年の割りに‥‥と言っては失礼だろうけど、ふくよかで形の良い胸から腰に手を伸ばすと、
はじめて見る、女性の妊娠線というのに行き当たった。
うっすらと白い線が皮膚の中に波打つ様は不思議な光景だ。

「ラミロアさん、子どもを生んだことがあるんですね」
「ええ」
ラミロアさんの顔がかげる。
「私には残念ながらその記憶もなくて、その子にとても悪いことをしていると思っています」

その俯いた顔を見ながら、不適切な質問をした自分が嫌になった。
彼女だって好きで記憶喪失になんてなったわけじゃないのに。

「あ‥‥」
返す言葉もなく、黙ってその妊娠線の浮いた皮膚に唇をつける。
ふわふわとしたその感触は、先ほどまでむさぼった胸にも劣らないような不思議なものだ。
指先をそっと下に伸ばす。抑えようとする細い腕を捕らえ、衣服の上から谷間をさする。
わずかに漏れた声に、指先の力が増した。

依頼者とこんな関係になるなんて、きっと弁護士としては最低の行為だろう。
それでもオレは、もうその背徳の行為を止めることができなかった。

下着越しに強く摩擦を与える指先に湿りを感じはじめた頃。
視線をラミロアさんに戻すと、着やせする豊満な胸を揺らしながら、その美声が
ひどく艶っぽくオレの耳に響く。その声に魅せられた手が止まらない。

「だめっ、だめですオドロキさんっ、待って、待ってください! せめて、もっとゆっくり‥‥!」
ラミロアさんが乱れている。あのラミロアさんが。オレの指で。口調さえも少女のように。
片手で押さえつけた腕の抵抗は弱々しい。思考には止めるという言葉がまるで浮かばない。
少し乱暴に、下着の脇から指を滑り込ませた。

「あっ!」
短い鞘と先端にあるクリトリスに触れたか触れないか。
その瞬間、思いもよらない強い力でラミロアさんから突かれ、ベッド下にしりもちをついた。

荒く息をつき、寝具の上で乱れた姿を抑えるラミロアさん。
おびえたような瞳で下半身を隠している。
その姿を見て、自分のしたことにオレは今更のように青ざめた。

「オドロキさん、違います、嫌だからではありません!」
わずかに放心していたオレを取り戻させたのは、ラミロアさんの強い一言だった。

「すっ、すいません‥‥ オレ‥‥」
「今言いましたが、嫌なのではありません。一つだけ、お願いがあるんです」
謝罪を遮るようにラミロアさんは言葉をつづける。
けれども息はまだ上がっており、その仕草を色っぽいとさえふと思ったオレは全く度し難い。

「私の体に触れるときは、言葉を、使ってください」
「言葉‥‥? あ!」
言われてはじめて気づく。
そうだ。目が見えないラミロアさんはオレがどこに何をしようとしているかがわからない。
だからいくら感の良いこの人でも、反射的に反応してしまっていたんだ。

目をつぶっている時に、いきなり手をつかまれただけでも反射的に振り払おうとする。
ましてや、女性の大切な場所だ。
そんなことさえ理解していなかった自分に腹が立つ。

「すいません、オレ、これからすることはみんな口に出しますからっ」
「ふふ、みんなは必要ないですよ。ありがとうございます。わがままを聞いていただいて」
「とんでもない、ラミロアさんのことをちっともわかってなくて、
 怖い思いさせて、オレ、イヤでしたら、もうこれ以上は‥‥」
股間のモノは大きくズボンを盛り上げているが、ラミロアさんがいやがるなら
とてもこれ以上なんてできない。
オレは頭を下げて、もう一度ラミロアさんに謝った。

「もう大丈夫です。落ち着きましたから。何度も言いましたが、嫌ではありません。
 それとも、オドロキさんこそ、やはりこのようなおばさんの体では魅力がないでしょうか」
「そんなことありませんっ! ラミロアさんはとても綺麗で、体だって、
 だからこんなふうになるなんて、とても思ってませんでした」
「ありがとうございます。でしたら、問題はないでしょう。もう一度、最初からお願いします」

そう言うと、ラミロアさんは頤をあげて目を閉じる。
そんな姿は‥‥違う、これじゃさっきまでと同じだ。


「ラミロアさん、キスします。あなたの唇の中にも」
伝えてから唇を重ねる。すぐに舌も差し入れて、待ちかねていたらしい
ラミロアさんの舌と重なり合う。
軟体動物のセックスのように、ラミロアさんの舌をむさぼる。
最初のキスよりはるかに荒々しい。すすりきれない唾液をこぼしながら、
やっとオレたちは口を離した。

「さすが、といっていいのかわかりませんが、すごく大人のキスですね」
「そう‥‥でしたか? ごめんなさい、なんとなくそう動いただけなんです。
 でも、すごく興奮してしまいました」
「上気したラミロアさんの顔、いつもと違ってすごくかわいいと思います」
オレは頭の中で考えたことをすぐさま声に出した。いつもだったら恥ずかしくて
とてもいえない台詞だろうけど、みんな口にすると誓った今は、気にもならない。

「そ、そうですか? そんな怖い顔をしてるつもりはないのですけど」
「いつも綺麗ですけど、今はかわいいということです。
 胸、触っていいですか」
「はい。それで、あの、先ほどは聞けませんでしたけど、どんな感じなのでしょう。
 私の胸は」
「自身で触られたことかは?」
「それはありますが、他の方と比べたりとかはしたことがないんです」
「その人にはコンプレックスになると思います。大きくて、ふかふかとして」
 
硬くなっている先端に唇をつける。さきほどまでよりも張りがでてきているようだ。
りろりろと飴でもなめるように、舌先でねぶる。
片側だけまろばせた胸を攻め、あえて左側の胸には手を出さない。

「オドロキさん、右の胸が好きなんですか?」
それには答えずに愛撫の手をやすめない。やがて、左の胸に手を伸ばしたときには、
ラミロアさんの安堵と感度の高まった胸が手に入った。

暫く胸を楽しんだ後、音を立てて乳首から唇を離す。
ラミロアさんの息は荒い。そろそろいいだろう。
「ラミロアさん、下着をおろしてもいいですか?」
「は、はい」
ラミロアさんはさきほどからどうも受身だ。なんだか、何を頼んでもしてくれそうで、
さっきから色々とまずいことが頭に思い浮かんでくる。でも、止められない。
いつもの、毅然とした感じのラミロアさんとのギャップが興奮を増加させる。
オレは腹をくくってラミロアさんにお願いをすることにした。

下着をおろし、もじもじと膝をすりあわせるラミロアさんにオレは命令する。
「ラミロアさん、そこを自分で広げてください」
「えっ、ええっ?」
「お願いします」
「でも、オドロキさん、その」
「お願いします!」
「‥‥はい」

細い指先を伸ばして、秘所をさらけ出す。透明な糸が巣を張っている。
「もう濡れてますね。あっ、ひくひくしてます。気持ちいいですか?」
「あの、オドロキさん、もう、閉じてもいいでしょうか?」
「ダメです。真っ赤なここに、今から口をつけますよ」
「‥‥っ!」
オレの声で反応して、いやらしい穴もひゅくりと反応し、少しちぢこまる。
その様を見て楽しむ。やがて、おずおずと弛緩してきたところに、舌をねじ込んだ。


「ひゃううっ!」
もうぐっちょりとほどけているのはわかっていたので、最初から飛ばしていく。
ぐいぐいと押し付け、時には鼻先でクリトリスを押しつぶす。
こんなときでも高く美しい声で鳴くラミロアさんは、それでも開いた指をとくことはない。
「やっ、あっ、あうっ、だめぇっ」
高まっていくのがよくわかる。じゅるじゅるとわざとらしく音を立てて、音に敏感な
ラミロアさんに聞かせることでより辱める。
それでも顔を赤くして耐えるラミロアさんが一度果てるまで、オレの攻めは続いた。

荒い息をついてラミロアさんが横たわる。その横でオレは痛くなるほどに
自分を主張するモノをやっと開放した。

「ラミロアさん」
「は、はい‥‥」
「そろそろ、いいですか」
「え、ええと、それは」
「挿入します」
ストレートに言った。これ以上ないくらい。というか、普通は生涯言わないだろう。

「ごめんなさい、オドロキさん、その前にひとつだけ聞いてもらいたいことがあるんです。
 あの、オドロキさんはかえって嫌な気持ちになってしまうかと思って、言えなかったのですが」
ラミロアさんが、オレを制して言う。

「オドロキさんは、いくつの時にその、はじめてセックスを経験したんですか」
唐突だった。本当は大学生の時だけれど、言った言葉はなぜか
「じゅ、じゅうななのころです」
「まぁ、早熟ですね。すいません、聞いておいてなんですが私は覚えていないのです」
それはそうだろう。まぁ、意外と硬くて初心なラミロアさんはきっとその頃には
子どもの作り方もしらなかっただろうと思うのは男のロマンというものだ。

「聞いていただきたいのはここからです。先ほどもお伝えしましたが、私は子どもを生んだことさえ
 あるのにその記憶がありません。ですから、記憶を失ったのはその後なんです」
おそらくは二十歳台、というところだろうか。今更ながらに同情する。

「そして、私は、記憶を失ってから男性とは触れ合っていないんです」
ラミロアさんは声を落とす。その発言がオレの頭の中で理解の形をとるまでに少し時間がかかった。

「ということは」
「はい‥‥オドロキさんが今の私にとっては、はじめての人ということになります」

はにかむラミロアさんの表情は少女のようで、とてもかわいらしく、だから続けて言われた一言には、
すぐさま反論した。
「ごめんなさい、子どもまで産んだことがあるというのに、こんな気持ち悪いことを言って」
「とんでもない! むしろ光栄です」
「オドロキさんなら、そう言ってくるのではないかと思っていました。
 だから、最初は言うつもりはなかったんです。ひょっとして、体が覚えていてくれれば、
 こんなおばさんでもオドロキさんに満足していただけるかと思って」
「そんなのっ!」
「でも、私、オドロキさんにリードされるばかりで。だからお伝えだけしておこうかと」

ラミロアさんは肩を落とす。しっかりとした大人のラミロアさん。世界の歌姫。
けれど、彼女は記憶をなくして、思考能力などはともかく、行動の蓄積がない。
‥‥ひょっとしたら、オレが初恋というものなのかもしれない。
いや、かもしれない、じゃない。目の見えない彼女にわかるように、口に出し、体に示すんだ。

「ラミロアさん、ひょっとして、オレが初恋ってことになるんですか」
「‥‥はい。私の、子どもと、夫には悪いこととは思っています」
「どうして、オレを?」
「あなたは、マキと私を助けてくれました。ずっと守ってくださいました。
 私は、あなたのそばにいると、とても安心していられました。
 あなたのそばにずっといることができたら、と思っていました。
 でも、私は、あなたとは年が離れすぎています。
 けれど、今の感情のうちに、せめて一度だけでもと、無理にお誘いしたんです」

今の感情のうちに、というのは良くわからないが、ラミロアさんがオレを
好いてくれているのはわかった。
ある意味強引な手管といってもいい手法で、オレがラミロアさんに誘われた理由もわかった。
彼女は美人だし、好ましい人であることは十分にわかっている。
だから、弁護士としてあるまじき行いだとわかっていても、彼女との行為に踏み切った。

声を立てないオレにラミロアさんは黙って待っている。
ドアをあける音が聞こえたとしても、それを受け入れるつもりだろう。

「ラミロアさん、手を出してください」
「は、はい」
「今から乗せるものを握ってください。これからあなたの体に入るものです」
「‥‥熱いです。こんなに大きいものが?」
「そうです。あなたと一つになりたくて、もう止められません」
「私と?」
「はい。これをラミロアさん、あなたに挿入します」
「はい、私に入れてください」
オレに笑いかけると、ラミロアさんは先端に口付けた。


「なるべく、皮膚がふれあっていたいんです」
というラミロアさんの意見から、座位を取った。
お尻を抑えた手をゆっくりと下ろし、結合が始まる。

「い、痛いです」
先端が少し差し込まれただけで、ラミロアさんはそう言う。
以前読んだ本によると、何年もそういう行為をしていなかった場合、激しい痛みを
感じることもあると書いてあったような記憶がある。
その点からいっても、まさしくオレはラミロアさんのセカンドヴァージンとでも
いうものを奪うことになるんだろう。

「ゆっくりしますから、力まないで」
「はい。あの、キスしながら、お願いします」
ラミロアさんは全てを話してから、オレに頼る仕草を見せるようになった。
態度もどこか甘い。

何度も口付けをかわしながら、ゆっくりとやがて全ては埋まった。
「全部入りましたね」
「は、はい、途中からは楽になりました。でもごめんなさい。
 舌を噛んでしまって」
「オレは大丈夫です。じゃあ、動きますよ」

ぬちゅっぷちゅっといやらしく泡立つ音が根元から聞こえる。
ラミロアさんは慣れてきたのか、やがて声が出るようになった。
「‥‥っ! あんっ! あのっ、オドロキさんっ、なんだか、気持ちよくなってきました」

オレの前で甘く叫ぶ少女(心は)を見ていると、オレはなんだかまた彼女を
いじめたくなってきた。ラミロアさんは普段とギャップがありすぎるから困る。
ぴたりと動きを止めてしまう。

ラミロアさんはかじりついていたオレの首から頭を上げると、声をひそめた。
「‥‥オドロキさん、どうしたんですか。どこか、痛くなりましたか?」
「いえ、ラミロアさんに意地悪をしてるだけです」
「い、意地悪ですか」
「そうです」
「‥‥」

自分で腰を動かそうとする。そうはさせまいときつく手を固定した。
「あの」
「‥‥」
「意地悪、しないでください」

甘えた口調でそんなことを言ってくる。
「じゃあ、どんなことをしたいか言ってください」
AVばりにそんなことを聞いてみる。腹をくくると何でもいえるものだ。

「動いて欲しいです」
「もっとHな言葉で言ってください」
「‥‥言えません」
オレはそろそろと持ち上げて抜こうとした。

「じゃ、じゃあ一回だけですよ」
「どうぞ。オレ、待ってます」
ラミロアさんは上気した整った顔でなにやら考え込むと、ぐっと力を入れて声を出す。

「わ、私の、おま○んこ(ボルジニア語)をもっとついて下さい!」


「ボルジニア語でごまかすのは反則ですよ。だから一回だけ」
オレはぎりぎりまで引き抜くと、強く突きこむ。そのままぴたりと静止した。

「ひあああっ! だめっ、とめないでください、オドロキさん!」
「じゃあ今度はちゃんと」

「お、オドロキさんのおち○んぽ(ボルジニア語)をもっと動かしてっ!
 おま○んこ(ボルジニア語)つらぬいてぇっ」
「誤魔化したらダメですってば」

上半身をそらさせ、クリトリスの裏側辺りを刺激する。少しだけ。
「途中で止めないでくださいっ」
いやいやをするように体を動かす。

「自分で動くのは反則ですよ、ラミロアさん」
「おま○んこ(ボルジニア語)が気持ちいいですうっ」
なし崩しに動きを再開する。ラミロアさんはオレにしがみついてくる。
どうやら体はセックスの仕方などをしっかりと覚えていたらしい。
オレもラミロアさんの動きにひどく高まっていく。

「ラミロアさん、そろそろ出ます」
「な、中は赤ちゃんできちゃいます」
「胸に出しますよ」
ぎりぎりでひきぬくと、ラミロアさんの胸にこすりつけ、白濁を顔と胸に撒き散らした。


「はい、綺麗になりました」
「ありがとうございます」
ラミロアさんは笑ってオレに抱きつく。
どうやらラミロアさんは好きな人には意外とデレデレするタイプらしい。
二人でベッドの中で話をした。色々なことを。
彼女の胸の中は生まれてきた中で一番心地好い。

「‥‥少し眠いです」
「寝てもかまいませんよ、オドロキさん」
「‥‥ラミロアさん、名前を呼んでくれませんか。オレの名前、わかります?」
「ええ、知っています」
オレは目を閉じる。
「お休みなさい、法介」


──翌朝、ラミロアさんの姿はなかった。
なんの置手紙もなく、成歩堂さんを通じて、いつかご連絡しますという伝言だけが
伝えられた。

月日は流れ、まことさんもそろそろ退院しようかという頃。
珍しく事務所にいる成歩堂さんがオレに声をかける。
「ちょっとひのまるコロシアムに行ってくるよ」
「いってらっしゃい。あんなところに何かあるんですか?」
「ん‥‥まぁ、ちょっとヤボ用さ」
まぁ、成歩堂さんがふらふらしてるのは最近に始まったことじゃないけど。

「なんだか、いろいろと頭を抱えている女性の、人生相談にね」


 

最終更新:2020年06月09日 17:49