FVBの食習慣と技術力

 

  FVBは古式ゆかしき東国の民の国である。
  そして、帝國の宇宙進出の魁を自負する星の民の国である。
  この相反するとも思える特性が一国に集まると、奇妙な風習が現実のものとなる。

  FVBで町奉行として国民の福利厚生に腐心している不変空沙子が、生活の拠点を宇宙に移しつつあった国民の肉体と精神の健康調査をおこなったことがある。
  宇宙空間では、一般的には宇宙食、つまり長期保存が可能で軽量で調理が簡単なものが食事となる。フリーズドライやレトルトなどのインスタント食品が主な内容となるだろう。  しかし、それでは栄養価は優れているかも知れない、バランスは良いかもしれないけれど、食事が単調になり、ストレスの原因になっているのではないかと心配されたのだ。
  けれど、調査結果は意外というか、極めてあたりまえのものとなった。
  「FVBの国民は宇宙でも地上とほとんど変わらない、普通の食事を食べている」というものである。機能?  効率?  食事ってのは人生だよ。美味い米のメシを食わないで、危険な船外作業ができるか!?というのが彼らの言い分だ。
  考えてみれば、7つの世界を航海する冒険艦にまで浴場を取り付け、それを露天にするかどうかで設計陣が大論争を繰り広げた国である。米の飯を無重量のはずの宇宙空間で調理する方法を考えないはずがなかったのだ。
 
  ここで、FVB宇宙戦艦群の装備の1つを紹介しよう。
  ぽち皇帝の護衛艦隊として強行降下をした際に展開した「ニュートン型空間歪曲シールド」である。これは万有引力の法則を利用したニュートン式反重力装置の応用で、先の作戦ではエバーライトが放った破城槌のレーザー光線軌道をねじ曲げ、本来当たるはずのない目標へと導いた。
  この重力発生源となる圧縮物質は、もともとFVBが燃料精製・圧縮時に生成される副産物にすぎないのだが、FVB技術陣である新世代の若者たちがその廃物利用法を見つけ出したのだ。
ぶっちゃけ空間歪曲シールドはおまけみたいなものである。
 
  無重量空間では液体を加熱しても熱対流が起きないから、煮炊きしても火がまんべんなく通らない。加熱される部分はめいっぱい熱くなっても、それ以外は冷たいまま……それではご飯は炊けない。
 「ご飯を食べられないとお腹が減るじゃないか」
 「炊きたてのメシが食えなきゃ、我が家じゃないよなー」
 「電子レンジで地上から持ち込んだ冷やご飯をチンしてもなあ」
 「味噌汁だって飲みたいよ」
  TLOにならないで重力をいじる方法があったら、星の世界でも炊きたての米のメシが食えるんでない?  それがすべての原動力だった。そして、FVBの民は、星の世界を我が家とするために、そのすべての叡智を注ぎ込んだのだ。
  恒星や小惑星を間近に見る宇宙船の中で、炊きたてのご飯を器によそい、味噌汁に舌鼓を打って焼き魚に手を伸ばす……それがFVB宇宙生活者の日常の光景となった。
 
  もちろん、宇宙船の操縦室内ではそういう食事をとることは難しい。狭いし、食事の際にカスや汁が飛んで精密機械に入り込んだら重大なトラブルの原因となる。万が一にも、ちゃぶ台をひっくり返してしまったので遭難しちゃいました……てへ♪……なんて事態は許されないのだ。
  そこで、どうしてもコクピット内で食事をしなければいけない時は、おにぎりが用意される。パンと違って、おにぎりは米粒に粘度があって欠片になりにくく、しかもサンドイッチなどと事なり具材を包み込む形にしてあるのでこぼしにくいのだ。
  それに、単におにぎりといってもバカにはできない。そもそもが「鬼斬り」が語源の縁起物である。しかも最近では、その具もバリエーション豊富。梅干、焼き鮭、昆布、おかか、アサリしぐれ煮、たらこといった古典的定番メニューに加え、穴子、えびマヨ、焼肉、とんカツ、唐揚げ、ネギ味噌、梅かつお、しそ、エビチリ、ねぎとろ、炭火焼き鳥、炒飯、赤飯、バターライス、イカ飯、ほたて飯、焼きおにぎり、パエリア、五目ご飯、ドライカレー……と枚挙にいとまがない(コンビニの棚で「卵かけご飯」とか「味噌汁ぶっかけ飯」なんて見つけたときはどうしようかと思った)。
  そういうわけで、おにぎりと漬け物をおかずに、ボトルのほうじ茶(これはさすがにストローで呑む都合上、ぬるめかアイスになる)という組み合わせでもけっこうなんとでもなるのが、昨今のFVBである。
  また、戦闘時には鉄火巻か赤飯おにぎりが配給されるのも伝統といえるだろう。
 
  FVBは星の世界に“我が家”を持ち込むことに成功したのだ。
  技術の勝利である。

曲直瀬りま記す

最終更新:2011年06月07日 22:48