青年はそわそわしていた。はやる気持ちとそれを押し込めながらその先にある物に手を届くと信じて。
 「君の番です。来なさい」
 「…はい!」
 



  昔、満天の星が見えたある夜のこと……。

 「昔はそりゃ凄かったんだよ。
 「ある時は帆船に乗って大海原に、ある時は宇宙船乗って大宇宙に行ったもんだ……。艦剣片手に鍛えた身体にさらしを巻いて膝までのズボン履いてな」
 「ほよ? そんな身軽で大丈夫だったの?」
 「そりゃ、熱射病になりかねんから帽子か頭に布でも被ってなきゃ、ちょっと危険だったの。それから……海が荒れて何人もの船乗りが命を落としたよ……宇宙はもっと酷かったがな。ろくな知識もなく行って、命を落とした奴は少なくなかった。
だからこそ命がけな分、操船技術は磨かれたがな……。

 「それ以外にも、事故や宇宙放射線を浴びすぎて……わしのようになる人間も沢山いた。
 「けどな……それでも行って見たかったんだ…その先に」
 「先?」
 「そ う、その先に、誰もいった事がない、果てにな」
 「果てかー」
 「そう、果ての果てにな…」
 
  老人はまるで少年のような目で、何かを懐かしみ、何かを夢見ながら、星を仰ぎ見ながらその向こうに想いを馳せた。
  果ての果てのそこに広がる世界に 想いを馳せた……。
  幼い少年もまた、果てに何があるか想い馳せ夢見ながら星空を見上げた。
 
  そして……。
 

  時は流れ、季節は巡り、東国特有の色とりどりの四季を見せながら……人も、心も、何もかも変わりながら、廻り回る。
  幼かった少年もまた青年へと成長していく。
  しかし、少年は青年へと変わりながらも、その眼差しは年を経ても変わらずに宇宙を見上げて……夢見ていた。

  何時も昔語りを聞かせてくれた人がいなくなっても、変わらずに・・・
 

 〇月★日

  今日から入学式。 明日からは気合い入れていかないと!

 〇月□日

  どうやら教官は結婚してる模様…へこむ。

 

 ★月△日

  今日は機関部の勉強。
  実際に見ると迫力が違うな。

 

 △月☆日

  小型宇宙船の操船シュミレーションは上々の成績を出せた。 あいつらのチームより上だったぜ! やりー!!

 

 ★月△日

  来週から帆船での3ヶ月間の訓練航海をすることに、何であんな時代遅れのを使うんだろう?

 

 ☆月〇日

   今日から帆船での訓練航海。
  でかいなー、博士(あだ名)の話じゃ40mあるらしい。
  とはいえ、宰相府にあるのはもっとでかく、120mと か博士が言ってたな。

 



 
 「♪~♪」
 「……」

 「♪♪~♪」
 「… はー」
 「ん?、どうした坊主?」
 「また坊主…じゃなくてっ!」
 「俺、なんでジャガイモの皮むきしてるん だろうと…」
 「そりゃ、飯食わないとな生きてけんし、お前が暇そうだったからな」
 「俺一応、操舵士希望なんすけどー」
 「何 を言っておる、料理担当が病気になったりしたらどうするんだ?」
 「……」
 「その場合、皆が飯作れんじゃ駄目だろう? ま さかラム酒だけではな…お前ら未成年だし」
 「ぐぁ、確かにそう…すね」
 「なら、キリキリ皮むきだ。今日は 「海賊カレー」だからやる事は大量にあるぞ!」
 「うへぇ、了解です。……ところで教官、話変わりますが、 やっぱり人手が足らないんじゃないですか? 船の大きさの割りには人数少ないような」
 「ん?…ふむ、お前にしてはいい所に気付いたな。」
 「ひど!!」
 「ガハハハ! まぁ、半分は冗談だ。 お詫びに一つ教えておこうかな。 確かにその通りだ、元々の必要な人数より少なめにしている」
 「何で…ですか?」
 「さっきの御飯と同じ理屈だ。
 なんのためにお前達に志望先の勉強以外にもいろいろと教えていると思う?
 お前達の誰かがいなくなった場合にすぐに代わりが出来るようにするためにだ」
 「… 成る程(ポン) だから、あんなにローテーション組んでるのか、いろんな事を経験させ
るために」
 「そう言う事だな。船が漕ぎ出したらお前らしかいない。 確かに、各種専門のロイド君がいるが、あいつらは士官が的確な指示を出さねばろくに動かんし、動いちゃいかん。航海中は何が起きるか判らん。いざというときに頼れるのは自分たち以外いない。だからこそ、お前たちには様々な勉強が必要なんだ。士官はすべてを掌握しておかねばならん。
 「ルテナントて言うのはその場合の事を考えてのシステムと言う訳だ、いなくなれば即座に誰かが代わりに、またいなくなれば代わりにとな。
 「ま、今のお前達には関係ない話だ、今は全体の下地を造りつつ、希望する職種の勉強にどんどん専念していく事になるが、まだまだ、先の話だ……わかったか?」
 「… はい」
 「では、きりきり皮むきだ、だいぶ時間ロスしたからな」
 「はいー」


 ■月 ●日

  帆船での訓練●日目。
  今回は、他の帆船との演習だった。
  今日の俺は砲撃担当、操舵したかったな、くそー!
  しかし、 低物理域用の火薬は、あんな火薬を使ってるのか。
 

 ☆月☆日

  姫先輩(あだ名)が冥王星へ特別研修に行く事が決定した。 今度の土曜は皆でお祝いだー!
 

 ×月●日

  今日から筆記試験。 これを乗り切れば夏休み! なんとしても補習だけは回避しないと。

 

 ★月☆日

   今日から夏休み、今週一杯は宇宙デブリの撤去作業のバイトが中心。(注:課外研修の一貫として申請済み)宇宙宇宙~♪

 

 □月◯日

  明日から 実際の小型宇宙船の操縦訓練。
  早く明日になれー!

 

 △月●日

  ……あいつが死んだ……宇宙服の中は血だらけだった原型があったのは宇宙服があったからだ……俺が無茶な操舵しなければあいつは死ななかった……俺が殺したんだ俺が…(注:涙らしきもので字が霞んでいて所々不明)
 

 ◯月〇日

  久しぶりに日記を書いて見る。あれから逃げるように学校を辞めてからは港で何をする訳でもなく海を見ている…
 

 ◯月☆日

   港で眼鏡を掛けた男がフリゲートの乗員募集をしていた。 最初は渋っていた船乗りたちだが報酬が良いらしく次々とサインしていた……俺も参加して見る事にした。お金の振込み先はあいつの家族にした。
  今更かも知れないが、死んだ友人の家族にお金だけでも渡したくなったからだ、それで償える訳ではないのは分かってはいるが…
 

 ☆月◯日

  フリゲートでのシーレーン防衛が始まる。噂では聞いてたけど海は本当に無防備だと実感、水兵長の話だとこれが始まる前は沢山の船が海の藻屑になってたらしい……。

  

 ●月/日

  水竜を初めて見た! あれが水竜か、凄い大きい!

 

 ★月□日

  明日には死ぬかも知れないからこの楽しい思い出を日記として 書いておこう。
  遂に第5世界奪還作戦が始まる。艦長から命が惜しい人には退艦をしても構わないと言われる…が、俺も含めてほとんどの人は残る。
  今までの戦いから皆お金だけが理由では無くなってきた…無念で無くなった人達の成れの果ての屍を使う相手に純粋な怒りが芽生えていたからだろうか…少なくと も俺はそうだった。
  この日は甲版で艦長も含めて皆で盛大に宴会をした。(ちなみに他の船でも宴会をしていた)
  俺も初めてラム酒を飲んで騒いだ!楽しかったなぁ
  この時ようやく皆の一員になった気がした。
  ところで…

(以降、消しゴムで消された後あり)


 ★月☆日

   そういえば違う世界にいくんだよな、昔は星を見ながらその向こうにある新しい世界を夢想してはその先へ行って見たいと思ってた。
  …いや、今でも 行って見たいとは思ってるし、それを想像するとワクワクするが、まさかこんな形で夢を叶えるとは…こんな事で行くのは憂鬱ではあるが……。

 

 □月■日

   目まぐるしい戦いだった…まさか操舵士の人が負傷して操舵をする羽目になるなんて思わなかった。
  正直腕が震えた、恐くてだ、また誰かを死なせないか不安だったからだが、その時…副長からいきなりアッパーカットを食らわされた(どうでもいいがあの戦いの最中に意識を刈り取る技はどうかと思う)
 「次席ならつべこめ言わずにやれー! どうせ死ぬ時は死ぬ、なら出来る事あるんならやれ」…と、
  …それ以前に次席でもなかったんだけど、どうやら副長も名前が似てたから勘違いしたらしい。…いや、次席も戦闘中負傷したらしいからな。
 

 ■月*日

  第5世界本土に到着。
  偵察部隊が沿岸砲を発見し、クエスカイゼスが破壊に成功!
  帝国、共和国の軍が岸への上陸に成功し現在は阿蘇に向けて進軍開始。
  ……で俺達はと 言うと留守番である。日記を書いてる位には暇ではあるが、(現在も何故か操舵を担当中)待つのは中々辛いな…
 

(略)

 
  第5世界の奪回に成功した模様! 船では歓声が上がる! よっしゃぁー!!

 

 ●月●日

  今からNWに帰還する…第5世界は色々とあったらしく 勝ったのに敗戦のような雰囲気が流れている
 ……船から花を投げる人を見かける、他の船でも甲板に上がって黙祷を捧げる人、花がないからだろうか手 作りと思われる造花を投げる人、泣いてる人様々な人達を見かける…俺も死んでいった人達に対して黙祷を捧げた。

  

 △月★日

  FVBに帰還。
  前から考えてた事をしに行こうと思う。
  友人の家に…

 

 △月☆日

  これからどうしようかと思い悩んでたら手紙が届く、エステル伝習所への入学のご案内?
  フリゲートで知り合った人達にも聞いて見たらどうやら皆にも届いていたみたい。
  内容を要約するとフリゲート乗員には実戦任務を考慮して、学費と学業の一部を免除とし一年での卒業が可能な模様。
 
 ……どうする?

 
 そして……、



 「着いた…」
  久しぶりに広い場所に出た青年は帽子を取りながら頭上を眺めた…上には何処までも続く蒼い空ではなく、深く深淵を思わせる漆黒の空が見 えた。
 
  ここは宇宙。
 
  宇宙での最前線に1番近い場所、FVB銀河鉄道の冥王星駅に青年はいた。
 
  一息ついた青年は歩き出す。
  自身が着任する船に向かって……。
 
  戦いの火種は今だあり予断を許せない状況は気分を重苦しくしたが、そ れでも新しい船と未知の場所に行けるかもしれない事を思うと少しだけ気分が軽くなる。
 
  それに青年は思う。
  平和になれば夢が現実になるはずだから……。
  青年はそんな想いを抱きながら星を仰ぎ、そこに広がる未知の世界と 新しい出会いに想いを馳せた。
   そうして青年は帽子を被り直しながら足早に駆けるように船に向かって行った…
…。

 

 

  おかえりなさい、星の世界へ。

 

最終更新:2010年06月21日 14:38