成歩堂×千尋(in 春美)③

今日の法廷の興奮も冷めないままに、僕は事務所の椅子に腰を下ろして
まるで自分に聞かせるような深く大きなため息をついた。
数時間前まで身体の中に蠢いていた不安と恐怖がその息に乗って
僕の身体から出ていく。
「でも良かった………本当に」
誰に聞かせるともなくそう呟いて、僕はすでに電気の消えている隣の部屋へと目を向けた。
その先からは気持ち良さそうな寝息が規則正しいリズムで聞こえてきている。
今隣の部屋では、2日ぶりの食事をお腹いっぱいに詰めこんだ真宵ちゃんと、
今日一日ずっと法廷内で僕の隣についていてくれた春美ちゃん、
それにある意味大活躍だったイトノコ刑事が眠りについていることだろう。
1つの部屋に若い女の子とゴツい男性を押しこむのは少し気が引けたものの、
3人ともよほど疲れていたのか僕の心配など全く意にせず夢の世界へ飛び立ったようだ。
「真宵ちゃん……」
裁判が終わってから、彼女はいつもの可愛らしい顔をやつれさせて
僕の胸に跳び込んで来た。手に取った真宵ちゃんの腕は温かく、
それは紛れもなく彼女が”生きている”という証拠で、それを感じ取った瞬間に
周りの人達が望んで止まなかった唯一の正しい結末を、
自分は掴み取れたということを実感したんだ…。

「ぐぉぉぉ、ぐぉぉぉぉぉぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ………んが」
………イトノコ刑事も今日は必死に走りまわってくれたなぁ。
すごいイビキが彼の疲れの度合いを現してくれてるよ。
ぎしっと椅子の背もたれを鳴らして、僕は白い天井を見上げた。
気怠く感じる心地良い疲れが身体を包み込んでくる。
だけど僕は、今一時この心地良さを感じていたかった。
カタン……。
「?」
小さな物音が聞こえると同時に、僕はその方向へ目をやった。
大きな栗色の瞳が2つ、僕を見つめている。
「春美ちゃん」
「あ、なるほどくん。まだ眠らないのですか?」
とてとてと小股で春美ちゃんは僕へ近づくと、愛らしい顔で僕を見上げた。
「今日の裁判を思い出すと、まだ眠れそうにないよ……ははは」
そこで言葉を切って、僕は改めて春美ちゃんに向き直った。
「春美ちゃんも今日はお疲れさま。身体、大丈夫かい?」
そう言うと彼女は少し眉を下げて、照れ臭そうに口を開く。
「いえ、わたくしは何もしていませんから」
「……千尋さんにもお礼を言わなくちゃいけないな」
そう、今日の法廷で僕の隣で何度もアドバイスしてくれたのは、
春美ちゃんの身体を借りた千尋さん……僕の上司だ。
不幸にも若くして故人となってしまったが、まだまだ弁護士として未熟な僕に
真宵ちゃんや春美ちゃんの身体を借りていろいろ助言をしてくれる。
彼女はこの世を去った今でも至らない僕を心配して、
弁護士としての”駆け引き”をあの世から教授してくれるんだ…。
「なるほどくん!」
僕がそんなことを考えていると、驚きと怒りが混ざったような声で
春美ちゃんが僕に問いかけてきた。
「なるほどくんは、まだ千尋さまにお礼が済んでいないのですかッ!?」
「え? あぁ、えっと……ほら、千尋さん急に帰っちゃったから…」
「いけませんッッ!!」
春美ちゃんは白く細い腕をまくって見せて、
『怒っちゃいますよ!?』とでも言いたげにぷうと頬を膨らませている。
「ご、ごめん」
「ちょっと待っててください! まだ寝ちゃだめですからねッ!」
そう言い放つと春美ちゃんは僕のデスクの上からペンとメモ用紙を一枚
引ったくるように取ると、何やらごそごそと書きこんでから
たたた……ともといた部屋へ駆け込んで行った。
僕が呆気に取られて春美ちゃんの消えたその先を見つめていると、
数分もせずに薄暗いその部屋から再び彼女が姿を現した。
いや、彼女と呼ぶのは正確じゃない。服装こそ同じだけど、そこにいたのは
成熟した身体に春美ちゃんの巫女装束を苦しそうに着込む『僕の上司』だったから…。

「千尋さん!」
僕の呼びかけにわずかに口許を緩ませて、千尋さんはこちらへ歩いてくる。
春美ちゃんのような可愛らしい歩き方ではなく、上品で凛とした歩き方。
確かに千尋さん、彼女に他ならない。
「なるほどくん、私に話って?」
「え?」
いきなり浴びせられた疑問に僕が目を見開いていると、
千尋さんは手にもっていたメモ用紙を僕に示した。
そこには丸く可愛らしい文字で、
『なるほどくんからおはなしがあるそうです』
と書かれている。たぶん春美ちゃんの字だろう。
「あ、いえ、お話というほどのことでもないんですけど…」
「なにかしら?」
「ただ、今日助けてくれたお礼を言いたかったんですよねぇ…ははは」

千尋さんに悪いと思いつつ、僕は乾いた笑いを返すしかなかった。
そんな僕の肩に小さな掌をぽんと乗せて、
「私は何もしていないわ。今日の結果は、全てなるほどくん自身の力よ」
と、千尋さんは僕を労うように優しく呟く。
「えぇ? そ、そうですかねぇ……」
何とも照れ臭い空気が漂っている。
慣れていないせいか、どうも人に誉められるのは得意じゃないんだよな…。
「お礼を言うのは私の方だわ。なるほどくん、真宵を助けてくれて本当にありがとう」
そう言う千尋さんの口調はとても穏やかで、僕は照れからなのか
少し熱く感じる顔を上げて彼女を見ようと…

どどーーん!
「おゥッ!!」

した途中、ずどんと張り出している千尋さんの胸の辺りで
無情にも僕の視線は捕らえられてしまった。

春美ちゃんの衣装では千尋さんの豊かすぎる身体は
覆いきれないみたいで(そりゃそうだよな)、
彼女の見事なまでのふくよかなバストが僕の目の前に突き出されていた。
思えば千尋さんと会う時はいつも非常時だったため、
ゆっくりと彼女を見る余裕なんてなかったから意識しないでいれたけど、
こうして改めて見てみると、犯罪的なまでに魅力ある乳房だった。
むく。
「(ま、まずい……!)」
ここ最近相手をしていないからなのか、
僕の股間が水を得た魚のように自己主張を始め出した……!
むくむくむくむくむくむくむくむくむく!!
「わぁ!」
「ど、どうしたの!? なるほどくん!」
意識してしまうと現金なもので、僕の股間は全身から血液を集約して
瞬く間に大きく、硬く肥大していく。
ここ数日の疲れも手伝ってか、そこには今まで見たことのないぐらいの
立派なテントを建てて誇らしげに天井を向く息子が存在していた。
「驚かさないで、なるほどくん。何なの? 一体」
「………」
聞こえる………。
僕は真っ直ぐ伸びてくる自分の股間を凝視した。

『ダサセテクレヨー オシゴト オワッタンダロ?』

きっと幻聴以外の何ものでもないのだろうけど、
それは確かに『僕の息子』の叫びだった。
「くっ……」
何もこんな状況で訴えてこなくてもいいのに……
いや、こんな状況だからこそ、なのか。
目の前には生前と同じ、凛として、それでいて温かい雰囲気を持つ千尋さん。
しかしその身体はまるで異性を誘っているかのように胸元を開いた装束で覆われている。

これが春美ちゃんならさして何も感じないのに、
着ている人が変わるだけでこんなにあぶない衣装になるなんて……!
「な、なるほどくん、気分が悪いの? 息が荒いわよ?」
「そそれが、そのぉ……」
どうしよう。
確かに千尋さんには今まで困った時必ずと言っていいほど
面倒を見てもらっていたけど、いくらなんでもシモの事情までは無理だろう。
それに何より、僕が恥ずかしい。
「何? なるほどくんが言いよどむなんて、らしくないわね。
 言いたいことがあるのならハッキリ言いなさい!」
バン!と勢いよくデスクを叩いて、千尋さんはキッと目線を向けてくる。
言うのか……?
そうだよ、これは男の生理なんだから仕方ないんだ。
極度に疲れた時は自らの意志に関係なく股間が大きくなることがあるんだ。
決して千尋さんに欲情したとか、そういうことではない。
ないと思う。ないんじゃないかな。ないといいなぁ。
「なるほどくん、さあ」
「……では、言います……!」

僕は椅子を引いて、身体を千尋さんの正面に向けた。
やや足を開き気味にして、その真中にそびえるテントを見せつけるように。
案の定、千尋さんの視線は明らかに異常を訴えているそこで止まった。
「あら……?なるほどくん、これは……」
「これはっ! ここ数日間の緊張と疲れからきた『疲れマラ』です!
 僕がいきなり様子がおかしくなったのはコイツのせいなんですっ!!」
千尋さんが言い終わる前に、僕は全てを説明しようと試みた。
誤解される前に、今の僕の状況を正当化しなければ……!
僕は立ちあがり、呆気に取られている千尋さんになお言葉を続けた。
「男性の下半身は時に、主の意志とは関係なく変化します!
 今回のこのケースはあくまでそのうちの1つなのです!」
「は、はぁ……」
「決して千尋さんのそのムネを見て欲情したなんてことはなく、
 ようやく一連の事件を終えたという安心感からきたと推測される、
 已む無きことなんです!」
僕は火照る顔を必死にふりまいて、法廷さながらにあることないことを突きつけてみた。
も、もしかしたら僕の意見に賛同して、
あんなコトやこんなコトも……いやいやいや。
千尋さんは僕の勢いにやや怯んでいるように見えて、
僕の表情と今だ強固なテントを保っている股間に視線を漂わせていた。
やがて千尋さんは僕の顔を視界に捕らえたまま
その大きな胸を乗せるように腕を組んで、
わずかに口許を崩してから静かに口を開いた。
「……ふぅん。それでその勃起は通常のものとどう違うの?」
「は?」
「だから、それを直す手段を聞いてるの。そのままだと落ち着いて話もできないでしょ?」
「はぁ……そ、そうですね……」
僕は成熟した肉体を前にしてズボンの中でビクビクと脈打つモノを見下ろし、
こみ上がってきた照れに頭を掻きながら苦笑した。
「えぇと、いやぁ、特に変わらないんですけど。
 溜まったものを吐き出せば収まると思います、ええ」
「そう。なら、トイレででも吐き出してきたら?」
そう言って千尋さんはふふふ、と可笑しそうに笑みを浮かべた。

どこか小馬鹿にされたような感覚が僕を包み込む。
「うっ……」
まぁ、そりゃそうだな。
千尋さんにお相手してもらおうなんてそんな都合のいい考え…
「だって、なるほどくんは『私のムネを見て欲情した』んじゃないんでしょう?
 なら私には何の責任もないじゃない?」
「………ん?」
千尋さんの言い方にどこか違和感を感じた僕は、彼女の眼をじっと見据えた。
愉快そうでいて、しかしその中にまるで僕を誘うような妖しい光を携えて、
千尋さんは見つめ返してくる。
「………も、もし……ち、千尋さんに責任があるとしたら?」
掌に浮かぶ脂汗を握りつぶすように拳をつくって、僕は千尋さんに問い掛けた。
「そうね……その時は、責任を取らなければいけないのかしら?」
僕はその一言にトイレに向かいかけた足を止めた。
今まででも一番大きな恥ずかしさの波が襲い掛かってくる中、
意を決して僕は千尋さんに告げた。
「……じ、実はこの原因は千尋さん!あなたなんです!」
「どうして? それは『疲れマラ』だって、さっきなるほどくんが自分で言ったのよ?」
「確かにその通りです………しかし、その『疲れマラ』を引き起こした原因は
 実は他でもない、千尋さん……あなたのその、ふくよかすぎるムネだったんです!」
ここまで来たら、もう後には引けない!
押して押して、押しまくるのみだ!
勝ち取るんだ……そして、千尋さんに責任を取ってもらうんだ!
強い意志を宿した眼で彼女の表情を捕らえ、
僕はこの世でもあまりお目にかかることのできないであろう、
その美しくたわわに実った2つの果実を指差した。
「さっきと言っていることが違うじゃない…
 『ムネを見て欲情した』んじゃないんでしょう?」
「本当は千尋さんの『ムネを見て欲情した』んです!悪いですかッ!?」
「な、なるほどくん……開き直らないでよ……」
「さぁッ!!千尋さんが原因で、僕の股間は悲鳴を上げていますッ!
  どうしますかっ、千尋さん!」

僕は再び椅子に腰を下ろして、千尋さんの前に息子を差し出すように両足を開いた。
「……すごく、みっともないわよ……なるほどくん……」
「そんなことは百も承知です!でもここまでしたんですから、
 もう千尋さんに面倒見てもらうまで引けません!」
「め、面倒って……あのね」
千尋さんは眉をハの字に曲げて、何とも形容し難い表情をしている。
いや、ここまでやって負けたら僕の息子も浮かばれないぞ!
ほら、もっと動け!ここで主張せずに、いつ主張するんだ!
ピク! ピク!
僕はまだ自由の効くモノの根元の筋肉をわずかに動かして、竿そのものを操作する。
もぞもぞとズボンの中で這いまわるそれは、千尋さんの目にどう映ったんだろうか……。
「もう、そんな駄々っ子みたいなこと言って…………………、仕方ないわね」
千尋さんはそう言っておもむろに僕の足元に腰を下ろした。
優しい指遣いが股間を一撫ですると同時に、僕の息子は大袈裟に反応を示す。
「うっ!」
「なるほどくんは私にどうしてほしいの……?」
僕の顔を覗き見ながら、千尋さんはジッパーをゆっくりと焦らすように下げていく。
千尋さんの顔がまるで真宵ちゃんのような、いたずらっこのような表情に見える。
薄紫色の巫女装束を押し上げている胸元、豊かすぎるためできたその深い谷間に
僕の視線は釘付けになる。
「千尋さんの胸で! そのイヤらしい大きな胸でしてくださいッ!」
「いやらしいって……失礼ね」
勢いだけで言った僕のその言葉に千尋さんの眉がかすかに歪む。
まずい!せっかくここまでこぎつけたのに……!
「あ! いや、そういうことではなくてですね!
 イヤらしく感じるほどに魅力的ということで!」
「『イヤらしく感じるほどに魅力的』……?それって、誉められているのかしら?」
「も、もちろんですともッ!!」
問答の間に、千尋さんはごそごそ開いた窓から手を差し入れ僕のモノを捕らえると、
そっと大事に外気へ導いてくれた。
「こんなに大きくして。なるほどくん、『疲れマラ』ってすごいのね」

待ち侘びていた時がついにやってきた、とばかりに
曝け出された僕のモノが千尋さんの眼前で元気良く跳ねる。
あまりに元気の良いそれが可笑しいのか、
千尋さんはフフッと笑って胸元をさらに大きく開いた。
「うッ!」
さらりとはだかれた布地の中から、
真っ白な肌にその実をまとい見事なまでに育った乳房が
その全貌を僕に見せつけてくれる。
豊満な実りの先端に位置するピンクの突起はアンバランスに感じるほどに小さかったが、
形の美しさとどこか卑猥な艶やかさで充分に存在感を示していた。
「あまりじろじろ見ちゃダメよ、なるほどくん」
「へ? あ、す、すみません」
さすがに千尋さんでも異性にじろじろ身体を見られるのは
恥ずかしいのかも知れないな。
本人がイヤというのなら、見るのはやめよう。できるだけ。
「さて……胸で、か。なるほどくんも男の子だったのね。
 私が生きている間はそんな素振り少しも見せなかったのに」
「そ、そうですかね?」
いや、あの頃もちらちら見てたぞ。
事務所にいる時の千尋さんのスーツ、いつも胸元が大きく開いてたんだよな…。
彼女にあんなの着られて目がいかない男なんて、不能としか思えない。
春美ちゃんの身体を借りている千尋さんに生前の姿を重ね見ていると、
僕の息子がふいに柔らかな感触に包み込まれた。
「くぉッ!?」
「なるほどくん、ヘンな声出さないで。誰か起きてきたら大変よ?」
視線を下ろして見ると、みっしりと肉の乗った乳房が
僕のモノをすっぽりと覆い隠していた。
その幸せな圧迫感を直に感じて、節操のない息子は歓喜の涙を流し始めた。
「あら……? もう何か出てきたわよ?」
「ち、千尋さんのオッパイが、僕のモノを……!」
あまりの気持ち良さに額に脂汗すら滲んでくる。
千尋さんはそんな僕の苦悶の色を浮かべた顔を複雑そうな表情で一瞥すると、
ゆっくりと、大きなグラインドで両の乳房を上下に動かし始めた。
「あぅッ!!」
「ふぅ、ッふぅ………こうして見ると、
 なるほどくんのコレも可愛く見えるから不思議ね」
動く度にビクビクを震える僕のモノをその豊かな乳房の中で感じているのか、
千尋さんははにかみながらそこに視線を落としてそう呟いた。
「(なんてスゴイ光景なんだ……!)」
千尋さんの掌からはみ出た乳房の肉が、彼女がゆする度にぶるぶると震える。
それがたまらなくイヤらしく見えて、僕を視覚的にも興奮させていく。
「私にこんな恥ずかしいことをさせて、なるほどくんは気持ち良くなってくれているの?」
「そ、それはもう……!」
実際、僕のモノはいつ限界を向かえてもおかしくないほどに膨張していた。
ただそれをしないのは、この背筋が震えてしまうほどの快感を
1秒でも長く感じていたいからだ。
今この時が終わってしまえば、再び千尋さんと同じようなことができるという保証など
どこにもない。離したくない貴重な瞬間を少しでも長引かせるために、
僕の精神力は極限以上の力を出して欲望の流出を防いでいるんだ。

「ね、ねぇなるほどくん、もうそろそろ出そうかしら?私いつまでしていればいいの?」
千尋さんはその重そうな乳房を扱うのに疲れたのか、
上下に揺らす動きが始めた時のそれと比べて緩慢になってきていた。
しかし僕のモノに迫る刺激の度合いが変化することはない。
千尋さんの果実の動きは上下から左右へ、
モノを強く擦る動きからモノを強く挟みこむ動きへと変化していったからだ。
千尋さんの泣きが入ってもなお続く快感に、血管を浮かび上がらせた息子は
『まだ頑張れる』という僕の意識から離れて小刻みに震え出した。
「あッ!? ち、千尋さん! 僕もう限界ですっ………出るッ!」
「えっ!? ま、待ってなるほどくんっ………!!」
びゅるっ!! びゅぅっ!!
「きゃあ!!」
「………ッ!」
腰を持っていかれそうなほどの強烈な射精感。
経験したことのないほどの快感が僕に凄まじい余韻を残して、静かに収まっていく。
荒い息を整えながら、僕は千尋さんに目をやった。
彼女の肌に飛び散ったゼリー状の精液が、その豊満な胸の谷間にとろりと流れ落ちていく。
見れば、薄茶色の綺麗な髪にも僕の吐き出した液体がいくらか付着していて、
千尋さんは指でそれを注意深く取り除こうとして、顔をしかめていた。
「もう、なるほどくんっ……こんなにいっぱい出して!」
「す、すみません!」
千尋さんは髪の毛の中で薄く伸びてしまったその液体を取り去るのをあきらめたのか、
『しょうがないわね』と言いたげにその場に立ち上がった。
「今回のお礼のつもりだったんだけど、スゴイことさせられちゃったわね……まったく」
千尋さんは少し怒ったような、呆れたような表情を僕に向けて、
デスクの上のティッシュに手を伸ばした。
自分の身体についた液体を後始末するその彼女の仕草がとても煽情的で、
僕の息子は出したばかりだというのに、痛みを伴いながらも再び硬さを増し出した。
「ち、千尋さん!」
「? なぁに、なるほどくん……あっ」
千尋さんは僕の股間に目を向けて呼びかけの内容を理解したのか、
目を泳がせて口を閉じてしまった。
「千尋さん……こ、ここまでしたんだから、もう1歩。
 もう1歩だけ、踏みこませてもらえませんか?」
「なるほどくん……」
千尋さんは口に添えた指を軽く噛んで、何か考えこんでいる。
もう一押しすれば、と僕が口を開こうとした瞬間、千尋さんが一言だけ吐き出した。
「駄目よ」
それはとても短い言葉だったけど、今までのどの言葉よりも説得力があるように感じた。
はっきりと言い放たれたその言葉は、僕を一瞬黙らせてしまうほどに強く、
毅然としたものだった。
「ど、どうしてですか?」
「なるほどくん、思い出して。確かに今、私はあなたとこうしているけれど、
 この身体は春美ちゃんのものなのよ?」
千尋さんがその大きな胸に手を当てて、僕に言い聞かせるように説明する。
「さっきの行為は直接彼女の身体に負担はかけずに済んだけれど、
 あなたの言っていることをすれば、そうはいかないわ……」
「………」
千尋さんの説明に、僕の口が重く閉じられる。
軽い気持ちから出たさっきの自分の言葉に後悔を覚え、
僕はもう何も言えなくなってしまった。

「……そうね……正直に言うと、あなたに与えるだけっていうのは
 癪に障るところもあるけれど。でも、春美ちゃんの了解を得ないで
 できることではないわ。わかるでしょう?」
「は、はい」
「だから、今日はここで終わり。いいじゃない、スッキリしたでしょう?」
「はぁ……」
さっきまでの高揚感はどこかに消えて、気がつけば僕は息子を丸出しで呆けていた。
千尋さんの吹き出した笑いで我に帰った僕は、急いでズボンを正す。
「身体、綺麗にしておかないとね。春美ちゃんに怒られちゃうわ」
千尋さんはニコッと笑ってそう言うと、浴室へと足を向けた。
僕も身を起こして彼女の後姿を目で追った。
もうそろそろ寝るか……そう思った時、千尋さんがふいに振りかえった。
「あ、なるほどくん」
「え? なんですか?」
千尋さんがゆっくりとした足取りで僕の傍に歩み寄る。
まだ付けたままだったネクタイにそっと手を添えて言った彼女の言葉を、
僕は決して忘れないだろう。


「今日のなるほどくん、最高だったわよ」

それがどの僕を指しているのかは解からなかったけど、
千尋さんに認められたということは僕の心に刻み込まれた。
彼女が消えた浴室をぼんやりと眺めながら、
僕は自然に顔がにやけていくのを感じていた。
ややあって、ガラリと扉を開ける音が聞こえたかと思うと、
やけに軽い足音が僕の耳に届いてくる。
とてとてと可愛らしい足取りを綴る彼女は、本来あるべき姿に戻っていた。
「あ、なるほどくん。私、どうしてこんな時間にお風呂に入っていたんでしょうか?」
「え?」
……せ、説明に困るな。
千尋さんもいきなり帰ることないのに……。
僕が困っていると、春美ちゃんはにっこり笑って僕の顔を覗きこんできた。
「なるほどくん、どうでしたか? 千尋さまにきちんとお礼、言いました?」
楽しそうに笑う春美ちゃん。
そんな彼女とは裏腹に、僕は言いようのない違和感に包まれ、顔をしかめていた。
「(あれ? お礼言ったっけ……僕……)」


             完
最終更新:2006年12月13日 07:58