御剣×冥←糸鋸


キスをして、と彼女は言った。
私の事を好きだといって、とも言った。
そっと腫れ物に触れるように唇を寄せた。
柔らかい唇を啄むように欲すると、冥は薄くそれを開いて応えてくれた。
ゆっくり舌を差し入れて、歯列をなぞると、奥に引っ込んでしまった舌を絡め取る。
絡めては逃げるように引っ込む追いかけっこを何度か繰り返すと、やがておずおずと差し出されたそれを思うままに味わわせてくれるようになった。
そんな彼女が可愛くて可愛くて、肩を抱こうと腕を伸ばしかけたが、びくりと肩を振るわせたような気がして、触れずに腕をおろした。
やはり、身体に触れられるのは恐ろしいのかもしれない。
冥をそんな風にしてしまったのは自分だ。
それでも許された唇だけは。深く深く甘く漏れる吐息すらも飲み込むように愛した。


名残惜しかったが、息苦しそうな冥の唇をようやく解放すると、至近距離で彼女の潤む瞳とぶつかった。
「メイ。君を愛している」
「‥‥‥‥」
彼女は長いキスで乱れた息をゆっくり整える。
「まだ私にチャンスがあるのなら。決して君を傷つけるような事は二度としないと、この身に賭けて誓う。だから‥‥!」
必死に訴えかける御剣の言葉を遮って、冥がその白い手を伸ばしてきた。
細い指で、御剣の目元を拭うような仕草をする。

‥‥‥‥私は、泣いているのか?



検察局の薄暗い廊下をのそのそと歩く背中を、地獄を這うような声が呼び止めた。
「糸鋸刑事」
「うぎゃああぁ‥‥ッス!」
まさに字の如く飛び上がって驚いた糸鋸が声を主を振り返ると、少し開いたドアの隙間から、御剣がどす暗いオーラを醸し出してこちらを見ていた。
「み、みみみ御剣検事っ!お脅かさないで欲しいっす!」
「少しいいだろうか」
こんな状態でノーなど言えるワケがない。糸鋸は御剣のいる小会議室へ冷や汗をびっしりかきながら足を踏み入れた。
声を掛けてからこちらを見ようともしない御剣の背中には、重い暗い空気が目に見えるようにまとわりついていた。
呼び出された理由はいくら糸鋸でも察しがついた。あの夜の事だろう。


この決して器用でない年下の上司が、冥の事をどれだけ想っているかは知っていた。
詳しい状況までは分からないが、それこそ肝心の冥を傷つけてしまうくらい追いつめられるほどの想いだったワケである。
いくらボロボロの冥を慰めたかったとはいえ、彼の知らないところで彼女の肌に触れてしまった事は、糸鋸の後ろめたい事実となってその胸にのし掛かってきた。
あの夜に、一晩泊めて自宅に送ったと連絡を入れたのは糸鋸自身だ。大方、その事で責められるのだろう。
問題は、御剣がどこまで知っているかだが‥‥。
「‥‥メイから全部聞いた」
「そうッスか、全部‥‥。‥‥ってぜんぶぅう~~!?」
イキナリ最後宣告である。
いくら御剣が公私混同をしない男とはいえ、冥に手を出した事が知れれば確実にクビになる。というか社会生活すらアブナイ。



「あ、あの、みつるぎけんじ‥‥」
「まずは、その。すまなかったな」
「へ?」
イノチの危険すら覚悟した糸鋸だが、意外な御剣の言葉に目を丸くする。
「‥‥情けない所を見られた。男として軽蔑してもらっても構わない。‥‥それから、メイが世話になった。ありがとう」
未だ目を上げてはくれないが、顔をこちらに向けて言った御剣の言葉に、何故か慌てて糸鋸は言い繕う。
「い、いやそんな大した事はしてねッスし、その。検事のお気持ちも知ってるッスから、そんな事全然ないっす」
滅多に聞けない、というか自分に向けて発せられる事は絶対ないだろうと思ってた謝罪や感謝の言葉の数々に、糸鋸はワケのわからない謙遜をした。
「そうか」
そこでやっと安堵したのか、御剣ははっきりと糸鋸を見た。一方糸鋸は、言われ慣れない検事からの礼の言葉に、何故か大いに照れている。

「まさか君も冥を想ってくれているとは知らなかったな」
「そ、そりゃそうっす。検事は彼女の事しか目に入ってなかったッスから!じ、自分はいつも後ろから見てたからぜ~んぶ知って‥‥」
そこで糸鋸は御剣の口調が平常のトーンに戻っていることを悟るべきだった。べらべらと捲し立てていると、ようやく不穏な空気に気がついた。
「で?」
「‥‥は?」
「貴様は少しばかりメイと、ふ、触れ合ったからといって、それ以上近しい仲になろうなどと画策しているのではなかろうな!?」
「とっとととととんでもないッス!誤解っす!!」
法廷で見せるのと同じ、相手を竦み上がらせるような視線に晒されて、糸鋸はまた自分の口の軽さの失態に気がついた。
「そ、そりゃ自分は狩魔検事の事がす、好きっすが、それと同じくらい御剣検事の事を尊敬してるっす!お、お二人の仲が良くなる事の方が自分はずっと望んでるッス!」

口は軽いが、嘘だけはつかないのが信条の男である。言いたい事を一気に捲し立てて、御剣に立ち向かった。
「本心か?」
「本当っす!それに、‥‥狩魔検事は自分の事なんか絶対相手にされないっす」
さすがに御剣もこの男が自身を偽るような事を言うとは思っていない。が、気持ち的にはどうにも納得できず、勝手に一人でしょぼくれている糸鋸を見ていた。
「‥‥そういえば、あれから狩魔検事とは仲直りされたんっすか?」
何気ない糸鋸の問いかけに、思わず御剣は言葉に詰まった。
一応この男も二人のいざこざのとばっちりを受けた格好ではある。事の顛末を知る権利はあるだろう。
「話は‥‥したのだが」
どうもその後避けられているようだ。と今度は御剣が顔を伏せた。
避けられるのも仕方ないのかも知れない。こちらの気持ちは全部伝えたが、彼女からは具体的にイエスもノーも聞いていない。
何とか会う機会を作りたいと、時間さえあれば彼女の姿を探しているのだが、一向に掴まらない。

「大丈夫っすよ!絶対大丈夫ッス!」
根拠無く自信満々の糸鋸の太鼓判に、御剣は胡散臭げな視線を送る。
「だって自分が“御剣検事は狩魔検事が好きだから”って言ったら、もの凄い勢いで“分かってる”って泣いて怒られちゃったっすから!」
「メイがそう言ったのか?」
「そうっす!狩魔検事は御剣検事の事しか考えてないっすよ」

あの夜、泣くじゃくる冥に向かい、糸鋸は自信満々に言い切った。
「御剣検事は狩魔検事の事が好きッス。‥‥だから嫌っちゃダメっす」
すると冥は大粒の涙をぼろぼろ零しながら思い切り怒鳴った。
「そんな事分かってるわよ!!‥‥私だって‥‥!!」
最後にどんな言葉が続くのかは分からなかった。
けどはっきりと、冥の中には御剣以外の男の入る余地などないと、糸鋸は思い知らされたのだ。


その日、冥は早めに残業を切り上げ自宅マンションへ戻ると、エントランス前に見慣れた男が立っていた。
「‥‥‥‥!」
向こうも冥の帰宅に気づき、素通りしようとする冥を慌てて呼び止める。
「待ってくれ、メイ!」
すれ違いざま御剣は咄嗟に冥の腕を掴んでしまい、お互いぎくりと身体を強張らせ、瞬間御剣はその腕を離した。
「‥‥すまない」
「‥‥‥‥」
一瞬立ち止まった冥だが、また御剣に背を向けて立ち去ろうとする。
「メイ!待ってくれ、その‥‥話がしたいんだ!」
御剣は彼女から一定の間をおいてついてゆく。
「嫌ならはっきり断ってくれていいんだ。一言返事が聞きたいだけで‥‥!」
なんとかオートロック前までに呼び止めようと必死の御剣だったが、冥は真っ直ぐに扉へと向かってゆく。

ダメかと思ったその時、オートロックキーを解除しながら冥がぽつりと呟いた。
「‥‥どうして、そんなに急かすのよ‥‥」
「え?」
静かなモーター音を立てて開く扉の前で、冥はひとつため息をつくとやっと御剣の方に顔を向けた。
「‥‥いいわよ、入って。お茶でも出すから」

しゅんしゅんと蒸気の音をたてて、小さなケトルが湯が沸いたのを知らせている。
冥はその湯を使ってポットに紅茶を入れると、ティーセットを揃えてリビングに向かった。
そのリビングにはソファに御剣が肩を強張らせて座っていた。
冥がティーセットをテーブルに置き、向かいのソファに腰を下ろすと、御剣は口を開いた。
「メイ」
緊張で声が震えそうになるのを必死に堪え、御剣は切り出す。



「私は、私の気持ちを全部伝えたつもりだ。謝罪の言葉も、償いの覚悟も、それでも君を欲する気持ちも全部‥‥だ」
喉が渇く。カラカラに。それでも彼女の用意してくれたお茶に手を伸ばす気にはなれなかった。
「その上で君は私を拒絶するというなら、きっぱりと君に二度と近づかない事も誓う。だから、頼む‥‥」
御剣はガバッと冥に向かい頭を下げた。とても、彼女を見ていられない。
これ以上彼女を見ていたら、この浅ましい想いを断ち切る覚悟が鈍るだけだ。
「この際、はっきりと引導を渡してくれ‥‥!」
そして冥の最後宣告を待つ。冥への恋心への、死刑宣告だ。
一瞬がこれほど長く感じた事はない。死刑囚は、皆こうして最後を待つのか。
冥が小さく息をつく気配があった。
「‥‥‥‥ごめんなさい」
あぁやはり、と御剣は目を閉じた。彼の言葉を受け取れない事への、謝罪の言葉だ。
これでやっと諦めもつく、と思った。もう何も聞く必要はないと。

しかし冥はぽつりぽつりと話を続ける。
「私、レイジの気持ち、何一つ分かってなかった。ちゃんと話をしなかった私が悪いの。本当は、本当は凄く嬉しかったのに」
「え‥‥?」
「ただ怖かったの。身体を、女を求められるのが怖かったの。ちゃんと応えられるのか分からなくて怖かったの」
「‥‥メイ」
御剣は頭を上げて冥を見る。彼女は顔を伏せて、一気に捲し立てた。
「でもレイジがっ、私を求めてくれるのが嬉しくて。でも先へ行くのは怖くて、はぐらかして逃げてたの。大人になれないの見られたくなくて、誤魔化してたの!
ガッカリされたくなくて、気を持たす事して。だって、レイジが追いかけてきてくれるの、嬉しかったんだもの!‥‥レイジの気持ち考えないで、散々振り回して、傷つけたの‥‥」
「メイ、そんな事‥‥」
冥はそこまで喋りきると、大きく息を吸った。
「私が追いつめたの‥‥ごめんなさい‥‥」

冥は両手で隠した顔の隙間から、ぼろぼろと涙を流して泣いていた。
御剣は、優しく抱いて慰めてやりたい衝動をぐっと堪える。
そうだ、あの夜だって結局、堪えきれなかった大人げない自分が悪いんじゃないか。なのになんでこの娘は、傷つけられたこの娘は泣いているんだ。責められるのは自分のはずなのに。
ひとしきり涙を零した後、冥は顔を拭いながら続ける。
「ホントはね‥‥今も迷ってるの。なのにレイジが、急かすから全然、分かんなくなっちゃって‥‥」
手の甲でいくら拭っても冥の涙は止まらない。咄嗟にハンカチを差し出したが、ふるふると首を振って拒否した。
「怖かったの。痛かったの。もう忘れたいくらい悲しかったの。でも、それでも、レイジが離れていっちゃうのはイヤなの‥‥!」

しばらく冥の啜り泣く声だけが部屋に響く。冥の嗚咽が治まった頃を見計らって、御剣が声を掛けた。
「メイ。‥‥君を、抱き締めてもいいだろうか」
「‥‥‥‥」
返答はない。だがその無言を拒絶ではないと受け取って、御剣は冥の隣に寄り添うとそっと背中に腕を回した。
「‥‥いっそ、嫌いになれれば良かった」
消え入りそうな小さな声で、冥がぽつりと言った。ゆっくりと御剣の胸に身体を預けてくる。
「謝罪なんて聞かなければ良かった。キスなんて‥‥しちゃったから、貴方の事好きなんだって思い知らされちゃったわ‥‥」
背中に回した腕に力を込めて抱き寄せる。空いた手で濡れた頬を拭ってやると、もう涙は止まったようだった。

「そういう事、ちゃんと最初に話してくれてれば‥‥」
御剣も、冥の気持ちがどこを向いているのかわからなくて、不安になっていたのだ。もっと冥が心を開いてくれてさえいればという思いが、今になって悔やまれる。
思わず漏らした御剣の言葉に、冥はキッと真っ赤に腫らした目を上げた。
「何言ってるのよ!普通、そういう事は男性が察してくれるべきだわ!」
「ム‥‥そ、その通りだ‥‥」
貴方一体、私の何を見てきたのよ!と冥が憤慨する。確かに自分の気持ちばかり先行して、彼女を見てきたつもりになっていただけだったのかもしれない。
彼女のこういう素直じゃないところも含めて全部が愛しかったはずなのに、愛憎に傾倒して見えなくなっていたという事か。
しょんぼりと肩を落とす御剣を見て、冥は言いたい事を言ってすっきりしたとばかりにふんと鼻を鳴らした。

そして冥からも腕を伸ばして、ぎゅっと抱きついた。
「これからは、ちゃんと大事にしてくれるんでしょうね?」
「もちろんだ!‥‥君が許してくれるなら」
「許すも許さないも‥‥」
そこで冥はちょっと言いよどむ。
「私はこういう性格だし、貴方の思い通りにならない事、たくさんあるわよ。ホントにまだ、気持ちの整理、ついてないし‥‥。それでも、いいの?」
「大丈夫だ。君がちゃんと私の方を向いてくれているという自信があれば、いつまでだって待てる」
きっぱりと言い切った御剣の言葉に、冥はやっと安心したようにちょっとだけ微笑んだ。


御剣は腕に中に確かにあるぬくもりを抱きしめながら、幸せを噛みしめていた。
冥はもう怯える様子もなく、彼に身体を預けている。
ゆっくりとお互いの体温を感じていると、御剣の指と自分の指と絡ませて遊んでいた冥が口を開いた。
「痛いのははじめてだけって、本当かしら‥‥」
一瞬ぎくりと胸がすくんだ御剣だが、冥が平静としている事に落ち着きを散り戻す。
「どうだろう、聞いた事はないが‥‥」
冥はそうよね、と言葉で頷いた。
「し、しかし前回のコトはかなり手荒にしてしまったし、優しくすればきっと‥‥」
「私、別にまたアレを体験したいとは言ってないわ」
慌てて取り繕う御剣だったが、あっさり冥に切り捨てられて、また少し項垂れる。
「そ、そうだな‥‥」

「まぁでも」
弄んでいた御剣の指先を、冥はきゅっと掴んだ。
「‥‥試してみる?」
じっと真っ直ぐ見つめてくる冥の瞳。きっと私はこの瞳に囚われ続けるのだな、と御剣は理性の薄れゆく頭の片隅で思った。
ついと上げた顎に手を添えて、深い口吻を交わす。
怖がらせないように、脅かさないように、ゆっくりと手先を意識させないようにそろそろと冥の衣服を脱がしていく。
デリケートな胸元から腰にかけてが外気に晒されたときは、さすがにびく、と肩を振るわせたが、御剣の腕をぎゅっと握って堪えたようだった。
続けて胸の下着を外していくと、乳房の鮮やかな白が目に飛び込んできた。
それだけで全てを放り出して思うままに欲したい衝動が沸き起こるが、前回の失態が何とか思いとどまらせた。


今は、冥に優しい愛を教える事が先決だ。
耳元から首筋へゆっくりと唇を滑らせ、鎖骨をなぞるように胸元へと舌を這わせる。
柔らかい乳房に吸い付き、たくさんキスを送りながら、もう片方の膨らみを空いた手で撫でるように揉んでいく。
甘い吐息を繰り返していた冥は、淡い桃色に染まった乳首に吸い付かれると、短い嬌声を上げた。
はぁと吐き出された吐息が甘い熱を含んでいる事を確認すると、御剣はすでにぷっくりと形を現している乳首に何度もキスをし、舌で舐め転がす。
堪える様子もなく繰り返される冥の荒い吐息に、恍惚とした喘ぎが混じり始める。
「ふぁっ‥」
その反応に気が大きくなった御剣は、執拗に乳首への刺激を繰り返す。同時に手の平で乳房の柔らかい肉の感触も堪能する。



冥はすっかり快感に身を任せ、甘い喘ぎを繰り返していたが、次第にもぞもぞと身を捩り始めた。
どうしたものかと様子を窺うと、下腹部に違和感を感じているらしい。
「あ、待ってっ‥‥」
さてはと下の下着を下ろしていくと、布地の中心がしっとりと濡れている。
「‥‥メイ、感じてくれているのだな‥‥」
「そう、なの?」
潤んだ瞳で御剣を見上げてくる。そっと指を添えると。茂みの奥がとろりと潤っているのが分かった。
「メイ、可愛いよ‥‥」
一時はもう二度と触れる事が許されないかと思ったが、今こうして腕の中でその“女”をたっぷりと匂わせている。
御剣がうっとりと彼女を抱きしめると、冥はねだるように囁く。
「胸は‥‥気持ちいいの‥‥」
「良かった。じゃあ‥‥ここはどうだ?」



「あっ、‥‥あぁん!」
秘部の小さな突起にぬるりと湿った指を当てると、冥はびくりと身体を震わせて声を上げる。
少しだけ指を動かしてみると、冥はその度に男の耳に心地良い喘ぎ声を上げた。
「あぁ、やぁっん‥‥!」
「メイ‥‥!」
その声が無性に欲しくなって、唇を奪った。絡め合う舌の隙間から際限なく甘い声が零れ、御剣はそれを逃さないとばかりに貪る。
すっかり敏感になった秘部は濡れそぼり、刺激を続ける指先に蜜をまとわりつかせている。
充分潤ったところで、御剣は指を一本、冥の中心へと沈み込ませた。
異物感に冥は嬌声を上げる。しかししっかり濡れているソコに指はすんなりと滑り込み、中でまったりと締め上げられる。
冥がそれに拒絶感を抱いていないのを確認すると、ゆっくりと動かし始める。


次第に指を動かしてほぐすようにしてやると、冥はされるがままに快感の喘ぎを繰り返す。
「メイ、気持ちいいかい‥?」
御剣も、その中の熱さと収縮を繰り返す内壁の心地よさに、夢中になって行為を続ける。
「あんっ!はぁ‥‥あぁん、あっあぁっ!」
冥からの返答はない。だが、その喘ぐ声が十分に肯定を物語っていた。
興奮に我を忘れかけた御剣だが、ふとある事実を思い出し、不穏な想いが胸をよぎる。
「メイ‥‥」
「ふっ、あぁ!ぁんっ‥‥なっ、なに‥‥?んあっ!」
「‥‥刑事には、どうやって気持ちよくしてもらったんだい?」
「‥え‥‥?‥あっ、はぁん!」
そうだ、確かに冥は糸鋸に“教えてもらった”と言っていた。

あれだけ醜態を晒しながらも、まだ自分の醜い劣情は無くなっていないらしい。
冥を責め立てながらも、一度思い出してしまった嫉妬の思いはすぐには消えない。
「‥‥キス‥、いっぱいキスして、くれたと思う‥‥。あんっ!」
御剣の指の動きに翻弄されながらも、冥は律儀に応えようとしてくれる。
「思う?」
「よく、憶えてない‥‥。んっ、レイジの、あん、レイジのコト、考えてたからっ‥‥はっ!」
「‥‥‥‥」
その時、冥が一際高い嬌声を上げた。もう限界が近いのか。
「あっ!レイジっ‥レイジぃ!あっ、‥あ、あああぁぁあん!!」
深く差し込まれた指が痙攣するように収縮した膣壁できゅうぅと締め付けられる。ぐぐっと持ち上がった腰を、すとんとソファに下ろし、冥はぐったりと御剣にもたれ掛かった。
執拗な御剣の責め立てに、絶頂を迎えてしまったらしい。

そうだ、以前の事がなんだというのだ。今、冥は自分の腕の中にいて、全てを任せてきているというのに。
また浅はかな思いに囚われかけたのを恥じ、冥を優しく抱きしめた。
今はこの少女と一つになり、想いを確かめ合うのが先決だ。
この冥への想いに比べたら、そんな事、些細な事ではないか。
冥をそっとソファに横たえ、御剣は自らの衣服を脱いだ。

「‥‥‥‥‥‥」
冥が強張った表情で一点を凝視している。
その様子に気押されしてしまって、御剣もなんだか身動きが取れないでいた。
「その‥‥メイ、あまり見ないでくれるか」
冥の視線は御剣のそそり勃つ男性器に向けられている。

「だ、だって、だって」
一瞬ちら、と御剣の顔を見た後、また元の場所に視線を張り付かせる。
「こ、これ、入るの?」
「“入るの”‥‥って‥‥。前も挿れただろう」
これまでにすっかり準備の整っている御剣のモノは、出番を今かと待ちかまえているのに、肝心の冥はそれを目の当たりにしてすっかり腰が引けている。
「そうだけど‥‥見るの初めてだから‥‥」
こんなの入ってたの‥?と愕然とした様子で、目を反らせないでいる。
正直なところそこまで驚かれるほどのモノではないとは思うが、だからといっても並以上だという自負はあるワケで、まぁやはり初めて目にする冥には受け入れ辛い事は間違いない。
「‥‥気持ち悪いか?」
見慣れない外観に嫌悪感を抱くという事も考えられる。

しかし今夜に限っては、自分がどれだけ彼女に対して真摯な姿勢で臨んでるか、全て晒け出す事で分かってもらおうと思い、あえて隠す事はしなかったのだが‥‥。
逆効果だっただろうか、と不安になる。
「そんな事はないけど‥‥ちょっと驚いて‥‥」
と言いつつもじっと視線は動かさない。なんだか視姦されているようで落ち着かなかった。
とりあえず嫌がっている様子はなく、まじまじと未知の物体に対するかのように目を離さないでいる。
「こ、これじゃあ痛いわけよね‥‥」
何だか一人で納得したように冥は呟く。
それじゃあ御剣の大きさが悪いみたいではないか。

「もう少し小さくならない?」
「ならない!というかそうじゃないだろう!」
よほど破瓜の痛みを引きずっているのか、冥はなかなか踏ん切りがつかないようだ。
「今日はしっかり慣らしたし、その、挿れるのが痛い、という事はないと思うぞ。‥‥多分」
あれだけたっぷりと指で柔らかく慣らしもした。挿れる分には問題ないと思うのだが、やはり冥次第なので自信がない。
「じゃ、じゃあしましょう。うん」
何だか一大決心でもしたように気合いを入れている。腕を伸ばして抱擁をねだる冥を、ようやく腕に抱く事が出来た。

さて、と挿れる体勢に寝かそうとしたところで、冥が不安そうに口を開く。
「い、痛かったら、やめてね?」
「‥‥わかった」
とは言ったものの、正直これだけ高ぶった己が、いざ挿入に成功した時点で「はいそうですか」と引き返せるとは思えなかった。
大丈夫、優しくすれば大丈夫、と御剣は自分に言い聞かせるように胸の内で繰り返す。
入り口にぐっとあてがうと、冥が小さく呻き声を漏らした。
それを耳にして、御剣もぎくりと身を強張らせる。
そっと様子を窺うと、冥も緊張を堪えているのかじっとしている。
今更心変わりをされても、という思いが先に立って、ゆっくりとではあるが動きを止めずに腰を進めていった。

また少し冥が呻いたみたいだが、なんとか全部入れる事はできた。
「‥‥メイ?痛いか?」
「‥‥んっ‥‥」
衝撃に耐えるようにぎゅっと目をつぶっていた冥が、少しだけ潤んだ瞳を開けた。
「‥‥入ったの?」
「あぁ。入っている」
「すごいキツい‥‥けど、痛くはないわ‥‥」
そりゃキツいだろう。あれだけならしたのに、まともに男を知らない冥の中は狭く、容量オーバーのようにも思えた。
既に固くなっている御剣にとっても、この状態は少々痛みを伴ったが、冥が受け入れてくれている事をまずは受け止めなければなるまい。
繋がったまま全身で冥を抱きしめる。冥も御剣の背中に腕をまわし、お互い身体を密着させて感じあった。


冥の唇から切ない声がこぼれる。愛しい。
「メイ、‥‥動いても、いいか?」
囁くように許しを請うと、冥はかすかに頷いた。
負担を少してもかけないよう、ゆっくりと腰を進める。
思うままに振る舞いたい衝動はあったが、自らを戒める気持ちがそれを抑えた。
次第に行為を受け入れられるようになったのか、切なげだった冥の声が明らかに艶を帯びてくる。
それにつられるように御剣も快感に溺れ始め、動きが大きくなっていく。
頭の片隅で自制の鐘が鳴るが、冥が繋ぎ止めるかのように回す腕が、御剣に安心感をもたらしていた。
そうだ、もう泣かせたりなんかしない。決して離したりなんかしない。君が必要としてくれる限り、大事にするから――
「メイ、愛してる‥‥!」
思いの丈を全て吐き出した瞬間、冥は確かに頷いた。


霞がかかったようにぼんやりとした頭が少しはっきりしてくると、目の前に心配そうな御剣の顔があった。
「大丈夫か?メイ」
あぁ、そうか。私、また――
ほんの少し前の事なのに、何だかコトの実感がない。それでも意識を集中させて、自分に起こった事を確認しようとした。
今はもう中に御剣はなく、妙な違和感はあったが、心配したような痛みはなかった。
「えぇ、大丈夫よ‥‥」
だるさに身体が重くはあったが、微笑んで応えると御剣は安心したようだった。
「なんだかぼんやりしてるから、何かあったのかと思って‥‥」

御剣の大きい手で髪を撫でられる気持ちよさに、冥は目を細める。
「うん、何かしら‥‥。痛くなかったから、気が抜けちゃったのかな‥‥」
「そうか」
とりあえず、苦痛がなかっただけでも御剣にとっては大きいコトだ。改めてホッと胸をなで下ろすと、冥がくすりと笑った。
「レイジは?気持ちよかった?」
ぐっと御剣は言葉に詰まる。そう直球で聞かれると、困る。
「う、ム。その、メイが大変な思いをしていたのに悪いが‥‥気持ちよかった」
つい我を忘れるところだった、と御剣はがっくりと項垂れる。
あれだけ優しくしようと心に誓っていたのに、危うく同じ過ちを繰り返すところだった。

その様子を見て、冥は可笑しそうに笑う。
「私はまだよく分からないから‥‥」
なんとなくそれっぽく感じるものはあったものの、異物感や圧迫感の方が先に立って、まだ冥は快感というものが体感できていなかった。
「そ、それはそのうち‥‥慣れれば大丈夫だ」
「そうよね。レイジが教えてくれるんでしょ?」
あっけらかんと冥に言われて、御剣は真っ赤になって返答に困る。
「う、うム。君が望むなら‥‥」
「まぁ当分はいいわ。何だか疲れちゃった」
そしてそれ以上にあっさりと次回の望みを絶たれて、御剣はがっくりと肩を落とす。
「それに、しばらくはソレ抜きでも“付き合ってる”っていうの体験してみたいし」
冥はそう言って、ふふっ、と笑った。



「は?」
「だってちゃんと“付き合う”って宣言して付き合うのこれからでしょう?」
確かに今までは、二人で過ごす事はあっても一方的に御剣が言い寄っている形であったし、冥からもきちんと向き合っての付き合いはこれから、という事になる。
「私たちこれかられっきとした“恋人同士”になるのよね」
と、何だかうきうきしている冥が可愛くて、御剣は何も言えなくなる。
「‥‥大事にするよ」
「うん」
そう言うと冥は御剣に寄り添った。
まぁソレだけが恋人同士ですることではないし、こうして冥の口から「付き合って」などという言葉が出る時点で御剣は嬉しかった。

「あのね、レイジ」
「ん?」
冥がちょっともったいぶって御剣に話しかける。
「あの食事とかに付き合うのね、局長に頼んで止めてもらったから」
「え?」
冥が言っているのは御剣の気を揉ませていた、検察・警察上層部や法務省官僚などとの食事会のことだろう。
あの頃は確かにそれらが悋気を起こす対象になっていたが、理性では大事な接待の一つであって、仕事だと割り切ろうとはしている。
「しかし、局長は困るだろう」

彼女との時間を引き換えに、検事局長は相当な待遇を上から受けていたはずだ。何しろ彼らの印象を良くするだけで、現場の検事達が捜査にどれだけ動きやすくなるか。
それを彼女の微笑みなしで何とか取り持てというのだ。
「だって」
そう言って冥はちょっとはにかむ。
「彼がすごいヤキモチ妬きなんです、って」
言っちゃった。という冥の言葉を聞いて、御剣は耳まで赤くした。

END
最終更新:2006年12月13日 08:31