FVBの黒い夏

  東国人の夏!
  FVBの夏!
  夏を愉しめるのは四季あふれる東国人の国だけの特権ではないかと思うのであります。
  申し訳ありませんが、雪ばかりの北国、密林の南国、砂漠の西国では、この移り変わる季節の中の暴れん坊、夏を堪能することはできないんじゃないかと思います。まあ、森国やはてない国には多少は愉しめるところもあるかもしれませんが、東国人ほどではないと断言していいんじゃないでしょうか。
  こういうものは、メリハリがついているから貴重なのであって、同じものが続けば何だって飽きてしまうのです。大好物でも同じモノばかり食べ続ければ「食事の喜び」は無くなるし、銃弾飛び交う戦場が日常になれば「死への恐怖」は薄れてしまう。年中暑ければそれが当たり前になってしまって、なんの感動もないってものですわ。
  とにかくFVBの夏は暑い。ここ数日は連日35度を超す猛暑が続いております。
  それくらいで暑いとは情けない・・・・・・と、西国人に笑われてしまうかも知れませんが、そこはやはりメリハリの問題なのです。この場合の「暑い」というのは、泣き言というより、きちんとした四季がまた訪れてくれているなという感動なのだと思います。はい。
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  夏といえば、汗を流しながらかき込む「かき氷」であり「スイカ」です。キーンと冷やした「ビール」をグイッと空けて、塩ゆでの枝豆や地豆を愉しむのは大人の特権。一方、子供たちには長い「夏休み」が愉しみであり、親にとっては苦難の日々の始まりであろう。夏の夜に上がる「花火」を浴衣で見物し、背筋を凍らせるような「怪談」や「肝試し」でわいわいやるのは若者の愉しみかも知れません。
「うわっ、つめたいっ!」
「ほほほほ。ここまで追いかけていらっしゃい!」
「こらあ♪」
  ばちゃばちゃと夕焼けの波打ち際を走る男女の影がやがて1つになり・・・・・・。
  まあ、夏の愉しみはいろいろあるわけですが、今年のFVBはちょっと違いました。なんとも困ったことに、夏を愉しむどころではなかったのであります。

  今日は、そのFVBの夏について、語らせてもらいまましょう。


1.怪談

  夏といえば「怪談」でございます。

  暑い日が続く7月14日のこと。FVB摂政である曲直瀬りまは、海法よけ藩国からの来客を迎えに空港にまで来ておりました。
  客人の名は劔城藍。宰相府藩国建設の際に、同じコンセプトワークチームの一員として共に働いたこともある技族でございます。
「ようこそ、花と緑と宙の国FVBへ」
  そう営業スマイルで遠来の客を迎えた曲直瀬は、小さな白いカートに乗り込み、そのまま白い滑走路を冒険艦<蒼天号弐>の方へいざないました。
「これが7つの世界の翼! 羽根の生えた女神にみえますよ」
「火星域会戦では要塞戦でまっぷたつにされました。サルベージして修復しましたが、もとのままなのはリューンドライブくらいのものでしょう」
  補給品を運び込んだコンテナ・ドーリとすれ違うようにして、2人の乗ったカートが冒険号に乗り付けました。
  周囲では何人にもクルーが、いつでも発進できるように整備を進めておりましたが、さすが勤勉が美徳の東国人の国であります。そこまでは良かったのです。
「できることなら、これでペルセウスアームまで飛んでいきたいです」
「ペルセウスアームですか・・・・・・」
「ええ。オリオンの方はもう決着がつくんですよね?」
  その劔城のことばに、あやふやな笑顔で曲直瀬は頷きました。あたしゃ、あやふやに肯くというか、そこでへらへら笑うのはいかがなものと思うんですが、そこがまた東国人ってものなんですな。
「もし、そうなら次はペルセウスです。いきなりは無理だろうけれど、外交チャンネルを開くための事前調査は必要ではないでしょうか」
  その言葉に応える前に、曲直瀬はカートに搭載の端末に暗唱コードを打ち込むと、FVB作戦司令部につなぎ、冒険艦のデータ、ペルセウスアームのデータを呼び出そうとしました。
  そのとき、気になるデータが視界の隅に流れたのでございます。
 
『FVBの国民の避難はなおも進行中。耕地は完全に放棄され・・・・・・』

  最初は誤報だと思いました。
  そりゃ、そうでしょう。
  それというのも飛行場一帯はのんびりしていて、整備は順調だし、魔物なんかどこにもおりません・・・・・・え?・・・・・・魔物?  遠くから悲鳴が聞こえる?  え?  え?
  お客をほったらかしたまま、曲直瀬はむさぼるように端末からデータを引き出し始めました。なにやら、とんでもないことが起こっているようです。
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  皆さんも良くご承知のように、主人公がどこからともなく出現した怪物に突然襲われる・・・・・・というのは、怪談やホラーの定番の1つです。主人公たちのあずかり知らぬところで、たとえば墓荒らしがどこかの墓を暴いたり、空から火球が海に落下したり、海底地震で遺跡の封印が解かれたり、軍の研究所で研究中のウィルスが漏れていたり・・・・・・。
  まあ、傍迷惑なイベントに巻き込まれ、死にそうになったり死んでしまったりというのは、お約束でございます。
  でも、これはちょっと違っていたのですな。
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「何が起きてるんだ?」
『いや、別に。いつも通りだ』
  内心の動揺を隠しつつ、曲直瀬は空港コントロールに、何が起きているのか訊ねてみました。
  でも、話がかみ合わない。おかしい。それとも、おかしくなっているのは自分なのだろうか? まあ、曲直瀬がそんなことも思ってしまうほど、周囲の人たちは平然としております。
『今日も王城が攻められているだけだ』
  王城が攻められている!?  それって一大事ではないのかい?
  いつもと同じで片付けていいことじゃないでしょ。
  そうでしょ? そう思いませんか!?
「敵は何ものだ?」
『こちらコントロール、何の冗談だ?』
  冗談とは何という言いぐさでしょう! 王城が攻められているというのは、一大事じゃないのですか!?
「悲鳴が聞こえているが?」
『どうせ魔物だろう。ほっとけ。上は何もしない』
  もう、曲直瀬の目から脂汗が、鼻からよだれがしたたりおちますっていうか、あごがかくーんっと外れて戻りません。
  上って・・・・・・曲直瀬はこの国の摂政であり、それより上には藩王さくらつかさしかおりません。少なくとも自分の把握している行政機構というか権力ピラミッドにおいてはの話で、もしかしたら影の内閣とか、鎌倉の御前様とか、七仙人委員会とか、分けの分からない裏の組織が牛耳っているのでしょうか。
  このときの、曲直瀬の身になってみると、それはかなり恐ろしい話だと思われます。
自分の知らないところで大事件が起きていて、それは国民レベルでは周知なのに、フィ クショノートまでは届いていなくて「何もしない」ことになっている?
  状況を把握した瞬間、曲直瀬の脳裏にはただ「おうじょうこいた・・・・・・」という言葉だけがリフレインしていたといいます。これは、名古屋弁で「困り果てた」という意味ですな。なんか、説明するのも野暮ってもんですが、ここを判ってもらわないと、曲直瀬の絶望の深さはわかりません。
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  さて、そんな曲直瀬たちがあれこれ情報を集めてみますと、統治している者たちにはまったく知られていなかったことではありますが、どうもここ半年ほどでFVB領内にバケモノが出没するようになっていたようです。それがここ2ヶ月で一気に勢力を拡大して王城に押し寄せ、1000体ほどの薄気味悪い白い化け物によって今や王城は孤立しているというのが、今知った現状。ホットなニュースというやつですぞ。
  この状況、「怪談」というか「サイコホラー」に近いですな。「村」に軟禁されたパトリック・マクグーハンな気分ではなかったかと推測されます。

  かくして今年のFVBの夏は「怪談」で始まったのでございます。
 
 

2.死霊と盆踊り

  曲直瀬は即座に宰相府藩国に救援要請しました。
  基本的にこの人物、やれることは全部自分でやろうとしますが、自分の手に負える保証が100%ないと判断するや、あっさり人に任せる傾向がございます。良くも悪くも手離れがよいのですな。
  そして、救援要請ができるのは聯合国のみ。すなわち宰相府藩国です。
  そこで救援要請を受け付けた秘書官の言葉に、再び愕然とさせられました。
『あー。玉の。やっと動かれるんですね』
  知らぬは摂政ばかりなり。
  みんな知ってんのかよーっ!
  しかし、そこですかさず、なけなしの情報で取り繕って、もっともらしく応えてみました。みんなが知っているのに、自分だけ何も知らないでは摂政としてのメンツは丸つぶれです。あ~、玉、玉ねえ・・・・・・もしかして去年、うちのオウサマが預かってきたとか言ってた青い玉の話でないかい?
「青い玉の件ですね」
『強制イベントが起きてたんでー。いつうごかれるのかなーと。思ってましたー』
  思ってましたーじゃないって!
  救援要請をすると、今度は藩国逗留ACEに協力要請を試みました。
  まず、イカナ=イカンです。個人的にはエステルの方を呼びたいところですな。
  誰だって、いつ自分が食われるかもしれない海洋性の軟体動物みたいな相手と、昔はかなりツンツンしてきたけれど今はちょっと人当たりのよくなった美少女と、どちらと話がしたいといえば後者でしょうが。
  しかしエステルは(真偽はどうあれ)身重な身ですし、能力的にもどちらが頼りになるかというと・・・・・・はなはだイカンながら、イカナ=イカンに軍配が上がるのは揺るがないところです。
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  さて、イカナ=イカンはFVBに滞在するようになって、そこそこ長くはあるのですけれど、残念ながら親しくしている者は皆無と言って良い存在です。しかも本人は気まぐれで、いつ居なくなっても不思議はありません。
  ACEをわざわざ招聘しておいて無責任な話といえば無責任ですが、そもそもFVBにおいては、生活ゲームや古くは小笠原ゲームに邁進するフィクショノートはほとんどいなかったのですな。ACEと仲良くどころか、そもそも自分のためにマイルを使ったものがどれだけいることか。まあ、施設獲得のための生活ゲームとか、施設獲得のための函ゲームとか、あるいは施設獲得のためのマイル支払とか、あとは罰金とか募金とかが主な使い道。
  思えば、つまらない国ですなあ。
  ですから、せめて逗留ACEとくらい仲良くしようと半年がかりでマイルを貯めて、「さあ、キミもイカナと握手だ!」と親睦企画を進めようとしていたのですが、ぜんぜん間に合ってません。
  しかし、危急存亡の時でございます。宰相府、帝國軍は即座に動員・派遣とはいかないでしょうから、当面はイカナの知恵と能力に頼るしかありません。
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  ところが、面会したイカナ=イカンはただ踊るのみ。全然、頼りにならなかったのです
  まあ、手っ取り早く翻訳すれば、FVBの事態は、生死を超越し宇宙空間を自力で旅することのできる第4異星人をもってすら、「お手上げ」だったのでございます。
「うーむ。機械系がすべて動かないのみならず、宇宙系ACEも機能低下、停止のおそれがある・・・・・・って」
「エステルも危ないって!」
「その周囲を無理矢理に低物理領域へ変化させる敵なのか・・・・・・」
  劔城、そして宰相府藩国に赴いていたきみこらと情報交換しつつ状況を把握して行くにつれ、摂政の顔は青ざめてまいります。
  宇宙特化したFVBにとって、低物理領域への強制シフトをもたらす敵は、最悪の相性。FVB本来のアイドレスの大半が使用不可になってしまうので、手も足も出なくなるのです。
「いかん、いかん、いかないかん、いかな、いかないか~ん♪」
  いつしか曲直瀬はイカナと共に踊り出しておりました。
  それは曲直瀬の魂の故郷、愛知の地で遙か昔に流行っていた量販家電店のCMソング、イカの着ぐるみの踊りそのものです。

  事情さえ知らなければ、いかにも夏らしい「盆踊り」と見えないこともない光景でありましたな。


3.観光客がやって来る キャア!キャア!キャア!

  FVBは観光の国でした。

  いや、過去形にしてはいけませんな。
  今でも観光国でございます。
  最近では宇宙ステーションを核にした未来宇宙型総合アミューズメントエリア(温泉ポロリもあるよ♪)も完成し、夏休みこそかき入れ時とオープン準備に余念がない矢先の事件でございました。

  FVBに出没している魔物の正体はアンデッド。すなわち不死の怪物でございます。ご存じですか? ゾンビとか、グールとか、ミイラ男とか。
  その正体は、藩王さくらつかさが預かっていた青い玉を狙ってFVBに侵入したメルオーマのネクロマンサー、クーリンガンとその4人の高弟によって殺害された後に怪物として蘇らされたFVB国民だったのです。まあ、知能は低くて使役者の良いように使われるって話ですから、ブードゥーの魔術師が使うところのゾンビに近いんじゃないでしょうか。
  まったく、ひどい話ですな。
  この青い玉ってのは、なんでも新たに誕生する種族のものなんだそうで、死者を生き返らせる力もあるんだとか。そんなものを死霊使い、ネクロマンサーが手に入れててどうしようっていうんでしょうか。
  もしかしたら、お互いに殺しては生き返らせ、生き返らせては殺してを延々と繰り返して愉しもうってハラかもしれません。まったく、あの連中の考えることはわかりませんな。脳みその中まで腐ってしまってるんでしょう。

  しかし、それでFVB界隈はたいへんなことになっちまいました。
  いやあ、皆さん、FVBに来てくださるんですよ。それはありがたい。なんといっても観光国ですからね。ところが時期が悪い・・・・・・っていうか、ゾンビ騒ぎで混乱しているものですから、各国のACEの皆さんが解決せんと続々と乗り込んでくれていたようなんですな。
  だもんですから、生活ゲームでデートだなんだといって、相手を呼び出してみたり、居場所を捜してみたりすると、たいていFVBだったりします。
  ありがたい話ですなあ。普段なら・・・・・・

『ここは、FVB国境付近だ。もはや雲は見えず、常時雷が落ちている』
『FVBは今、不死者だらけだ』
『ここはFVBだ。空は暗く、周囲はすべて荒原だ』
『ここはFVBのはずれだ。荒涼たる平原が広がっている。』
『FVBの・・・・・・』


  折角の逢瀬が阿鼻叫喚の惨状に・・・・・・。ああ、なんと申し訳ない話でしょう。もう、NWCに顔を出すのも恥ずかしい状況です。
  逆宣伝ってのは、こういうことを言うンでしょうなあ。もう観光地としては致命的ですよ。
  昔、戦火の街を観光するガイド本で『サラエボ旅行案内』なんて本がありましたが、あれとどちらがマシかというと、生きている人間が残っているだけあちらさんの方がマシでしょう。
  こっちは歩いていれば、地面の中から手が生えてきて引きずり込もうとする。空を飛んでいれば落雷の直撃で黒こげ。ひどい話と思いませんか?
  摂政曲直瀬は「ようこそ、花と緑と宙の国FVBへ」とか言ってましたが、それが今や「歩く死体と直撃する雷と不毛の荒野の国FVB」ですよ。しかも、あっちこっちでACEが行方不明になっていたり、ゾンビ化して破裂したり・・・・・・って、勘弁してくださいよ、お客さん・・・・・・。
  もう「FVB」って名前は出さないんで欲しいですなあ。せめて一部伏せ字にして欲しいもんです。


4.摂政、ぐるぐるする

  で、さすがにこれではいけないということになりましてね。宰相府に亡命政府を作った連中でなんとか潜入することになりました。
  半分はこれある事を予想して取った生活ゲーム枠でしたが、できることなら、単なる保養枠で使いたかったんですよ。
  なにせ、うちの国のフィクショノートの大半は社会人やら何やらで、実働が3人とか4人とかになってましてね。ここ最近は藩王が不在がちな上に稼働できる技族が出払っちまいまして、摂政自らイラスト描きまくってました・・・・・・あ、イラストと言ってはいかんそうです。カットですか・・・・・・いや、専門用語はよくわかんねえや。まあ、文族のくせに、よくカット描きしてましたね。さすがに法官出仕している暇は無さそうでしたが。
  それでもまあ、支倉玲、時雨といった数少ないベテランが計算や編成といった面倒くさくて難しいところをきっちり抑えてくれるんでなんとか動いてますが、最近はぽつぽつと新人さんも増えてきて、この新人さんたちがなかなか頑張ってくれているんですわ。
  そこで、慰労の意味と今後のことを考えて、保養用に生活ゲームをと、マイルを貯めて、入学金もやっと捻出できるようになったところだったんです。
  慰労ってのは、まあ、アイドレスを堪能しようと思ったら、一度は生活ゲームは経験しておくべきだろうってことです。それで愉しければ、自分で生活ゲームに参加すべくマイル稼ぐのにも精が出るでしょうしね。
  今後のことといえば、やはり生活ゲームというか、分秒刻みで状況を把握し、アクションを考えるってのは、ある程度は場数を踏まないと難しいです。だから、せめて1回は藩国として訓練キャンプみたいな機会は必要でしょう。それに、前に申し上げた通り、藩国として逗留ACEをないがしろにしがちなので、そっちの親睦も急務ってもんです。
  でも、目の前で誕生日だ、デートだと、生活ゲームに乗り出した余所の国の方々が、半ば強制的にFVBに連れてこられたあげく戦火のただ中に放り込まれている現状で、あたしらだけワイワイ遊んでられませんわな。
  覚悟を決めるときでしょう。
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  まあ、なんとか青い玉を組み込んだ剣を持ったオウサマを呼び出すことに成功し、とにかく偵察任務くらいはできるだろうと、クーリンガン支配下のFVBへ潜入することにしたわけですが・・・・・・これ、この時点で失敗ですわな? 
  だって、順番から言えば、青い玉の真なる持ち主を探しに行って、アンデッドと化した国民を救う力を手に入れてからFVB開放に向かうってのが、誰が考えても順番ってもんでございます。
  それが土壇場でアレコレ走り回っているうちに、ぐるぐるしちまって間違ったコースを選択しちまいました。初心者ばかりのFVBですが、摂政がいちばんおろおろしてたってのが問題ですな。こりゃあ、大黒星だ。今日子さんに「摂政、死ねばいいのに」とか言われてたら、その場で首をくくっていたかもしれませんな。逆境に弱いから。
  あとはとにかく全滅しないで、少しでも偵察成果を得て戻ってくることを考えるしかありません。

  まあ、夏の旅行といっても、たいへんなことになりました。


5.海へいこうよ、ランラララン

  そんなこんなでFVBの一行は、王城をめざすこととなりました。
  ありがたいことに、ISSからも芝村英吏さんと小島航さん、それに今日子さんも助っ人に参加してくれました。なんとか偵察部隊の体裁は整ったわけですな。そして、侵入経路としては海路を選択いたしました。
  なぜ海路を選択したかといえば、ゾンビは水の中には入れないからです。このあたりにはテロリストが潜伏しているとの情報もありましたが、まあ、FVB界隈は低物理域で機械は動かないものと、みんな思っておりましたから、どちらかといえばウミガメゾンビやイルカゾンビが出てきたらという方が怖いという気持ちだったようです。
  なんにせよ、陸よりはマシであろうとの判断です。陸ではACEクラスがぼろぼろ返り討ちに遭ってますからな。
  ちょっと前までのFVBの海といえばどこまでも青く澄み切っていて、ウミガメやイルカがたわむれ、大漁旗掲げた漁船が入港していったかと思えば、海水浴場は家族連れや若いカップルで賑わいという光景がそこかしこで見られたもんです。それが、いまや海はどんよりと濁りきって糸を引きそうですし、空は真っ暗で、生温かい風が吹いたかと思うと陸の方ではまるで蜘蛛の巣が天に広がるような稲光です。
  ともかく、なんとか上陸して、クーリンガンに一泡吹かせるような情報を入手してやろうと小舟で進んでいたわけですが、それですんなりいくほど世の中甘くありませんわ。
「わははは! その玉はいただく!」
  いきなり海中からI=Dが出現したのです。上陸どころではありません。
  低物理域じゃねーのかよー! ゾンビのくせにI=Dに乗るのかよー!? 文句を言いながら逃げにかかる御一行。
  ところが違ってたんですわ。ターキッシュバンに乗っていたのは、白馬さんです。青カモメさんとこのお子さんで、最近見る見る成長した白馬さん。確か、ヴィクトリーと合流するとか言ってましたが・・・・・・。
「その玉は、ヴィクトリーのものだ!」
  いやあ、ゾンビ兵でなかったのは幸いですが、渡せといわれてもすんなり渡せるものではありません。まだ、これという証拠があるわけでなし、そもそも預かりものですからね。
  とはいえ、あちらは水陸両用I=D、こちらは小舟。とうてい敵うものではありません。話し合いするどころか、不用意なひとことが相手を怒らせてしまい全滅の危機に・・・・・・。
  奮闘むなしく青い玉を封じた剣は奪われて・・・・・・と言いたいところですが、それ以前に偵察部隊内部での連携がうまくいかず、「統制なき大人数の作戦行動が舌禍と崩壊を呼ぶのはISSで分かってたはずだ」と英吏氏に呆れられる始末。
  玉と共に飛び去るターキッシュバンを泣きの涙で見送るしかなかった偵察部隊ですが、このままではいられません。
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  白馬がヴィクトリーさんに渡すのだと言って奪っていった以上、いずれはヴィクトリーさんのもとに白馬は現れるはずです。なんとか、そこまで考えついたとこまでは立派ですぞ。
  そこで、FVB偵察部隊はヴィクトリーさんを召喚して訪ねてみますが、鼻くそほじほじしながら「白馬って、だれ? おうまさん?」との言葉。国民をゾンビにされ、それを救う鍵となる青い玉を奪われたFVBも悲惨ですが、白馬さんも哀れに思えてきました。結局、彼のあずかり知らぬところで白馬さんが動いていたようですが、そのあたりの裏の事情はとても調べられるものではありません。
  まあ、すぐに出現した白馬さんからヴィクトリーさんが玉を受け取ったまでは確認したのですが、直後にゾンビ兵がわらわら出現したために、偵察部隊の面々はうやむやなままにログアウトすることになってしまいます。
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  まったく情けない結果ではありました。
  ご迷惑をかけた上に協力までしていただいたヴィクトリー・タキガワ、芝村英吏、小島航、<今日子>の各氏にはお詫びとお礼を申し上げるしかありません。
  あとは、より一層の精進で結果を以て示すしかないでしょう。

  しかし、海に行って溺れ死にかけて、良いとこなしですな。まあ、かろうじて成果といえるのは、ヴィクトリーさんを戦場に引っ張り出して状況説明できたというくらいでしょうか。
  今はこれがせいいっぱいのFVBでありました。


6.戦場は荒野

  ついに戦争。一心不乱の大戦争です。
  場所はFVB本国です。めざすは王城っ!

「おうじょうせーやっ!」


  ところがですね。藩王も摂政も不在なんですわ。
  酷い話でしょ? 祖国奪回に指揮官不在です。後方にすら居やしないです。
  というのも、こんな事態になろうとは予測もしていませんでしたから、藩王は宰相府から発進した輸送艦上の人に、摂政に至っては遙かオリオンアームで外交使節団に加わっておりました。ドイツ国防軍の士官みたいに率先して先頭に立ちたくても無理な相談です。
  しかしながら、親はなくとも子は育つと申します。残りのメンバーでなんとか乗り切ったことは、皆さんもご存じのことと思います。
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  夏の戦場は死体が腐ってなあ・・・・・・って、相手はゾンビやスケルトン、グールたちでございます。死臭と腐臭で戦場はとんでもない惨状です。
  これが、この夏のFVBの有様でした。
  そんな中にぞろぞろっと、PPGこと王女親衛軍第二騎士団の寄らば大樹の陰とばかり、その右翼に展開していたのがFVB詠唱部隊です。
  胸を張っていいますが、FVBは宇宙特化の国なので、宇宙で艦船に乗っていればかなり強いのですが、低物理域の地上戦というと一世代か二世代前のアイドレスを倉庫から引っ張り出さないといけないのです。
  それでも頑張ってくれました、海賊! スケルトン部隊を視認したかと思えばすかさず詠唱戦で吹き飛ばし、敵の攻撃が来たと思えばシールドを張って他隊の盾となり・・・・・・って、なんとまあ、立派になったことか。一人前に戦列に加わっているじゃあありませんか!


「よっしゃー。ええぞー。このまま押し込めたれーっ。せーのっ!」
「「「「クーリンガンのあほんだらーっ」」」」

  ちゅどどーん!
「ほーれ、もういっちょ、いったろかーっ! せーのっ」
「「「「クーリンガンのしょんべんたれーっ」」」」

  ちゅどどーん!

 

  出れば負けとはいいませんが、戦場のオミソ扱いだったFVBです。そりゃあ、八面六臂の活躍をするエリート部隊にはかないませんが、やっと「ここにいてもいい」と思えるようになったわけです。
  祖国奪回の戦いで、うろうろしているだけじゃ情けないですからね。国民のためにも、率先して戦えたのは幸運だったといってよござんしょう。もっとも戦慣れしていない序盤はPPGの陰に隠れていたわけであまり大きな顔はできませんが、国威高揚の宣伝マンとして、ここは大きな声で言いましょうか。


「逆境に耐えてよく頑張った! 感動したっ!おめでとう!」

 

(文:17-00326-01:曲直瀬りま:FVB 10212字)

(絵:17-00326-01:曲直瀬りま:FVB イラスト部門として別途提出済

最終更新:2008年08月20日 10:53