成歩堂×真宵(7)

 ……っ、ふぁっ……へっくしっ!

 ……!…フェーックション!!」

「だだだ、だいじょぶですか真宵さまっ!?」
「ご、ゴメンねはみちゃん…大丈夫、大丈夫…だ…よ…
 ふぇ……クシュン!…」
「ま、マヨイさまあっ!」

 今日の修行はダメだな、こりゃ…。
 うう…全部なるほどくんのせいだ。
 ゼッタイ、そうだ。

§ § § § § § § § § § §

 ───5月26日 午前11時30分
    倉院の里・修行の滝

「うーん、なんか久しぶりにここに来た気がするよ、あたし」
 綾里の屋敷から歩いて20分、霊媒師たちが修行に使う滝のそばにある小屋に真宵はいた。
 "修行"というのは、モチロン、滝に打たれて精神を集中することだ。
 お世辞にも豪華とはいえないが、倉院流霊媒術の始祖であるキョウコ様が建てたという由緒ある小屋、だそうだ。
 オール木造の10畳くらいの部屋には替えの装束が何枚かと清潔な手拭いがそろっている。
 脱衣所兼、控え室といったところか。
「真宵さま!お支度はもうおすみですか?」
 小屋の外ではすでに着替えを済ませた彼女の従姉妹、まだ幼い春美がスタンバイしている。
「あ、はみちゃん!ご、ゴメン、すぐ行くねー!」
 春美を待たせていたのに気付き、慌てて着替えをする。
 ここ最近、彼女がいまも助手を務める成歩堂法律事務所での仕事が立て込んでいたため、
 倉院の里に帰ってきたのは一週間ぶりだった。
 『サボっていた分を埋めましょう』と、生真面目な春美が真宵を修行に誘ったのだった。

 するすると手早く着慣れた装束を脱ぎ、小さな胸を隠すブラジャーも形の良いおしりを覆う布も全

部、なんのためらいも無く脱ぎ捨てた。
 ぱりっと糊のきいた真っ白な装束に袖を通したとき、ふと、真宵は自分の太腿の内側に見慣れない

アザが赤く残っているのに気づいた。
(あ…。これって昨日の…、だよね。やっぱり)

 昨日の事。思い出しただけで赤面してしまう。

(あたし、なるほどくんと…
  ……し、しちゃった…んだ……
 なるほどくんの顔があたしの足の間を割って、
 …きゅうっとフトモモに唇が強く吸い付いて……)

 そのとき、春美が勢い良く小屋の扉を開いた。
「真宵さまっ、どうかなさったのですか!?」
「きゃわわわわわぁっ!!! も、もう!はみちゃんったら!」
 呼んでも返事をしない真宵を春美はいぶかしがったのだ。
「…! 真宵さま!熱があるんでしたらワタクシにおっしゃってくれれば良かったのに…
 おカオが真っ赤です」
「い、いいいやいやいや、へ、へーきだよ、これは違うの、はみちゃん、
 あの、その。あ、そうだ、ちょっと久しぶりすぎてキンチョーしちゃってるんだ、あたし。
 滝に打たれてアタマを冷やせばすぐ治っちゃうんだから!」

 春美はちょっと怪訝そうな顔をしていたが、すぐに「さすがは真宵さま!」と笑顔を見せた。
「でも、ゼッタイに無理はなさらないで下さいね。だって…風邪でもお召しになったら”愛しの”なるほどくんが心配しますもの…」
 真宵の心臓が跳ね上がった。
『だから、なんでそこでなるほどくんがでてくるのよう!』
 と思ったが、口には出さなかった。

(うう… でも、確かにアタマ冷やさなきゃなぁ……)

 § § § § § § § § § § §

 五月も終わりとはいえ、うっそうと木の茂った山奥は肌寒い。
 目の前には轟音を上げ続ける滝がある。
 真夏でもきりりと身を切るような冷たさの滝だが、霊媒師にとって滝に打たれることは欠かすことの出来ない修行のひとつである。

 真宵にとっては幼い頃からずっとやってきた修行のはずだが、今日に限って、やけに水が冷たく感じる。
「さ、真宵さま。参りましょう」
 と、春美がちいさな足を滝つぼに踏み入れた。
(はみちゃん、こんなにちいさいのに本当にエライよねぇ… 
 って、はみちゃんくらいのトシのとき、あたしもやってたよね)
 しょうがない。やるしかない。
 真宵も息を止めて、一気に水の中に足を進めた。
「……………!!!」
(つ、つ、冷たい!こんなに冷たかったっけ!?)
 横にいる春美も辛いのだろう、目をつぶり、経文を必死に唱えている。
 清らかで豊富な水が頭を、肩を、身体全体を暴力的に叩いている。
 ぐっしょりと水を含んだ装束に白い肌が透け、重くまとわりつく。

 装束以外には下着すらつけていないため、真宵の胸の先端が尖っているのがあらわになっている。

 すらりと小柄な体型も、へその形も、その下に見えるあわい茂みまで、くっきりと。

 一心不乱に経文を唱えているうち、激しい寒気はおさまってきた。
 かわりに、真宵の身体に残る『昨日の事』の『証拠』が火照りでくっきりと浮かび上がってきた。

(そう、あれは昨日の事だった…)

§ § § § § § § § § § §

 ───5月25日 午後7時20分
    成歩堂法律事務所

真宵ちゃんがここに帰ってきたとき、ぼくは事務所のソファーですっかり眠りこけていた。
連日の法廷疲れに、ぼくは祝賀会を早々に抜け出してきたのだ。
もうすっかり日も落ち、となりのホテルの明かりがうっすらとブラインドの隙間から差し込んでいた。

ぴしっ!
唐突にぼくの頬を何かが打ち、目を覚ました。
「もー。いいかげん起きなよ!なるほどくん!!」
ふくれっつらの真宵ちゃんがぼくの前に立ちはだかっていた。
「……ベツにいいだろ、今回は勝ったんだし」
「ベツによくないよ!風邪ひいちゃうんだから!」
「ふあぁ…。大丈夫だと思うよ、なんとかと弁護士はカゼひかないから」
「勝手にヘンなことわざ作らない!」

でも、言われてみれば、確かに少し寝冷えしたみたいだ。
「…さむい」
「ほら、はやく起きた起きた!帰るよ、もう!」
まだ寝起きの頭はぼんやりしている。
きゃあきゃあ言っている真宵ちゃんをよそに、「手、あったかいなぁ」などと考えたりしていた。
またぼくが眠りの中に落ちようとしていたので、真宵ちゃんもあきれたのか帰るそぶりを見せたが、

とっさになぜかぼくは彼女の手をつかみ返していた。
小柄な身体にびくんと緊張が走った。

さっき叩かれた頬がひりひりと熱を持ってきたので、寝起きのぼくはなんとなく意地悪な気分になっていた。
「真宵ちゃん」
「う、うん…何?」
「男の起こし方ってさ、叩くよりずっといい方法があるんだよ」
腕をつかんだ手に力をこめ、真宵ちゃんをぼくの寝ているソファーに引き倒す。
一応弁解させてもらうと、寝ぼけた勢いでやった軽いイタズラのつもりだった。

向かいのビルの明かりが部屋を薄暗く照らす中、ぼくは強引に真宵ちゃんにキスをした。
当然真宵ちゃんは抵抗したが、こんな細い腕でぼくの手を振り払えるはずがない。
事務所に気まずい静けさが訪れる。
寝ぼけた勢い…果たしてそうだったんだろうか?
ぼくは本当は前からずっとこうしたかったんだ。
真宵ちゃんの唇から熱い吐息がこぼれる。
もうすっかりぼくの目は冴えていた。

事態はかなり切迫していた。
いままで押さえ込んできた感情がむくむくと(それこそ目に見える形で…)ぼくを占めていく。
真宵ちゃん…ゴメン。

ぼくは知っている。きみがぼくに何となく好意のようなものを抱いていることを。
それが恋愛感情かどうかは微妙だが、おそらく真宵ちゃんはぼくを拒まないだろう。…と思う。

罪悪感を感じずにはいられないが、かといって欲望を押しとどめることなど、もう不可能だった。
まだ誰にも触れられたことのないだろう柔らかい唇をついばみ、舐め、その感触を堪能する。
唇の端から唾液がこぼれるのも構わず、ただ求め続けた。
気付けば、ぼくに覆いかぶさった格好になっている真宵ちゃんの身体から、すっかり力が抜けていた。

「ん……ふぁっ…な、なるほどくんっ……」
真宵ちゃんがこんなに甘い声をあげたのを初めて聞いた。
「きょ、今日のなるほどくん…、ヘンだよ、いつものなるほどくんなら…しないよ…こんな事」
「『こんな事』って…どんな?  
  …たとえば、こういう事とか?」
と、真宵ちゃんが下になるように身体を反転させ、目の前にあった耳たぶをやんわりと噛んだ。
「きゃぁっ!」
左手をやや小ぶりのおっぱいに伸ばすと、心臓が壊れそうなほどの激しい鼓動が伝わってくる。
そのまま軽く胸の頂点を爪で引っかくと、布地越しにも乳首が勃起しているのが分かった。

「…真宵ちゃん…乳首感じてるんだ?」
「あ…!やだっ……そんなっ……」
もがく真宵ちゃんの両手を右手ですばやくまとめ上げ、固定する。
身動きが取れないように下半身にまたがっているので、装束の裾がめくれ上がって白い下着があらわ
になる。
へそのあたりにこすり付けられた初めての肉棒の感触におびえているのか、身体がかすかに震えてい
る。

ぼくは装束の帯に手をかけた。
顔を真っ赤にしてなきべそをかいている真宵ちゃんは本当にかわいい。ぼくのペニスはもう痛いほど
勃起していた。真宵ちゃんの泣き顔って本当にかわいいんだ…
蝶結びの端をひっぱると、それはぱらりと簡単にほどけた。

胸のあわせからのぞくブラジャーをずらし、先端をむき出しにする。
彼女自身は千尋さんに比べると幾分小さいその胸に軽くコンプレックスを抱いているらしい。
たまらず、ぼくはまだ成熟しきっていないその乳首に舌を這わせた。
「きゃあ…!ぁんっ」
甲高い声が下半身に響く。

「やっぱり感じてるんじゃないか」
そんな事ない、とでも言いそうなそぶりだったので、ぼくはさらに舌の動きを速めた。
嬌声がひときわ大きくなっていく。
歯で軽く噛みころがしながら、一番敏感な頂点を舌先で摩擦する。
「ほら見て、真宵ちゃん」
「……あ、っ」
唾液でてらてらと光る左の乳首は、まだ触れていない右の乳首に比べて明らかに硬く充血してしこりだっていた。

「どう?…これでもまだ認めないつもりかい?」
わざとあざけるような声色を使って、大きくはない胸の肉をぎゅっと寄せて見せ付ける。
彼女の混乱が手に取るようにわかった。
「ひ、ひどい……なるほどくん…」
「非道い?ぼくが?」

まあ、それは、たしかに。
予想通りに反応してくれる真宵ちゃんの身体を弄んでいると、知らぬ間にぼくは薄笑いまで浮かべて
いたのだった。

汚れるとヘコむのでぼくは一張羅の背広を床に脱ぎ捨てた。
ネクタイをゆるめながらも、手と舌は執拗に乳首を愛撫する。
真宵ちゃんの全身が火照り、しっとりと汗ばんでいる。
すでに抵抗するような気配は無く、ただぼくの手が触れるたびに身体をのけぞらせたり、
控えめに喘いだりしはじめていた。

「ああ…んっ……ぅ」
胸、わき腹、骨盤のあたりと順にすべすべの肌を味わう。
そして、いよいよ雌の匂いのこもった秘所に唇をすべらせた。

すでに下着に愛液が染みをつくり、性器の形がくっきりと浮かび上がっていた。
目の前の筋に下着の上から舌を這わせる。
「あ…真宵ちゃんのここ…すごくいやらしい味がする……」
「…!…うそっ……い…やあっ……!
そんな…そんなハズカしい事言わないでよう…」
割れ目を舌でなぞると、後からどんどん粘液があふれ出してくる。

「パンツ濡れて気持ち悪いだろ?」
「う、うん…」
ぼくは力の抜けた真宵ちゃんの身体を抱え上げ、ソファに座らせた。
湿った下着を足首までずらし、ひざを立たせる。体育座りの格好だ。

愛撫の続きを始めようとするが、ひざを固く閉じてささやかな抵抗をしている。
ふと、真宵ちゃんと目が合った。
羞恥で顔を真っ赤にしながらも瞳は熱っぽくうるんでいて、ちょっとうらめしそうでもあった。
逃げられないように首筋をつかまえて、ぼくはまたキスをした。
ぼくの口のまわりは彼女自身からあふれた蜜で濡れていたが、今度は真宵ちゃんの方からもぼくを求
めてきた。
「…んむ…どう、マヨイちゃんの味がするだろ…」などと調子に乗ったら下唇を噛まれた。
「ばか!!」

ぼくは真宵ちゃんの膝頭に置いた手に力をこめた。
「…もっと気持ちよくさせてあげたいんだけど……いいかな?」
「………。」
「………いいね?」
返事がなかったのを同意と解釈して、もう何もまとっていない秘所に再び顔をうずめる。
ぷっくりとした肉と肉の合わせ目から、かわいらしく充血したクリトリスが自己主張をはじめていた。

すっかり敏感になったそこは、包皮の上から舌でつついただけで十分に快感を与えるようだ。
「…きゃあああ…んっ……あん…」
真宵ちゃんの太ももがぼくの顔をはさみこむ。全身はぴくぴくと痙攣を始めて、そろそろ絶頂が近いことを告げていた。
襞を指で大きく拡げ、舌を尖らせて突き入れる。まだ開ききっていない膣は狭く、奥までは入らない。

中指に愛液をたっぷりと絡めて、ゆっくりと挿入する…
まだ男を受け入れたことの無いそこはやはり狭い。指一本飲み込むのがやっとのようだ。
「ひあ…あああああ…!」
真宵ちゃんの腰が跳ね上がった。
十分濡れた膣内はぼくの指を締め付けながら、奥へと飲み込むようにうごめいている。
…ううん…早くここに指ではなくて怒張しきったペニスを突き入れたい…。
「…あ……いっ… ちょ、ちょっと…痛い…っ…」
「ごめん、…少しだけガマンして…」

肉芽をらせんを描くように親指で撫で、そのままゆっくりと中指で膣内をほぐすようにマッサージする。
「…やあっ……うぁ… ……ぁ…っ…ん」
「……気持ちいい?」
真宵ちゃんは言葉にならないようで、ただこくこくと首を縦に振った。
「…そう…?じゃあ…」
指を抜き差しするスピードを速めながら、唇でクリトリスをしごき、舌で転がす。
「あ、あああああぁ……――――」
ぼくの髪をぎゅっとつかみ、全身をわななかせながら真宵ちゃんが達する。ぼくの顔に飛沫がかかる。
絶頂の余韻で膣はひくひくとおいしそうに痙攣していた。

「真宵ちゃん…ごめん、もう我慢できそうにない…ッ」
ぼくはたまりかねてズボンを下げ、痛いほど勃起したペニスを取り出した。
やっと開放されたそれはぶるんと揺れた。
恥ずかしいほどの量の先走り汁が糸を引いている。
「……え。だっ、駄目だよなるほどくん!!
そんな…そんなに大きいの…絶対ムリだよ、入んないよ…!」
真宵ちゃんが少しあとずさる。見た目以上にその身体は小さく感じた。
男根の先端をひくつくクリトリスにこすりつける。
「……ぁ…!」
真宵ちゃんが息を飲んだ。
ぼくはごくりと喉を鳴らした。

唇で唇をふさぎながら、亀頭で膣口を軽く突付く。
たっぷりなぬめりと熱さが隆々とそそり立つ茎を刺激する。
真宵ちゃんの手がぼくの胸をじたばたと叩くので、ぼくの首に回してしがみつかせた。
自分に対する感情を利用して快楽の道具にしようとしている、という事実がぼくの心を締め付けた。
にもかかわらず、この背徳行為が与える興奮はたとえようもなく、本能は良心を次第に駆逐していく。

真宵ちゃんの腰がじれったそうにもじもじと動いた瞬間、熱い裂け目にぼくの先端がめりこんだ。
「きゃあ…っ……んんーーー!!」
せつないような悲鳴が暗い事務所に響いた。
弾力のある襞が収縮を繰り返しながら敏感な雁首を摩擦する。汗が吹き出る。
硬くこわばった竿が脈打ち、より強い快感を求めようとうずいている。
真宵ちゃんはぼくの髪をつかみ、痛みをこらえていた。
しかし、身動きをするたびに身体の重みでペニスは徐々に深くつきささっていく。

疲れと性欲の溜まったこの状態で、動かずにじっとしているなどと、ほとんど拷問のようだ。
とうとう男根の先端が行き止まりに到達したが、ぼくはもう爆発寸前のところにいた。
繋がったまま真宵ちゃんを抱えなおした。
ソファーに腰掛けるぼくの上に真宵ちゃんの身体をまたがせるように据えると、どさりと座り込んだ勢いでさらに深く突き刺さった。
秘所からこぼれる愛液はぼくの太腿まで濡らしている。
一度絶頂を迎えた襞が痙攣しながら竿に絡み付いていく。
「…ま…よい…ちゃ…ん…、も、もう…だ、出すよっ…!!」
思わず情けない声が漏れてしまう。
「! いやっ……!それ、それって…だ、だめ…」
一気に腰を手で引きつけ、こみ上げる射精感にまかせて猛烈に突きゆさぶった。
「あっ…やだぁ…っ!あッ……抜いて…!よぉ……!!!」
「…く…ぅ…、ご、ゴメン…!!」
真宵ちゃんの顔が真っ赤に上気し、爪をぼくの背中に食い込ませた。
その瞬間、ぼくは真宵ちゃんの中に溜まりに溜まっていた精液を思い切り吐き出した。
ずるりとペニスを引き抜くと、臭気のある粘液が赤く染まった隙間からどろどろとあふれていた。

真宵ちゃんは気を失ったようだった。
いつかこうなってしまうかも知れないと、そんな気がしていた。
「いつものなるほどくんじゃない」そう、君は言ったけれども…。
今日は何度心の中で謝っただろう。
でも、今はただ眠りたい…。
目眩がするほどの激しい眠気に襲われ、ぼくの思考はみるみる飲み込まれていった。


§ § § § § § § § § § §

 ───5月26日 午前11時42分
    成歩堂法律事務所

ぼくが目を覚ましたとき、真宵ちゃんの姿は無かった。
もう高く昇った日の光がブラインドの間を縫って部屋を明るく照らしている。
外は気持ちいいほどの五月晴れだったが、昨日とはどこか違う事務所の空気がぼくを憂鬱にさせた。
どうしてぼくはあんな事を……
色々と頭の中で自分を弁護する言葉をひねり出そうとしたが、なかなかまとまらない。
真宵ちゃんのことを愛しく思っていることだけははっきりしている。
こんな形で想いを遂げたかったわけではない。

ぼくたちは恋人同士ではない。
綾里真宵───。倉院流霊媒術の次期家元で、ぼくの助手だ。亡き千尋さんの妹で…ぼくにとってかけがえのない…
かけがえのない……何だろう?
いくつかの問いかけがむなしく吸い込まれていった。
喉はからからに乾いていたが、ずっとやめていた煙草を久しぶりに吸いたくなった。
まだ上着のポケットに残っていたはずだ。

そこでぼくの思考は中断された。
ぼくの一張羅のスーツがない!
ぼくはYシャツにパンツ一丁という情けなさすぎる格好で途方にくれるしかなかった。
ふと目をやったデスクの上に紙切れが載っている。…真宵ちゃんの字だ。
『スーツ汚れてたので、クリーニング出しときます』

ま、真宵ちゃん……
ありがとう……。

……!?
───ぼくの弁護士バッジも…無い!!!
いつもくっつけていた弁護士バッジ。一緒にクリーニングに出したらしい。
ポケットの中に一緒に入っていた事務所の鍵も見当たらない。鍵のスペアは真宵ちゃんが持っている。
このまま帰るわけにも行かないが、さすがに今日は仕事をする気にもなれない。

「…どうせ、ヒマだし」
ぼくは小さなため息をついて、事務所にある小さな冷蔵庫を開けた。
しかし中にはビールしか入っていなかった。依頼人が報酬とは別にくれたものだが…まぁ、こんな日もいい。
ぼくは引き出しからマジックペンと紙を取り出し、ひとことだけ書いた紙を事務所の入り口に貼った。
『本日、都合により成歩堂法律事務所は臨時休業とさせていただきます』
(どうせやらなきゃいけない事もないし)ひとまずこれでよし。
ぼくらはまた今までのような関係に戻れるだろうか?
真宵ちゃんはぼくを許してくれるだろうか?
次に逢うときにはどんな顔をしたらいいのだろう?

すこし迷ったあと、ため息をついて結局ビールの缶に手を伸ばした。
こびりついた罪悪感はそう簡単には消えそうに無いが、すこしはマシになるだろう。
そうだ。その前にシャワーを浴びよう。
成歩堂龍一が事務所のユニットバスで爪先まで熱いシャワーを浴びているとき、綾里真宵は冷たい滝に打たれて芯から凍えていた。


§ § § § § § § § § § §

───5月26日 午前11時56分
    倉院の里・修行の滝

真宵は昨日の事を思い返していた。
(あそこがじんじん痛い…)
ちらりと自分の太腿に目をやると、成歩堂のつけたキスマークが赤く残っているのが目に入った。
(ち、違う、そーゆーこと考えてたわけじゃないし)
しかし、濡れて透けた装束にはくっきりと情事の跡が、あえて見ようと思えば見て取れる。
隣には春美がいる。万が一ばれたら恥ずかし過ぎて死んじゃうかもしれない…っていうか間違いなく死ぬ。

「真宵さま、今日はなんだか顔色がワルいです。
…まさか、なるほどくんと何か…?ひょっとしてケンカでもなさったのですか…!?」

!!!!?

春美の胸の勾玉の光が強くなった。
ひょっとしたら春美には真宵の心に掛かったサイコ・ロックが見えているのかも知れない。
…って、多分見えてるだろーな。……うう…。
真宵は大きな、それは大きなクシャミをした。

「だだだ、だいじょぶですか真宵さまっ!?」
「ご、ゴメンねはみちゃん…大丈夫、大丈夫…だ…よ…
 ふぇ……クシュン!…」
「ま、マヨイさまあっ!」

(……今日は修行はもう止めよう…)

「ゼッタイ、なるほどくんのせいだ!」
「えぇ!?ややややっぱり…そ、そうなのですかっ!!」
心の中だけで思ってたと思ったのに、口にでてしまっていたらしい。

成歩堂が自分の事を『優先順位NO.1』にしている事は真宵には分かっていた。
(きっとなるほどくんはあたしを汚しちゃったと、傷つけちゃったと思ってるだろうな。でも、あれくらいでなるほどくんの事嫌ったりしないよ)
(そりゃあ、ちょっとびっくりはしたよ、確かに。ただ、あたしだってもうオトナだし。あーゆーコトだって知ってたし)

「はみちゃん、ゴメンね。あたしやっぱり今日はちょっと体調わるいかも。もう上がるね」
まったく修行どころではなくなってしまった。
黙って事務所を出てしまったので成歩堂はひょっとしたら気にしているのかもしれない。
法廷ではあんなに堂々とハッタリをかますくせに、恋愛のことに関すると時々妙にナイーブな顔をみせることがあった。
そばに置いておいたバスタオルをつかみ、水から上がる。タオルは日の光を吸ってぽかぽかと温もっていた。

真宵のおなかがくう、と鳴った。
成歩堂もお腹をすかせているだろう。
いつものように笑ってあげればいいんだ。
またいつものようにいつものラーメン屋に行こう。
(やっぱりあたし、なるほどくんが好き、なのかな…)

更衣室にたどりつくとバカみたいに能天気な着メロが鳴り響いていた。
トノサマン。…なるほどくんだ!真宵の心臓がどきりと高鳴った。
メロディーは2週目のループにはいったところで途切れた。
真宵は震える手で携帯電話を取り上げた。
いつもと同じ、いつもと同じ。
呪文のようにつぶやいて、呼吸を整えて発信ボタンを押す。
1コール。
2コール。
3コール目の途中で繋がった。



何を話したかはよく覚えていない。
とにかく、真宵は街行きの電車に乗っていた。
いつものように、成歩堂法律事務所に行くために。


最終更新:2006年12月13日 07:56