開花


御剣はこの数日間苦悩していた。
お互い初体験であったとは言え、避妊もせずに真宵と交わりを持ち、妊娠の恐怖を後に味わう事になってしまったのだ。
当の真宵は
「だいじょぶだいじょぶ♪」
等とあっけらかんとしていたが、この先の行為でクリティカルヒットしてしまうかも知れない。
しかし御剣は避妊具の正しい装着法が判らなかった。
一度薬局で購入し、説明書をじっくりと読みながら装着を試みたが、どうやっても入らない。
生来の不器用さで装着出来ないのでは無かった。御剣が普通サイズのモノの持ち主ならば、幾ら不器用でも装着が可能であっただろう。
問題は、御剣の持ち物であった。
よくもまあ処女の真宵に挿入が出来たな、と謂わんばかりの代物である。恐らく外国人が勃起時の御剣を見れば「OH!UTAMARO!!」等と叫んでしまうかも知れない。
しかし御剣はこれが一般男性の普通サイズと勘違いしていた。更に薬局で購入した避妊具が普通サイズの男性にも多少きつめの『う○う○』であった事も間違いの一つであった。
客観的に自分のサイズを理解していれば迷わずLLサイズの避妊具を購入すべきであったが、残念な事に御剣はLLサイズの避妊具の存在すら知らなかったのである。
かなりの時間を費やし御剣が思い付いた結論――。

成歩堂に、相談する。

その様な苦悩を相談出来る友人が成歩堂だけ、という事に御剣の人付き合いの無さが伺える。
矢張の事も一応脳裏には浮かんだが、アイツだけは駄目だと御剣は頭を振って相談相手から敢えて除外していた。

一方真宵はと言うと、ここ数日間下半身の痛みに耐えつつ成歩堂の助手を務めていた。
正直な所、歩行するだけで股間に何かが挟まっている様な違和感と苦痛が未だに感じられ、
『ホントにオンナになっちゃったんだなー…。』
と実感し、少女には戻れない寂しさと一つ大人になった満足感を併せ持っていた。
真宵は処女喪失した後、やはり多少女らしさが生まれていた。
今までは全くのノーメイクであったが、女になった次の日から桜色のグロスを口元に引くようにする事にした。紅ではなくグロスである所が真宵らしい。
真宵には妊娠の可能性に対する恐怖は無かった。初めての性交の刺激のせいか、翌日には月経が訪れたのだ。周期的にはほんの少し早く来た、といった具合であった。
御剣が妊娠について心配していたが、この分だと妊娠はほぼ無いと言っても良いだろう。
流石に御剣に『生理来たから!』とは恥ずかしくて言えない真宵は月経に関しては黙っていた。

御剣が意を決して成歩堂の携帯に連絡を取ったのは、執務がようやく落ち着いた夜更けであった。
一応帰宅の準備を整え、いつ成歩堂の自宅マンションに押し掛けても良い様にしつつ御剣は今夜の相談相手に携帯を掛けた。

「…もしもし。御剣、何時だと思ってるんだよ…。」
携帯で叩き起こされた成歩堂は不満気であった。
「ム…、済まない。今ようやくこちらの仕事が片付いた所なのだ。」
「で、何の用事?大体は判る様な感じなんだけどね。」
「…悪いが、深刻な相談なのだ…聞いてはくれないか…?無論、謝礼もする。」
「うーん、まあ礼なんかは要らないから、家に来いよ。ボクもお前に聞きたい事があるから。」
「うム、本当に済まない…。」
電話口の御剣は本当に済まなさそうな表情をしていた。

電話での会話の30分程度後に、御剣は成歩堂の自宅に着いた。
手ぶらも何だからと途中でコンビニに立ち寄り購入したペットボトルの緑茶とスナック菓子を片手に、御剣は成歩堂の部屋を訪れた。
「来たか。まあ上がれよ。散らかってるけどさ。」
成歩堂の乱雑に物が積み重なっている部屋に御剣が入ると、
「真宵ちゃんの事だろ?」
と成歩堂から早速ツッコミが入った。
御剣が
「う…うム、流石だな成歩堂…何故君はいつも的確な発言が出来るのだ…。」
と苦虫を噛み潰した様な表情をした。
「だってボクだって真宵ちゃんに何があったのか位は判るよ。で、お前が抱いたのか?」
「うム…。」
御剣が赤面しながら頷いた。
「真宵ちゃん、ここ何日か可哀想だったぞ。歩くのも大変そうだった。普通そんなの三日も経てば慣れるモンらしいけど、真宵ちゃん未だに座るのも痛がってる。」
成歩堂が御剣からの差し入れの緑茶をグラスに注ぎながら言う。
「ム…そんなに酷い状況なのか?私には大丈夫としか言ってはくれなかったが…。」
「それよりも御剣、お前きちんと避妊したか?」
またもや成歩堂が御剣の核心に触れる発言をした。
「そ、そうなのだ成歩堂!それが問題なのだ!」
「?」
慌てふためく御剣に、成歩堂はキョトンとしながらグラスの緑茶を飲んでいた。まあ御剣の事だから
避妊具の買い置き位はしているだろう、と思っていた所に、御剣が重大発言をする。
「…入らないのだ…。いやその、初めてだったから避妊具を持っていなくて、そのまま行為に及んでしまったが、どうにか無事終了した…と、思う。しかし、後日いざと言う時の為に練習で避妊具を装着しようとしたら、どうやっても装着出来ないのだ!」
「…はあ?着け方間違って、とかじゃないの?」
「いや!私は説明書通りに装着しようとした!だが…入らないのだ!」
興奮気味の御剣の発言に、成歩堂は飲んでいた緑茶を噴いた。
(どんなんだよ、御剣のナニは…。)
かつておぼろ橋を渡った後の時の様な緑色な顔色になりながら、成歩堂は御剣に
「…あの、聞くけどさぁ、御剣の勃起時って大きさどの位…?」
と力無く質問すると、
「ム、普通だと思うのだが…大体太さが私の手首程度で、長さは…そうだな、30センチには満たない位か。」
と照れながら御剣は答えた。
「何だその凶器は!それ普通じゃないぞ御剣!」
顔色を深緑に悪化させた成歩堂が『異議あり!』と言わんばかりに指先を御剣の顔に突き付けた。
心の底から真宵に同情しつつ、成歩堂はツッコミを続ける。
「日本人の成人男性の平均は約13.5センチ位だぞ!普通それでも初めての女の子は苦痛を感じる!それなのにお前って奴は…!」
「そ、そうなのか…?どうしよう成歩堂!真宵くんが私との交際を次から拒否して来たら、私は生きては行けぬ!」
すっかり真宵に溺れ切った御剣が悲惨な表情で成歩堂に泣き付いて来た。
御剣の狼狽振りに多少落ち着きを取り戻した成歩堂が取り合えず今後の為の知識を教えてやる事になってしまった様である。
「まず、真宵ちゃんに痛い目を見せたくないなら、アダルトグッズの店でローションを買え。そうだな…そこならお前のサイズに合ったゴムも置いてあるだろうから、忘れず買えよ。」
「ロ、ローションとは何だ?」
「…簡単に言うと潤滑剤だよ。それを使うだけでも真宵ちゃんの負担がぐんと軽くなる。」
御剣は急いで鞄から手帳を取り出し、必死にメモし始めた。
「それに、お前のサイズだと普通のコンドームは使えないだろうから、今度きちんとサイズを測ってLLサイズ辺りを買っとけ。…それと、最後に一つ。」
「な、何だ?出来る限りの事はする!」
「真宵ちゃんの機嫌を十分取っておく事をオススメする。」

一方真宵は、月経痛の為早目に床に就いていた。
そんな時でも頭の中は御剣の事で一杯であった。
『まだ痛いけど、何だか嬉しいな…。今度連絡が着いたら、きちんと生理の事も説明しなきゃ…。うー、でもでも恥ずかし過ぎるっっ!』
等と御剣の苦悩を知らず、布団の中で軽くジタバタと健康的に悶えていた。
しかし真宵は知らない。
もしも御剣が一般的なサイズであったならば、その痛みはとっくに無くなっていた筈である事を。
そして、実際には膣口が破瓜では無い裂傷を起こしている事を。

 

御剣は成歩堂の助言を元に、アダルトグッズ専門店に訪れた。
地元ではまずいからとネットで片道一時間程度離れた郊外の老舗らしき店舗を検索し、取り敢えず目的の商品を購入したらすぐにその店から出る…筈であった。
しかし、御剣が思っている程アダルトショップは甘くは無かった。
淫猥な形の大小様々なディルドー、バイブ、その他諸々が所狭しと並ぶ店内で、御剣の様なある意味初心者にとってはローション一つ探すのも恥ずかしく困難な作業であった。
きちんと陳列棚に
『手動でアノ娘に!』
『太さがちょっぴり物足りない時の…極太!』
『後ろも可愛がって♪』
等と法に触れない程度の表示がされていたが、御剣には何の事やらさっぱり訳が判らない。
無論ローションが陳列されている棚にも
『ぬめぬめ~ん♪ぬるぬる~ん♪』
ときちんと表示はあった。だが、そこからが問題であった。
郊外だからこその品揃えに、御剣は圧倒されていた。何しろ『老舗』である。半端ではない種類のローションがずらりと並んでいたのである。
「な、何だこの種類の豊富さは…!私はどれを選択すべきなのか…!」
御剣が驚嘆の声を漏らした。量も色も様々、ましてや香りや味付きの物もあり、御剣を軽い混乱に
陥れていた。かと言って店員に質問する訳にもいかず、店員も客に懇切丁寧に声を掛ける事も無い。
御剣はふ、と目に付いたワインレッドのボトルを手に取り、説明書きをちらりと見た。
『ストロベリーの香りと味をお二人に♪』
と書かれてあり、御丁寧に『賞味期限』まで打たれている。
味はともかく御剣はその色が気に入ったらしく、二本手に取った。
次は避妊具である。これも又品揃えが凄まじかった。LLサイズだけでも薄さ、色、と事細かく分別されており、店主の拘りがひしひしと伝わってくる。まさに漢の仕事であった。
御剣はここでは迷う事無く適正サイズのレッドを二ダース手に取った。つくづく赤が好きな男である。
ここまで来ると変な度胸が付いてしまい、店内の珍奇な商品を眺める余裕も出て来たらしく、御剣は店舗の奥の一区画に目をやった。
『本格派!医療器具!』
と、表示には書かれてあった。非常にメジャーな聴診器から、現時点の御剣にはどう使用するのか皆目見当も付かない金属製、ガラス製の器具から様々並んでいる。
物珍しさと、ここなら羞恥を覚えなくて済むと御剣は様々な器具を眺め、ある事に気付いた。
『そう言えば、私はお医者さんごっこなるモノをした事が無い…。』
御剣は幼い頃から頭脳面では早熟であったが、性的には未だ未熟と言わざるを得ない。
だが、その甘美な響きには多少憧れていた。そこで手にしたのが、一見アダルトグッズには見えない
聴診器であった。どうやら実際に医療現場で使用されている物らしい。が、値段も手頃である。
ついでに、と御剣は聴診器も購入する事にした。

御剣が真宵に連絡を取ったのは、丁度真宵の裂傷が癒えた頃であった。真宵も御剣からの連絡を心待ちにしていたらしく、携帯を数コールも鳴らさない内に取っていた。

「もしもし、あ、あのあの、みつるぎ…検事…。」
「真宵くん、連絡が遅くなって済まなかった。…その、体調はどうかね…?」
「今はもう大丈夫…です。お電話、すっごく嬉しいです!」
「丁度日曜に休みが取れたのだが、土曜の夜辺りから…逢えると有難い。」
「はい…。あたしも、逢いたいです…。」
「そう言って貰えて非常に嬉しい。…その、今何か食べたい物はあるかね?」
「えーっと、○○亭のみそラーメンが今の一番のお気に入りです!」
「ム、私と一緒に行かないか?無論御馳走しよう。」
「わぁ、いいんですか!もう今からヨダレ出ちゃってます!」
「君がそこまで言うのならば、さぞかし絶品だろう。土曜には迎えに行く。」
「じゃあじゃあ、ベツバラのベツバラまで空っぽにして、待ってますね!」
「うム、では決定だな。では私はこれから仕事に戻る。お互い頑張ろう。」
想像していた痛々しさが真宵からはすっかり消えていた事に安堵し、御剣は携帯を切って執務を再開した。

金曜の午後、成歩堂弁護士事務所に大き目の紙袋を持って矢張が飛び込んで来た。
何やらいつもよりもニヤニヤしている矢張に、成歩堂が不信感を持ちつつ
「又何かやらかしたのか?」
と訊くと、ニヤニヤ度を増して矢張が
「いやあ、オレ今度カノジョと同棲する事になってさぁ!んで、独身カノジョ無しのお前にちょっと預かっててもらいたいのよ!」
と成歩堂に紙袋を無理矢理押し付けた。中にはぎっしりとDVDが詰まっている。
「これ…何のDVD?」
成歩堂が妙な予感を強く感じながら矢張に問う。ケースにも入ってない、単なるスリーブに入ったDVDには番号だけが振られていて、怪しさ全開であった。
矢張は真宵に聞かれない様、成歩堂の耳元で
「オレ様秘蔵の裏モノだぜ♪まっ、お前も観てみろよ♪」
と囁いた。成歩堂の咽喉がごくりと音を立てたが、流石に自分の事務所で即上映会とはいかない。
成歩堂も矢張にこっそりと囁く。
「判った、一応預かってやるよ…。全く…。」
「んじゃま、ヨロシクな♪」
矢張は成歩堂の肩をぽん、と軽く叩いた。成歩堂は口調では渋々引き受けたかの様に聞かせていたが久々に新鮮なオカズゲェェェェット!な表情をしてしまい、
「何だかお前無茶苦茶嬉しそうじゃん♪」
と矢張に突っ込まれ、慌てて顔の筋肉をを引き締めた。
しかし、二人共実物大の女の恐ろしさを知らなかった様である。真宵はデ○ル○ンも裸足で逃げ出す地獄耳で全てを聞いていたのだ。
成歩堂が矢張を見送りついでにトイレに行った隙に、真宵はこっそり紙袋の中身を一枚だけ取り出して袂に隠し、バレない様に成歩堂がトイレから出て来るタイミングを見計らってコーヒーを出した。
「あ、有難う。アイツが来ると嵐の予感、しない?」
成歩堂が呑気にコーヒーを啜りながら真宵に問い掛けると、
「う…うん!ヤッパリさんって何だかいつもバタバタしてるよね!」
等と白々しく真宵は答えた。

真宵は一枚のDVDを入手してから後悔していた。
『これ…つい取っちゃったけど…どうしよう…。何か一人で観るのが怖い…。』
心の中で好奇心と恐怖が絡み合っている。確かに一度、御剣には抱かれた。しかしその時は男性自身をまじまじと見た訳では無く、御剣のリードに任せて初体験を迎えただけに過ぎなかった。
だが、DVDにはそれを露にした男女が記録されている。
一応真宵も性器の形状は学校の保健体育の時間に学習していたが、実物の記録に対しては及び腰になっていた。自分自身を鏡で見る事すら躊躇われるのに、他人の性器である。一人で観る事はどうしても出来なかった。
真宵は暫く悶々と悩んでいたが、突然ピンと頭の中に突破口が見えた。
『そうだ!みつるぎ検事と一緒に観れば…!』
多少短絡的な思考ではあるが、真宵の現状ではその答えしか思い浮かばなかった。

そして、土曜の夜が来た。
御剣が派手な赤い車で待ち合わせ場所に着くと、既に真宵は到着していた。
お互い改めて顔を合わせると初体験の夜を思い出し、二人共林檎の様に赤面してしまった。
「…ム、久し振りだな…真宵くん…。」
「あ…は、はい、お、お久し振りです…。」
もじもじと真宵が返事をすると、御剣は
「その…まあ、立ち話もナニだし、取り敢えず車に乗りたまえ。」
と助手席のドアを開き、真宵を座らせた。
「ベツバラとやらは空かせて来てくれたのか?」
御剣が運転席に着き、車を発進させながら真宵に問う。
『良かった、いつものみつるぎ検事っぽいや。』
真宵はそう感じ、いつもの元気を取り戻しつつ
「はい!ペコペコです!」
と腹部を擦りながら答えた。丁度良いタイミングで真宵の腹の虫が『キュウ』と可愛く鳴り、二人はくすくすと笑い合った。一駅分程度先の○○亭に着くまでの短い時間、笑いが止まる事は無かった。

食事の後二人共すっかり満腹になり、○○亭を出て少しドライブする事になった。
「真宵くん…その細い身体のどこにあれだけの麺を収納出来るのだ?」
「みつるぎ検事だって凄かったじゃないですか!」
等と、再会した当初とはうってかわってかなり和やかな雰囲気で会話が弾んでいる。
ウィンドウを少しだけ開き、火照った頬に夜風を当てると非常に心地良かった。
そんな時、御剣がぽつりと
「…今日も、その、期待して…良いのか?」
と真宵に訊いた。
「は、はい…。」
真宵がこくりと小さく頷いた。

マンションに到着し、二人はぎこちなく車から降りた。御剣はマンション入口の自動ドアをカードキーで開きながら、真宵に向かって大きな手を差し出した。真宵はやや俯き加減になりつつその手をぎゅっと握った。変にエスコート慣れしている御剣がその手をそっと自分の肘に移動させ、腕を組ませる。エレベーターから降りて御剣の部屋に入るまではずっとその姿勢が保たれ、真宵は何だか微妙にくすぐったい気分になっていた。
しかし御剣は自宅に帰るや否や、いきなり真宵を横抱きに抱え上げて
「やはり、軽いな…。」
と囁きながらそのまま寝室に連れて行こうとした。御剣の大胆な行動に驚いた真宵が
「まっ、待って待って!ちょっと待って下さい!」
と軽く抗い、勢い余って御剣の腕から盛大に落下して尻餅をついた。
「痛~いっっっ!」
「あ、ああ、済まなかった…。つい、興奮して…。」
御剣は今までのスムーズに事が運んで行っていた展開からすっと醒め、おろおろと本気でうろたえ真宵の身体を心配し始めた。
「う~、もう、みつるぎ検事ってば~!」
「いや、その…本当に、済まん…。そ、そうだ!酷く痛む部分はどこだ?腰は打っていないか?」
「…お尻、しこたま打っちゃいましたよ。あいたたた…。」
真宵は御剣の肩を支えにしてよろよろと立ち上がり、尾骶骨の辺りを擦っていた。派手に落下したがそれ程大した打ち身等は無かったのが救いであった。
しかし心配性の御剣が
「君はソファに横になってくれ!一応冷やさねば!」
と冷凍庫からロックアイスを出してビニール袋に移し、更にそれをタオルに包んで真宵の臀部に軽く押し当てた。この場合、適切な処置であった。
「う、冷たいです…。」
真宵が氷の冷たさにもぞもぞ動く。その度御剣は
「こら、余り動いてはいかん!」
と叱りつつ、真宵の頭を余った片方の手で撫でていた。
そんな間抜けな状態の真っ最中、御剣の膝に何か触れる物があった。真宵の頭からそっと手を離して足元を探ると、ソファから垂れている真宵の装束の袂に何かが入っているのが判る。
「ム…?これは、何だ…?」
「あ!それは…!」
一緒に観ようと思っていた裏DVDです、等とは言えず真宵は赤面して口篭った。

赤面している真宵を見ている時、御剣は不意に先日購入して来たローション等が頭に浮かんだ。
真宵さえOKを出せばそのまま寝室で使用するつもりであった為、ベッドの上に包装も解かず置いてあった事を思い出したのだ。御剣も先程の大胆さはどこに行ってしまったのか、真宵の方が心配してしまう程顔色を紅潮させた。
「…みつるぎ検事、大丈夫ですか…?」
「ム、君こそ…。いや、恐らく私も君も同じ状態なのかも知れない…。」
「ひょっとして…何かエッチな秘密隠してるとか…?」
真宵はそう発言して、しまった!と慌てて口を閉じたが、後の祭りであった。
偶然とは言え誘導尋問になっていた御剣の呟きに、まんまと乗せられてしまったのだ。
「ム、君も、その…エッチな秘密とやらを…持っているのか…?」
「え、あのあの、そのぅ…。」
「質問に答えてくれないか…?答えなければ、無理矢理暴きそうだ…。」
御剣はそう言いながら真宵の顎をくいっと指で持ち上げ、強引な体勢で口付けた。
「んっ…むーっ、むーっ!」
今日は最初から舌を絡め、吸い取られて真宵は驚き呻いた。声を出そうにも御剣が口を舌で塞ぎ、声にならない。たったキス一つで虚ろになって行く。
「んっ、んっ…んっ!」
「答えて、くれるか…?」
真宵からやっと唇を離した御剣が囁くと、真宵は多少ふらつきながら起き上がり
「これ…ヤッパリさんがなるほどくんとこに持って来た、エッチなDVD…。」
と袂からDVDを取り出して御剣に渡した。

DVDの再生が始まると、二人の目は点になった。
まず、いきなりフェラチオのシーンが唐突に始まったのだ。
「…こんな事しなきゃいけないんだ、あの松茸みたいなのに…。」
「な、何故あの様に色素が沈着しているのだ…。黒い、黒過ぎる…!」
率直な意見がつい口に出た。二人はこのDVD自体が違法な物であるにも拘らず、食い入る様な目で見入っていた…思わず、正座しながら。
男優の性器アップシーンで、真宵が
「うわぁ…松茸に、松茸に血管が…。」
と呟き、御剣が
「うろたえてはいけないぞ真宵くん…っ!」
と励ます。それまで二人が盛り上げて来たエロ&ラブムードが一気にスポ根&コミカルムードに変化していった。
TV画面が切り替わり、無駄に乳が大きなAV女優が登場した。バスルームでシャワーを浴び、呑気に鼻歌を歌っている。そこに先程の男優が仲間らしき者を三人連れて現れた。合計四人が女優を囲み、各々が手にしていたローションを女優に塗し始める。御剣はこのシーンで、購入して来たローションの使用法の一つを学んだ。
ローションに塗れ、男達に愛撫される女優は最初くすぐったそうにけたけた笑っていたが、性感帯を刺激され続け、明るかった笑い声を喘ぎに変化させていった。
「な…何かすっごくエッチ…。」
真宵がほうっと溜息を付くと、御剣が
「うム…い、いや、もうこれ以上観ない方が良い!き、切るぞ!」
と慌ててDVDプレイヤーの停止ボタンを押した。

DVDの再生を中断した後、二人の間に僅かな静寂が訪れた。しかしそれを払拭するかの様に
御剣が冗談めかして
「…その、まあ…私の身体はあれ程汚くは無い…と思う。安心してくれたまえ。」
と真宵から眼を逸らし、囁いた。真宵はそんな御剣の照れた顔を潤んだ瞳で覗き込みながら
「あ…みつるぎ検事…何だか可愛いかも…。」
等と御剣が更に照れてしまう様な発言をする。御剣はこういった真宵の言葉の一つ一つが
自身の反応を昂ぶらせる事に気付き、尚一層興奮していた。
真宵自身もかなりの興奮に身を包まれていて、御剣の拳をそっと掌で擦った。事実上
OKのサインを出したも同然であった。
暗黙の了解で二人はそっと口付け合った。だが今日は勝手が違っていた。御剣と真宵が深い口付けを
行っている際に、真宵の上体がくにゃりと力を失い、御剣にもたれ掛かる様に抱き締められた。
「どうした真宵くん!体調でも悪いのか?」
「ち…違うんです…さっきの興奮で、身体に力が入らなくて…。」
潤み過ぎた瞳が真宵の興奮具合を如実に表していた。DVDのお陰か、この状況では御剣が
望んでいた、寝室への連れ込みが可能になっていたのだ。
御剣は好機とばかりに再び真宵の身体を横抱きに抱え、今度こそ寝室に辿り着いた。
ここで、購入して来た聴診器の出番が来た。
真宵をそっとベッドに寝かせ、ローション等が入った黒い袋から聴診器を取り出しつつ御剣は
「君の鼓動を聞かせてくれたまえ。興奮しているのならば脈も速いだろう。」
と真宵に聴診器を見せた。真宵は
「あ、お医者さんごっこですね…じゃあじゃあ、最初はみつるぎ検事で、次あたし♪」
等と言いながら笑みを浮かべた。
御剣はベッドに横たわった真宵の装束の合わせ目からするりと聴診器のヘッド部分を差し入れ、
心音を聞く為に左胸の辺りを弄った。確かに真宵の心音は興奮の為か早鐘を打っている。
その心音が御剣にはどんな音楽を聴くよりも甘美であった。だがいつまでも聴いていたくとも
次のステップに進まなければ事は始まらない。御剣は
「多少脈が早い様だ…。薬を出すから、きちんと舐めなければいかんぞ…。」
と袋からローションを取り出して自分の指に塗り付け、真宵の口元にそれを差し出した。
真宵は疑いもせずに御剣の指を口に含み、味付きのローションを舐め取っていった。
粘度はともかく、甘い味のローションを気に入ったらしく、真宵は御剣の指を一生懸命
舐め続けた。御剣はこれが指でなく自身であったならば…と想像し、興奮からか自身を
スラックスの中でひくつかせた。
「じゃあじゃあ、今度はあたしがお医者さんの番しますね♪」
多少緊張感の解れた真宵がむくりと起き上がり、御剣が装着していた聴診器を半ば強引に取り上げ、
御剣のシャツのボタンを外し、左胸に聴診器を押し当てた。
「うっわー、みつるぎ検事って脈早いですねー…あ、そうだ!」
真宵は頭の中にピンと先程のDVDの『血管松茸』にヒントを得たらしく、聴診器のヘッドを
御剣の股間に押し付けた。
「ま、真宵くん…そんなはしたない真似をしては駄目だ…!」
御剣が興奮冷めやらぬ口調で真宵を叱るが、真宵はお構い無しに御剣の幹に聴診器を当てて
「ドクドクいってて凄い…!松茸って凄い!時々動くし!」
と嬉しそうに御剣の奏でる旋律に耳を傾けていた。


御剣は真宵から聴診器を取り上げ、再び深く口付けながら装束の帯を解いて真宵を下着姿にした。
そして先程袋から取り出したローションを持って二人はバスルームに移動した。
「ここってお風呂ですよね?…さっきの寝室で、あんな事するんじゃ…?」
「いや、あそこは最後の行為の時に使用するが、ここは互いの身体をもっと知る為に使う。」
と御剣が脱衣所で真宵を全裸にする。ブラジャーのホックを外すのに時間は掛かったが、最後の
一枚を脱がせるのは容易であった。それに伴い御剣も全裸になって、浴室に入った。
「私の物は男優の色とは違うだろう?」
羞恥を抑えながら御剣は自分の性器を真宵に見せた。
「…はい、凄く色が綺麗です!でも、サイズが違う様な…。」
「人それぞれサイズが違うらしい…。だが、大は小を兼ねるとも言う。さあ、次は君の番だ。」
御剣は真宵に性器を見せるよう促した。真宵はバスチェアに浅く座り、羞恥に肌を桃色に染めながら
おずおずと両脚を開き、性器を露出させた。その足元に御剣が入り込み、真宵の秘所を指で
優しく開きながら
「…美しいピンク色だな…。生身の女性自身は初めて見るが、君はこんな場所まで美しいのか…。」
と舌先で真宵自身を舐め上げた。
御剣は真宵をバスチェアから降ろし、未だ乾いているタイルの上に寝かせると真宵自身を刺激
し続けた。指で、唇で、舌で真宵の潤いを掬い取っては味わう。
「や…やあぁ…んあっ…うあっ…。」
快感を覚え始めた真宵が甘い声で呻く。その時、御剣が顔を真宵から離し、真宵の身体に突然
シャワーで温水を掛けた。
「…?」
うっとりと快感に浸っていた真宵がいぶかしみながら御剣を見ると、御剣はワインレッドの
ローションを手に取り、真宵の身体に塗し始めた。ぬるぬるとした感触が真宵の身体を更に
敏感にさせる。先程のDVDの女優と同じ様なシチュエーションになっていた。
御剣は真宵の小振りな乳房、脇腹、秘所に念入りに愛撫し、ぬめりを帯びさせていく。真宵は
その感触とシチュエーションに酔いながらも人差し指を噛んでこれ以上声を上げない様に堪えた。
その最中に御剣が真宵の中に中指を挿入した。
「いやぁ…みつるぎ…検事…そんな事、もう…!」
「ここで耐えてくれねば、最後まで辿り着けないぞ…?もう少しだけ、耐えてくれ…。」
互いに中断は本意ではない。真宵は膣口の違和感に耐えてみる事にした。
御剣の指が一本増やされ、真宵の中に御剣の人差し指と中指が入った。御剣は真宵の中で柔らかく
指を動かしてみる。膣壁が強い弾力で御剣の指をぎゅうと締め付けて離さなかった。
御剣は親指で真宵の陰核を軽く刺激しながら又挿入する指を増やし、真宵を拡げる。その時真宵が
「お願い…みつるぎ検事…抱き締めて…。」
と哀願した。


御剣は真宵の身体を抱きながら、秘所がもっと拡がる様に指を使っていた。ローション塗れで
抱き合う二人はさながら軟体動物の交尾の様に美しかった。
と、その時真宵の反応が変化した。御剣を抱く腕に力が入り、喘ぎを高めてきたのだ。膣口の締まりは
強くなったが、膣壁が先程よりも柔軟性を持ち、拡がりをみせてきた。
「あっあっ、もう駄目、何か変、変…!あああ…っ!!」
真宵は掠れた様な喘ぎ声を上げながら小柄な身体をびくびくと震わせ、初めての絶頂を迎えた。
「真宵くん…もしかして、いってくれたのか…?」
「…は、はい…そうみたい…。無茶苦茶気持ち良くて、訳が判らなくなって…。」
羞恥でもじもじとしている真宵が一層愛しくなり、御剣は真宵の身体を力強く抱き締めた。無論
挿入していた指は抜き取っている。
ローションが乾燥してきた事と、拡がった真宵の身体の事を考慮して御剣はシャワーの温水で
二人のぬめりを洗い流し、タオルで水分を拭き取ると真宵を連れて寝室に戻った。これから本当に
互いが繋がる時であった。
真宵がベッドに横たわり、御剣を待つ。御剣はその間購入してきたLLサイズのコンドームを装着し
予備に買ってきていたローションを真宵と自身に塗り付け、準備は整った。御剣の引き締まった
身体が小柄な真宵の上に被さり、深く口付けながら侵入していく。先日の初体験の時とは
うってかわって、侵入は容易であった。
「うっ…くっ…。」
流石に未だ多少残る苦痛に堪えながら真宵が呻いたが、先程の拡張と絶頂の余韻で裂傷を負う事は
無かった。ただただ御剣の圧迫感に身を任せ、ひとつになれる幸福感を御剣ごと抱いて真宵は
一粒だけ涙を流した。
御剣も初体験の時とは全く異なった感覚に身を震わせていた。コンドームを装着していたが、自身に
まとわりつき、締め上げ、蠢く真宵の内部に感じ、必死になって腰を律動させる。先程からの
興奮のせいで御剣は欲を吐き出さずにはいられなかった。
「い、い…いく、真宵くん…いく…!」
御剣は深く深く真宵を穿ちながらも抱き締め、欲を噴出した。
流石にコンドームを装着したまま繋がっている訳にもいかず、御剣は名残惜しげに真宵から自身を
抜き取った。事後処理をする為ベッドに腰掛け、コンドームをずるりと外している時に背後から真宵が
抱き付き、背中の汗をぺろりと舐めてきた。
「こ、こら、背中はくすぐったいからやめたまえ!」
「ヤダ。もっと舐めちゃうもん♪」
等とぺろぺろと御剣の首筋を舐めた。そんな真宵を愛しく思いつつ、御剣は自分の処理が終わった為
「又一緒にシャワーを浴びなければな。君の身体をじっくりと洗ってあげよう。」
と珍しくにこやかに微笑みながら後ろを振り返ると、真宵は
「う…そう言えばあそこが気持ち悪い…。洗って下さい!」
と難しそうな表情をして、慌ててベッドから降り、御剣を急かした。
やれやれと御剣が立ち上がり、全裸で真宵をエスコートしながらバスルームに向かった。

最終更新:2020年06月09日 17:52