冥×霧緒


残酷な神が支配する

久しぶりにメイさんからの呼び出しがあった。
今日はどんなコトをされるのか、嬉しい反面少し怖い。
メイさんが私に逢いたいと連絡してくるのは、だいたい成歩堂さんとの裁判に負けたときだ。
このあいだはノーパン、ノーブラで御剣さんと3人でお食事をした。
テーブルの下でもメイさんの視線を感じてしまい…椅子を汚してしまわないか心配でお料理の味なんか全然わからなかったっけ。
それでもこの数週間、私はメイさんからの連絡をずっと待っていた。
彼女の姿が見られるだけで私は幸せな気分になる…。

指定されたのは都内のホテル。今日はプールで泳ぎたいのだという。
水着はメイさんが用意してくれた。ホルタータイプのビキニでメイさんが黒、私が白だ。お揃いかぁ、ちょっと嬉しい。
まだ泳ぐには少し早い季節だけに人は多くない。
冥さんの水着で覆われていない手足の白がとても眩しく見えた。
プールサイドのデッキチェアに悠々と横たわっている、その堂々たる肢体はさながら女神ヘラといったところだろうか。
ミントの葉を浮かべたアイスティーを飲みながら、私達はとりとめのない会話を交わしていた。



かなり締まった体つきの男が声を掛けてきた。趣味の悪い金のネックレスをしているところを見ると、なにかのスポーツ選手なのかも…。
こういう手合いはすべて冥さんにお任せしている。冥さんは微笑を浮かべて早口に英語を喋るとそれきり男を一瞥だにしなかった。
男は多分、英語が分からなかったのだろう。
「気取りやがって」というような意味合いの言葉を関西弁で吐き捨てるとどこかへ行ってしまった。
男に組することなのない冥さんが私は好きだ。それに彼女の唇の動きはひどくなまめかしい…。
次に声を掛けてきた男――少し年嵩の――は、先ほどの会話を聞いていたのか最初から大仰なジェスチャー混じりの英語で捲くし立てるように話しかけてきた。
切れ切れの単語から察するに夕食をご一緒しようとか、多分そんなような誘いだったと思う。
冥さんはぴくりと片方の眉だけ器用に上げてみせると、少し蓮っ葉な口調で男に答えた。
冥さんの答えを聞いた男は、みるみる顔色を変えて…まさに尻尾を巻いて逃げていくといった態をみせた。
いったいどんな答えを返したのかしら?――私の不思議そうな視線に冥さんは猫の目のようにキラキラ光る瞳を向けて応えた。
「あの男が何でも好きな物をご馳走しましょうって言ったから」
ああ、いつまでもあなたの光る唇を見ていたい…
「私の好物はホットドッグよ。オトコのアレを輪切りにしてマスタードをつけてかぶり付くのが大好きなの。あなたのコックは美味しそうね…って言ってやったのよ」
バカみたい、と最後に呟くとまた気怠そうに目を閉じてしまった。


冥さんを見つめているうちに、いつのまにか少し眠っていたようだ。バスタオルがかけられている。
隣に冥さんの姿がなく、私は少し焦ってあたりを見回す。あ、泳いでる。人魚みたいで綺麗だな。
しばらく彼女の泳ぎに見蕩れた。上がってきた彼女にバスタオルを渡す。
「キリオは泳がないの?」
私は少し困って下を向いてしまった。泳げないわけではない、けれど。
「せっかく来たのに…それとも水着が気に入らないのかしら」
クスリと笑いながら私を見つめる冥さんには分かっているのだ、私がなぜ泳げないのかその理由を。
冥さんが私に用意してくれた水着はバストカップが抜かれていたのだ。
おまけにアンダーショーツも用意されてないので水に濡れると…たぶん身体のラインやらなにやらがすべて出てしまうだろう。
泳げというのは酷な話である。
「それじゃつまらないわ。…だったら私が濡らしてあげるわね」
冥さんは身体も拭かずにまたバスタオルを私に掛けると、濡れた指先で私の胸の先端を探るように触ってきた。
「は…っん……だ、めです人に見られます…」
「ちっとも構わないわ。恥ずかしいのは貴女ですもの」
水着に指先から伝う水が染みて胸に丸い跡をつけた。耳元に冥さんの吐息がかかって、私はひどく興奮してしまった。
「!!―――っやぁ」
水着の上からでは飽き足らず、中にまで手を這わせ始めた。
彼女のあの繊細な指先が私を苛んでいると思うだけで、身体の奥が熱く疼くような感覚を覚える。
声を殺して喘いでいる私に覆いかぶさった冥さんの唇が、私の唇に落とされる。
触れるだけの短いキスだったけれど、滅多にしてくれないことなので私は幸福感に包まれた。
「…いいわね?」
よくわからないまま口づけに酔った私は頷いていた。
彼女はバスタオルで隠された私の下半身に手を伸ばした。中心部に手をあてゆっくりと何度もなぞりあげる。
「濡らしてしまったの?」
鈴の音のように心地好い声が私を包む。
サイドの結び目を解かれ、バスタオルの下で露になった私の秘所の入り口を焦らすように浅く出し入れを繰り返した。
「ふぅ…んっ!……あぁ」
段々と指を差し入れる角度が深くなっていく。快感が高まり私は思わず目を閉じてその訪れを待った。こんなところで、イカされちゃう…


「まだ、だめ」
指を抜き去った冥さんが冷たい声で私を引き戻した。
「そんな顔しないで。イイものあげるから」
傍らのバッグを取りあげると、また手をバスタオルの中へと入れていく。
「あっ、あっ、冥さん!」
ナニかが彼女の手によって押し込まれてゆく…奥へ、奥へとソレは入れられていった。
身体を強張らせている私を無視して水着を元通りにすると、冥さんは私からバスタオルを取りあげて身体を拭き始めた。そのとき、

ビイィィン…という振動音が私の中で鳴り響き、内部を容赦なく抉られる快感で気が狂いそうになった。
「ああぁぁぁ………っ!」
高みに昇りつめてもソレはおかまいなしに揺れ続け、休みなく責め立てる。
冥さんが私に近寄ってきた。取って、くれるの?
「キリオ…濡れてるのが外からでも分かってしまうわ。プールに入ってきたら?目立たなくなるわよ」
私は首を振って抵抗した。
「はや、くコレを…止めてくだ…さ、い」
「人の親切心が分からないなんて…いけない子ね?」
一瞬、振動が止み次の瞬間さらに強い官能の波が身体を襲ってきた。
「冥、さんっ!ヤメてください…!!泳ぎますからっお願い…もう」
振動が止まった。
「端から端まで泳ぎきったら上がってきていいわ。15Mくらいだから軽いものよ」
私は腰に漂う重い疲労感をなんとか振り払い、よろよろとプールサイドへ向った。
ほとんど倒れこむように水の中へ飛び込む。熱い身体をひんやりとした水に包む感触が心地いい。
そのまま下へ沈みそうになる身体をなんとか動かし、必死に水を掻き分けようとしたが言うことを聞かない。
ダメ…動けないよ……冥さん、助けて………




「…リオ!…キリオッ!!しっかりして!目を覚ましてよぉ」
気がつくと冥さんが顔をくしゃくしゃにして私を上から見つめていた。
「もう苦しくない?どこも痛くない?」
子供のように泣きじゃくる冥さんがなんだか可愛くて、私は少し笑った。
笑顔をみた冥さんもやっと安心したように微笑んでくれた。

別れ際、冥さんが独りで帰れるかと念を押すように訊いてくれた。私が頷くと、彼女はいつものように女神のような笑みを浮かべて私に囁いた。
「それじゃあ今度は、海に行きましょうね」

私は少し怖くなったけれど、やっぱりまた彼女からの連絡を待ってしまうだろう。

おしまい
最終更新:2006年12月12日 20:27