成歩堂×真宵④
目を覚ますと当然ここはぼくの部屋。
昼も近いのだろう、カーテンから差し込む日の光が眩しい。
そこまではいつもの日曜、ひとつ違うのはぼくの隣りで真宵ちゃんが寝ているということ。
ふたりは裸でひとつの布団。ぼくは昨夜、真宵ちゃんを抱いたのでだ。
初めての彼女だったが、頑張ってくれたお陰で、何とか最後まで遂げることが出来た。
次はもっと気持ち良くしてやりたいなあとぼんやり思う。

 …しかし、真宵ちゃん。
ぼくが真宵ちゃんと一緒に朝(もう昼だけどさ)を迎えることになろうとは。

 ちなみに、どのくらい思いもよらないことだったかというと、色々な意味で最高に情けないのだが、
買い置きのスキンがなかった為に、半裸の真宵ちゃんを部屋に置いて夜中近所の薬局前の自販機まで
すっ飛んで行った位である。あああ、いい歳してナニやってんだぼくは…。
その姿を誰か知り合いにでも見られていたら、ぼくは恥ずかしさで首を括れただろう。
あらかじめ、ぼくと彼女の名誉の為に云っておくが、決してこのことを後悔をしているわけじゃない。
ぼくらが望んだことである。
でも、ぼくは思う。ぼくたちはどうしてこうなってしまったのだろう。

 昨日は、解決済みの前事件の調書をまとめあげたり、裁判所に提出物を出したり、
はたまた弁護士協会の会合、電話による多数の問い合わせがあったりと、助手の真宵ちゃんも
巻き込んで、あっちへこっちへ、週末ということも手伝って、ばたばたと忙しかった。
ようやく事務所に戻り、一息つけるかという頃には、夜もとっぷり暮れていた。
「なるほどく~ん、あたしもうお腹が減って動けないよーご飯食べに行こうよー」
「う~ん。これファックスしたら終わるから、そしたらラーメンでも…」
「あ、あたしラーメンはお昼に食べちゃたから他の…、えーとね、ハンバーグかカレーがいい!」
「…ぼくは忙しくて昼ごはん食べ損ねたのに…まあいいや。わかったよ」
「わ~い、決まり~ゴハンゴハン~」
「あ…、そういえば、一昨日春美ちゃんが持って来てくれたカレーなら、まだぼくんちにあるな…」
「え!はみちゃんお手製のカレー!?食べたい食べたい!おかわり出来るくらいある!?」
「昨日は外食したから、そのくらいはまだ冷蔵庫のあると思うけど」
「じゃ、決まり!早く行こう、カレーカレーカレー!!」
 そういうことで、ぼくのうちでカレーを食べることになった。
…しかし、なんだ、ぼくも相当な迂闊であったとは思う。
真宵ちゃんの食い意地とか、春美ちゃんの見えざる手とか、どうこう云える立場ではない。
だって、真宵ちゃんだよ?あの真宵ちゃんなんだよ??とか云うのもなし。
仮にも成人男子が、いくらああいうアレとはいえ女の子を二人っきりの家に招いたのだ。
そして実際、起こるべきことは起きた。全くその気はなかっただけに…ああ。
…結果云々以前に、このいたらなさをぼくは反省しようと思う…。

 今日の忙しさを語りながらも、おいしいカレーで腹いっぱいになったぼくらは、
割とどうでもいいような能天気なテレビ番組を観ながら、時に笑ったり時に容赦ないツッコミを
入れながらくつろいだ。
 そしているうちにいよいよ夜も深けて、終電の時間も厳しいと思われる頃に、
ぼくたちはどちらからともなく肩を寄せて持たれ合い、気付くと唇を合わせていた。
テレビからは若手漫才師の大袈裟なツッコミが聞こえた。
 それまでぼくが真宵ちゃんに恋をしていたかというと、非常にあやしい。多分、そうではない。
真宵ちゃんのことは好きだし、まぁ可愛いと思うし、所長の妹という事を差し置いても大切な存在だ。
 しかし、色恋と結び付けるには彼女は見た目のみならず幼すぎるし、ひとりっこのぼくにとっては
妹のようなものなのだ。

 真宵ちゃんはぼくの胸に顔を埋めながら「なるほどくんの体って大きいね」と云い、
ぼくは彼女の長い髪を指で梳きながら「真宵ちゃんが小さいんだよ」と云った。
そんなことないよと彼女は笑う。頬は少し染まっていた。
そして、ぼくは彼女に泊まっていくように勧め、真宵ちゃんはうんと頷いた。

 真宵ちゃんはぼくを受け入れた。
彼女はぼくの名前を何度か呼んで、ぼくも彼女の名前を何度か呼んだ。か細い声だった。
改まって「好き」とか「愛してる」とかは云わなかったけれど、ぼくは腕の中の彼女を愛しく思った。
「なるほどくんがいなくなっても、あたし大丈夫だよ。
だからなるほどくんも、あたしがいなくなってもちゃんとしててね」
 布団に寝転んだ真宵ちゃんの口元は笑っているが、真剣に云っているようだった。 
「縁起でもないこと云わないでくれよ」
 どう受け取ればいいのか迷って、詰まらない返事をしてしまった。

「でも、真宵ちゃんがいなくなったら、ぼくは悲しいよ」
「そうだね、悲しい時は素直に悲しんだ方がいいよ」

 余計なことだが、ぼくは女の子に飢えていた訳でもない。
女に不自由はしないとまでは云わないが、いたらいた、いなければいないで、
それなりにやっていける淡白なところがいつからかぼくにはある。

 …ぼくはそれまで、恋というのは頭の中にでっかい星が、
どかんと突っ込んでくるようなものだと思っていた。
周りに花とか、ちょうちょが飛び交うものだと思っていた。
 ぼくが今、真宵ちゃんに恋をしているかというと、よくわからない。
でもぼくは、腕の中の彼女を大変愛しく思っている。
彼女の言葉はぼくに、悲しみでもなく、諦めでもなく、決意をしたような喜びと慰めを与えた。

 そんなことを考えていると、真宵ちゃんはやっと目を覚ましたのか、もそもそと動き出した。
…今日の昼は絶対ラーメンを食べに行こうと思う。 

おわり。
あとがき
…エロクナーイ!自己釈明・自己ツッコミが成歩堂のデフォルト。しかし話よくわからんちん?
3で明かされる成歩堂の遍歴のよっては使えなくなるネタ。
最終更新:2006年12月12日 21:26