狩魔冥は、自分のオフィスのデスクに居た。

革張りの椅子に腰掛けて、長い脚と腕を組み、目を伏せてまつげの影を落としている。
牙琉響也がドアをノックし、ふた呼吸待ってからそれを開けたのに全く気づかないように。
ピクリとも動かない冥に、響也が近づく。
足音は、柔らかなカーペットに吸い込まれる。
デスクの正面に立つと、パソコンのモニターが放つ光でその顔の造詣をはっきりと浮かび上がらせた冥が、目を伏せたまま口を開いた。
「なに」
手を伸ばしかけた響也がぴくりと動きを止め、冥が目を開けた。
「ああ、眠っているのかと思ったな」
手を当てた腰をかがめ、冥の顔を覗き込むようにして、響也は笑った。
「なにを考えていたの、狩魔検事」
「用件は?」
眉根を寄せて、不機嫌そうに冥が聞いた。
「今日、ぼくが扱った審理の報告に。法廷記録を持ってきたんだよ。気にしているかと思って」
冥は黙って片手を出してそのディスクを受け取ろうとした。
響也はそれをすぐに渡さず、ひらひらと振った。
「ちょっと驚いちゃったな。初日の冒頭弁論に入ろうと思ったらさ、傍聴席にあなたがいたからね。この犯人はどんな余罪があるのかと」
響也がディスクを渡さないのを見て、冥は差し出した手を引いた。
「それで?足跡は見つかったの?」
ぐ、と響也が息を飲む。


審理の初日は一昨日。調査が不十分で審理は持ち越し、昨日の調査で響也が決定的な証拠を発見し、二日目の今日、その証拠で被告人は有罪判決を受けた。
「今日の審理もどこかで聞いていたの?傍聴席には見えなかったけど」
冥のデスクに遠慮なく腰を下ろし、響也は前髪を指でいじりながら、かろうじて笑顔で聞いた。
「初日の審理で足りなかったのは、弁護側が主張した被告人の現場不在に反証する証拠。現場がぬかるんでいたのに被告人の足跡だけがなかった。だったら、隠れた足跡かそれに変わる痕跡を見つけ出せばすむこと。二日目まで傍聴する必要はない」
いきなり目の前に立って、自分勝手なことをしゃべる後輩に、冥はややいらだって言葉を投げつけた。

もう少し若いころの冥なら、さんざん鞭で打ち据えているところだ。
「・・・・狩魔検事。一日目の審理を聞いて、今日の判決が見えていた、というわけ?」
有罪判決が出て、意気揚々と勝訴の報告に来た後輩検事の鼻っ柱を真っ二つに折って、冥はペンの先で響也を差した。
「被告人を有罪だと判断したから、起訴してるの。有罪判決は下りるべくして下りたのよ。無罪判決が下りたら、それはあなたの力不足でしかないの」
ぽかんとした顔で冥を見つめ、響也はしばらくしてようやく笑った。
「くっくっく、さすがだね。新人検事の講習会で講義をしたときも、そう言ってくれれば良かったのに」
「講義でそんなことを言ったらミもフタもないでしょう。ところで、それを渡す気がないなら出て行ってもらえるかしら。渡す気があるならさっさと渡して出て行って」
「冷たいな。勝訴おめでとうの一言くらいもらえるかと思ってたのにね。どうせ、なにもしていなかったじゃないか」
デスクに腰を下ろし、体をねじって冥を見下ろす。
「あいにくだけど、明日、担当の裁判があるの。審理のシュミレーションをしていたのであって、なにもしてなかったわけではないわ」
冥が立ち上がる。
「・・・それって」
響也が冥を目で追った。
「まさか、裁判の流れを頭の中で追っている、ということ?」


「証拠も証言もそろっている。弁護側の主張しそうなこともわかっているでしょう。もう少しで判決が出るところだったのよ」
冥は裁判の前にいつもそうしている。
冒頭弁論をイメージし、証人の証言と弁護側の尋問、それに対してぶつけるべき異議、さらに弁護側の反論。
それらを追っていき、最終的に有罪判決が出るまでのシナリオを作っていく。
ほとんどの裁判は、そのシナリオどおりに進み、冥は勝訴してきた。
相手が、あの弁護士でない限り。
「・・・すごいな」
響也が、素直な感想を述べた。
「さすが検察局始まって以来の天才二世検事だね」。
「検察局始まって以来のサラブレット検事は、結局そのディスクを置いていくのかしら、行かないのかしら」
毎年、新人検事の誰かにその忌々しいキャッチフレーズを考えるのに、事務方はけっこう頭をひねっているらしい。
響也がディスクを差し出し、受け取ろうとした冥の細い手首をつかんだ。
「・・・なんのつもりかしら、牙琉響也」
「いいね。その目。講習会で、演壇から見つめられたときから、そう思っていたけど」
「あなたを見つめた覚えはないけれど」
「見つめていたはずさ」
デスクに腰掛けたままの響也が、つかんだ冥の手首を急に引き寄せ、冥はバランスを崩してその胸に受け止められた。
「思っていたよりずっと華奢なんだね。狩魔検事」
冥は響也から逃れようとして、強い力に抗い、あきらめた。
「年上の先輩に対して失礼な物言いをするのはともかくとして、これはあんまりではなくて?」
「そうかな。ぼくは、7年越しの熱い思いを訴えているだけのつもりなんだけど」
「・・・・・」
冥はもう一度、抵抗した。
「ガリューウエーブにキャーキャー寄ってくる女の子はたくさんいるけど、ぼくはずっとこうしたかった」
腕の中で必死に逃げようとする冥を、さらに力をこめて抱きしめる。
「かわいいだけの子ならたくさんいる。でもあなたのように、ぼくが尊敬できる実力がある人は、いない」
抱きしめたまま、響也は冥の顎に指をかけて上向かせ、キスをした。


「・・・・!」
首を振って、冥が逃げる。
「だめですか、ぼくでは・・・」
抱きかかえたまま、厚いカーペットに押し倒した。
「いいかげんに、ばかなことは・・・っ」
じゃら、と音がした。
響也は自分の腰からチェーンのベルトをひきぬき、冥の両手首を縛った。
「やめ・・・っ!ちょっと牙琉・・・!」
「大きな声を出さないで。外に聞こえて誰かが来たら」
片手で冥の顎を捕らえ、空いた手で器用に服を脱がせる。
「あなたも、かなり困るよね」
冥の目の前に、はずされた下着をかざす。
「きれいだ・・・」
ゆっくりと、指一本で冥の体をなぞる。
二つの形のいいふくらみをそっと手で覆い、静かに揺らす。
薄桃色の蕾を指で挟む。
「や、やめ・・・」
「まだそんなことを言うのかな、この口は」
響也は冥の唇をふさぎ、奥深くまで進入する。
じっくりと味わいつくし、その間も手は優しすぎるほど緩やかに乳房をもてあそぶ。
深いキスで冥の抵抗を封じ、そのまま耳を甘咬みする。
唇と舌でうなじから肩のラインをなぞり、下へ下りる。
蕾を、捕らえる。
冥の体が、びくんとはねた。
舌で周囲から頂点にかけて、ぐるりと刺激する。
何度も、何度も。
片手はもうひとつの乳房を揉みしだき、もう片手は体のラインを確かめるようになでまわす。
単調な動きに、冥が耐え切れなくなるまで。

手がそっと太ももに触れる。
スカートが下ろされる。
引き締まったヒップも、くびれた腰も、丹念になぞる。
時に手のひらで、時に指先だけで。
上から下へ、下から上へ、そして円を描くように。
「吸い付くようだ。本当にきれいだね」
太ももを撫で回していた手が、膝を割った。
「・・・やっ」
手のひらで、そっと丘を押さえる。
そのまま、ゆっくりと動かす。
片手が、胸の蕾を強くひねった。
「いた・・・いっ」
「・・・ごめん」
響也はその蕾を軽く吸い上げると、また手のひらで大きく揉み始めた。
片手は、脚の間をゆっくりとなで続けている。
下着の間から、手を差し入れる。
指一本で、上下に摺る。
「感じて・・・。でないと、つらい思いをするよ」
潤いの足りないそこを執拗に刺激しながら、響也が冥の耳元で囁いた。
「やめて・・・おねがいだから・・・」
「だめだよ。もう止められるはずがない。こんなにかわいいのに」
耳にかかる息で、冥は眉を寄せる。
それを見て、響也は耳に舌を差し入れた。
「・・・っ」
ここだ。
繰り返し、しつこく耳を嘗め回し、咬み、息を吹きかける。
首筋に、口付ける。
その間も、手は股間の割れ目を上下し続ける。
単調に、しかも終わることなく繰り返される刺激に、冥の表情はつらそうにゆがんだ。
「濡れているよ・・・狩魔検事」
単調な動きをしていた響也の指が、膣の位置で止まる。
入り口を確かめるように、わずかに差し入れられる。
親指が、敏感な下の蕾に触れる。


「い・・・や・・・」
「だから・・・だめなんだよ」
「・・・あ」
指が、進入した。
そしてまた繰り返される、単調な刺激。
「ああ・・・・っ」
「気持ちいい?感じてるね・・・?ここを、ぼくの指で」
刺激が強くなる。
「・・・うっ」
「だめだよ、そんな声を出しちゃ・・・。もっと抑えて」
響也はいきなり冥の腰を抱くと、下着を剥ぎ取り、両足をかかえるようにして広げた。
「きゃ・・・あっ」
「よく見えるね」
「いや、やめ・・・っ」
響也がそこに顔を埋め、冥はのけぞった。
舌が、一番感じるところでまた同じ動きを繰りかえし、指が奥深くに入り込む。
くちゅ、という音がした。
それまでのやさしく執拗な愛撫にくらべて、乱暴なまでに激しく、響也は責めた。
ゆっくり上昇してきた快感が沸点に達したかのように、蜜があふれ出た。
「・・・っ!」
声を押さえようと食いしばり、両手をしばられたチェーンが代わりに音を立てる。
白い裸体が薄紅に染まり、響也は蜜で濡れた指を引き抜くと、はちきれそうになった自分自身を取り出す。
先端で濡れそぼった冥の陰部をかき回す。
「いいかな・・・。挿れるよ、ぼくを」
冥の手首を縛っていたチェーンがはずれて落ちる音がした時、何かが彼女を貫いた。


動きは、やさしかったが単調ではなかった。
体全体を揺さぶられるように突き上げられ、冥は自由になった両手で響也の肩につかまらなければならなかった。
「あ・・・・っ、あ・・・・、くぅっ」
「だめだって・・・そんな・・・声・・・」
響也の声も、かすれている。
熱く、強く締め付ける冥に、彼も限界をこらえている。
「すごい・・・、こんな・・・いやらしいんだね」
「んっ、んんっ・・・あ・・・」
はあ、はあ、という響也の息遣いが冥の耳にかかる。
「ちょっと、もうだめだ・・・気持ちよすぎるよ、狩魔検事・・・」
響也はそういうと冥の腰を抱きかかえなおし、今度は速い速度で打ち付けた。
「・・・く」
「ああ・・・んっ!ああっ」
角度を変えながら緩急をつけて打ち付けられる快感に、冥は頬を高潮させ、目に涙をうかべた。
「あ・・・っ!」
冥が体をのけぞらせ、ぎゅっと響也を締め付けた。
「うわ・・・すご・・・」
耐え切れず、響也が欲望を吐き出す。

そのまま、しばらく冥も響也も動けなかった。
ようやく、響也が息を吐いて冥の髪をなでた。
「気持ち良かった・・・?」
「・・・・・っ、牙琉響也っ」
「ぼくは、気持ちよかったよ。あなたも、感じていたように見えたけどね」
そっと冥の唇に口付ける。
「今度は、もっと声の聞けるところで抱きたいな」
「・・・っ」
まだ、体中が熱い。そのまま響也は唇を冥のまぶたに押し付ける。
「好きだよ。あなたは・・・?」
両足の間に響也の腰を置いたまま、冥は近くにある響也の顔をにらみつけた。
「来月の給与査定・・・おぼえてらっしゃい」


最終更新:2020年06月09日 17:49