美味しい彼女

 序審裁判制の3日をフルに使った長丁場は、辛くも勝訴で終わった。
 毎度毎度崖っぷちのサイバンだね、ひやひやしたよ!と助手の真宵はひとしきり笑い声を上げたあと、
真面目な顔をしておめでとう、と成歩堂に言った。お祝いをしなきゃね、とも。
 お祝いといえば美味しいもの食べなきゃ、と無邪気に笑いながら言う。その意見は否定することなど不可能だった。
 成歩堂にはめずらしく経済的余裕があったのもあり、いつものみそラーメンのかわりにちょっと贅沢をしてしまおうかと話は進み、
国道沿いの焼肉屋のチェーン店に足を運んだ。
 マニュアルどおりのイントネーションのいらっしゃいませの声を聞きながら、いつかはちゃんとした高級店で食べられるような身分に
なるのだろうかと詮無いことがちらりと成歩堂の頭の片隅をよぎった。
 しかしながらかたわらの真宵はこの状況に充分ご満悦のようで、店内のあちこちからのぼりたつ煙をうっとりと眺めていた。
「お肉、ひさしぶりだなぁ」
「…そんなに感慨深い声で言わなくても」
 可哀想な子に見られるぞ、とこれは心の中でツッコミを留めておいた。
「なるほどくん、こういうときは『焼き肉くらいいつでも食べさせてあげるよ!』って言うもんだよ、オトコノコは」
「そこまでの甲斐性を僕にもとめられてもなぁ。毎月きちんとお給料あげてるだけでなんとか満足してよ」
「ううう。おねーちゃあん、なるほどくんが情けないよぅ」
 おおげさにため息をつきあらぬ虚空を見上げる真宵をはいはいと宥め、店員の指示に従い席へと連れて行き、向かい合う形で座る。
 折りたたまれたメニュー表を渡してやると豪快に机一杯に広げた。
 このほうが一気に見られてみやすいじゃない、という言は確かに正しい。
 ただもうすこしおしとやかとか、女らしさとか、そういった単語の意味を追求して欲しいかもしれない。
「なににする?」
「豚バラでしょ、特製カルビでしょ、牛タンも美味しそう…あ、お肉だけじゃなくてお野菜も欲しいな!
 大根のじゃこサラダとか、美味しそうだよ」
「真宵ちゃん、あのね、今日は二人だけなんだから食べきれる量だけ頼もうよ」
「だーいじょうぶ!あたし、全部食べきっちゃうから。太らないし、安心してなるほどくん」
「…そうだね。きみの胃袋はブラックホールだったね」
 真宵の体型は食べた量に比例することなく、贅肉などかけらも見当たらなかった。
 手足が細いのはいいけれども、成歩堂としてはもう少し付くところにはついてほしいというのが本音である。
 彼女の姉と比較するほうが間違っているのだが、それでも姉妹でここまでの差があるのはいかんともしがたい。
 思わず彼女の胸周りを見てしまう。
 真宵はメニュー選びに夢中になっているので、成歩堂のそんな不躾かつけしからん視線には気づく気配がないようだ。
 安心していたらふいに真宵は成歩堂に視線をよこしてきた。じっとアーモンド形の大きな目に見つめられる。
 まずいばれたかと、内心成歩堂は冷や汗をかく。
「なるほどくんは何にするの?」
「あ?…そだね」
 外食をしにきたものとして当然の問いをふっかけられた。煩悩たっぷりの思索にふけっていた成歩堂は、
とりあえず糾弾の問いかけでなかったことに胸をなでおろすも、ここで不審な対応をしてはいけないと心身ともに引き締めた。
 そう、ピンチの時こそふてぶてしく笑え。
 …いやいや、ここで笑ったらますます怪しい人物だ。彼はなににでもとれるニュートラルな表情を顔に乗せた。
「もう、何をボーっとしてたのよう」
「ごめん。なに食べようか迷っててさ」
「こういうのは、いいなって思った瞬間ぱぱっときめちゃうもんだよ」
「そうだね」
 早く早くと促されて、メニュー表から適当に品を指定する。すいませーん注文おねがいしまーすと大きな声で店員を呼ぶ真宵は、
先ほどの成歩堂の視線に気づいた様子もない。
たぶん、これからやってくる美味しい食べ物への期待が、彼女の注意力を散漫にさせたせいだろう。
 もし相手が鞭少女、はたまたコーヒー男だったら自分に容赦ないツッコミを食らわせて、
いまごろ自分は鞭のアザだらけになるか、コーヒー染みでクリーニング代に泣く事になっているかのどちらかに違いない。
 親友であるところのヒラヒラ検事の場合だったら、あの泣く子をもっと大泣きさせるような眼光で睨みを利かせてくることだろう。



「いっただっきまーす!」
 元気よく乾いた音を立てて手を合わせて、真宵は高らかに食事の宣言をする。
 どんなに腹が空いていても、彼女はいつだっていただきますの挨拶を欠かしたことはない。
「 だって食べ物に失礼だよ!」とくりくりした目で見上げて自分に説くさまは、まるで子供を躾けるかのようだった。
 そんな彼女のしぐさを見るたびに、僕のが年上なのになあ、と成歩堂は苦笑するのだが、そういう時の気分はけっして悪いものでは
なかった。
 くすぐったいような甘いような。大人ぶる子供を見て微笑ましくなる気分とよく似ているかもしれない。
「なるほどくん、こっち焼けてる!はやくとらなきゃ焦げちゃうよ」
「ん。真宵ちゃんタレとろうか」
「じゃあそっちの特製ダレとって。さいしょはこってりいかなきゃね」
「えー、豚バラには塩ダレだろ」
「塩もいいけど、あとあと。大体、その特製ダレだって妥協案だよ?しょうゆベースでしょ?これ。ほんとはみそダレがあるといいのにね。
 今度はみそダレのあるとこにつれてってね」
「焼肉屋を選ぶ基準にタレを持ってくる人はそういないんじゃないかな、真宵ちゃん」
「えー?みそは重要だよ」
「きみはみそがあればなんでもいいのか」
「あはっは、そうかも」
「そのうち目玉焼きにもみそをかけはじめたりしないよね」
「あ!それ新境地だね、美味しそう」
「目玉焼きにしょうゆは譲れないぞ日本人として!」
「きゃ!やだなあ、テーブル叩かないでよ!」
 真宵の言動は不思議なところが多すぎる。でっぱったちょんまげのような奇妙な髪型に包まれた脳には、もっと珍妙な思考が渦巻いているのだ。
 成歩堂は職業病ともあいまって、つい突っ込まずにはいられない。
前にそうこぼしたら、法廷でのツッコミ力を鍛えられていいじゃない、とこれまた的外れな返事をされた。
 そのほか思い出すとさまざまな(主に疲れを誘発する)できごとがぽんぽん出てきてだんだん力が抜けてきたので、
成歩堂は精をつけるべく目の前の焼けた肉に箸をつけた。
 口を開けて放り込むと、最初はタレの香りがして、次にじゅわっと温かい肉汁が溢れる。
 忙殺されてカロリーメイトだのウィダーインゼリーだの、戦うビジネスマン必携携帯食しか口にしていなかった身としては、染み渡るうまさだった。
 ここにビールを流し込むと、それはもう生きててよかった、大人でよかった、としみじみ思えるようになる。
子供のころにはけっして知りえない感動が身を包む。
 向かいの席の真宵も似たような感動を味わっているらしく、目をつむってそれに浸っていた。
 もっとも、彼女の場合はアルコールは抜きだが。
「んまいねぇ…」
 ほうっとため息とともに呟かれたため息には幸せの色が目一杯溶け込んでいた。
 真宵はいつも元気に笑っているイメージがあるが、そんな彼女の笑顔の中でも、美味しいものを食べているときの笑顔は格別だと
成歩堂は密かに思っている。
「さあ、どんどん焼いちゃうからねなるほどくん」
「おー。どんどん食べるといいよ」
 腕まくりせんばかりの勢いで、真宵は焼き網に新たな肉を投入していく。
 カルビ、タン、ホルモン、ハラミ、香ばしいにおいが立ち込めて、食欲を刺激する。
 焼いたものを片っ端から胃袋に収めていく彼女。ぱくぱくと擬音を付けたくなるくらい豪快な食べっぷりだ。
しかし下品というわけではなく、勢いはあるのに食い散らかすという印象は生まれてこなかった。
 彼女の生まれは古い家だから、躾もそれなりに厳しかったのだろうか。
 しっかり噛んで食べなさい。食べてるときにしゃべったらお行儀悪いわよ。幼い彼女がそう姉に言い含められているところを想像して、
微笑ましくてつい頬がほころんだ。
 母代わりとも言える姉の言葉は彼女にとって絶対だっただろう。
 こくんとうなづく小さな真宵の姿は実にかわいらしい想像図だった。そこまで考えて自分に幼女趣味はなかったはずだと成歩堂は思い直す。
 やっぱり目の前の、大人…というほど成長はしていないけれど、かといって全く分別のわからない子供ではない、まさにお年頃の今の真宵が一番好きだと感じる。
 自分の食欲を満たしつつ、真宵の食べっぷりを観察する。
 ふっくらとした唇を開けて、肉をほおばる。うっかり受け止め損ね、口の端から流れ出る肉汁を慌てて布巾で拭う。
脂に濡れた上唇を小さな舌がぺろりと舐めて、充分に咀嚼された口の中身のものが、白い首筋の中を通っていく。
その一瞬、のどが蠢く。また新たに次の一口に取り掛かろうとして口を開けると、真っ白な歯列と赤い舌がちらりと見えた。
 その一連の動きがどうにも刺激的な代物で、思わず成歩堂は唾を飲み込んだ。
 ――いかん、今日はどうも下半身方向に思考が偏る。
 真宵は共に戦う助手であり、大事な師匠の守るべき妹であり、大切な気の合う友人であった。
 しかし最近になって、そこに愛すべき恋人という項目が追加されていた。
 なおかつ裁判で立てこんでここのとこさっぱりそういう雰囲気がなかったのがいけなかったらしい。
 普段なら反応しないようなことにまでセンサーが敏感になっている。
 最初は、食欲にまい進する真宵をみて、素朴にかわいいな、と思っていた程度なのに。
いつの間にかそこに色を含んだ魅力を感じるようになってしまっている。
「どうしたの?食べないならもらっちゃうよ」
「あ、ああ、どうぞ」
 小首をかしげて無邪気に聞いてくる真宵がいっそ憎らしいほどだった。
 男は不便な生き物だなとこっそりため息をついて、とりあえず今は食欲に専念してくれと体に訴えかけるも、
一度ふくらんだ妄想はなかなかやんでくれはしない。
 食べているものが肉、というのがまたまずかったのかもしれない。
 まだせめてラーメンだったら、ここまで淫らには見えなかっただろう。
 そもそも、ラーメン屋だと向かい合うのではなくてカウンターで並んで食べるから、こんなにまじまじと食べる姿を見ることはない。
 しかし、真宵の姿を見られないのは、それはそれで寂しい。
 アンビバレンツに苦しむ一人の男がここにいた。しかし、それを彼女に悟らせてはいけない。男の沽券にかかわるというものだ。
「ね、なるほどくん」
「何?」
 平静に、平静に、と言い聞かせがら、真宵の問いかけにさわやかな笑みを浮かべて見せた。だいじょうぶ。だいじょうぶ。
「今日、なるほどくんの家に行っていい?」
「ぐはっ」
 ………だ、だいじょう…ぶ…………なわけがなかった。酷だ、酷過ぎる。成歩堂はうめいた。どうしてこの子は、こんなバッドタイミングで爆弾発言をかましてくるのか。
 既に成歩堂に余裕の表情を繕うことは不可能になっていた。法廷でも評判の汗ダラダラ姿を晒していることを自覚しながら、這うような声で真宵に問い直す。
「な、なんでかな。真宵ちゃん」
「トノサマンの新作DVDを買ったんだけど、ウチにはプレーヤーがなかったんだよね、うっかりしたことに」
「それうっかりの範囲か!?」
「うん。ほらあたし、そそっかしいからさ」
「そそっかしいで済ます問題でもないと思うんだけど」 
「…だめ?どうしても、見たいんだけどな」
 上目使いで、顔を覗き込まれる。――成歩堂は、真宵のこの仕草にとことん弱かった。だから、
「だ、だめなんかじゃないけどさ」
…などと返事してしまったのである。
「やった!わーいなるほどくん、ふとっぱらー」
 ぱちんと景気よく両手を叩いて、真宵は跳ねんばかりに喜んでいる。それをみて成歩堂は、乾いた笑みを浮かべるだけで精一杯だった。



 付き合っている恋人が、自分の家に来て、風呂を借りる。その後に入れ違いで、自分が入る。
…ここまでのシチュエーションでこの後考えられる展開は一つしか考えられない。
 が、しかし。
「いっけえええトノサマン!そこ、トノサマンスピアだよ!」
 風呂に入っている成歩堂の耳には、そんな期待を吹き飛ばす実に威勢のよい声が聞こえてくるのだった。
「そこだ、ひねって攻撃をかわして…やったああああ!!」
 ぱちぱちぱち…と拍手まで聞こえてきた。成歩堂には、たかが子供向けの特撮番組にどうしてそこまで熱中できるのか、
まるで理解できない。
 楽しそうな真宵は見ていて心地いいものだけど、自分を相手にしてくれないことには全く意味がないのだ。
 子供向け番組のヒーロー相手に負けるのかと思うと、ぶくぶくと湯船に沈んでしまいそうな自分がいる。
そんな自分に渇をいれながら、成歩堂は温まった体を湯船から起こした。
 浴室の扉を開けると、くぐもって聞こえていたトノサマンのBGMがクリアになって耳に入ってくる。
ちょうど、エンディングロールが流れているところのようだ。
「あー、燃えたね!すっきりした!」
 手早くパジャマを身に着けて居間をのぞいてみれば、真宵がやはりパジャマ姿でぐったりと伸びていた。
「真宵ちゃん、DVD終わったらちゃんと電源落としといてよ」
「わかってるよう、なるほどくんてば電気代もやばいんだね」
「そーだよ。どーせ赤貧弁護士だよ」
 くす、と笑う真宵に、成歩堂はふて腐れた返事をする。大人気ないとわかっているが、それでも面白くない。
自分をほっといて、別のことに集中する真宵。こっちの気持ちなんてわかってくれやしないんだ。
 そんなふうに子どもっぽくいじける自分が、たまらなくいやだった。こんな日はさっさと寝てしまうに限る。
 寝れば、妙なことを考えずにすむから。
 戸締りとガスの確認をして、居間のソファーにもたれこむ真宵のところへいく。
「真宵ちゃん、僕そこで寝るからさ、真宵ちゃんは僕のベッド行ってくれる?」
「え」
 真宵はきょとん、とした顔で見上げてきた。
「やだなあ、なるほどくんてば」
「なにが?……て、わ!?」
 見下ろしていた真宵の顔が急に近づいてきた。それは彼女が立ち上がったせいだったのだが…
 気づくと、首に腕がまわされて、唇に柔らかい感触がした。
 一瞬だけの触れ合い、そしてはなれてみれば、赤い顔の彼女がいる。
「……女の子から、こんなことやらせないでよね。なるほどくん」
 恥じ入る気持ちを押し込めた、小さく細い声。赤らめた頬に、潤んだ瞳。
 急激に展開した色事に目が白黒する。信じられない成歩堂は、情けなくも真宵に問う。
「で、でも真宵ちゃん、トノサマン目当てで僕んちに来たんじゃ」
「もうっ!そんなの、ストレートにいえるわけないじゃないっ。なるほどくんてば、デリカシーないよ!」
「ごめん!」
 ぷいっと横を向かれて慌てて成歩堂は真宵を抱きすくめた。途端に鼻先をかすめる、シャンプーの香り。
風呂上りのため、真宵の長い髪はそのまま流れて、さらさらと気持ちのよい感触が腰にまわした手にからみつく。
「歯、ちゃんと磨いてなかったら怒るよ?」
「それはだいじょうぶだから」 
「ならよし。焼肉のにおいのキスなんて、ムードぶち壊しだもんね!」
 ベッドに入る前に子供向け番組に夢中になってるのはいいムードとはいえないんじゃなかろうかと成歩堂は思ったが、
黙っていることにした。
 これ以上、彼女の機嫌を損ねるのは愚策の極みというものである。
 ベッドに下ろして、ゆっくりと覆いかぶさった。一瞬だけ視線を絡めて、あとはお互いに吸い寄せられるように唇を重ねあう。
先ほど真宵が仕掛けてきたような、軽い触れ合いではとても満足できなかった。角度を変えながら、少しずつ攻めてゆく。
「はぁ…んんっ」
 酸素を求め一瞬開いた口の隙を逃さずに舌を侵入させた。びく、と真宵の体が震えるのを感じたが、それは嫌がっているからではなく、
ただ単にびっくりしただけのこと。
 それが証拠に、真宵は拙いながらも一生懸命に舌を絡ませようとしてくる。
その動きを優しく受け止め、かつより性感を煽るように、舌先に神経を集中させた。
 ちゅ、ちゅ、と唾液の混ざり合う小さな音。体を重ねている当人同士でしか聞こえない、ひそやかな秘め事の象徴だった。
「…ぷはぁ……はぁ……」
 やっと唇を離されて、真宵は酸素を求めるように大きくを口を開けた。目の潤みはますます増して、成歩堂をぼんやりと見上げている。
「キスって、むずかしいよねぇ…すぐ、息あがっちゃうもん」
「鼻から息吸わなきゃ、そりゃ苦しいって」
「う、でも、舌も動かさなきゃ…って思うと、息するの忘れちゃうんだよ」
「あはは」
 真剣な顔で頬を膨らませる真宵が、おかしくもあり、いとおしくもあった。胸にきゅうっとこみあげる温かいものを感じながら、
成歩堂は真宵の首筋に唇をよせ、かるく吸い上げた。
「あんっ…」
 白い肌に薄くうっ血の跡が付くさまは、壮絶に色っぽい。調子に乗って場所を変えて付けていく。
そのあいだ、両手で胸に触ることも忘れない。真宵の乳房は、成歩堂の大きな手のひらにすっぽり収まってしまうサイズだ。
全体を揉み解すように刺激を与えてやると、いやいやと首を振るのが見えた。
「あ、…や、やだよう……そんな、……あん…」
「何言ってんの、乳首立たせてるじゃないか」
「ひゃん!」
 かわいらしくたちあがりかかってる桃色の突起を弾いてやると、流石に効いたのか軽く眉をしかめて睨みつけられた。
もっとも、目のまわりを赤くさせて睨まれても、まったくもって効かないのだが。
「あたしのおっぱい、ちっちゃいのに…楽しくないでしょ?」
「そんなことないってば。こんなに気持ちよくなってくれるおっぱいなら、大きさなんて関係ないよ」
 先ほどの焼肉屋でもう少し成長してくれれば、などと思っていたことはおくびにも出さず、成歩堂は真宵に微笑んだ。
すこし、意地悪な色を含ませて。
「真宵ちゃんだって、ほんとは揉まれるの好きなくせに」
「そ、そんなことないよっ」
「じゃ、なんで、そんな気持ちよさそうな顔してるの?」
「え…あ……あぅう」
 ぷしゅう、と音が聞こえるかと思うくらいに、真宵の顔が真っ赤に染まった。かわいいなぁなどとのんきに思う。
成歩堂は親指と人指し指で乳首を軽く摘み上げて引っ張ったり、逆に押しつぶしたり、を繰り返す。
指を押し返してくる適度な弾力が気持ちいい。
 こみ上げてくる性感を散らすように身じろぎをする真宵。先ほどの子どもらしさなどすっかり影をひそめてしまっていた。
 その些細な動きの一つ一つが、しっとりとした女の香りを放っている。
「やぁ……じんじんするぅ…」
「痛い?じゃ、もっと柔らかいので触るね」
「え、ちょ、…ふあ…!あ、やぁ、……ああ……だめぇ………」
 乳輪ごとべろっと大きく舐めた後、乳首に吸い付いた。
 最初は軽く、徐々に音を立てて吸ってやると、真宵の体が小刻みに震えだした。
切れ切れの喘ぎ声が濃密な空気に溶け込んで、耳に心地よく響く。
 もっといじめてみたい、そんな不埒な欲求が成歩堂の体を駆け巡る。
 空いた片手を胸から脇腹と撫で滑らせて、下腹部と届かせる。薄い茂みを指でかき分けて、中の襞に指を埋め込ませた。
「きゃああああああああああ!」
中指でクリトリスを探し当て、軽くこすりあげてやると一際高い悲鳴があがる。
「あん、も、…やだ、そこぉ……」
 そこはもう既にうっすらと水気を帯びていた。やじゃないだろ、とからかってやりたかったが、いかんせん口はまだ乳首を弄んでいる真っ最中だ。舌先と指先で、それぞれの肉の感触を存分に味わう。
「はぁ、はぁ、…やぁ……も、おかしくなるぅ……なるほどくん……」
 たっぷりの色と潤みを含んだ、甘えた声。思わず顔を上げて真宵の顔を覗き込めば、羞恥と快楽に引き裂かれ、その合間に漂い喘ぐ牝の表情がそこにある。
 ――ああ、美味しそうだ。
 成歩堂は無意識にわいていた生唾をごくりと飲み込んだ。
「すっごくイヤラシイ顔してるよ」
「やだぁ……なるほどくんが、へんなこと、するせいでしょ……」
「へんなこと、ってどんなこと?こう?」
「ぁああ!!」
 クリトリスをいじっていた指を、一本だけ膣口に差し入れた。ぎゅうと締め付けてくる。そのくせ、もっともっとと誘い込むように、奥の襞は妖しく蠢いて異物を取り込もうとしている。
「はぁ……やあ…んっ……あ、あ、…」
 その動きに従って、奥へ奥へと指を進めて、Gスポットに達したところで指を曲げてやると、膣全体が収縮して指を包み込んだ。
「すごいね、真宵ちゃんのココ。僕の指を離してくれないよ?」
「ふぅううう……あん……もぉ……」
「そんなに睨まないでよ。真宵ちゃんだってキモチイイだろ」
「…」
「違うの?じゃあやめちゃおっかな」
「や、やだぁ!」
 ずるりと指を引き抜こうとすると、真宵は目を見開いて首を振った。
「やめてぇ……抜かないで、もっとぉ……」
「……はは、ずいぶんえっちな子になっちゃったよね。真宵ちゃん」 
「うん……だって、なるほどくんとしてると、ぁあん!……きもちいいんだもん…」
 うっとりと細められた目の奥に、優しい光がともっていた。子どもっぽい彼女が時折見せる、ひどく大人びた姿の片鱗がそこにある。 
「ね、だから。欲しいな、なるほどくんが……ねぇ……きて……」
 ―――ここで断れる男がいたら心底お目にかかりたい、と成歩堂は思った。
 こちらがからかっているつもりだったのに、いつの間にか彼女に取り込まれそうな勢いだ。
これだからこの子は油断ならない、と内心舌を巻く思いだった。
 避妊具をつける間も惜しく、成歩堂はすっかり準備万端だったペニスを、ピンク色の割れ目にあてがった。
ぢゅ、と濡れた音がして、ずぶずぶと先端を飲み込ませていく。
「ン……あ、きてる…」
「痛くない?」
「ん……ちょっと、きついけど…へいき、だ、よぅ……」
 小柄な真宵は、当然ながらその部分も人より狭かった。痛みもあるだろうに、健気にも耐えて男を受け入れている。
そんな彼女に、どうしようもないいとしさがこみ上げてきた。
 なんとかすべてを収めて、おたがい大きく息を吐いた。そのようすがなんだかおかしくて、成歩堂と真宵は目を見合わせてくすくすと笑いあう。さざなみのような快感の予感が繋がった箇所からひろがっていく。
「…動くね」
「うん…あ、あ、はあぁあああああ!」
 真宵の細い腰をもちあげて、軽く揺さぶって動かすと、弾かれたように大きな声が彼女の口から飛び出した。
狭くて、熱い。柔らかく弾力にあふれる膣の肉が、ペニス全体を包み込み、たたえようのない快感が成歩堂の脳髄を突き抜ける。
自分だけ気持ちよくなるのは反則だから、と先ほど指で散々刺激したスポットをカリ首で抉る。
「い、いいよぉ…そこ、きもち、いい…!ああ、も、ぁぁぁああああ!!」
「真宵ちゃん、真宵ちゃん!」
「なるほどくぅん…」
 どちらからともなく、本能に突き動かされて唇を重ねた。お互いの間に空気が入るのが許せないくらい、ぴったりと密着させあう。
真宵の小さな体の中で跳ねる心臓の鼓動が、肌から直接伝わってきた。あたたかい。確かにそこにいる真宵の存在を感じる。
 下半身の動きを激しくしていくと、真宵が苦しそうに成歩堂の背中を叩いた。
そういえばキスの最中に呼吸できないんだっけかと、さきほどの台詞を思い出して、唇を離す。
「ひゃあ、ひぃ、あああ!あ、あぁぁぁん!」
 眦からぽろぽろ滴を零しながら、真宵は可愛い声を張り上げている。ただ、その表情に苦しさや痛みは感じ取れない。
擦れあうペニスに、愛液が大量に分泌されて絡みつくのがわかる。真宵は大分感じてきてくれているようだ。
「っ、真宵ちゃん、どんな感じ…?」
「う、うん、すごい、なか、いっぱいいっぱいって感じ…も、だめぇ…とんじゃいそ…」
「とんじゃいな、気持ちいいよ」
「でもぉ、怖い、こわいよう!」
 ふるふると首を振りながら、真宵は成歩堂をじいっと見上げた。熱と快感に浮かされて、蕩けた表情でしがみついてくる。
「大丈夫、僕がしっかり捕まえててあげるから…さ、…ほら」
「お願い、なるほどくん………あ、きてるっ…も、イイ、いいよぉ…いっちゃう、いっちゃうぅぅぅ!!」
「ぅううっ…すご、しめつけ…やば、僕もイキそ…」
「なるほどくんっ……いっしょ、いっしょに、ねぇ、」
「うん……」
 潤んだ瞳に見上げられて懇願されると、なんでも言うことを聞きたくなってしまう錯覚に陥ってしまう。
 成歩堂は懸命にタイミングを合わせる。己の持つテクニックと集中力を結集させて、真宵の中に、最後の駄目押しの一撃をくわえ、
「…っ…ぅくぅ…ぁあぁぁぁああああああああ!!」
「…くっ…!」
 背中を仰け反らせて達する真宵の中に、薄い膜越しの精液を放った。



「ここでゴムをきゅっと縛って…完了!よっし、後始末終わり!」
「ちゃんとゴミ箱に捨て終わったら後始末完了だよ…」
「えー、でも、なんかもったいないよ」 
 情交後の疲れもどこへやら、真宵はいつもの元気そのものの姿で、使用済み避妊具を弄んでいる。
 成歩堂にしてみれば、自分の出したモノをいつまでもまざまざと見せ付けられるのは妙に恥ずかしいのでやめてもらいたいのだが、
真宵は「このたぷたぷした感触が楽しいよねえ」などと無邪気に笑っているので、もうどうでもいいかと言う気分になってきてしまう。
 結局のところ、この台風のような彼女に、逆らえるわけがないのだ。
「適当なトコで捨ててね。あ、いつもみたいに投げたりしないで、ちゃんとゴミ箱のとこまでいって捨てるんだよ」
「めんどくさいよー、なげちゃえば一発じゃない」
「もうすこし自分のノーコンっぷりを自覚してくれよ。いっつも僕があらためて捨ててるじゃないか」
「うふふ、ごめんね」
 呆れ声に流石に感じるものがあったらしい。真宵は素直にベッドから下りて、きちんと処理をしにいった。
 長くさらりとした真宵の後ろ髪が歩く速度にあわせて揺れている。その動きが妙になまめかしかった。
そうだ、次はバックからしてみたいな、などと馬鹿なことをとりとめもなく思う。
 ベッドに戻ってきた真宵を、自分の横に優しく引き入れる。もぞもぞと体勢を整えたところで、前髪をかきあげて額にキスを落とす。
真宵が、くすぐったそうに目を細めるのがわかった。 

「おやすみ、真宵ちゃん」
「おやすみ、なるほどくん。またあしたね」
最終更新:2006年12月12日 21:57