ヴィクトリー&ウィングバイパーがFVBを蘇生させた記念すべき地に建立された社が、「誉巳神社」(よみじんじゃ)です。
夏の終りになくヒグラシを背に、つらつらと考える。遠く交わらぬ場所にあるゆえに根の国ではなかったのだろうか。死者とは生者と遠くへだった場所にいるゆえの、浄土幻想ではなかったのだろうか。つらつらととめどなく脳裏によぎる言葉を一旦切り取り、発端が何処にあるかも遠いこの夏の騒ぎ…主にゾンビとかゾンビとかゾンビとか死亡フラグとか…
いま、我等がFVBには根の国、死者の国への入り口がかっぽりと口をあけている。
さすがにそれは拙かろうと、その亀裂を塞ぎ、封印するように神社が建立された。FVBを死者の軍勢から奪回するのに助力してくれた神々や人々への感謝の念がこめられているけれど、これは同時に封印の地ともなったのだ。
これで完全に封じられたとか出入り禁止になったかというと、実のところ不安は多々あるのだけれど、少なくとも地元の子供や観光客がふらふら迷い込むようなことはなくなった。
もともと寺社という施設は、交通の要衝で、見晴らしが良く、水利も良い場所に作られることが多い。はっきり言って、戦の陣や砦を置くのにふさわしい地勢であるし、尾張名古屋の観音はすべて街道を押さえる位置に存在している。
しかし、この神社の構造を上空から見るならば、砦へと即座に転用できる寺社とは若干異なっているように見える。確かに戦の陣構えのようではあるが、どちらかというと外からの攻撃に備えるというよりは、中心部から出てくる何かを食い止めるような作りになっているのだ。あるいは紅砂陣のような特殊な結界を模しているのではないかという者もいるらしいが、それは確かな話ではない。
どちらにしても、あまり広いものではないので、いざ戦となってもそれほどの大軍勢を配置することはできないだろう。ざっと200平方メートルといったところか。その代わり、手入れは行き届き、鳥居や社殿の細工は丁寧なものとなっている。なんといっても総工費50億わんわんである。ちょっとした柵や杭にまで細かい文様や文字が刻み込まれ、神社に力を与えているようだ。
戦勝記念碑ともなった巨石の前には、御神酒の入ったとっくりが添えられているが、蛇神様は下戸という話があることから、中身はただの清水らしい。
L:封印の神社 = {
t:名称 = 封印の神社(施設)
t:要点 = 神社,鳥居,賽銭箱,神主さん、巫女さん
t:周辺環境 = 自国
t:評価 = 住み易さ0
t:特殊 = {
*神社の施設カテゴリ = 建築物として扱う。
*神社の位置づけ = 宗教施設として扱う。
*神社の設置 = 神社は一箇所に設置する。
*神社の床面積 = 200m2とする。
*神社の構造 = 1階建てとする。
*神社の特殊効果1 = 大きなお祭りを開くことができる。
*神社の特殊効果2 = 祭神にあわせた効果が発生する。このエリアでは神威が及ぶ
*神社の特殊効果3 = この家には人が住めない。
*神社の特殊効果4 = お守りやおみくじや絵馬を販売している。
*神社の特殊効果5 = 屋台が出来る。
*神社の特殊効果6 = この神社が破壊されない間は、死者の国から攻められることはない。
}
t:→次のアイドレス = 大社(施設),巫女(職業),祭事(イベント),お守り(アイテム)
}
●r:ここから先は神社関係者、警察、ISS並びに政府高官以外にはお見せできません。
・この神社は根の国封印の要のために、建設された場所である。
・神社関係者は警察、ISSとの連携を忘れないで下さい。 ここを破壊される事は国に大災害を招く事になると自覚してください。 よろしくお願いします。
〇対策案
・見回り同心の重点パトロール。
・神社入口に対ゾンビ並びにテロ用のセンサーの設置。施設の要所に監視カメラを目立たないように設置し、そのデータが神社、警察の両方に送られるものとします。(す
ぐに対処し、迅速に動かすために)
・公安局所属の『お庭番』、『犬忍者』の配置。巫女、屋台の親父等に変装し、人知れず警護。(神社関係者と連携しながらでお願いします。)
・ゆみみ隊の配置。武装巫女及び「巫女ロイドちゃん武装バージョン」による「弓巫女隊(略称「ゆみみ隊」)を配置します。(あくまでも、警察やISS、その専門の部隊が来るまでの時間稼ぎのための装備なので、殺傷能力は低く、人は殺せないように設計されてます。ロボット3原則は組み込み済み。)
(2008.10/30追加/起草:光儀)
L:FVB第二動乱 = {
t:名称 = FVB第二動乱(強制イベント)
t:要点 = 白いサマーセーター、神社、静かな
t:周辺環境 =FVB
t:評価 = なし
t:特殊 = {
*FVB第二動乱のイベントカテゴリ = 自動、世界イベントとして扱う。
*FVB第二動乱の効果 = FVBは今日も平穏であった
}
t:→次のアイドレス = 平穏なる日々(強制イベント),大祭(イベント),小さいネコリスの森(イベント),宇宙開発準備(イベント)
}
ウィングバイパーとヴィクトリーによって復興した大地は、残夏の日差しを受けて生命の賛歌を歌う。感謝しても仕切れぬほどの恩を受け、FVBの民は国の復興に毎日いそしんでいる。
ヤレ長屋を作る、井戸を掘る。畑を清める、苗を植えかえる。警戒のためのシステムを作る、カカシロイドシリーズも一緒になってトンテンカントンテンカンと、日々騒がしい。やることは山済みで、問題点など数え切れぬが、それでも目の前にやれることがあるぶん、国が死者の国であったことに比べたら何倍もマシだ。
そんなある日のことだった。見回りに行っていた面々が大慌てで情報集積場(仮)へと飛び込んで来たのは。
/*/
「…穴だな」
「穴ですね」
「深そうだね」
「暗いですね」
物陰こっそりと縦に並んで覗き込む。頭上には夏の終わりを叫ぶ蝉の声とともに、強い日差しが剥き出しの頬を突き刺すというのに、暗く深いその穴を目にするだけで足元が揺らぎ、瞬きもせずに穴を覗き込んでいた【機導師】は、杖を握り締めたままぶるりと背を振るわせた。
なんて深く暗い穴なのだろう。まるで、古の神話を思わせるアレ、のようではないか。いやいやいや、そんなわけはない、と首を振る。いくら我等が国が花のかわりにゾンビがいたからって…まさかそんなことはあるはずが…。けれどなんだろうこの背筋を這い上がるような、理力の呼ぶ声は。【機導師】は杖にしがみつくようにして低く唸った。
「な、なんなんですかあれ」
「今中央が調べてくれてる」
「…暗いなぁ」
怖いので物陰に引っ込み(交代で見張りつつ)【御庭番】はキッチリと結い上げた髪を指で撫でつけ、ほう、と息をついた。まるでのみこまれてしまいそうな、塗りつぶしたような暗さである。夜とは違う、見通すこともできない暗さ。ぶつぶつと呟きだした【機導師】を横目に見つつ、けれど、と思い直す。恐ろしいけれど、何となく悪意や邪悪なものは感じない。むしろ深い海を見るような、渓谷を見下ろすような、とてつもなく大きな自然の、無意識に頭をたれる、まるで神域のような空気を感じるのだ。
腕を広げ囲い込むような不思議な暗さだ。呼んでいるわけではないけれど、踏み込んでいけば優しくその両腕で抱きしめられるような。するりと視線を流し、ふと【御庭番】は立ち上がった。視界の隅を何かが掠めた気がする。
【機甲侍】の足元で、一緒についてきた巫女ロイドちゃんと、実験的に作られている飛脚ノイド君が穴を見張る。まん丸眼で真似る姿はとても微笑ましいが、その真ん丸いつぶらな目は情報リンクと直接リンクし、リアルタイムでこの場所のことを中央の集積場へと送っている。中央ではそれを各国の情報を擦り合わせ、拾い上げ選別し、現在進行形でこれがなんなのかを調べ上げるだろう。
何処にいても目立つ深紅の鎧の影で、ひっそりと額を拭う。何があるかわからないからと、フル装備で来たのだが、まだまだ蝉が絶好調にアイラブユー、をしている時期には歩くサウナとかわらない。刀だけもって来るべきだったか、と溜息をつくと休憩していたはずの【御庭番】がぽっかりと開いた穴の方へと歩いていくのが見えた。
/*/
「どうした?」
「ちょっときてください」
巫女ロイドちゃんも一緒に、と、手招く。うんうんうなっている【機導師】の横に飛脚イドを残し、二人とてとてと近づくと【御庭番】は問題の穴に丁度向かい合う壁のようにきりたった岩肌の根元にしゃがみこんでいた。覗き込めば難しい顔をしてなにやら岩肌を撫で回している。
「巫女ロイドちゃん、どうにもこの辺…人工物っぽくないですか?」
指がなぞる形を視線で追う。緋の袴も目にまぶしい巫女ロイドは、ちょてちょてというように歩みより、岩肌…所々崩れているそれのスキャニングを開始した。カカシロイドはそれぞれ姿でどの能力に特化しているのかがわかる。巫女ロイドは姿どおり神話伝承系と精神学…口伝文伝問わず人に与える影響に対しての情報を多くもつ。まぁ、医者の手伝いをする看護ロイドに比べると、ややオカルトじみた情報に片寄ってはいるが。
「この地…死者の国…、深い穴」
白い指先が一つ、一つとおられる。我等が降り立った出雲の地。死者の国と化した永い永い夏の日。突如として現れた…もしくは我等が気づいていなかっただけで存在した?…底を見通すことのできない穴。
「これが道租神なら、あたり、なんですが」
けれどここに坂はない、のぼりであれくだりであれ。もしかしたらあの暗闇を下っていけば…もしくは登っていけばそう、であるのかもしれないけど。独り言半分に呟いた【御庭番】をよそに、巫女ロイドと情報の共有を行なっていた【機甲侍】は巫女ロイドの指示に従って、岩肌に指を突っ込んでいた。こんなことに刀はつかえないので手で掘るのはやぶさかではないが、なんだろうこの釈然としない感じは。
やがて岩肌からは、作られたものらしい何かが姿をあらわした。つるりとした表面は明らかに人の手がはいったもので…。
「あー、雨とか崩れとかで埋ったんだなこりゃ」
「…」
「祠か?これ」
丁寧に土や砂利をのぞき、少々強引に岩肌を掘ると、その、全身像が出てきた。白くつるりとした様子に、思わずゆで卵と【機甲侍】は呟き、その白い卵のようなものの中を見た【御庭番】と、巫女ロイド(引いては情報集積を指定オペレーター)は僅かに驚いたように目を見張り、それぞれの想像が当たったことを確信していた。
それが、最初の話である。
「げほあっ」
「埃が多いからきをつけて」
言うのが遅い、と恨めしげに目を向ける。頭には白い三角巾、体は割烹着。中の着物にはキッチリとたすきをかけ、一部の隙もない清掃姿の【御庭番】のお菊さんが手伝いの腰元ロイドにたすきをかけてやりながら目をあげた。
「ほら、まどあけて」
「はいはい」
パタパタと窓をあけて風通しをよく、これでもかというように詰め込まれた荷物をかるがるともちあげてた【機甲侍】ぐるりと狭くも広くもない部屋を見回して溜息をついた。どう見ても容量オーバーである。パズルじゃないんだから、といいたくなるほどこれでもかと荷物が詰め込んである。普通だと手の届かない天井近くなど、ふっかふかである。もちろん埃で。
「いつから掃除してないんです」
「しようと思ったら化け物が出たって情報が出て」
「いや、そんな埃の量じゃないでしょうに」
「一休みできそうだったら大掃除の予定だったんです!」
「あー…」
何となく遠い目をする。足元で腰元ロイドが巻物の山を引っ張り、雪崩れ落ちそうな巻物の束を右の手で掴み荷物の上に放り投げると、ぱふ、と埃がたち鼻がむずむずとした。
なんとか国も少しずつ落ち着いてきている、が、油断はできない。今日も今日とて何か妙なものがみつかったとの連絡で、【御庭番】一人、【機甲侍】一人、【機導師】一人、巫女ロイドちゃんと飛脚ロイド君という小隊が飛び出していったばかりである。
さりとて虫干し兼大掃除を先延ばしにするにも限度があったのだろう。資金繰りの影響でそこまで高価なものはのこってないだろうが、何があるかくらいはキッチリと把握すべし、ということで非番の身である犠牲者が一人、うっかり昼食につられて捕まり虫干しにいそしんでいる。
「いい天気、この調子ならすぐ終るわね」
「……終る、かなぁ?」
「終らせるのよ?」
はたきでざっと埃を中にたたき出していたお菊さんが振り返ってにっこりとわらった足元で、腰元仕様のロイドちゃんが可愛らしく腰に手を当ててびしっと丸っこい指を向ける。おわらせるわよ!、という吹き出しがその頭上に見えた気がする。
「そういや、朝出た面子はそろそろ戻って…おっと」
「お弁当もっていってないですものね、あら?」
【機甲侍】が無造作に積み上げた巻物の一つが転げ落ち、腰元仕様のロイドちゃんが仕方ないわね、というように持ち上げたとたん風化していた紐がぷつりと切れた。深い藍色の巻物がころころころころ、その身を投げ出す。乾いた土の上で止ることのないそれを腰をまげて持ち上げる。ばさりと乾いた音を立てた中身は、と覗き込む。
「…なんだ、これ」
「あらあらあら、こんなところに」
白地に描かれるのは輪がFVBの詳細な地形図。それと重なるように植物の根のような細い線が幾重にも重なって描かれている。各家庭に常備されている水路図と似ているが、それよりもはるかに詳細で主要な水路だけでなく、人が通れなさそうな(けれどロイドシリーズなら通れそうな)もの、ささ舟くらいしか通らないような場所まで網羅してあるのか、【機甲侍】が毛細血管、と呟くと【御庭番】お菊さんがコロコロとわらった。
「前に調べたものね、こんなところにあったのね」
「随分詳しいですね」
「えぇ、国が戦場になる前だったから」
「あぁ」
つ、と指先が大きな水路を辿り、細いが通れなくもないだろう路を辿り、一ヶ所をクルリと丸く囲んだ。水路の様子からそこがどの辺かと頭の中でダブらせる。
「今、調査隊が行ってるのはこの辺ね」
「ふうん…あ、海まで水路続いてるじゃないですか」
「あら、そういえばそうね、こんなところから海まで繋がってるなんて」
「この辺何かありましたっけ?」
何か施設でもあったなら水路を強化している場合もあるが、自身の記憶にはなかったので訪ねると、お菊さんもゆるりと小首をかしげ、なかったと思うわ、と首を振った。城からは少々離れているし、近くに人が常駐する場所もあるわけではない。ならば自分達がこの地に来る前からのものかもしれない。
「それより、ほら、ちゃっちゃと運ぶ!お昼までに全部干すわよ」
「ハイハイ、そんなおさないでくださ…」
まだ力強い太陽がじりじりと大地を焼く。朝早くに巻かれた水分も随分と蒸発してしまって、木々の緑もその濃さを増し落とす影を濃くする。そのぶん光刺す場所は質量を持って肌を焼く様で、うっすらと浮んだ額の汗を拭うと【機甲侍】は残りの荷物を持ち出す為に室内へと足をむけた。
「黄泉の国の資料あったっけー!!」
朝早くに出ていった調査隊は、【機甲侍】とロイドーズを除いて(といっても二人だが)昼遅くに走って戻ってきた。そのまま地下へ駆け下り真っ直ぐに情報集積場を突き抜け、紙媒体として残してある古書倉庫に突っ込む。司書の役割をしている【水夫】が扉の開いた勢いに驚いて、カウンターの墨つぼを宙に飛ばした。
「おっと、危ない」
「しりょうしりょうしりょう!!!」
「な、なんですかいきなり!?」
空中でクルリと回った墨壺をするりと掴んだ【御庭番】は、薄く日に焼けた顔を【水夫】に向け、はい、と墨壺を差し出した。一緒に飛び込んできた【機導師】の方はすでに古書の山に突撃している。
「黄泉の国の資料ありましたっけ?」
「い、一般的な古典なら」
「あぁ、多分それでいいでしょう。あと古い地図は?」
「古いってどれくらいですか?」
「ここにきてから一番古いものですね」
「そ、それなら多分上の倉庫かと」
今日腰元のお菊さんが掃除なさると仰ってました。【水夫】はそういって墨壺を受け取ると、キッチリとふたを閉めて持っていた筆をおき、不思議そうに首をかしげた。
「調査に行っていたと聞きましたが?」
「えぇ、それでちょっと調べ物が」
「黄泉の国、ですか」
古書を勢いよく調べている【機導師】をみやり、ただ【御庭番】は笑ってこたえず。そして筆を滑らせていた【水夫】の手元を覗き込んだ。なにやら文字が連ねてある。一番上にはにょろにょろと蛇の絵が…おそらく蛇であろう絵が…踊っている縄ではないかぎり…その下には丁寧に、御酒、鼠(生?)、卵、生贄…にはバッテン、果物、手紙、祀る、とかかれている。
「なんです、これ」
「あ、いや、ほら、その」
蛇を指でなぞると、【水夫】は頬をあからめ蛇の絵を隠すように手をおいた。視線を床のほうに落とし、蛇を隠す指がもじもじと動く。
「先日、本当にヴィクトリーさんとウィングヴァイパー様にはお世話になりましたから、御礼って何ができるんだろうって、いや、かってに調べてるだけなんですけど!」
「ですねぇ。本当にきちんとお礼をしないと…て、この祀るって…」
「い、いやいやいや、又利用してるとか頼ってるとか言われるかもしれないんですけど、む、昔から東国ではお世話になった神様とか霊とかを祭り上げたりするじゃないですか、そんな風にするのは御礼になるかなぁ、なんて、いや、その、祀ってたら、ちょっと、うん、助けられた人たちにとっても何ていうか、支えになるかなって、助けられたって強烈な出来事があったわけですから……ええと、その…うん。祀って、きちんとお礼したいなって」
決壊。言いたかったのか、恥ずかしいのか、一言こぼれたあとは立て板に怒涛の勢いでぶんぶんを首を振りつつ【水夫】は言葉を吐き出し、やがてかっくりと首をおとした。
「まぁ、祀る場所が問題ですけど」
「そうね」
何処でもいいというもんではないだろう。ご神体も必要になるだろうし、社殿とまでは行かずとも、神様の下りる場所もいるであろうし、何よりこちらとあちらの境界でありそうな場所でなければならないだろう。先住の神様がいない場所なら、と、考え【御庭番】は、すっかり焼けて赤くなった頬を掻いた。
なんだか、ものすごくそれによさそうな場所を思いつくのだが。
「あったああああ!やっぱりあれは道租神だ!」
「おー、ありましたか」
「リンク情報からもはいった、某国の王さまが潜ったって」
「えええ!?」
「大丈夫、今の情報では生きてるって」
「それはよかった」
体の上に乗っかった古書を丁寧に床に降ろし【機導師】は一冊の本を手に立ち上がった。掠れて表紙の字は読めないが三文字の題字に最後はかろうじてごんべんだか糸へんだかがあるのが見える。
「根の国」
「黄泉ではなく?」
「同じではあるとおもうけど、この国だと根の国のほうだと思う」
「あぁ、地理的に」
「うん、出雲だからここ」
とりあえずは上に報告して、これ、嘆願してみましょう。【水夫】のだきこんでいた紙をひょいととりあげ、踊る蛇の絵をするりと撫でると【御庭番】は【機導師】を促して古書の倉庫を後にした。
落書き交じりのメモを持っていかれた【水夫】の叫びが聞こえたころには、すでに摂政への報告は済んでいたが。
誉巳神社には、蛇を指す神体が幾つも集められているが、中でも社殿に奉納されているのは、鏡である。それは、古くに祭具として作られたものであろう、女性の掌ほどの銅鏡で、鏡背は紐を通すつまみを中央に円を描いて文様が凹面となって描かれている。
「ちょうどよかったですね、蛇で」
「丁度よかったってのも罰当たりな気が」
蛇ははじめてであった時から人への強い印象を与えてきた。脱皮を経ての成長と、冬眠を経て再び活動を行なうことから死と再生を。半身を裂かれても蠢くその姿から強い生命力を。それらは蛇を大いなるものの化身、いわば、神の使いへと押し上げた。
また、畑の食べ荒らす害獣を食する姿、頭から尻尾まで一本である姿から思い起こさせる男性の象徴、そこからつながる種付け、ひいては稲の実りなどの連想は、蛇自身を豊穣の神へと押しあげ、長く手足のない姿からは川や水脈をおもわせることから、水の恵みと水害という表裏などを飲みこんで豊穣の神であると同時に水神であるという側面を持つようになった。
「蛇って言うと金運!のイメージが」
「あれ、理由わからないです」
「へ?」
「まぁ、川の神様なら製鉄とも関わるでしょうが」
「あぁ、そっか」
きゅっきゅっとご神体(予定)の鏡を磨いていた【御庭番】のお菊さんはすっかりほつれてしまっている組紐をほどき、掃除中に倉庫からみつかった水路図と一緒に横においた。おそらくこの水路図も一緒に神社に納めることになるだろう。神社の予定地の近くにも、一人くらいは通れそうな水路が通っていたはずだ。これからあの誉巳神社には人が在中することになるのであろうし、もし、もしものことだが、あってほしくはないことだが!むしろ、それをさせないために頑張るのだが!…今回の真夏の死者の国事件のように地上が使えなくなった場合、この水路をつかって中央、もしくは強化されている港へと移動するため、である。
誉巳神社は国を救った蛇神サマを祭ると同時に、根の国を押さえる為の封印となっている。滅亡の危機?を迎えたFVBは空前の繁栄を迎えており、そんなところもまた蛇神サマらしいというか、なんと言うか。
「社殿ができ次第、納めないと」
「…けど、なんで鏡なんです?」
「蛇が描いてあるでしょう」
「いやいやいやいや、それならいっぱいあるでしょう他にも」
「鏡が、いいの」
一つ目は、と指を立てる。綺麗に磨き上げた銅鏡は現在使われているものほどはっきりと物の姿を映すことはない。が、元々鏡とは祭具として作られたものである。光を反射する平面であるというだけではなく、影が見、として「こちら」と「あちら」を見るという行為でつなぐ道具であり、そうでありながらも「こちら」と「あちら」をはっきりと隔てる為の壁としての役割も持っている。見ることはできても、触れることはできない。ギリギリまで「あちら」と「こちら」が近づいたとしても、最後の最後まで二つを隔てる壁となりうるもの。つまりは、根の国とこちら側を隔てる為の封印具としての役割。
「まぁ、そのためにつくられた鏡ではないけど」
「…つくったほうが良かったのでは?」
「古いほうがいいかと思って」
「へ?」
「…物に流れた時間ばかりは、つくれないから」
新しい飾り紐をつまみに取り付ける。綺麗な色の組紐で飾る。うん、と頷いて神社に持っていく予定のものを風呂敷のなかにつつむと、二つ目に、とお菊さんが指を折った。蛇は男性にたとえられる。頭から尻尾まで一本の姿などを踏まえて男性と例えられることが多い、その事から種付け引いては稲の実りと続くことから、害獣を食す姿と共に豊穣神として祀られる。
ゆえに
三番目とお菊さんは指を折る。鏡は女である。
「はい?」
「三種の神器ってあるでしょう?」
「えーと、鏡と剣と勾玉」
「女と男と子どもがいれば国が作れます」
「え、ええ?」
それは強引だろ、と突っ込む【機甲侍】の手をべしりと叩き落し、お菊さんは鼻でわらった。わが国の仰ぐ藩王様は女性である。そして鏡も女である。おそらく誉巳神社に使えるのも巫女と巫女ロイドが多くなるだろう。ちなみに、神話において最初に鏡を作ったのも女とされている。お菊さんは最後まで聞きなさいと風呂敷の荷物で一発食らわせた。
三つ目は二つ目とも繋がっている理由がある。蛇神サマは男である。いや、性別がたしかであるかはわからないが、蛇は、男である。とした方が正しいかもしれない。ゆえに仕えるのは女性がよいであろうし、御霊代とするものは鏡がよかろうと言う理屈である。
「…それに、蛇、描いてあるし」
「…それ、蛇だったんですね」
「心の目で見よう」
他にも蛇の古語であるカガチから、カガ(蛇)とミ(眼)から蛇の目こそが鏡の元であるという説もあるし、蛇がとぐろを巻いた姿が鏡に似ているとか、他にも諸々に蛇と鏡を結ぶものがあったため、鏡となったわけである。けっして、倉庫から丁度よさそうな古い銅鏡が出てきたぜ、きゃほー、という理由ではない。
「……重ねて言うと嘘っぽいですね」
「いや、本当なんだけどね」
お菊さんはどこまでが本気かわからない顔で又、きゅっきゅうと鏡を磨いた。
しとしとと雨が降っている。
一雨ごとに、地の底から這い上がるような寒さが沸きあがってくる。
冬がきている。
針よりも細い雨は寒さをまとってしっとりと大地に降り注ぎ、濡れた朱色の鳥居は色も鮮やかに、神が下りるとされる桂の木も、その影からあらわれるという楡の樹もまた、落葉樹である為に葉こそ地を覆っているが、ほんのわずかに残った葉が降る雨を吸ってしっとりと重く頭をたれている。
たーん、たーんと静けさの隙間を縫うよう、ゆみみ隊が鍛錬をする音がひびき、静けさにたゆたう中で、僅かに玉砂利を踏む音がした。
一人の女が歩いている。
東国人特有の黒髪を綺麗に束ね、緋色の袴をまとうその姿は、この神社に仕える巫女であることを示しており、片手には唐傘を、もう片方の手には抱きこむように櫻色の風呂敷包みをもっている。ほの白い手は、地を満たす寒さにほんのりと赤く染まっていた。
女が歩く度に音がこぼれる。束ねた黒髪に一つだけというように、簪が刺さっている。今降っている雨を束ねたような飾りのそれは、女が歩く度にさらさらと音を立てていた。
ふと、女が足を止める。
このまま社殿へ戻るか、それとも少しだけ遠回りをするか、雨粒が五十を数えるほど考え、女は風呂敷包みを持ち直して歩く先を変えた。濡れた玉砂利の上を踏んで進む。たーん、たーんと弓を引く音が聞こえていた。
国の未曾有の危機、死人の国と化そうとしていた所を助けてくれた人々に感謝をこめて、また同じ事が起きぬようにとの祈りをこめて作られた神社は、御神体たる鏡をその身の内に抱え静かに佇んでいる。
根の国へと続く道には桃の木が枝を広げ、植えて間もないそれも、暫くすればどっしりと地に根を張り、やがてはその枝に桃の花を膨らませるだろう。実も、なるのか、いまだ枝だけを健やかに伸ばしている姿からは想像ができないが、これもまた封じの一つ。
この神社は植えられる木、使われる木材、建てられた場所、御神体、そのほか数え切れぬほど、幾重にも重ねた封じが行なわれている。それは、返らざる彼岸である根の国に対する本能的な恐怖か、この夏に起こった焼き付けられた恐怖かは、判別しがたいが。
女は傘に当たる雨音を聞き流し、桃の木の植えられた道を歩いていく。幾重にも折り曲げられた路は荒魂を祭る神社と同じく、その何倍にも用心を重ねて作られていた。
王城と変わらぬほどの厳重な警備のなか、ひっそりとその暗闇がある。
根の国の入り口、中へ行く為の道は封じられているがその入り口だけであってもぽっかりとあいた暗闇は人を畏怖させるに相応しい姿を見せている。
遠く、根の国と同意とされるニライは、「こちら」の人が死したあと「あちら」に生まれる場所であるという。ゆえに「こちら」で人が死した時、つかっていたモノを一緒に壊してから、持たせるのだと。「あちら」でも同じものが仕えるようにと。
そのニライは海の底にあるとも言われ、海の彼方にあるとも言われる。他の神話を省みても、彼岸と此岸を隔てるのは川、ひいては水である。海の彼方にあるニライ、彼岸を隔てる三途の川、死者の忘却を行なうレテ川。横道にそれてもよいならば、流れる川から拾い上げられて復活した砂漠の国の神、川を流れてくるヒルコ、又同じく川を流れて来る桃太郎、逆に流れる水を超えられない不死者。
思えば、いつとて死者と生者を分かつのは水だ。
根の国とは、罪穢れを押し流す先である。
根の国とは、生命や富の根源の地である。
根の国は死者の国であり、悪霊邪鬼の根源である。しかし、根の国はかつて国神がその主権を主張するための、刀、弓や、事を持ち帰った場所でもある。いとしいものをなくしたものにとってはその死者こそが宝になるであろうし、昔話を省みれば、川を流れてきた桃太郎が、海に隔てられた鬼の島、より財宝を持ち帰った。これは穿ちすぎであろうか?
雨はしとしとと降り続けている。天から降る水が、あらゆるものを清め、罪穢れを押し流すよう。死者の国と化そうとしてこの国は、今空前の繁栄を迎えている。これもまた彼岸よりもたらされた富の一部なのか。
女は深々と冷える空気に白い息をはいた。
少しだけの寄り道のつもりが、存外つらつらと考え事に引っ張られてしまった。降る雨を見上げてみれば空の端のほうから暗闇がじとりと空をの見込もうとしている。早く帰ることにしよう、そう思い歩き出せば傘に当たった雨が、ぱらぱらと歌う。
根の国の入り口は、雨を子守唄にするよう、静かにそこにあった。
Q1:確認なのですが、ウイングバイパー様は蛇の神様にあたりますよね?
A1:ええ
Q2:現在「封印の神社(以下、神社)」の警備について国内で考えていますが、何らかの対策を行わないと神社は危険そうですか?
A2:わからない
Q3:神社の設定ページにISSとの連携、警備強化に関する記述を盛り込んで提出することで効果はありますか?
A3:ええ
Q4:神社の警護に関して政策を提出することで効果を得ることはできますか?
A4:ええ
Q5:神社の派生の大社(施設),巫女(職業),祭事(イベント),お守り(アイテム)の四種ですが、この中で現在拾得を急いだ方がよいものなどはありそうですか?
A5:ないよ
Q6:仮に大社を拾得した場合、土地はどの程度必要になりますか?
A6:1000
Q7:神社に保険をかけることはできますか?
A7:無理だろう