!」

「信じられんな。まさかこいつがエロ本に反応すらしないなんて」

「ああ、あの真中ジュンペイの後継者とも目された落合コウタがこのザマか。
 一体どんな恐ろしいものを見てきたんだ……」

虚空を見つめてブツブツと呟き続ける落合コウタ。

「の……り……」

「どうした? しっかりしろ」

「ノリ……ノリ……」

「おい、こいつまさか……!
 あのノリノリのり子の裸を見ちまったんじゃ――」

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              10 ノリノリのり子

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“ノリノリのり子を見た者は みな死ぬ。”

それがノリノリのり子に関する、ただ一つの掟。
モニタ越しであっても壁越しであっても関係ない。
どこへだろうと空から現れ――
そして無差別に死を振りまく、希苑組最悪の『災害』。

「マスコミの録画映像で今でも毎日のように犠牲者が出てるって話だ」

「俺は腕利きの狙撃手6人の狙撃を返り討ちにしたって噂を聞いたぞ……」

息を呑む2人。
落合コウタ程度はどうなろうと自分達の知った事ではないが……
希苑組がそんな殺戮兵器を飼いならしているとしたら、話は別だ。
元々敗色の濃厚な戦況ではあったが、落合コウタの現状が2人の決断を後押しする。

――引き際は今しかない。

目を見合わせ、無言でコンタクトを取る2人。
のり子のような災害が徘徊する希望崎そのものから去るか、
それとも追撃のリスクを恐れ、今からでも希苑組の軍門に下るか……

「無駄だ!!!!!」

しかし跳ね起きたコウタの絶叫が、2人の耳を劈く。

「無駄だ……無駄だ……あの裸からは はだかからは逃れ られない。
 裸……はだか……はだかはだかはだかはだかはだか」

その視線は目の前の2人には合っておらず、
そのずっと向こうにピタリと固定されたまま、ただただ何事かを呟き続ける。

「……。
 完全に狂っちまってるな……」

肩を竦める男。だがもう一人は……違った。
落合コウタと同じように、同じ一点を見て。

「あ、ああ……いや、そんな!  あの手は何だ……!
 窓に! 窓に!」

――窓の外に!

「……!」

その言葉に釣られるように、背後を振り向く。
そこに窓はなかった。いや、もはや壁すらなかった。

「やっほー! みんなこんにちは!!
 リアルうんこしない空飛ぶアイドル、ノリノリのり子のヌード撮影会だよ〜!」

彼我の間に一切の障害物はなく、ノリノリのり子が今まさに空中で脱衣しようとしてた。

「化物……! ばけもの……!」

3人の絶叫と狂笑が交じり合い、もう何も分からなくなる。
目から、耳から。自分の血がどくどくと流れ出す。
それが最期の言葉になる。


ダンゲロス・プロセルピナプロローグSS3『強襲』


大橋を照らす明るすぎる照明が、男の体を黒く長い影として伸ばしている。

「くだらねぇ」

背を向けたまま、男が呟く。
映し出されている影は彼のもの一つだけではない。
十。二十。いや、さらに多くの影が歪んだ縞模様のように橋の上で揺らめいていて、
その群集が隠れる気もこちらをただで済ます気も全くない事が、ありありと分かる。

「あんたらもとっくに知ってるだろ。
 俺は勝ち目のない方にはつかない。
 希苑組のバカ共が勝手に始めた戦争なんざ、お前らだけで好きにやってろ」

面倒くさそうに頭を掻きながら、
それでも男は群集の方を一瞥だにしない。

「なんだ……それともアレか? 青空の会への引き抜きでもする気か?
 ククッ、そんな何十人で寄ってたかってよ」

集団の中央に立つ少女の声が、愉快そうにその言葉に答える。

「ハァ? 面白いことを言うのね?
 あんたが希苑組に肩入れしてる事も、
 もう『転校生の力』がないって事も、皆知ってるのよ――
 本気で勝てるとでも思ってる? 愚かな負け犬」

「そうだなァ。少なくとも――」

男が、微かに首を群集の方に向けた。
目元はまだ影に隠れていたが――
牙を見せて嗤うその口元だけは、はっきりと見える。

「借り物の力で調子に乗ってるあんたよかは上のつもりさ。驕ったボス猿」

―――――――――――――――――――――――――――

              06 夏川文尊

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「――あーあ。猿だってさ。
 スペッド♠฀ラブ♥฀で洗脳してあげても良かったのにー。
 ムカつくからやっぱここでブッ殺しちゃおうかな!」

「三十七」

脈絡もなく、男……夏川文尊が数字を呟く。

「……?」

「あんたも含めて三十七人だ。
 三十二人がN2爆雷。あんたを除いた残りが、犬の証。
 いくらなんでも露骨過ぎるな?
 クハハッ……! 扇動の才能はあっても、戦術を立てる脳みそはないってか?」

こいつはずっと、群集に背を向けていた。
あの一瞥で、正確な人数に加えてそれぞれの武装の内容まで――

「そいつを爆破しろ、犬共」

踵を返すと同時に、手を振り上げる。
そしてその少女――カナメ未来の合図と完全に連動して殺到する無数の特攻部隊。
夏川が無言で、スーツのポケットから両手を引き抜く。と同時。

ガン、という巨大な破裂音が、大橋の両側にまで響き渡る。

「六」

再び、数字。
今度はそれと同じ数だけの生徒が、血と脳漿を噴き出して崩れ。

(一発の銃声で……)

未来がその異常性に気付く――そしてまたも破裂音。

「五」

   破裂。
 「六」  破裂。
「四」 破裂。 「六」 破裂、破裂、破裂――

六つ。十一つ。十七。二十一。二十七……
次々と次々と、比例関数のように増え続ける死体。
その誰もが指一本夏川に触れられず、倒れていく。

「――で、カナメ未来。あんたで三十七だ」

         破裂。
    「一」

わずか一分も経たず……大橋の上に立つ者は、夏川一人になる。
だが夏川は不愉快そうに、足元の死体を踏みにじり……

「……違う」

それがカナメ未来ではない事に気付く。

「逃げやがったな。
 最初からランジェリーで透過してた奴が何人か隠れていたか。
 逆光で視界が利かない事まで計算しやがって……悪知恵の働く猿だ」

両手の銃をくるりと回し、スーツの中へと仕舞う。
まだ足りない。この程度では、『転校生』であった頃の力には――

(まだだ。八……いや、『九』くらいじゃなきゃあ意味がない。
 ったく、苦労かけさせやがるぜ……希苑組のアホ共……)




ダンゲロス・プロセルピナプロローグSS4『降臨』


世界のどこか――巨大な『森』の中心。
人間も動物も決して踏み込まないであろうその奥地で、
しかし静かに交わされる意思の群れがある。

(我々には『王』が必要だ。
 絶大なる果物族の力を一つにする、確固たる『王』が)

(そうだ。我らの『王』さえ帰還すれば、
 害虫や人間の時代も永久に終わる……!
 否、人間も地球という果実を食い荒らす害虫か)

(そもそも、『王』の存在なしにこのような会議など不毛なのじゃ……
 『王』さえ……『王』さえ再び我々の元に戻れば……)

(――『王』だとッッ!?)

(貴様ら……! 先ほどから聞いておれば白痴のごとく『王』、『王』と……
 あのお方が我らの元を去ってから、もう何年になると思っている!!
 『王』は我らを見捨てた! 今やあのお方を待ち続ける事自体が不毛なのだぞ!!)

風に揺れる葉よりも微かな意思の疎通。
しかしその一つ一つの意思に込められた感情は、人間よりも強く。

(うふふ……『王』の行方は分からずじまい……
 『女王』マンゴスチン様も今はインドネシアのングラライ農場で幽閉の身……
 『王』配下のバナナとかいう小物が極東のくだらぬ学園を壊滅させたというけど……
 うふ……当然バナナごときに果実の王が務まるとも思えないよねぇ……)

(……果実王を『務める』だと!? き、貴様……!
 あのお方以外に我々の『王』がいるとでも思うてか!!)

(愚かなッッ!! 現実が見えておらぬのは貴様らの方よ!!
 この場に居る誰もが『王』を欲しておりながら、あのお方は我らの元におらぬ!!
 ならばせめて我輩が新たな『王』となり――果物族に再びの隆盛を!!)

(王林……! 貴様、謀反など……、グブッ!?)

(うふ……少し黙ろうよ、イヨカン……
 小うるさいおじいさんの役目はここまで……
 分からないかなぁ……? これからは新しい果物の時代なんだ……
 新しい時代の始まりには、うふふ……古い血を抜いておかなきゃあ……!)

(キングデラウェア……!?)

(王林……キングデラウェア……!
 品種名のみならず、称号としての『王』までもを欲したか……!!)


(よいか!! 我輩の統治する世界に、旧態に縛られし老人共は無用!!
 ――前王・ドリアンの臣下の処刑により! ここに新時代の幕開けを宣言するッッ!!)

(うふふ……! ごめんねぇ、みんな……
 ボクは王座になんか興味はないけどさぁ……うふっ……
 これもムカつく連中をお掃除する、いい機会だと思うんだよねぇ……)

(なんと……! 狂王として歴史に名を残す気か……ッ!!
 貴様らに従うものなど……   !?)

その瞬間だった。

そこにあった全ての意思が――停止した。
突如として空に響き渡った轟音のためではない。『圧力』を感じたのだ。
ここに居る誰もがかつて知っていた、抗えぬ絶対の『威』を。

天に浮かぶ機械の玉座から……果実が、降って――

(……)

(………バナナ……?)

(……そう。ワタクシはバナナ。
 『あのお方』の配下にして、一番の小物にございます)

彼のその一言で、誰もが理解した。
『帰ってきた』。

(刮目なさい――
 我らが崇めるべき真の『王』を)

―――――――――――――――――┐
                           │
          04 ドリアン           └───────────────

―――――――――――――――――┐       09 ドダイ
                            │
                           └───────────────

  ――『王』を名乗るか。よかろう。

(ああ……ひっ……)

(ば、バカな……こんな。こんな、所で……)

  ――ならばその『王』にふさわしき力とやら、
    その身をもって示すが良い…………。

地平の彼方より、雲霞の如き大群が押し寄せる。
王林とキングデラウェアは、自らの愚かさと運命を、悟った。






最終更新:2009年07月24日 12:10