Miss Brand-new Day



「オツトメ、ごくろうさまです」

娑婆で最初に目にしたのがトンガリ頭の青スーツとは験が悪い。ゴドーは苦笑し、わずかに口許を歪めた。
無論、彼は人生の後半が輝かしいものになるなどとはいささかも期待してはいなかったのだが。
「いい加減、アンタの顔は見飽きたぜ」
自分の釈放に尽力してくれた弁護士にはもっとマシな謝辞があるはずだが、彼には男を喜ばせる趣味はなかった。
「うまいコーヒーをご馳走しますよ。乗ってください」
特別晴れがましい顔をするわけでもなく、成歩堂はゴドーを助手席に座らせ車を発進させた。

殺人罪で起訴されながら、事件から3年で釈放されたのにはそれなりの理由があった。
司法当局に届いた一通の手紙がそのひとつだ。
事件の被害者、天流斎エリスが生前準備していたもので、自分の死にはゴドーとあやめに責任はなく
自殺のようなものと考えてほしい、と書かれていた。
彼女は霊媒師であって占い師ではなかったはずだが、驚くほど正確に自身の最期を予期していたことになる。
母よりほかに誰も恨まないでほしい。あなたを守ることが母としてできる最後のことだ、と
最愛の娘にあてた言葉でその手紙は締めくくられていた。
被害者自身だけではなくさらには遺族である真宵や春美、そして彼の実力を買っている司法関係者までが
減刑の嘆願書を提出し、よってたかって刑務所から追放したのだと彼は苦々しく思い出していた。

「男と二人っきりで長時間のドライブかい?ゾッとしねぇな」
30分も経つころ、相変わらず目的地を言わないドライバーにいい加減痺れを切らしたゴドーが口を開いた。
成歩堂は一瞬だけ彼を見たが機嫌よくその質問を無視し、最近のベストセラーや社会事情について話し始めた。
精神的に優位に立つすべを学んでやがる。
弁護士の成長を苦々しい思いで認めながらゴドーは不味そうに冷めたコーヒーを啜った。
「キレイドコロがお待ちですよ」
たっぷり一時間のドライブの後、彼は笑顔とともにゴドーをその屋敷へと案内した。
待っていたのは、いつになく緊張の面持ちで自分を見つめる綾里真宵であった。

修験者の間で二人は向かい合っていた。
「保護者はお帰りかい」
成歩堂を見送ってきた真宵に向かって声を掛ける。
「ヒドイなあ。あたしはもうとっくに成人してるんですよ?」
そう答えて頬を膨らませた表情はどこまでもあどけなく、
少女のこれまでの過酷な運命が俄かには信じられないほどだった。
春美は今日のために葉桜院に預けられており、つまりこの屋敷には二人しかいないことになる。
目の前のお茶を一口飲んで、真宵が決意とともに言葉を紡いだ。

「お姉ちゃんを、呼びます」
「俺に何をさせたい。土下座でもしろってのか」
ほとんど感情を交えないその声に、真宵は慌てて言葉を継いだ。
「ちっ違います!あたしはただ、二人が話ができたらってそう思って…」
「昔話をするほど老いちゃいねェつもりだ」
「触れ合うことだってできるんですよ!…ふ、二人が望めばそれ以上のコトだって…」
最後のほうはモゴモゴと聞き取れないほどの小声だった。
亡き恋人と最後の思い出作りとはなんとも少女趣味なことだ、とゴドーは少し呆れた目で真宵を見た。
そして自分はまだ千尋を抱きたいだろうか、と自問する。
正直なところわからない。だが、真宵に憑依する千尋のほうはそんなことを望まないことは分かりきっていた。
「元はアンタの身体だ。できるわけねぇだろう」
しかしそれを聞いた真宵は傷ついたように顔を背けた。
「中身があたしじゃ気持ち悪くてできないですか?」
なぜこうも話がかみ合わないのだろうと苛立ちを抑えながら、ゴドーは噛んで含めるように言い直す。
「そうじゃない。俺とアンタはそんな関係じゃねえだろうが。第一、千尋がそんな真似を許すワケ…」
最後まで言い終わらないうちに真宵がガバッと勢いよくゴドーへと向き直った。
「だったら…っあたしをゴドーさんの、おおお女にシテください!!」
力いっぱい両手を握って、少女はまっすぐに男を見つめていた。

目を覚まさせる必要がある。彼女は自分が何を差し出すつもりなのか分かっていないのだとゴドーは思った。
じりじりと真宵に近づいていき、背中へ腕を回す。一気に自分のほうへ引き寄せ低く囁いた。
「優しくなんざできねぇぜ。何年、刑務所に入ってたと思うんだ?」
そのまま床へ押し倒し、帯紐を解き装束を剥いでいく。彼女が怯えてくれればいいと考えながら。
そろそろ止めてくれ、と彼はひそかに神に祈った。
「やめるなら今のうちだぜ。…それとも怖くて声も出ないのかい」
「待って、くださ、い」
微かに恥らいを含んだ声がした。
「キスは、しないんですか。…あたし、ゴドーさんとキスがしたい」
ぶほぉっ!男は飲んでもいないコーヒーを吐き出しそうになった。
呆然としているゴドーの首に細腕をまわし、真宵が唇を重ねてくる。
ゴドーはその柔らかい肉の感触をさらに味わおうと無意識に口を開き受け入れていた。

彼はこれ以上真宵を拒む気はなかった。
「ひとつ言っておくことがある。俺は毒の後遺症で身体のあちこちの機能がやられてる。
だから、つまり…医者が言うにはだが、性行為が可能かどうかわからねえ」
真宵は少し首を傾げてから、にこりと笑って言った。
「…試してみて下さい。ちょっとでイイですから」
その言い方は、看護婦が食欲のない病人にスープを勧めるような口調だったのでゴドーは思わずニヤリと笑いを洩らした。
キスが再開された。息を乱しながら、必死に舌を絡めてくる少女が愛おしくなる。
男の唾液を嚥下するたびに揺れる小さな喉を親指でゆっくりと撫で上げた。
「ふぅ……んっ…ぁ」
背中や横腹をなぞるとピクン、ピクンと面白いように反応を見せる。
真宵の身体は徐々に熱を帯びてゆき、彼の好きな珈琲以上に蠱惑的な香りが立ち昇ってくるように感じられた。
それを目と舌で犯しながら味わう。両の乳房を捏ね回し、先端を指で弾く。
ゴドーの愛撫を真宵は陶然とした面持ちで受け入れていた。
やがて指先が脚の間へと差し入れられると、トロリとした透明な液体が男の指に絡みつく。
「ひぃ…んッ!そ、ソコ…やぁ」
真宵のどこか甘く響く泣き声にゴドーは嗜虐心を呷られる心地がした。
襞の間にある愛液を掬い取るようにゆっくりと撫で回す。
「〝いやよ〝も〝まって〝もなしだ。久しぶりで手加減ができねぇ…」
真宵の舌を口内で捕らえ、指の動きに合わせるかのように舐めあげる。
ぴちゃぴちゃと貪る音が彼女の頭の中いっぱいに響き渡り、さらに全身の感度が増した。
ゴドーが真宵の蕾を軽く押し潰すようにして触るとこれまでより一層強い反応を見せ、彼を喜ばせた。
唇を離し、真宵を見つめながら中心をさらに弄る。
「んぁあああああ―――っ」
最初の絶頂が彼女を襲った。ゴドーはそのあとも、粒を覆う皮膜を露にし剥き出しになった敏感なソレをじっくりと苛んだ。
達するたびに四肢が痙攣し、口から漏れる吐息と泣き顔には色香が漂っている。
見つめているとさらに泣かせたくなり、少女のお願いを無視して責めは続いた。

彼は自分の身体に喜ばしい変化が起きたことを悟る。
自分がまだ男であることに僅かに安堵を覚え、いらぬ不安を与えた医者を心中で呪った。
「アンタはいい看護婦だったようだ」
「ゴドーさん…?」
床に横たわった真宵は力を抜き、ほとんどリラックスしているように見えた。
ゆっくりと貫いていき、大丈夫かと声を掛けたがそれほど辛そうな様子はない。
ほんの少し、彼女は微笑みすら浮かべていた。
(ゴドーさんの身体は、あたしを傷つけるものじゃないんだ)
真宵は初めての苦痛をそれほど感じないことを違和感なく受け入れていた。
修行の鍛錬の成果なのかはわからない。まれに女性にはそういう体質を持つのがいる。
やがてぴったりと身体が重ね合わさると、真宵は体内にどこか充足した圧迫感を感じて身を震わせた。
「気持ち、イイですか…?」
ゆっくりと動き出すゴドーに真宵が途切れ途切れに声を掛けた。
「ああ…アンタの中はとてもいいぜ」
揺り動かされる度に、意味を成さない言葉が少女の口から洩れだすのを聞いてゴドーは血が巡るのを感じた。

「ゴドーさん。好き、です…」
真宵が名前を呼ぶたびに彼は締め付けられるような快感を覚える。それをもっと確かなものにしたくて、彼は願った。
「名前を、呼んでくれないか…」
「…ゴドーさ、ん…ひゃあぅっ!」
そうじゃない、というかわりに真宵を強く突き上げた。
「もう忘れちまったのかい?…なら覚えておいてくれ。俺の名前は、神乃木 荘龍だ」
「か、神乃木さん…っ!おねがい…」
唇から吐息とともに紡がれた名前を聞いて、ゴドーは力強く打ちつけたいという衝動を抑えることができなかった。
容赦なく身体ごとぶつけるように激しく真宵を打ち抜いてゆく。
獣のような唸り声を上げてゴドーは果てた。



―――明け方、ゴドーは年下の少女の媚態に煽られて十代の少年のような真似をしたことを少々決まり悪げに思い出す。
アンタがあまり可愛かったからさ…と言い掛けて横を向くと寝室に真宵の姿がない。
ふと思い立って修験者の間を覗いてみると、真宵がぽろぽろと泣きながら祈っている様子が見えた。
「お姉ちゃんっ…どうしてぇ?お姉ちゃん!」
霊媒を試みたが、どうやら千尋が現れなかったらしい。
あやす様に抱き締めてやると、ようやく少し心を落ち着かせたようにポツリと話した。
「お姉ちゃん、怒ってるのかなあ…あたしがゴドーさんを好きになったこと」
ゴドーの考えは少し違った。
「そうじゃねえさ。たぶん、千尋は…逝っちまったんだろう。心残りがなくなって…アンタを俺に任せられるとわかってな」
少し考えてその意味を悟った真宵がびっくりした様に顔を赤らめた。
「でも、でも嫌だよ…あたし、もうお姉ちゃんがどこにもいなくなっちゃうなんて…!」
二度目の別れが本当に辛いと言うように少女の顔が曇る。
また泣き出しそうに歪めた真宵の唇に、ゴドーはそっと指を押し当てた。
「あいつは引き際を知っていた。イイ女ってのはそういうモノだろう?」
「ゴドーさんはそれでいいんですか…あたしで、いいんですか?」
こわごわとゴドーを見上げながら問い掛ける真宵を、彼は確かに愛し始めているようだった。
彼はその質問に身をもって答えるべく、彼女を抱きかかえそのまま寝室へと連れ戻すことにした。
彼は十代の少年よりマシなやり方でそれを証明するだろう。
真宵は彼の新しい人生になり、そしてそれは彼の人生の後半をなかなか悪くないものにするだろうという予感がしていた。
最終更新:2006年12月12日 21:44