私は10代の頃からずっと英国車に乗って弄ってきました。
機械的な部分に関しては英国車しか知らないとも言えるわけですが最近当たり前と思っていたエンジン各部の精度の見方が英国車とその他で結構違う、と言うか英国車のいいかげんぶりに気が付きました。
と言うのも同類と思われていた古いハーレーまでも各部に矢鱈と精度を指定してくるのです。
流石に30年代辺りのハーレーは指定が英国車並のようですが英国車の全盛期であった60年代のショベルヘッドハーレーは英国車派の私から見ると意味不明な精度指定が結構出て来ます。
ホイールベアリングやギアボックスのギアポジションセレクターの位置まで細かく精度を指定していてわざわざオーバーサイズの部品が用意してあったりしますがこういった構造、精度指定にどれ位の意味が有るのだろうか?と思ったりします。
そしてショベルヘッドのハーレーで一番衝撃的だったのはロッカーボックスに蓋が無く、従ってロッカーアームの作用角調整などが一切出来ない事です。英国車では普通であるロッカー周りの調整がハーレーでは事実上不可能な位に難しくなります。
これは手抜きとかでは無くてしっかりした部品でしっかり組みつけると調整の必要が無く、ちゃんと合わせてあるので触らないでください、と言う事なのでしょう。

60から70年代の英国車、特にTriumphなどを弄っていてまともに数字でしっかり精度を見るのはせいぜいピストンクリアランス位で後は感覚で組み上げていきます。
指で動かしてみてこの位のガタなら大丈夫だろうとかここは精度を出さなくてもいい所なので多少ガタのままで大丈夫だな、とかそんな感じです。
とりわけクラッチ回りなどは今の国産車しか知らない人が見たら腰を抜かす程の低精度と言うかいい加減ぶり。
ことクラッチに関してはこの低精度が巡り巡ってレバーが重い上に滑ると言う最低ぶりを見せますがその他の部分の低精度が明らかに性能や耐久性に大きく影響しているなと感じた事はあまり無いです。勿論精度良く組まれたモーターサイクルの方がかっちりしているなと感じますが。

こう云った感覚で組み上げていく機械故に他のどの国のモーターサイクルよりも弄り手の精神と言うかスキルが反映されるのではないのか?と思います。
旧英国車の最終到達点であるノートンコマンドなどは初めからあまり精度がずれ難い設計な上に要所をきちんと精度指定している為にそれ以外を感覚で組んでも比較的弄り手、乗り手の言う事を聞いてくれますが650cc以上のトライアンフ2気筒はそうではない事が多いです。
通常ピストンクリアランス以外は弄り手の感覚によって組まれる事の多いトライアンフはより弄り手、乗り手が反映される機械であり、実は最も初心者向けと思っていたトライアンフの650㏄2気筒が一般的な英国車の中で一番完調にするのが難しいのでは、等と愚考してしまいます。

細かい精度指定の国産車やハーレー等は正しく組みつける為にその手法に即したスキルと苦労が必要となりますが指定通りに組みつけたそれらの機械は非常にお行儀よく作動します。
方や感覚に委ねられる事の多い英国車は気まぐれで、とりあえず簡単に組めてもセオリー通りに動いてくれない事が多々あります。
メーカーの云う通りに組むとしっかり作動する機械とメーカーの云う通りに組んでもしっかり動かない機械という違いが英国車とそれ以外のモーターサイクルには有るなぁ、と教科書通りのセッティングをしても決まらない英国車を弄っていて思うのです。
機械としては細かく精度指定をしてでもしっかり作動する方が正しいと思う反面、そう言った面を付き詰め過ぎた為に今のモーターサイクルは機械としての魅力を失ったとも言えるような気がしてなりません。

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最終更新:2010年12月21日 11:25