オートロ×ユリエ
愛しい、切ない……憎い。
自分の中で小さくなり、大きくなり、繰り返す感情。

それはやがて、乾いた独占欲の名を持つ事になる。

-邪恋慕- (よこれんぼ)

一通りの仕事を終えて、どさり、とソファに彼は座り込んだ。
それを、後ろからまるで子供を見ている母親のように穏やかな笑顔を浮かべた女性がやって来る。
「そんな風に座ったら、腰が砕けるわよ?」
「大丈夫ですよ。ほら、ボクは何でもこなせるから」
そう言って、彼は彼女の方を向く。
「あなたは今や一斉を風靡するほどの実力が在るのだから、怪我でもしたら大変だわ、王都楼さん」
「それは、ボクがスーパースターだからですか、マネージャーさん?」
いたずらっぽく彼…王都楼 慎吾は笑い、彼のマネージャー、天野 由利恵の事を見た。
由利恵は驚いたような表情をしていたが、やがてくすりと笑う。
「その答えは半分ね」
「もう半分は?」
さあ…それくらいは、頭の良いあなたの事だから、もう分かってるでしょう? と言って、由利恵は
王都楼の頭に持っていた手帳をこつん、と付ける。
軽く小突かれ、王都楼はしばしぼんやりしていたが、やがて悪戯っぽく笑ってやる。
「相変わらず人を解析するのが上手いなあ。マネージャーさんは」
「あら、失礼ね。何年も仕事で付き合っていれば自然と分かる物でしょう?」
「それとも、あなたは私の事、良く分からない?」と尋ねる由利恵に「やれやれ、答えが分かってるくせに」
と言って王都楼は肩をすくめた。

その様子を見てから、由利恵は優しく微笑み、スケジュール手帳を開いた。
「今日の予定はこれでお終い。明日の予定だけど、結構朝が早いからね」
スケジュール手帳にびっしりと書かれた予定を、由利恵は流暢に読み上げる。その内容を聞きながら、
王都楼はうんざりとしたような表情になって由利恵の事を見た。
「スケジュール、スケジュール、スケジュール…スーパースターも楽じゃないよ」
「私は誇り高いわよ。スーパースターのマネージャーをする事が出来るって」
にこやかに笑う由利恵の事をちらり、と王都楼は見た。
「恋人である事は、誇り高くは無いって訳か…」
「少なくとも…今のあなたはスーパースターだから、ね」
そう言って、由利恵はスケジュール手帳をぱたん、と閉じた。
「ねえ、マネージャーさん…いや、由利恵。まだスケジュールは在るさ」
「何かしら?」
「分かってるくせに」
惚けたように返事をする由利恵の事を、王都楼は抱き締める。
「慎吾ったら…ここはプライベートな事をするには向いてないわよ」
「じゃあ、ボクの家にでも行こうか、由利恵」
彼はそう言って、彼女の手を取る。それを、彼女は軽く払う。
「ちょっと待って。事務所の方に終了の報告をしなくちゃ」
「やれやれ。マネージャーの仕事も楽じゃないね」
「あなたほどじゃないわ」
由利恵は軽く微笑み、部屋を出て行った。
残された王都楼は虚空を見て、幸福のための溜息を吐いた。

彼等が付き合い始めたのは、王都楼が芸能人になってしばらく経っての事だった。
王都楼は女性の事をゲーム感覚で取っ替え引っ替えしていた。
表向きは『春風のように爽やかなアイツ』である。
ただそれだけに、芸能界では割と王都楼は浮いていた。
それでも良い、と彼が思い始めたのは何時からだっただろうか。
見てくれが良いだけに、女性はすぐに引っ掛かった。
弄ぶだけ弄び、彼は捨てる。
それはまるで使い捨てカメラをそれこそ使い捨てるように。
飽きる事は無かった。
事務所としても、そうしたスキャンダルは事務所がどちらにしろ有名になったりするので、
それを止める事は無かった。
こうして、彼は女の相手をしながら芸能生活を送っていた。
ただ、彼のマネージャーは違った。
「王都楼さん、あなたそんなんで良いの?」
「どう言う事ですか、マネージャーさん」
少し咎めた口調の由利恵の言葉に肩をすくめ、王都楼は答える。
「今のあなたは、事務所の思うまま行動するオイシイ芸能人よ」
その言葉を聞いて、王都楼はぴくり、と眉を動かす。
「思うままに、行動する?」
「そう。今の事務所は、あなたにどんどんスキャンダルを起こして欲しいと願ってるの。
そうする事で知名度が上がるから」
「でも、それはボクの知名度も上がるって事ですよね、マネージャーさん」
「それはそうだけど、行きすぎると知名度も汚名になるわ」
「汚名…それは困るなあ。ボクはホラ、『春風のように爽やかなアイツ』がモットーですから」
からかうように言うのを由利恵はムッとして王都楼の方を見る。

「私はマネージャーとして警告してるの」
「はいはい、マネージャーさんも大変ですね。自分の受け持った芸能人が悪い道へ
進まないように監視、ですか」
「王都楼さん!」
「ボクが何をしようと、マネージャーさんには関係無いじゃないですか、ねえ?」
そう言って王都楼は由利恵の前から去ろうとする。
それを、慌てて由利恵は引き止めた。
「これは、私個人の意思でも在るの」
その言葉に、王都楼は驚いた顔をする。
(コイツも、ボクの顔に落ちたか)
密かにほくそ笑み、王都楼は気を取り直して由利恵の方を見る。
「ボクと付き合いますか? マネージャーさん」
言ってやると、由利恵は目を細め、王都楼の事を微笑み掛ける訳でもなく見詰める。
「……なら、お願いしようかしら、王都楼さん」
その目は何の色も読み取れなかった。
王都楼は心の片隅で怪訝さを感じながら、彼女と付き合う事になる。
いくら女に節操が無いと言っても(?)、キチンとした段階は踏む男なので、王都楼と由利恵は、
普通のカップルのように会話をし、デートをした。
ただ、日常的に近い場所にお互い居るために、軽はずみな事は出来ない。そう考えた王都楼は
由利恵と肉体関係を持たなかった。いざ別れる時に、卑劣な手段として行使すれば良い。
勿論、仕事とプライベートな恋愛とは分け、両立させた。
だから、周りには何の噂も立たなかった。恐らく、この付き合っている事を現在知っているのは
誰一人としていないであろう、と王都楼は思っていた。由利恵が誰かに言ってさえいなければ。
そして…その日はやって来た。

あれは確か、芸能人が集まって飲み会をした後だ。
王都楼は爽やかさを装いながら、実は呑み過ぎていた。
それを察知した由利恵は、「それでは、翌日の事も在りますので」と言って
王都楼の事を会合から連れ出した。
足元もおぼつかず、由利恵の手を借りながら、王都楼は由利恵の横顔を見た。
(もうそろそろ、頃合か?)
後腐れを残さないために、手早く切り捨てるのが彼のやり方だった。
今なら、酒の力も在り彼女に対して別れの言葉も言えるだろう。
「マネージャーさん…」
「何かしら、王都楼さん?」
彼女は王都楼の事を介助しながら王都楼の言葉に答える。
「もうボクはキミと付き合わないよ」
ぴくり、と由利恵は眉を動かしたが、酒の匂いが混じった溜息を吐く。
「噂の取っ替え引っ替えかしら、それは?」
「そうだね。正直飽きたかな」
しれっとそう言ってやるが、由利恵が取り乱す様子は無い。
何処か拍子抜けしながら王都楼は由利恵の横顔をちらりと見た。
泣きそうになっている訳でもなく、怒りに染まっている訳でもなく、
由利恵の表情は割と普段通りであった。
「驚かないんだ?」
「そりゃあ、噂の状況を直接ではないけれど見て来たからね」
余裕、と言うのだろうか。
王都楼は今までのように上手く行かない事に、少し歯がゆさを覚えた。
「……家まで、連れてってくれないかな?」
「言われなくても。どちらにしろ、あなたはお酒のせいで一人じゃ歩けないでしょう?」
由利恵の言葉に、王都楼は何か釈然としない物を覚えながら、彼女に連れられるままに
自宅へと帰る。

王都楼から自宅の鍵を受け取り、真っ暗だった室内に明かりを点け、由利恵は王都楼の事を
ソファに座らせる。
はあ、と王都楼は酔っ払っている為に酒の匂い混じりの溜息を吐き、由利恵の方を見る。
由利恵は「少し借りるわよ」と言ってコップに氷と水を入れ、王都楼に手渡した。
それを受け取り王都楼は、その中の水を一気に呑み干す。
酒に熱くなっていた喉に、冷やす水は心地好い。
残った氷を入れたままのコップを、目頭に軽く押し付け、熱っぽくなっていたまぶたを冷やす。
「……さっきの話、ちゃんと聞いてました?」
王都楼が何気なく由利恵に尋ねる。由利恵は「何が?」と言って自分も水を呑んだ。
「別れるって言う事」
「ああ、それ」
どうやら思い当たったようだ。由利恵は少し微笑む。
「信憑性が無かったから。あなたの言葉には」
「信憑性?」
眉を潜め、オウム返しに王都楼が尋ねると、由利恵はうなずいた。
「そんな上辺だけの目で言われて、取り乱すのは上辺だけの付き合いをした人だけよ」
「コレは驚いた。じゃあ、マネージャーさんは上辺だけの付き合いではなかった、と」
その言葉に、由利恵は答えなかった。
ソファに座ったまま、王都楼は密かに笑う。押し殺した笑いが、喉の奥で響いた。
「こっちが、上辺だけの付き合いだった、って言ったらどうするつもりですか、マネージャーさん」
「それは無いわ。あなたは何時も取り組みは本気だから」
「その根拠を教えて貰おうか」
「あなたの特技を考えればそうでしょう? スーパースターになるために、あなたは色々なジャンルの
武道を習い、こなして来た。いくら容量が良くても、取り組みは何時も本気だったはずよ」
そして、それを私は知っているわ。
由利恵はそんな事を付け加える。

王都楼はどきっとした。
それもその筈だ。相手に見透かされているような発言をされたのだから。
微かな焦燥感を感じながら、その表情を出さないようにして、王都楼はソファに深く座った。
前方に位置している机に、氷が入っているだけの水滴を発したコップをことり、と置く。
「……ちょっと来てくれないかな、マネージャーさん」
王都楼が静かに由利恵の事を呼ぶ。由利恵は言われるままに、ソファに近付いた。
その腰を思い切り引き寄せ、王都楼は強引に由利恵にキスをする。
「ん、むっ…」
流石に由利恵も驚いたのか、くぐもった叫び声を口の中で上げた。
だが、それは王都楼の唇に塞がれ、響かない。
王都楼は由利恵の唇を舌でこじ開け、そのまま口内まで舌を割り入れる。
酒のためか、お互いの舌は溶けるように熱かった。
ぬるりとした舌は、滑り、時にそのざらついた感触をお互いに塗り残す。
しばらくお互いがお互いの舌を貪った後、王都楼は唇を離した。
「……どう言うつもりかしら?」
熱い吐息をその唇から出しながら、由利恵が王都楼に尋ねる。
「別れの最後くらい、良い思い出を作ってやろうと思ってね」
そのまま王都楼は由利恵の身体をソファに引き込む。
「アンタを抱いてやるって言ってるんだ」 「!」
王都楼は本性をさらけ出しながら言うと、流石の由利恵も強張った表情になる。
そんな彼女の服に王都楼は指を掛ける。何か彼女が抵抗する前に、
王都楼は強引に脱がせた。

何人もの女性と『ゲーム』をして来た王都楼にとって、女性の服はどう言う風にすれば脱がせ易いかは、
ある意味知識として身に付いていた。
由利恵の服装くらいなら、その知識の中の一つに在った。
あっと言う間に、由利恵は下着姿となる。
王都楼は黙ったままそのブラジャーを上に持ち上げると、その胸はぷるん、と振動に揺れて姿を現した。
王都楼はその旨を無理に掴む。
「やっ、ちょっと……慎吾ッ」
「オレ達は付き合ってるんだろう? だったら、こうした行為くらい、在っても当然だろう?」
王都楼はそんな事を言いながら、由利恵の胸の先端を指でいじくり、その堅さを楽しんだ。
「急に襲われたって言うのに、随分と感じてるんだな、淫乱なマネージャーさん」
陵辱を交えた言葉に、由利恵は歯をくいしばった。
そんな反応を楽しみながら、王都楼は由利絵の事を弄んだ。
王都楼の行為の目的はただ一つ。
由利恵に自分から離れようと意識して貰う事だ。
芸能界に所属、しかも彼のマネージャーをしている以上、王都楼と由利恵の接点は否めない。
「なあ、マネージャーさん。この堅くなっちまった乳首は一体何なのかなあ?」
「っ!! そ、れは・・…」
由利恵は羞恥心に顔を歪めながら何とか弁解しようとする。
「アンタの気持ち…って訳だ。心と身体は直結しているって言うしな」
「違……あっ」
由利恵が何かを言う前に、王都楼の愛撫が彼女の官能に触れる。
違うと言うには少量の嘘が含まれる。
うっすらと涙を浮かべながら、由利恵は王都楼の事を見詰めた。
「素直に言っちまえばどうだ、『気持ち良いんです』ってな?」
「わ、私は……あんっ…」
首を横に振って由利恵は王都楼の言葉を目に見える形で否定する。だが、そんな彼女の意思と相対して、
いじられる胸の先端はぴん、と張って反れている。
その先端に、王都楼は食らい付く。舌先でその堅さを感じ、微妙な窪みの隙間にもその唾液を塗り付ける。
その生温かさ、しびれるような快楽に、由利恵は目を閉じてひたすら葛藤し、耐える。

胸の先端を舌でいじりながら、王都楼は空いた手を下腹部へと進めた。
「あっ…し、慎吾……そ、そっち…は」
咎めるように由利恵が王都楼に呼び掛けるが、本性の彼には関係の無い事であった。
王都楼は由利恵のショーツに指を掛ける。
「し、ん……」
由利恵が王都楼の名を呼ぶ前に、王都楼は強引にそのショーツをぐいと引っ張る。
力学に基づき、そのショーツに幾筋ものシワが刻まれる。
「やっ…」
引っ張られた拍子にショーツが秘部に当たり、思わず由利恵は声を上げる。
それを見て、王都楼がにやりと笑った。
「ん……? 擦れるのが良いのか?」
「ちが、そうじゃ、なくて……ああっ」
由利恵が言い終わる前に王都楼がそのショーツを掴んだまま、わざと秘部に
擦れるように引っ張っては力を緩め、引っ張っては力を緩め…それを繰り返した。
そんな事をされて、由利恵は微かな快楽と多大な羞恥心に、目を閉じて
王都楼の行動に耐えていた。
「慎吾……だ、め……」
王都楼の腕にすがり付き、その擦る行動を阻む。王都楼は由利恵の事を見た。
「コレだけ感じておいて、今更ダメも無いと思うけどなあ、マネージャーさん」
王都楼の言葉は、残酷な色を持っていた。由利恵は泣きそうになりながら
王都楼の事を再び見る。
「こんなの…は、いや……慎吾」
由利恵はすがり付いたまま首を横に振る。
「私は…慎吾と繋がりたいの」
「!」
おかしな女だ、と王都楼は思った。自分はこんなにも本性を出して、屈辱的・陵辱的な
事を言って楽しんでいると言うのに、目の前の女性は自分と繋がりたいと言っている。

「……」
だが、ソコまで言われて何も行わないのは、いささか癪に触った。王都楼はショーツをそのまま引っ張り、
その下着を一気に引き下ろした。
由利恵の『雌』がさらけ出される。
「へえ……綺麗なモンだな」
「………」
目を逸らし、由利恵は唇を噛み締める。
こんなにも陵辱的な事を言っているのに、由利恵はなじりもしない。
彼女に陵辱の言葉を言っても、恐らくこれから先もこうして唇を噛み締めて耐えるのだろう。
「…」
王都楼は言葉を発するのを止め、由利恵の生まれたままの姿をじっと見る。
由利恵へと繋がる場所は先程も王都楼が言ったように綺麗な物で、逆にそれが妖艶さを引き出している。
その綺麗な場所には、由利恵の秘部から出てきた蜜が溢れ、雌の匂いを漂わせていた。
これならば、急に入れても問題は無いだろうと王都楼は思い、自分のズボンのベルトを
かちゃかちゃと外した。そしてジッパーを下ろし、自分の下着から男女の繋がりに使われるモノを取り出す。
「今からアンタの中に、このオレのモノを入れるんだぜ?」
わざわざそう宣言するのは、少しでも由利恵に羞恥心と嫌悪感を抱かせるため。
だが、由利恵はそれに対して、何も言わなかった。止めてくれとも、嫌とも。
そんな事態が少し面白くないと感じながら、王都楼は自身を由利恵の秘部へとあてがう。
「……っ」
そこでようやく、由利恵が苦痛に歪む表情を見せた。だが、やはり拒絶の言葉は出て来ない。それでも、
王都楼は苦痛に歪んだ由利恵の顔を見て、一種の優越感に浸った。やっと思いの顔をさせる事が出来たのだから。
王都楼はそのまま、由利恵の中に、一気に突き入れる。

「ひっ……痛…」
生まれてこの方知らなかった男に対する痛みに、由利恵は思わず悲鳴を上げる。
その反応に、王都楼は驚いた表情をする。
「何だ、初めてだったのか?」
「う…うう……」
苦痛に顔を歪ませて、由利恵が王都楼の事を見る。
その身体はひくひくと震え、痛みは由利恵の思考回路を阻んでいた。
「体付きが大人だからな。てっきり遊び歩いているのかと思った」
「そんな事…出来る、訳…ない、っ」
「どうしてだ? 何を根拠にそんな事……」
「だって…あなたを愛しているのだから」
「!」
思いがけない言葉に思わず王都楼は息を呑んだ。
彼女は今、何と言った?
自分の事を、愛している……
その事実に、王都楼は思わず由利恵の目を見詰めた。由利恵は痛みに顔を歪ませながらも、
王都楼へ向ける眼差しには、嫌悪感が映っていなかった。
ここまで……ここまで取り乱されるのは初めてだ。
「…………嘘を吐くなよ、マネージャー」
由利恵の事を睨み付けながら、王都楼は腰を更に深く押し進めた。
「ぃ……あぁああっ」
その衝撃に、由利恵は思わず泣き叫ぶ。開通したと言っても、まだ全然そこはきつくて、
激しい運動を施すのは拷問にも近い物が在る。
だが、その悲鳴で止まるような王都楼ではなかった。彼は優越感に口の端を持ち上げ、
由利恵の中を激しく行き来し、その狭さを感じ取りながら彼女の事を汚して行く。
そう。コレは汚れた行為だ。王都楼はそんな事を思った。
所詮、愛など無いのだ。誰も信じない、この自分にとっては。
今まで近付いて来た女性も、この見た目の良さに釣られてやって来ただけで、愛など無いはずだ。
目の前に居る子の女性は、何故あんな事を言ったのだろうか。
愛している、などと。

「良くなって来たんじゃないか? こんなに濡らしやがって」
滑りも良くなって来た。初めて、と言う事で狭ければ締め付けも激しいが、
だからこそ何処かそそられる物が在った。
一方の由利恵は先程から続く陵辱の言葉にじっと耐えていた。
「嘘……なんかじゃ、ないわ…」
「まだそんな事を言ってるのか? マネージャーさんよお」
アンタの嘘になんか、オレは騙されないんだ。そう言ってやると、由利恵は目を細める。
「慎吾……あなた…可哀想だわ」
「?」
「誰も信じられなくなった、まだ誰かの手を必要とする子供みたい」
その言葉に、王都楼は苛立った。
「分かり切ったような口をきくなよ! アンタは所詮マネージャーなんだ」
「今まで、あなたは女の人との付き合いをゲームと称していたわ。でも、違う……」
由利恵は手を延ばして王都楼の前髪に触れ、見え隠れしていた王都楼の右目を見た。
「あなたは信じる事が出来なかったから、ゲームと称する事だけでしか
人との関わりを持てなかったのよ」
「………」
「私を、信じてみない?」
王都楼に抱かれながら、由利恵が言う。
「…は、は……ッ。こんな本性を見て、まだ愛してるだの何だの言い張ってるつもりか?」
「だって、慎吾だもの」
素早い切り返しに、思わず王都楼は口を閉ざし、由利恵の方を見た。
「私は慎吾を愛してるわ。芸能生活に浸っている慎吾も、プライベートな慎吾も。あなたの
その二つの顔を持ち合わせている事を、私は良い意味で尊敬してる」
そう言って、由利恵は王都楼の事を抱き締める。
こうした事態での抱擁は初めてだった。特に、こんな心境の自分が、素直に抱擁される事が。
王都楼は返事もせず、由利恵の中で動いた。
「あ、んン…っ」と、由利恵は王都楼から提供された快楽に、甘い声を上げる。
こんな気持ちは、かつて抱いた事が無い。

(これが……愛しさ、ってヤツなのか?)
頭の中でぼんやりと、王都楼は思った。
誰も信じていなかった自分。
愛する事も、愛される事も知らずにここまで生きて来た。
それが、目の前の女性の言葉で。ただその言葉だけで。
自分は彼女を愛そうとしていると言うのか?
王都楼は由利恵の狭さを感じながら、同時に彼女の中に思いの丈を伝えたいと考える欲求が現れた。
由利恵のうなじに王都楼が吸い付く。
「ッ……慎吾…ぁ…」
微弱な快楽に震える由利恵の首筋に、てんてんと赤みが残されて行く。
舌で吸い付いている肌をちろちろ舐めながら、王都楼は由利恵の表情を楽しんだ。
そうした最中にも、王都楼は下半身の前後運動を止めはしない。
「ふ…ぅっく……」
身体をひく付かせながら、由利恵は王都楼の行為にあえぎ声と表情で答えて行く。
王都楼の動きがやがて余裕の無い物になって行く。
(もうそろそろ……だな)
そんな事を思いながら、王都楼は由利恵の首筋から舌を離し、顔を上げる。
「う……由利恵」
「慎吾ぉ……」
潤んだ瞳で、由利恵は王都楼の呼び掛けに答える。その言葉を待ってから、
王都楼は由利恵の中で激しく動いた。
「由利恵……由利恵ッ」
もう、気がおかしくなるのではないかと思うくらい、王都楼は由利恵の事を呼び、
由利恵の胎内でその熱に悦び、打ち震えている。
こんなにも愛しいと思った人の中で。
「っ……ゆ、り…え」
王都楼はそれだけ言うと、由利恵の反応もまたず、その想いを胎内へと吐き出した。
「あ、ああっ……慎吾、慎吾ッ…」
王都楼の想いを受け取りながら、由利恵も彼と共に果てた。
……

ベッドの上に横たわる二人。
王都楼は奇妙な気分になっていた。
隣で自分の事を見詰める女性は、確かに本性に対して何らかの形で恐怖に震えたはずだ。
それなのに、今こうして自分の隣に横たわっている時、その瞳は穏やかな色で染まっている。
「……由利恵は…オレの女ぐせの悪さを直すために付き合おうと思ったのか?」
「………」
王都楼の質問に少し拍子抜けしたような表情になって、それから由利恵は優しく笑う。
「私はね…進んであなたのマネージャーになったのよ」
「………」
「勿論、新人の芸能人をサポートするのに、そこそこマネージャー人生送ってる人を
マネージャーに就かせるって言うのが事務所の方針だったらしいんだけど……
それ以上に、私はあなたの事を受け持ちたかった」
その言葉は、決して王都楼の顔に落ちた訳ではない、と言う雰囲気が王都楼にも伝わった。
彼女は始めから王都楼を愛していたのだ、とここまで来てやっと気付いた。
「好きよ、慎吾。あなたの何もかもが」
「不思議な女だな。本性と上辺と分かれていたら、少なからず失望や恐怖は抱くはずなのにな」
「あら、私は抱いたわよ。でも、やっぱりそれでもあなたが好きだった」
由利恵はそう言って、王都楼の長い前髪で隠れていた傷に触れる。
「この傷……」
「……昔の傷だ」
「見れば分かるわ。随分と古いわね」
由利恵の言葉に、王都楼は目を反らす。
「…………誰も信じなくなったきっかけだ」
「………」
「オレの母親が、オレの事を少し、な」
その言葉に、由利恵は目を伏せる。

「だから……上辺と本当の自分とを分けたの?」
「人の言う事をほいほい聞いていれば、傷付けないって言うのを、オレは母親から学んだ」
「大変だったわね」とだけ言って、由利恵は王都楼の胸元に顔を擦り付ける。
深くを尋ねて来ない事を、王都楼は救いに思った。
あまりこの事については王都楼自身も余り触れたくは無かったからだ。
「…私と、別れたい?」
「……………どうなんだろうな?」
肩を少しすくめると王都楼は由利恵の肩を抱き、キスをする。
「もうしばらく……こんな関係でも悪くない気がして来た」
王都楼の言葉に、由利恵は優しく微笑み、愛しそうに二人はキスを交し合った。


そんな事を思い出しながら、王都楼は事務所へ報告しに行った由利恵が帰って来るのを待っていた。
しばらく待っていると、由利恵が息を切らせて帰って来る。
「そんなに走ると危ないですよ、マネージャーさん」
「もう仕事は終わりよ、慎吾」
少しむくれたような表情をして言う由利恵に、「やれやれ、参ったな」と言って王都楼がその身体を抱き寄せる。
「それじゃあ、行くか、由利恵」
願わくば。
このような時がずっと続けば良いのに。
そんな事を王都楼は思っていた。
だが……それは続かない事を…誰が一体示唆したのだろう。


第二幕 -慈察-(じさつ)

王都楼と由利恵が付き合って長い月日が流れた。
この幸せの時を噛みしめながら王都楼は由利恵の事を想っていた。
符と、顔に付けられた傷を鏡で覗く。
彼の脳裏に残るのは、母親から憤りをぶつけられた事。
母親の顔はもう忘れた。思い出そうとも思わない。
過去の傷は捨てられないが、縛り付けられるために在る訳ではないから。
だが、微かに恐れている事が在る。
「………どうしたの、慎吾?」
これだ。
彼女の存在だ。
現・彼女の由利恵の存在が、王都楼には恐ろしかった。
彼女が自分の事を心から愛してくれると分かった今。
彼女の裏切りが怖かった。
それに……彼は、ふとした衝動に駆られるのだ。
裏切られる可能性が在ると言うのなら、いっそのこと自分の手で壊れるくらい抱き締めて、
自分から二度と離れて行かないようにすれば良いのではないか、と。
その想いが、彼の狂気を呼び覚まそうとしていた。
「どうしたの、ずっと黙り込んで」
「……何でも無い」
かろうじて彼の理性がその本性の本能を押し留めているが、それも何時まで続くのか。
王都楼はそんな不安や雑念を振り払い、由利恵にキスを擦る。
不意のキスに、由利恵は思わず目を丸くした。だが、それもほんの僅かの事で、彼女は
彼のキスを受け容れ、目を閉じて彼女も深い口付けを交して来る。
その心地好さ。
王都楼は由利恵の事を抱きしめる。
「ちょ……慎吾?」
「ん?」
「……私、シャワー浴びて来るわ」

その言葉に、「何で?」と王都楼が惚けたように聞くと、由利恵は「慎吾のエッチ」と言って
王都楼の腕から擦り抜ける。
「女のたしなみ、って言う訳よ」
「ふうん……」
別にそのままでもオレは良いけどな、と言う王都楼に、私がダメなのよと言って由利恵は
バスルームへと入って行った。
残された王都楼はぼんやりとしていた。
やがてそのぼんやりとした耳に、由利恵のシャワーを浴びる音が入って来る。
王都楼はしばらくそのままつっ立ったままだったが、やがてバスルームに自分も向かう。
バスルームに繋がる脱衣所に入ると、バスルームの扉をこつこつ、と叩く。
「由利恵」
「きゃっ、ちょ、ちょっと慎吾!」
案の定怒られた。
だが王都楼はそんな咎めるような声など聞こえないふりをして、自分も服を脱ぐ。
「一緒に入るからな」
「か、勝手な事を言わない! 大体、今じゃなくたって良いじゃない!」
王都楼は服を脱ぎ捨て、バスルームに入る。
「し、慎吾っ!」
「良いじゃないか。一緒に入るくらい。恋人なんだしな」
「それにしたって、時と場合を考えて……」
「オレが入って来るかもしれないのに、扉に鍵、掛けてなかったな」
その言葉に、思わず由利恵は言葉に詰まった。
生まれたままの姿の彼女は美しかった。
子の女性を、内に潜む『王都楼』と言う名の獣は、まるで貪らんばかりに壊して
しまいたいと言う願望を抱いている。
王都楼はそれを表面に出さないようにして、シャワーに濡れた由利恵の身体に手を回す。
向き合うと、王都楼の胸筋付近に触れる堅いしこりの感触が王都楼にはっきりと伝わる。

「ちょっと、まだシャワー浴びてる最中よ」
「じゃあ、オレが洗ってやるさ」
しれっと言う王都楼の言葉に、「エッチね、本当に」と言って由利恵は頬を赤く染め
王都楼の身体に自分の身体を預けた。それを見て、王都楼は密かに笑う。
「さて、何処から洗ってやろうか」
そう言って身体に手を延ばす王都楼に、由利恵は軽く叩く。
「バカねえ。まずは頭でしょう」
「じらし?」
「バカな事を言ってないの。じゃあ、私がまず洗うわよ」
そう言って、素早く由利恵は王都楼の事を座らせると、頭にシャワーを掛ける。
突然の事に、思わず「うわっ」と言って王都楼が逃げようとするが、それを由利恵が引き止める。
「駄ぁ目」
「由利恵、自分の髪くらい洗えるって」
「一度洗ってみたかったのよ、男の人の髪の毛」
そう言って、由利恵は手にシャンプーのボトルを取り、その液体を掌にこぼす。
とろり、とした液体に少量の湯を加え、由利恵は両手でその液体を揉み、泡を作る。
そして、その泡で王都楼の髪の毛を洗い始めた。
「目に入るかもしれないから、注意してね」
「それに対しては、洗う人間が責任を持って欲しいな。オレはスーパースターだからな」
肩をすくめる王都楼に、由利恵は微笑み、髪を泡で洗って行く。
「傷に染みるかもしれないな」
「え!」
「……はっ。冗談だよ。もう随分古い傷なのに、染みる訳無いだろう、由利恵」
悪戯っぽく笑ってやると、「変な冗談言わないで」と言って、より激しく髪の毛を洗う由利恵。
そして、彼女は王都楼にシャワーを浴びせる。
「お、おいっ。掛ける時は一言言えよ」 「さっきの冗談のお返しよ」
そう言いながら、由利恵は王都楼の顔の方にシャワーの湯が行かないように後頭部から
シャワーをゆっくりと掛けて行く。その気遣いが分かったのか、王都楼は何も言わずに、
由利恵の指に任せた。勿論、目を閉じて。

(何だろうな……)
目を閉じながら、王都楼はふと思った。
顔の方にも、シャワーの湯が掛かって来るのは、きっと王都楼が目を閉じた事を
由利恵が確認したからであろう。
(由利恵はどうしてそこまでしてくれる?)
付き合うか、と尋ねたら、彼女は付き合う、と言った。
それから彼女の想いを知り、半ば夢のようにここまで来た。 (彼女はまだ、裏切っては居ない……)
だからこそ、この夢のような一時が何時崩れてもおかしくない。そんな事を王都楼は思っていた。
「はい、終わり!」
由利恵の明るい声がしたかと思うと、いきなり王都楼の後頭部に軽やかな平手が入った。 「由利恵~……」
「はい、そんな怒った顔をしない」
そう言ってにっこり笑う由利恵の事をバスルームの床にゆっくりと王都楼は押し倒した。
「え……」
「やっぱ、我慢出来ない」
これって、生殺し、って言うんだよな。と王都楼が言う。
「わ、私はまだ身体洗ってない!」
「だから、オレが洗ってやるって」
「でも髪の毛…」
「後だ、後」
そんな事を言って、王都楼は石鹸を手に取り、泡立てた。
「慎吾」
「何だ?」
「垢擦りは?」
「そんな物、必要無いだろ」
にやり、と王都楼が笑ってやると由利恵は焦って王都楼の腕を押しのけようとした。
だが、所詮は女の腕。色々な体術を習って鍛えた王都楼にはどうしても敵わない。

王都楼の手が、その柔らかな首筋に当てられた。
「んっ……」
由利恵は微かなあえぎ声と身体の震えを、王都楼に提供する。それに答えるように、
王都楼の手が由利恵のうなじに擦り付けられて行く。由利恵のうなじには石鹸のために
少しぬめった、バスルームの明かりに照らされた輝きが残されて行く。
王都楼はそんな由利恵の反応を楽しみながら、その手を今度は鎖骨に持って行く。
鎖骨を指先でぬるり、と撫でてやると、由利恵はびくりと身体を震わせ、王都楼の事を見詰める。
「い、や…何だか、恥ずかしい」
「何言ってるんだ。さっきオレの髪の毛を洗っただろ。それと同じだ」
「け、ど……何か、違……あんっ」
由利恵の乳首を石鹸の付いた指先でぐりぐりと押してやると、反論していた由利恵はその反論を
あえぎに変える。
王都楼はその反応を楽しみ、何度も何度もその先端に刺激を与えてやる。と、そこはすっかり堅い
しこりとなった。優しく撫でるだけで、由利恵の胸の先端はくん、と上を向いてその指に形を伝える。
「ちょ……そんな所、時間を掛けて……ン、洗わないわよ、普通」
「じゃあ、何処なら時間を掛けるんだ?」
由利恵の身体を弄びながら、王都楼は由利恵の瞳を見る。赤面した由利恵の表情は、背筋をぞくぞく
させるような物を持っていた。
王都楼は堪らなくなって、由利恵の下腹部に指を延ばした。
「し、慎吾……」
「ここを、じっくり洗うんだろ?」
言うや否や、王都楼は由利恵の太股付近をくにくにと指先でマッサージする。
ふくよかな体型の彼女の足は、それでも無駄の無い足であった。
だからこそ、敏感に由利恵にその感触を与える。
「あ、ああっ……く、くすぐったい、わ」
切なげに由利恵がそう言うと、王都楼は一層由利恵の秘部にその指を近付けた。
「やっ…ちょっと、慎吾ッ」
何か彼女が言う前に、王都楼は由利恵の秘部に指を当てた。
「は、あっ……」
ぴくり、と由利恵の身体が反応する。

その反応を見てから、王都楼は由利恵の秘部にあてがっていた指を少しずつ
動かして、その周辺を洗いに掛かる。
段々と滑りがよくなって来るのは、王都楼の指先に付いた泡のせいだけではないだろう。
ぐりぐりと王都楼はその口に指を押し付け、由利恵の反応を楽しむ。
「やんっ……い…うくふっ」
首を横に振り、由利恵は王都楼の行動に身体をよじってあえぐ。
「キチンと洗わないとな」
「あ、あっ…慎吾……」
とろんとした目で快楽を受け容れながら、由利恵は愛しい人の名を呼ぶ。
王都楼は一旦指をそこから離す。そして、指をゆすいで泡を流した。
「慎吾?」
由利恵が見つめた時、王都楼は由利恵の足を広げさせ、シャワーを手に取った。
そして、黙ってシャワーのノズルを回し、湯を出すと、秘部に当たるように
シャワーの湯を掛ける。
「あんっ……」
びくり、と由利恵が震える。敏感な部分に、シャワーの少し熱い湯が掛かり、気が遠く
なりそうな刺激に、由利恵は思わず身体に力を入れ、強張らせる。だが、強張らせれば
強張らせるほど、シャワーから訪れる快楽は敏感に感じ取れるようになる。
由利恵は王都楼能での中でひたすらシャワーの刺激にもだえた。
やがて、シャワーを王都楼が止める。由利恵のその部分は、すっかり泡が流れ落ち、
バスルームの明かりに照らされていた。
「やっぱり……中は直に指だけで洗わないとな」
その言葉に目を見開き、「ちょっ、慎吾! 待って!」と由利恵が訴えた。
だが、その訴えを無視し、王都楼は由利恵の中へ指を入れた。
くちゃり、と水気を含む粘液の音がバスルームに響く。
「ひっ……んんうふっ!」
由利恵が身体をのけぞらせ、王都楼の指に対する反応を見せる。
その反応は少なからず王都楼の官能に触れる物を感じさせた。王都楼は指を動かすと言う
行為を激しくし、由利恵の反応をもっと激しくしようとする。がくがくと由利恵の身体がその度に揺れる。

最終更新:2006年12月12日 21:11