1920年代半ばまではメーカー出荷時点でメーターが付いていたモーターサイクルと言うのはほぼ皆無といって良いだろう。
メーターが欲しい人は自分で後付けするしかない。
後付タイプのメーターは英国やアメリカなどにいくつもメーカーが有ったがどのメーカーもやり口は同じ。
ホイールのスポークに挟み込んで取り付ける外歯車、外歯車の回転を受けて回転方向の変換と変速を行うギアボックス、ギアボックスの回転をメーターに伝えるワイヤー、そしてワイヤーの回転を受けてスピードを表示するスピードメーターという構成である。
外歯車の取り付けは前輪に付ける物と後輪に付ける物があり、基本排気量や車体の大きい車両は後輪に歯車を付けてガソリンタンク上のフレームにメーターをクランプすることが多くそれ以外は前輪に歯車を付け、ハンドル上にメーターをマウントする事が多い。

SDにメーターを付けるならば先ずはメーター本体の入手からである。
20年代の英国メーターというとほぼSmithsかBonniksenの2択になるだろう。
入手の難易度は高いがやはりBonniksenが一番雰囲気が良い。ただし出来るだけシンプルなタイプを選びたい。
かっこいいからと言ってスポーツタイプの3つ針が付いててパッと見て今何マイルか判らないようなタイプはSDにはミスマッチであろう。
ただしメーターさえ入手すれば強力な専門店が存在するようなので足りない部品の調達などはかなり容易に行えると思う。

Smithsの場合、極力歯車やギアボックスがセットになったものを入手したい。
と、云うのも20年代のSmiths後付けメーターというと基本盤面にAと書いてあるAシリーズの物になるのだが回転比がかなり高く、専用のギアボックスを用意しないと正しく針が動かない。
そしてこのギアボックスが入手困難な為にメーターだけ手に入れてもギアボックスで引っかかってしまって正しく作動させるのが難しくなる。
最終手段として今でも比較的入手できるブレーキパネルに付くタイプのギアボックスを改造した上に中間に変速アダプターを入れて回転比を合せる、と言うのも手だが。

更に最終手段としてはクロノメトリックを使う。
これであれば回転比が普通なので比較的容易に回転比を合わせられる。
当然マッチングが良いとは言えないが20年代も後半には既にクロノメトリックは存在しているのでひどくミスマッチにもならないだろう。

私は運良くAタイプのメーターセットを入手できたのでメーター自体を左リンクのMobydickでリペア後、足りない部品を作製して装着している。
以下はSmiths Aタイプスピードメーターに関して

Smithsメーターというと知っている人はクロノメトリックを思い浮かべるかと思うがこのAタイプはガバナー式と云う構造である。
ガバナー式とは一言で言うとメーターの針と連動した遠心力で開くオモリが中に入っており軸の回転数の二乗に比例して開き加減が変わり速度を表示する、と言う方式である。
じつは余り知られていないがこのガバナー式のメーターは少なくとも20年代初頭から30年代末まで型番を変えて存在し続ける。
特にAriel系の車両に採用率が高く、Square foreやRed Hunterなどに標準で付いていた。
外観に幾つかの特徴があり、先ず針の形。先端に丸い円が付いている。
これは全くブレゲの腕時計のクラシックタイプの物と同じ形である。
そして速度が上がるにつれて表示間隔が狭くなる。
これは前述の通り、遠心力が速度の二乗で上がっていく事に由来する。

回転比率は毎分3350回転で60マイルを示す比率。
クロノメトリックが1550回転、グレーフェイスが1000回転で60マイルを示すと言う所から考えても相当に高い。
ちなみにこの60マイルで○○回転という基準はメーター業界では標準の基準。何故かというと針が60マイルを示す回転数が判ると1マイル当たりに必要な回転数が判るからだ。
時速で60マイルを示す、という事は分速に直すと60で割れば良いので=1マイル進むのに必要な一分当たりの回転数という事になるからである。
これはキロ表示のメーターでも全く同様で日本のメーターの場合は規格で1000回転時に60キロと定められている。

回転比の計測法は回転を制御確認できる旋盤やモーターで直接入力口を回して針の上がりを見て確認するか手で入力口を回してオドメーターが1マイル(有る場合は1/10マイルでも可)進むのに何回転するか実測するのが主な方法。

必要な入力回転数がわかれば後はギアの変速比率をタイヤ外径に合わせて調整すれば正しく作動するようになる。
具体的に今私のSDに付いているSmithsで解説すると外歯車は66歯、ギアボックスに付く受けの歯車は22歯なので1:3の増速。
ギアボックス自体は1:1.5の増速なので総変速比は1:4.5の増速と言う事になる。
次にタイヤが1マイル進むのに必要な回転数を割り出す。
26インチ3.00タイヤの直径はおよそ700mm。そこに円周率の3.14をかけて2198。つまりタイヤが一周すると2.198m進む。
1マイルは1609mなのでタイヤの外周の2.198mで割ると732となり、タイヤが732回転すると1マイル進む事になる。
この732回転に先ほど出したギアの増速数4.5をかけると3294と出る。
つまりタイヤが1マイル進むとメーターには3294回転入力される訳だ。
理想値は3350回転なので56回転ほど少ないが誤差の範囲と言える違いだろう。
どのようなメーターでもこのように計算してギアなどを調整すれば正しく動かせる筈。

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最終更新:2010年07月05日 00:10