御剣×冥


昼下がりの情事

ちょうど正午のこと、成歩堂法律事務所を一人の男が訪れた。
「おっ。いらっしゃい、御剣。わざわざ来てもらって悪いね」
「いや…。きみから呼び出されることなど滅多にあることではないからな」
成歩堂はなんとなくソワソワした感じを漂わせて、御剣に茶を勧めたまま何も言わない。
昼時に来たけれど一緒に食事をという雰囲気でもない。
「…?で、なんなのだ」
話しにくいことなのであろうかとこちらから水を向けると、ようやく口に出したのはなんと御剣自身についての話だった。
「うん。あのさぁ、こんなこと聞くのもどうかと思うんだけど…最近、狩魔検事とうまくいってる?」
「な、な、な…なにを突然。まぁ変わりはない、と思うが」
局内では完璧に同僚の仲を演じているふたりの交際を知っているのは、成歩堂や真宵などごく内輪の人間に限られていた。
その年齢も含めて『天才検事』としてなにかと騒がれることが多い両人は、少々狭苦しい思いをしながらも
恋人同士としてふるまうのは二人きりのときだけという道を選んだのだった。
当然、職場では事務的な態度を取らざるを得ない。いくつもの裁判を抱えているときは、何週間も逢えないこともままあった。
こうしたやり方は多くの女性、とりわけ10代の少女にとっては酷だったのではないだろうか。
平静を装ってはいたものの、成歩堂の一言で御剣の思考はめまぐるしく展開した。
「あの…御剣?」
「ハッ!すまない、考え事を。その、メイがなにか君に相談でもしてきたのだろうか」
もしそうならどうしても聞いておきたかった。彼女が自身の悩みを打ち明けられる相手はそうはいない。
しかしその相手が成歩堂だと思うと、かすかに嫉妬めいた感情が立ち上ってくるのを感じずにいられなかった。
「いやいやいや、そうじゃないんだ。そうじゃないんだけど、ね」
あわてて手を振りながら否定する。
「そうじゃないのなら、なんなのだと聞いている!」
つい語気荒く成歩堂に迫ってしまう御剣。冥のことになると自制の効かなくなる自分が少しばかり恐ろしく感じる。


「いや、これ絶対内緒だよ。真宵ちゃんの机の上の手紙にさぁ…」
そう言いながら一枚の紙をぴらぴらと振りかざす成歩堂。
「ム、成歩堂。信書の開封は法律違反だぞ」
検事の手前そうはいったが、内容には興味がある。ものすごくある。
「違う、違う!僕は開けてないよ~。置いてあったのがたまたま目に入っただけで…」
「は、早く見せたまえ」弁解しようとする成歩堂からひったくるようにして手紙を受け取ると、中身に目を走らせてギョッとした。。

真宵ちゃんへ
ヤッパリ冥はいまの彼氏と別れようと思います。
あの人のことがどうしても忘れられない…。自分の気持ちにウソはつけないわね。
真宵ちゃんもよく知ってるあの人…、きっと幸せになれると思うの。

うんぬん、かんぬん…。普段の彼女からは想像もつかない「乙女の心情」とでもいうべきものがワープロ用紙に綴られている。
「こ、これはなんなのだ~~~!!メイが、メイがまさかほかの男と…っ!」
「お、落ち着けよ御剣。まだ狩魔検事の手紙って決まったわけじゃないんだしさぁ」
ぽんぽんと肩をたたく成歩堂。しかし御剣にはどうやらその声は聞こえていないようだ。
「第一これ、ワープロ打ちだしさあ。なんか、狩魔検事のキャラじゃないって言うかあからさまに騙ってる感じがするし…。
ただまあ、御剣たちのことに気づいてる人がいるってことかもしれないから用心しろって言いたかっただけで…って聞いてる、御剣?」
「急用を思い出した!これで失礼する!!」
手紙を引っ掴んだまま、御剣は成歩堂の事務所を飛び出していた。成歩堂は呆然とその後姿を見送った。



検事局に帰るとすぐに冥のオフィスの扉をたたいた。
「どうぞ」中から短く答える冥の声が聞こえた。
「あら、レイジ。ちょうどよかった、この書類なんだけど…」
ツカツカと冥のデスクまで近寄ると、バンッ!と両手を机にたたきつけた。
「メイ!…君は、君は私になにか不満があるのではないか?正直に言ってほしい」
「なんなのよこんなところで…。ないわよ、別に。それよりね、この証拠品だけど」
御剣に取り合わず話を進めようとする冥。
「証拠があるのだ!」手紙を冥につきつける御剣。
パッと目を走らせて冥は冷笑した。
「なにこれ。あなたまさか私がこんな恥ずかしい手紙を綾里真宵に書いたとでもいうの?」
「君の名前が入っている。我々のことを知っている人間はほかにいないのだからそう考えるのが当然というものだろう」
バンッ!冥は思わず立ち上がり机をたいていた。
「お話にならないわ!こんなワープロ打ちの手紙なんて証拠能力はゼロよ!検事失格ね!!」
一息つくと、髪をなぎ払いながら
「これ以上何も言うことはないわ。書類を持って出て行って」と御剣に命じた。
だが御剣は冥の腕を掴み彼女をぐっと見つめて離さない。机越しに二人は向かい合っていた。
「まだ、聞きたいことがあるのだ…君は私を、愛しているか?」
昼間から仕事場でする話でないことは明白だ。しかし御剣は熱に浮かされたように言葉を続ける。
「この手紙がニセモノだというなら…君の愛をいまここで証明してほしい」
「立証の必要を認めないわ」冥が反論する。
「それなら君も、検事失格だ」机の横を滑るように移動して冥の前に立った御剣は、彼女の背中を引き寄せ強く口付けた。身を捩る冥の唇を強引に幾度も奪う。
やがて冥の瞳がゆっくりと閉じていき、舌を絡ませあう長いキスを交わした。部屋には二人の密やかな息遣いだけが聞こえる。
「レイジが、好きよ」唇を離したあと、俯いた冥が小さな声で言った。この場で言える精一杯の告白だ。
御剣が彼女の腕をようやく離す。しかしすぐにまた、冥をからだ全体でいっそう強く抱きしめる。
「君の体も、同じように私を好きだといいのだが…」



抱きしめたまま、冥のほっそりとしたうなじに口付けをする。背中の手は徐々に下へとおりていき、臀部をやわらかく掴んだり撫であげる。
「ちょ、ちょっとレイジ…!答えたでしょっ、ダメこんなとこで…あ、ん!」
服の上からの愛撫に冥は少しあわてる。御剣を押しのけることはちょっとできそうになく、冥は体中を這い上がってくる快感と懸命に戦っていた。
スカートなんてはいて来なければよかったわ…冥が考えたその時、御剣はスカートをたくし上げ太腿にツツ、と指先を滑らせた。
冥がぴくんと体を硬直させる。ブラウスのボタンも半分ほどはずされ中身をチラリとのぞかせている。
オフィスの中で冥は少しずつ服を乱され、体を熱くしていった。見慣れた風景が冥に現実を思い出させ、羞恥で顔を赤らめる。
「んんッ――――誰か…来たらどうするのよ。あぁ…あなただって見られたら…」
うるんだ瞳で男をにらんだが、冥のブラジャーからはみ出ている胸元に口付けながら、御剣は涼しい声で答えた。
「ロックはしてある。君がそれ以上大きな声を出さなければ…ここで起こっていることは誰にも知られない」
「そ、そういう問題じゃ…あっ―――はぁッ!!」
冥の体が跳ねるように大きく反応した。御剣が彼女の中心に中指を押しつけぐりぐりと刺激したからだ。
「声を出すな、と言ったのだが。外に聞かせたいのか?」
言うなり覆いかぶさるようにキスをして冥の口をふさぐ。指先の責めはやまない。
秘所に置かれた中指を小刻みに震わすともう湿り気をはっきりと感じるほどに濡らしていた。
冥は中指に体を支えられながら、爪先立ちで御剣の口付けを受けている。やっと息ができるようになると、冥は熱い吐息を漏らしながら御剣に懇願した。
「あぁレイジ…お願いよ。もう、ダメ」
これ以上触られたら、この場所で自分がどうなってしまうか分からない…冥の体はもはやさらに強い快感を望んでいたが、理性がそれを許さなかった。


御剣は黙って冥の下着に指をかけ半分ほどおろしてしまう。
「そうだな。このままでは後ではけなくなってしまうだろう」
「そうじゃ、なくて…きゃあっん!」
膣穴から溢れでてくる淫液を絡ませながら二本の指で陰唇を弄る。往復する指のスピードが早くなっていく。ソコはもう滴るような水音をさせ御剣の手を濡らしていた。。
冥は目をきつく閉じて声を出すまいとしているが、御剣の執拗な愛撫に時折甘い声が漏れてしまう。
さらに突起に指を這わせ、二本の指で挟みこみ円を描くように摘みあげた。
「…!!くぁあああ―――ッ!!」たまらずに嬌声をあげて絶頂を迎えてしまう。両足をガクガクと痙攣させもはや立っていられないといった風情だ。

御剣は冥を抱え上げ椅子に座らせる。
「ねぇ、ホントにもう…午後は人が訪ねてくるのよ。続きは夜にしましょ、ね?」
恥ずかしそうに冥は提案した。
しかし御剣はデスクの受話器をとりあげ素早くコールしたあと、冥の耳に押し付けた。
「アポイントを断りたまえ。私はもう少し君を楽しみたい」冥は観念してそれを受け取る。
片足だけ下着を脱がせ、冥の足を椅子の上で大きく開かせると太腿の付け根から丹念に舌と手を這わせていく。
プルルルルル、プルルルルル…ガチャッ――抗議をしようとした矢先、相手が電話に出る。
「はい、受付ッスが…」
よりによって糸鋸刑事が出た。
「なっ、なんであなたが取るのよ!!」
いきなり怒鳴られたイトノコがしゅんとした声で答える。
「えっと、自分は御剣検事に話があって来たッス。ちょうど人がいなかったので思わず取ってしまったッスが…マズかったッスか?」



糸鋸、と聞いて御剣は一瞬動きを止めたが、すぐに愛撫を再開する。指で秘所を押し広げ、膣口に吸い付きぴちゃぴちゃと音をさせながら啜り上げる。
「…ッ!午後の予定は、キャ、キャンセルよ。誰も部屋に入れないで。そう伝えてちょうだい!ふぅ…んっ」
「午後は、キャンセルと。はぁ、ところで御剣検事どこか知らないッスかねえ…どうかしたッスか?」暢気な口調でイトノコがしゃべる。
御剣は舌を尖らせて冥の中へ押し入ると、舐るように抜き差しを繰り返しながらぐちゃぐちゃと掻き回した。
「ぁぐぅッ……何でもないわ。レイジと、いま裁判の打ち合わせしてるの…だから…」
受話器を取り落としそうになるほど悶えながら、やっとそれだけ言うと御剣が立ち上がり電話を切ってくれた。
「レイジぃ…」
はやく火のついた体を鎮めてほしい…淫らな感覚が冥を支配した。
御剣は自身のスカーフをはずすと冥の口に噛ませる。
「もう一度、イってからだ」
そう言うと、中指をズブッと根元まで差し入れ、間髪いれず前後に揺さぶった。
「―――!!!ふぐぅ!……む、んぐ―――ッ!」
スカーフを押し込められた口から喘ぎ声がとぎれとぎれに聞こえる。
「もっと、か」
さらに二本目の指が挿れられる。指の激しい動きはそのままに、御剣は突起を口に含んで舌で転がした。
「んぅ―――――――――ッッ!!!」
冥が中で指をぎゅうっと締め付けた。御剣が皮をめくった真珠を強く吸い上げたのと同時だった。
仰け反るように顔を上向かせた冥の白い喉が微かに震えている。


指を抜き取られたあとも膣口はヒクヒクと誘うようにその身を蠢かせている。
太腿まで愛液が伝わるほど濡れており、椅子の上には小さな水たまりをつくっている。
御剣は彼女を立たせスカートを脱がせると窓際に手をつかせた。
(あぁ…みえちゃう。外、から…っ)ブラインドの向こうには日常が見える。
後ろから入り口にあてがうと、少しずつ先端をのみ込ませていく。
ぐぐ…と押し拡げられる感覚は眩暈がしそうなほどの快感だった。
半分ほど沈ませたところで動きをとめた御剣を、冥が首を捩って切なげに見つめる。
(欲しい…もっと、レイジのが欲しいの…)
「奥まで、欲しいか?」冥がコクンとうなずく。
「ぬうぅ…っ」ダラダラとイヤらしい涎をたらすソコを御剣が強く突き上げた。
「はうぅ――――ッ!!…ぃあぁああっ」
浅く、深く緩急をつけて抽送を繰り返すと、冥の口からスカーフがすべり落ち淫靡な泣き声が上がる。
「可愛い声だ…たまらない」両腕で冥を抱きしめて御剣が呟いた。
「そろそろ…イクぞ」さらに激しく御剣が責める。
腰を使ってどぉん、どぉんと最奥に打ち付けるようにして出し入れすると、膣口がぬちゃぬちゃと泡立つような音をたてた。
「ああっイイ!イイのぉっ……んぁあああああ―――ッ!!」

服の乱れを直し、椅子に座った冥は窓を開け空気を入れ替えている御剣に笑いを含む声で言った。
「レイジがこんなに情熱家だったとはね。それにしても、この手紙いったい誰の真似なのかしら?」
考え込むように冥が手紙を見つめていると、デスクの電話が鳴る。
「個人的なお客?わたしに…?約束はしていないわね。・・・え?もう部屋の前まで来てる?!」
手紙を奪い返した御剣は早口で冥に告げる。
「客が来るのならもう失礼しなければ。君の気持ちはよくわかった。コレはきっとなにかの間違いだろう」
少しばかり顔を赤らめてそそくさと部屋を後にする御剣だった。

扉を開けると目まぐるしい色合いの服を着た男がけたたましい声で叫んだ。
「メイちゃ~~~ん!!オレの新作のモデルやる気になってくれたぁ~~~?」
「ヤ…ヤハリなぜ、キサマがここにいるのだ!」
とてつもなく嫌な予感が頭をよぎる。コイツの現れるところにはいつもなにかしら面倒なことが起こるのだ。
「チッチッチ。ヤハリじゃなくて、マ・シ・ス。今をときめくゲージュツカよ、オレ」
御剣の握り締めている紙切れにヤハリが目を丸くした。
「ん…アレ?なんでオマエがそれ持ってんの?オレの小説の下書き。真宵ちゃんに送ったつもりだったけどなぁ」
「な、な、ななんだとおおおっ!!!」
御剣の剣幕にヤハリは目を白黒させている。
「どうして小説なのに手紙形式なんだ!」
「イヤ、あれよ。絵本と融合させた新しい小説の形態を模索してるわけよ、オレとしては」
「なぜ実在の人物名を使うのよ!」冥もヤハリに詰め寄る。
「メイちゃんまでど~したのよ。それはヤッパリ、メイちゃんはオレのミューズだから…タイトルは『メイちゃんのドキドキ恋模様』にしたいと思ってるわけよ、オレとしては。―――イテェッ!!」
モノも言わずに鞭を振りまくる冥。
あのジンクスはいまだ健在、か…。ガックリと肩を落とし御剣はその場を後にした。

余談だが、胸元のフリルがない御剣はその日周りの視線を一身に浴びていたが、本人はまったくそれに気づかなかったということだ。

おしまい
最終更新:2006年12月13日 08:30