今回の修理でスモールエンドブッシュには伝統的な砲金を用いずベリリウム銅というモダンな材料を選択してみました。
今回SDが何故短期間であれほど減ってしまったのか色々調べてなんとなく判ったのでしっかり対策して砲金で再挑戦でも良かったのですが発注もしてしまったのでべリリウムで行ってみる事にします。
で、原因ですが恐らくは圧入がきつすぎた為でしょう。

交換部品が無く新規に作製してブッシュを入れる場合色々な選択基準の中でも熱膨張の要素を特に考える必要が有ります。
熱膨張を見るときに基準となるのが材料の線膨張率。コレを見てはめ込む材料との圧入具合、内側のガタを決めます。
一般的には膨張が小さい順に鋳鉄系(ねずみ鋳鉄、ダグタイル鋳鉄など)が係数10程度、普通鉄および普通鋼が11から12程度、鋼合金系(クロームモリブデン鋼、ニッケルマンガン鋼、ステンレス鋼など)が14から16程度、銅合金系(砲金、燐青銅、アルミ青銅、ベリリウム銅など)が17前後、アルミが22以上が一応の目安。
材料の正体が判れば線膨張率から体積膨張率への変換式が有るので材料の温度が何度上がると体積がどの位膨らむのかある程度の計算も出来ますがややこしいので流石に普通はそこまで考えません。
計算した事も無いので結果は知りませんがエンジン内の高温にさらされる部品は100分の数ミリから場所によっては100分の数十ミリの変化は普通にしている筈です。
こう云った熱が入ると膨らみ方が違う金属を無理矢理押し込んで軸受にしているので圧入される方と圧入する方の膨張特性を考えたガタの取り方が非常に重要な訳です。

例えばSDのバルブリフターのガイド。
圧入されるのはアルミのクランクケース、圧入するのは燐青銅のガイド、ガイドの中で往復運動するのは鋼のバルブリフターです。
この組み合わせの場合ガイドはややきつめに圧入し、ガイド穴もタイトに作るのが好ましいと考えられます。
ガイド自体の圧入が弱いと熱が入ってクランクケースが膨張した時に圧入が弱まり最悪ガイド自身が動く可能性が出て来ます。
同じようにガイド穴も有る程度タイトにしておかないと熱が入って膨らむ分ガタが大きくなります。実際走った後のガイドのガタと冷えた時のガイドのガタの差は手で判る位に有ります。
外にむき出しのなのでそれ程シビアに考えなくても大丈夫な部分ですが膨張率が大きい順に、圧入されるクランクケース(アルミ)>圧入するリフターガイド(燐青銅)>バルブリフター(鋼)、と言う組み合わせの場合は全てのガタを少なめに取るのが良いでしょう。

今回ガタ過剰で交換する事にしたSDのスモールエンドはかなり圧入がきつかったのです。
SDのコンロッドの材質は恐らく鋳鉄です。そこに砲金のブッシュを入れ、鋼のピストンピンが入ります。
冷間からエンジンをかけてエンジン内の温度が上がってくると鋳鉄のコンロッドはあまり膨張せず圧入されている砲金の方は大きく膨張していきます。
こうなるとコンロッドに抑えられて外に膨張出来ない砲金は内側に歪みますがしっくりとピストンピンが入っているのでピストンピンとの間のガタ以上に膨張することはできません。
その結果限界以上に膨張した分がピストンピンとの激しい摩擦で削り取られ、膨張してもまだ余裕のあるガタまで相当少ない走行距離の内に一気に広がったのだと思います。
今回はスモールエンドに損傷は有りませんでしたが場合によっては膨張によってコンロッドのスモールエンド部が割れます。
各部の熱膨張は大きい順に、スモールエンドブッシュ(砲金)>ピストンピン(鋼)>コンロッド(鋳鉄)、と言う組み合わせなのでまず砲金が膨張してもある程度逃げが出来るように圧入はやや軽め(軽くと言っても冷間時に力が掛っても動かない以上の圧入)にして更に熱膨張差から内側に歪む分を更に考慮し、ピストンピンとのガタを多めに取るのが正解かと思います。
今回スモールエンドがガタガタになった主原因はここに有るのではと睨んでいます。
と言う訳で圧入を弱めにピストンピンとのガタを多めにすれば恐らく砲金でもすぐにガタガタにはならないかとは思いますがトライアンフ650cc2気筒の例、アルミコンロッド+砲金+鋼ピストンピンの組み合わせでもガタガタになり易い事を考えるとやはり砲金では弱いのでしょう。
コンロッドに鋳鉄を用いると通常銅合金を使う事が多いスモールエンドブッシュに無理が発生する事になります。ひょっとすると鋳鉄のコンロッドに入っているスモールエンドブッシュの多くがやたらに薄いのはこの辺を考慮したのかもしれません。
そう考えると前回書いたBMWの鉄と思われるスモールエンドブッシュはかなり理にかなった構造ですね。

ベリリウムは行き過ぎでピストンピンが極端に減るかも知れませんしスモールエンドが固着するかも知れません。
しかしこう云った疑問は不確定要素満載の内燃機エンジンでは結局やってみないと判らない上、砲金が若干役不足であるのは明白なので今回ベリリウム化に挑戦してみる事にしました。

しかしこの辺の旧車を弄っていると到底バイクを弄っているとは思えないテーマになるなぁ。
こう云った所がVintegeMotorCycleいじりの醍醐味ですね。
それとこの辺りに詳しい方が居たらぜひご教授下さい。判っている人に聞くのが一番早いので。

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最終更新:2010年12月10日 00:06