夏の蝉の五月蝿い、午後の事である。

「ああ、冥。」
「わざわざこんな暑い日に来させてまで…そんなに重要な事件の資料でもあるの?」
明らかに苛立っている彼女をまあまあ、と宥め成歩堂は彼女をソファーへと
座らせた。
「安っぽいソファー…。」
「…知ってる。」
いつもと変わらず、高慢な態度で此方を睨みつけてくるが
話す内容が内容なのでその目にすら愛情が湧いてくる。
正直言うと、服装にも僅かな期待をしていた。
いつも見る服じゃなくて良いですよ!!と念を押していた。
彼女は違う服こそ着てきたが、真夏と言うのにキャミソールの上には
薄手の長袖カーディガンを羽織り、下はパンツスタイルだった。
一言で表すと、完全防備、が丁度良い。思わず、溜息を吐いた
「服って冥が決めてるの?」
「服とかにはあまり興味が無いから、たまにレイジと行って
 買ってくる位よ。結局彼が決めるし…って論点をずらさないで。」
あの過保護兄気取りめ、と心中で毒づいた。

「事件の資料と言うか、まあ、お願いがあって。」
「お願い? 狩魔は嘘は嫌いよ。」
「嘘については謝るよ。でもまあ、これも重要な事でして。」
「…また変な事をしたら、許さない。今日は鞭だって忘れずに持って…あれ?」
また――と言う言葉の通り、前科がある。
二人は互いに相思相愛の状態にあったが、それから一向に進展は無く、
むしろ度重なる他人からの邪魔によって後退している様な気がした。
例えば、真宵ちゃんがタイミング悪く事務所内に入って来たり、
御剣の冥に対する過保護なまでの親愛などである。
しかも彼女もまた初めてとあって、決心するまでに時間を要すのだった。
成歩堂も男である。そう何度も邪魔され、良い雰囲気と言うのに
前戯にすら到達しないと言うのは我慢の限界であった。だから
先日、酔った勢いとは言え、彼女を押し倒してしまったのだ。
しかし自分はまるでその事の記憶が無い。
証拠として冥の首筋につけられた痕を見せてもらったのだが
自分がそこまで溜まっているとは…とそれ以降焦っている。

今度こそ本当に犯罪沙汰を起こし、被告席に立つ羽目になるかもしれない、と。
そして彼女を呼んだ訳だった。

「鞭、忘れたみたいですね。」
「まま待ちなさい、成歩堂龍一。えと…痛いんでしょう…それは。」
「それ、とは何でしょう。」
「今更、畏まった様な敬語を使わないで!」
「論点をずらさないでくれるかな? 冥? それって何?」
冥は自分の言った言葉を反芻され顔を赤くした。
ああ、可愛いなあ。…真宵ちゃんが言ってた つんでれ って奴は
きっと彼女にぴったりと当て嵌まるのだろう。
「意地が悪い…。」
「知ってるよ。」
嫌々と、首を横に振る彼女をソファーに押し倒して、首筋を甘噛みしてやった。
初めての体験に冥は体を強張らせている。強そうにしていても
18歳の処女である事に変わりは無い。
「最初、痛いのは仕方ない。でも僕に任せてくれ。」
「ぅ…ん。」
頼りなさそうに冥は返事をした。その声から分かるように
もう拒絶をするつもりは無いようなので、ほっとする。
口では嫌がっていたが、彼女も一応はこうなるであろう事を予測し、
心構えをして来ていたのだろう。

恥ずかしそうにする彼女の服を脱がせると、思わず冥の身体に
釘付けになった。
普段の完全防備の時とのギャップが大き過ぎたのか
予想以上に彼女は艶っぽく、美しかった。
フランス人形の様な…いや、それ以上か。
「や…そんなに、見ないで」
「ああ、ごめんごめん。あんまりにも綺麗だったから。」
恥ずかしさに言葉を無くす彼女の頭を優しく撫で、口付け、
少しでも彼女の緊張を解す事に専念した。

最終更新:2020年06月09日 17:52