「気持ちいいですか? オドロキさん」

オドロキは返事の代わりのように、意識せず腰をひくつかせた。
みぬきはそれに気をよくし、笑みを浮かべるとぬちぬちと音が出るように手を上下させる。
魔術師の指先。繊細でありながら俊敏さや力強さを要求される大切なパーツ。
小さな口での奉仕よりも、格段に上達が早く、オドロキの弱点もその能力で
つきとめられ、今ではオドロキが自分は早漏ではないかと落ち込んだほどの早さで
登りつめさせることができる。

にちゃにちゃと、先走りの雫でオドロキの竿とみぬきの手は光っている。
細い指の白さと赤黒さがなまめかしく絡み合い、二人の視線を集めて吐息を漏らさせる。
「み、みぬきちゃん、もう‥‥」
「じゃ、もっと頑張りますね」

反り返る肉を手前に引き、両手で絞るように握り締める。先端は手のひらで、
根元は指先できゅうきゅうとしめ、全体への刺激をくりかえす。
オドロキは女のように呼吸を乱し、本人も知らないみぬきの嗜虐心を満足させた。
みぬきの指先が脈拍のようなうごめきを感じ取ったとき、オドロキの白濁は
小さな乳房を白く汚していた。

 

オドロキとみぬきがはじめて体を交わしてから、二週間。
責任感の強い二人はステージや仕事などをおろそかにすることはなく、それぞれの日常は
あまり変わらないように生活している。
しかし、もちろん二人はいっしょにいたいという気持ちは強くあり、そして成歩堂は
事務所にいない。
ということで、オドロキのアパートでの半同棲生活がはじまっていた。

いってらっしゃいのちゅーや裸Yシャツなどなどをまんべんなくこなし、
心身ともにバカップルへと近づいていく二人に、時折道端で顔をあわせるくらいの
やたぶき屋の親父なども、二人が一緒にいるところを見かけたときには、限りなく辛い
味噌ラーメンをオドロキに食わせたがるようになっていった。

たまたま事務所に遊びにきた茜も、きてから2分後には
「あんた達、付き合ってるの?」
と問われ、二人の否定しあう言葉にも一言一句どんどん機嫌が悪くなり、対抗するような
「あたしだってその頃は」
という台詞に腕輪が反応したが、オドロキは空気を読んで何もいうことはなかった。
しかし、
「あっ、みぬき、パパから茜さんが若かった頃の話聞きましたよ」
と空気を読まないほうが鋭く突っ込みをいれると、オドロキにカリントウを投げつけ、
「くやしくなんかないもんね」
などと年に似合わない捨て台詞を吐いて帰っていったりもした。


また、一週間ほどたった頃には、どぶろくスタジオに向かうオドロキの姿もあった。
あの出来事の後、電話で簡単な報告をしてから、はじめてだ。
そろそろ勉強を再開する必要があるだろうと、オドロキはみぬきの学校がある時間から
足を向けたのだった。

「こないだはすいません、まことさん。勉強の途中で抜けることになって」
「‥‥」
黙って首を横に振る。気にしなくていい、というように。

「そのぶん、今日はみっちりやりましょう。オレもちゃんと用意してきましたから」
「あの‥‥」
「なんですか? まことさん」
やけにまぶしそうにまことはオドロキを見る。
オドロキのテンションの具合は確かに高くなっているようだが。

「‥‥オドロキさんとみぬきちゃんは恋人になることになったんですか?」
「え!? ええ、まぁ、その」
頭をかりかりと掻き、照れた表情を見せる。まんま法廷のようだ。

「‥‥そうですか。おめでとうございます。いつかはそうなると、思っていました」
「そ、そうですか。いやぁ、照れるなぁ」
頭の後ろをかいて口元を曲げるそのしぐさは今度は成歩堂のようだ。
まことはすこし冷めた目で見ている。

「そんな風に見られているなんて、いつから知ってたんですか、まことさん」
そう聞かれると、まことはシャカシャカと手元のスケッチブックに手を滑らせた。

                 ____
,-‐=´~`、~`ヾ、
/ /:::::::::::::::::::::::::::::ヽ\
/  /:::::/:::::::,:::::::::ヽ::::ハ ゝ
ヽ、  {:::::/:::::::ハ::::li 、 i:::::::} ,〉
ヾ |__l|::::l リj__rt__|i::j/l/
ハヽ!rt_ォ   r_tァ リ l
/:::::l    !   | ハ
i:::::::::j:ヽ、  ー   ノ|::丨
r777777777tノ` ー r ´ノ::::!
j´ニゝ        l|ヽ____/:`::::|::::ノ
〈 ‐ 知っていたがlリ   |  (;;〈ヽ
〈、ネ.お前の態度が.l! |   |:::::::ノ;ノ::::l
ト | 煮え切らないとニヽL_    l
ヽ.|l         〈ー-   ! `ヽ.:::::::l
|l         lトニ、_ノ::::::::::::ヾ、!
|l__________l|   \    ソ


「‥‥そ、そうでしたか、すいません」
ひきつりながらも無表情のまことに謝る。
(ギャグなんだよな‥‥きっと)

スケッチブックを丁寧に閉じると、今度はまことが声を小さく上げた。
「あ」
「今度はなんですか」
「‥‥あの、目が痛いです」
全く痛いようなそぶりを見せずに、そう伝える。

「え、またですか。目薬は?」
「‥‥すいません、いまはないんです」
「わかりました。ちょっと見せてください」
まことの秀麗な顔に近づき、オドロキは真面目な顔でまことの目を
じっと見つめた。

「うーん、よくみえないからもっと近づきますよ」
両頬に手を添え、ひどく近い距離からまことの目を見る。
まことの手がオドロキの手に添えられ、わずかに握られた。

「何もないみたいですけど」
「‥‥」
オドロキは至近距離でそう答えた。

「もういいです」
「え? でも」
「もういたくないですから」
「オレ、目薬を買ってきましょうか」
「大丈夫です」

とりつくしまもない。元の体勢に戻った後、
なんだか言葉がなくなってしまったところで、オドロキは鞄を開けた。
「そういえば、おやつの用意をしてから勉強をはじめましょう。
前回みぬきちゃんが持ってきて、そのまま持って帰っちゃったのを
改めて持ってきたんですよ。かりんとう」
「‥‥そうですか」
まことの回答はどこか空虚だ。

「申し訳ないですけど、ポットが向こうにあるので、取ってきていただけますか」
「ああ、いいですよ」
かりんとうの袋をまことに渡し、オドロキはポットを取りに席を立つ。
ポットに近づいたところで、ぽくん、と結構いい音を立てて頭に何かがぶつかった。

「‥‥すいません、かりんとうの袋をあけたら飛んでいってしまいました」
「そ、そうですか」
(ずいぶん勢いがいいな‥‥)

足元の、黒糖がきっちりまぶさってずいぶん硬そうなかりんとうを手に取る。
なんとなくそれを口にしたまま、オドロキはポットを手にまことの元へと戻った。

勉強をはじめてからはとくにおかしなところもなく、学校を終えたみぬきが
合流した後は、オドロキがなにか疎外感を感じるほどに二人は仲良く過ごしていた。

日も暮れてから、オドロキは二人のアパートへと歩みながら、前半のまことは
なんだったのだろうと首を捻った。


そんなこんなで二週間。
みぬきは学校に行き、オドロキは自分の日記とみぬきとの交換日記を書きながら、
ついでに次の法廷の用意をしていた。
最近の弁護は素人っぽさも抜け始め、みぬきがいなくとも的確な反論も行えている。
手ごたえを感じる。きっと、次の依頼人も助けてみせると、オドロキは強く思った。

「やあ、オドロキくん」
突然かけられた声。オドロキが肉声では久しぶりに聞く声だ。

「成歩堂さん。お久しぶりです‥‥というか、たまには帰ってきてくださいよ」
「ああ、だから今日はこうして帰ってきたじゃないか。遠いところから、ね」
すでに成歩堂には、みぬきに了解を得て、電話で話をしていた。
さすがに肉体関係にまであるとは言わなかったが。
理由はわからないながら、成歩堂には何も隠し事ができないことをオドロキはこの半年で
よく理解していた。だから素直に言った。
みぬきを愛している、と。一人の女性として。

電話口でのしばらくの沈黙の後、帰ってきた答えは一言だった。
「ありがとう、オドロキくん」

それからオドロキにはなんの連絡もないまま、二人は日常を過ごしていた。
みぬきも成歩堂と連絡をとっていないようにオドロキには見え、相変わらず
この親子の絆は良くわからないと心の中で思っていた。

オドロキは現実の成歩堂に意識を戻す。いつものニット帽をかぶったままだが、
手はポケットに入れず、いくつもの書類を抱えていた。

「勉強は一息ついたんですか?」
「いや、この2週間は休みさ」

ばさばさと机の上に書類を置く。
星影、狩魔、御剣、綾里などと入った封筒も合間から見える。弁護士の事務所や
検事からの紹介状などのようだ。そして二通、手元に残ったものがある。
「戸籍謄本ですか?」
「ああ、キミのね」
「オレの? 今のところ免許やパスポートを取る予定はないですけど」

それに対して応えを返すこともなく、成歩堂は謄本をめくる。
「見てもらったほうが早いだろう」

×印が二つ並ぶ。一つは21年前に死去、一つはその後に除籍されている。
オドロキは首を捻る。自分は親を知らない。両親はもう亡くなったと聞いていたが、
母親は父親が亡くなった後、籍を抜いたのだろうか。
生きているかもしれない。そこまで考えるとオドロキは首を振った。
実の父親の顔も母親の顔も知らない。
だけど別にどうでもいい。怨んでいるわけでもない。
はじめて見る父親の名も母親の名も興味はなかった。
優美。いい名前だと、そう思っただけだった。
旧姓、或真敷。


オドロキはそこから目を離さない。視野が回っているような違和感の中、
思考のピントは外れることはない。むしろすんなりと頭の中に入ってきてしまう。
不可思議な力。最初から唯一つ持たされていた、腕輪。
不可思議な力。同じ力を持つ、実の父と母を亡くした少女。
王泥喜法介。或真敷法介。
成歩堂みぬき。或真敷みぬき。

「嘘、ですよね」
「本当だ」
理解はすでにしていながらの言葉に、成歩堂は無慈悲に最後の書類を出す。
もう一通の戸籍謄本。誰のものかは見るまでもないと、オドロキは思った。

「成歩堂みぬきは、キミの実の妹だ」
いつかの法廷の後のように、オドロキは成歩堂を睨んだ。
「続けるよ」
躊躇せずに続けられる。

「第734条 直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。
但し、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。
第817条の9の規定によって親族関係が終了した後も、前項と同様とする」
「最後の規定は、みぬきがぼくの娘となった今でも、回避できないということだ。
法においても。世間においても」

坦々と成歩堂が喋っている。オドロキは何も返さない。

「これから取る方法は、ぼくが考える限り、4つある。
一、オドロキくんがみぬきに真相を伝えず、別れることだ。
もちろん、キミが望むなら事務所をやめてもかまわない。
二、オドロキくんがみぬきに真相を伝え、別れることだ。
三、オドロキくんがみぬきに真相を伝え、それでも別れない。
最後に、オドロキくんがみぬきに真相を伝えず、別れない。
この4つだ」

オドロキの成歩堂への視線は、普段の彼に似合わず、厳しさをいや増す。
それでも怯むこともなく、かえって口調を柔らかくして、次を続けた。

「選択はキミに任せるが、二つ、言わせてくれ」

みぬきに手を出したことへの責めでも言うつもりだろうか。
結婚ということまで口に出すということは、関係を結んだことなどは
先刻承知の上だろう。
オドロキは次の言葉を待った。

「みぬきの将来の目標がなんだか知ってるかい?」


オドロキは毒気を抜かれ、不思議な顔をする。何をいまさら言っているんだ。

「当然、魔術‥‥」
「そうだ。魔術師だ。或間敷のね」

オドロキはしらないが、みぬきはザックから全てを受け継ぐ書類を渡されている。
それを知らなくとも、いつか、或間敷を再興させるだろうとオドロキはわかっている。
みぬきなら、きっとできる。オドロキは確信しているし、協力をおしまないことは
今更口に出すまでもない。

「キミと一生を暮らすつもりなら、或間敷の血は途切れる」
オドロキの体が少し震えた。成歩堂は続ける。

「バランさんのように、魔術は残るだろう。だがキミ達が宿す、
不思議な力はこの世から消え去る。良い悪いではない。事実として、そうなる。
これが一つ」

オドロキとみぬきでは現実的に子をなすことができない。
別の科学的な方法をとるにせよ、それだけは変わることはない。


「そして、もう一つは、オドロキ君、キミの未来だ」
「オレの‥‥?」
オドロキは戸惑う。今の今まで、みぬきのことしか考えていなかったせいだ。

「今のキミは、最強と言われた弁護士、牙琉霧人の秘蔵っ子であり、
成歩堂龍一の事務所にいるものでもあり、あの牙琉響也を何度も敗北させ、
はじめての裁判員制度のもとで無罪を勝ち取った男でもある。
しかし、この情報が漏れたとたん、キミのキャリアはすべて崩壊するだろう。
弁護士はまず、つづけられない」

何をくだらないことを。
オドロキは成歩堂をもう一度睨みつけた。
「そんなものは‥‥!!」
「どうでもよくはない」

成歩堂は強い目でオドロキを睨みかえす。

「キミはいい弁護士だと思う。
キミに救われた人たち、キミがこれから救えるだろう人たち。
その人たちのことを無視すべきじゃない。
そしてなにより、オドロキ君。
キミは弁護士をやめることができるのか」

オドロキは何も言うことができない。言えるわけがなかった。
文字通り、最高の弁護士『だった』、成歩堂龍一の前では。

「キミ自身のことを考えることも、忘れないでほしい」
「その上で、よく考えてくれ。期限は決めない。
そして、キミの選択にぼくは口を挟まないことを約束する」
「ここにある色々な人たちの書類は、キミが選択をしたあとに、
助けとなるものだ。読んでおけば、役に立つだろう」
「みぬきには会わないで帰るよ。よろしく言っておいてくれ」

オドロキの返答も待たずに成歩堂は去っていった。
謝罪の言葉も、責めの言葉もオドロキに投げかけないまま。


「オドロキさん、オドロキさーん」
「‥‥あ、ああ、なんだい、みぬきちゃん」
「どうしたんですか。ぼーっとして。
ごめんなさい、やっぱり今日は疲れてました?」
「いや、大丈夫だよ」

考えはまとまらない。一人になりたかったが、あのあとすぐにみぬきは帰ってきた。
せめて、今日はオドロキは体をあわせるのを拒否したかった。
しかし、みぬきに不可解な仕草を見せると、その力で感知されかねない。
だから、今日は疲れたから、といって休もうとした。
だったら今日はみぬきががんばりますから、といって、イニシアティブを逆に取られたのだ。
あまり否定するのも気取られかねないと思い、オドロキはしぶしぶそれを了承した。
(違う)
オドロキはそう考えた自分を否定する。
みぬきを犯したかった。限られているかも知れない時間、彼女に触れないでいることに
耐えられなかった。
体温と甘さと痺れと快感を、残す限り感じたかった。
だから、強く拒否しなかったのだ。妹と知っていながら。
オドロキは自分を侮蔑する。
それでも、指は枕元にあるコンドームに伸びていた。

「あっ、オドロキさん」
「‥‥?」
手を止めさせ、裸のみぬきが恥ずかしそうに続ける。

「えっと、今日は大丈夫だと思います」
目を伏せたみぬきに視線を向ける。もちろん視線はあうことはない。
オドロキは、そのままわずかに濡れた秘所へと視界を移す。

薄い肩を倒し、淡い花を見やすくする。オドロキのそれは強く煮えたぎっている。
そのまま腿にあてがった。みぬきが体をすくめる。それにより狭まった膝を、オドロキが割る。
鼓動が聞こえそうなほど緊張しながら目を閉じているみぬきに、耳元で囁いた。

「みぬきちゃんは安定しているほう?」
「えっ?」
「周期が、だよ」
「‥‥」
オドロキは真面目な顔を解き、体を離した。
「ダメだよ、そんなのは」

オドロキは袋を破ってゴムを取り出すと、黙ってつけだした。
何かもごもごと口を動かしていたみぬきは、それを見て大きな声を出す。
「あっ、みぬきにつけさせてください!」

珍しそうにコンドームをいじると、面白がりながらみぬきがつける。
オドロキは、それでもいいのに、といったのかもしれないという思いを捨てた。


「この格好、恥ずかしいよ」
背後から回り込み、動物のように侵略する。はじめてこの体勢を取ったときは、
嫌がったみぬきが柔らかい体を利用して、途中で正常位に戻したほどだ。

浅く侵入しながら、片手は手のひらにおさまる乳房を愛撫し、
肩や背には口を付ける。何かと手を出したがるみぬきは、それを与えられることしかできない。

オドロキの姿が見えないのがいやだとごねたみぬきのために、持ち込んできた鏡を
みぬきの前に置いた。ふくれて文句を言うみぬきを今は見ないことにして、
オドロキはひたすらに二人のセックスを継続する。

時間もかからず甘い声が漏れ始める。オドロキの動きは、早く、強い。
みぬきから離れたくない。オドロキの体が先にそう証明するように、蹂躙を続けていく。
唇は鎖骨から首筋へ。細い首筋を吸いつけた。

「あっ、オドロキさん、そんなとこにキスマークつけたらダメっ!」
みぬきがいやがる。以外と冷静なんだな、とオドロキは思った。
たしかに露出の多い部分につけたらステージにあがることもできないだろう。

もとよりわかっていたことだ。痕がつく寸前でやめる。
「冗談だよ、みぬきちゃん」
「そんなことしたらみぬきも法廷に出る前の日に同じことしますよ!」

オドロキは笑う。きっと牙琉響也は驚くだろう。それともニヤニヤするだけか。
おデコくんと呼ばれ、指をつきつけあう時間も残り少ないのかもしれない。

「きゃうっ、きゅ、急につよくしたらダメですっ。
あっ、やだっ、お、オドロキさん!」
強く腰をおしつける。弱いところはいくつも知っている。
そろそろ痛みよりも喜びを感じることができるようになったみぬきに
厳しいくらいに体をすりつけ、合間には桃色の核を刺激する。
白い臀部の中心を、指先でこする。

「ふぁんっ、あっ、あうっ、んぁっ!」
リズミカルに声と体が鳴く。鏡にはとろとろの顔が映っている。普段の少女のものではない。
オドロキしか知ることのない表情。

浅いところまで腰を引き、角度をつけ、こすりあげるように奥まで突ききった。
みぬきのあとを引く声を聞きながら、体内に精液が放出される。
DNAはその先へとたどり着くことなく、精液溜りの中で泳いでいた。


簡単に後始末をしてから、みぬきを背中から横抱きにしてオドロキは目を閉じる。
すこし文句を言ったみぬきも、密着する暖かさに負けて、今はもうかすかな吐息を立てている。

睡眠が訪れることはなかった。
みぬきの眠りが妨げられない程度に、より密着し、髪に顔を埋める。
性欲は起き上がらない。人を抱きしめた心地よさは、今までオドロキがほとんど
知ることのなかったものだ。

家族を失ってしまう。
女性としてのみぬきを失うだけにとどまらないことが、オドロキの想いを強くする。

いつ気がつけばよかったんだろう。

妹として会えたなら、家族になれた。
関係のない女性として会えたなら、いつか家族になれることもある。
ただ一緒にいるだけでも、家族のようになれたかもしれない。
その全てが自分から離れていく。

「ん‥‥」
少女が身じろぎすると、体を反転させた。
幼い寝顔をオドロキの胸へとあてると、安心したようにまた眠りへと落ちる。
オドロキはもう一度腕を巻き、二人の隙間をなるべく狭くさせた。

腕の中の大切な人を抱きしめながら、
泣き虫の王泥喜法介は、自分の為に、久しぶりに泣いた。

                                            つづく

最終更新:2020年06月09日 17:50