7人の乗り手が駈ける。
 古来よりFVBにおいて、駈けるはカエルとされている。
 7人のカエルが3本のキュウリと3本のナスと1本のワサビでつくられた馬や牛に乗って駈けている。キュウリやナスの動物にカエルがまたがるというだけでもシュールな光景だが、これにワサビが加わるともはや形容不能である。
 キュウリが馬で、ナスが牛なら、ワサビは猪といったところだろうか。どちらも猪突猛進なところが似ている。色が緑なのが難だが、それは言うなら馬だって緑じゃない。
 ワサビにまたがったカエルが「ゴツゴツして痛い」と文句をいったが、たちまち他の6人から「痛いのはこっちも同じだ」と文句を言われて黙り込む。ハウスで促成栽培されたものならいざ知らず、神事に用いられるようなものは露地栽培で丁寧に作られており、鮮度の良いナスはヘタから無数のトゲが飛び出しており、刺さると痛い。キュウリもナスほどではないが、表面がトゲのようなイボに覆われている。素手で触ると本当に痛い。
 だがそれが鮮度の証だ。
 時間が経つと、すぐにトゲが落ちたり柔らかくなる。つまり足が速いのだ。

 7人の乗り手は世界と世界のはざまを駈ける。
 運ぶ物は人々の希望、世界に光をもたらしたいと思う心だ。小さな馬や牛や猪で運べるのはそれで精一杯。
 でも、それがみんなの望むすべてだ。
 今より、すこしでも良い世界になりますように。
 みんなが笑ってご飯を食べられる日々が続きますように。
 人々の歌声が世界に満ちあふれますように。
 カエルたちの背負う弓の弦が鳴り、鈴が打ち震え、希望を讃える声は次第に大きくなって歌となる。

 だいじょうぶ。
 悪いことなどひっくりカエル。

 あせることはない。
 世界はぜったいによみガエル。
 森も湖もいきカエル。

 心配ごとなど消えカエル。

 聞こえるぞ、人々の歓声でわれカエル。
 勝利の知らせでわきカエル。

 しんぱいない。
 待ち人はかならずぶじカエル。

 7人の乗り手は、7色の軌跡を描いて天を駈け、やがて1つとなって白い輝きとなった。
 そして世界には歌が戻り、子供たちが舞踊り、大地に命が芽生え、水田でカエルが歌い、香は天への柱となったのである。


17-00326-01:曲直瀬りま
最終更新:2011年07月07日 14:43