「世話になったな」
そう言って、神乃木荘龍は歩き出した。

しばらくぶりに見上げる、自由な空だった。
直後、狭い通りを、後ろからシルバーのスポーツカーが走ってきた。
神乃木が通りの端によけると、車はその横で止まった。
左側の窓が音もなく下がり、ラベンダー色のセーターを来た若い女が、ハンドルに手をかけたまま神乃木を見上げる。
「神乃木荘龍ね。迎えに来たわ」
神乃木は、少ない荷物を肩に抱えてその女を見下ろした。
「誰だ、あんた」
言ってから、思い出した。
服装が違うので気づかなかったが、顔くらいは見たことがあった。
女は、運転席に乗ったまま勝気そうな目をまっすぐに向けて、言った。
「狩魔 冥」

助手席に収まって、後ろの席に荷物を放り投げる。
シートベルトをかちりとはめるのを待って、冥はアクセルを踏む。
道交法遵守だ。
「親父さんとは、法廷で会ったことがあるぜ」
最初の赤信号で止まったとき、神乃木は口を開いた。
「・・・」
「俺もペーペーだったが、コテンパンにやられたな。完全無罪を主張していたのに、親父さんに追及された被告人が、法廷でペラペラ自白し始めたんじゃ、どうしようもない」
「・・・」
冥が返事をしないのを見て、神乃木は話題を間違えたことを知った。
セーターの袖から出た白い手がギアを入れて、車は滑らかに発進する。
二人がしばらく黙ったままで車は街を走った。

塀の中にいる間にも、街はそれほど大きく変わったように見えなかった。
「・・・どこか、行きたいところはある?」
冥が言う。
整った横顔は、無表情のまま前を見つめている。
「いや・・・、おい」
大きな通りへ出て、神乃木はマスクの奥の目を細めた。
「どこへ行くつもりだ、コネコちゃ」
ハンドルを握ったまま、冥が目だけ動かして、キッと神乃木をにらみつける。
「・・・星影法律事務所は引越ししたのかい、狩魔のお嬢さんよ」
冥が今度は首をまわして神乃木を見る。
「星影法律事務所?あなた・・・」
はっとしたように、顔を前方に向ける。
道路が混みはじめていた。
「知らないの?星影弁護士は、あなたの身元引受人を・・・」
彼女が言葉を選ぶ間の、半呼吸の間で、神乃木は事態を悟った。
「断られたってわけかい。出所した弟子の身元引受人を」
「・・・・」
「で?俺はどこへ連れて行かれるんだい?」
「身元引受人のところよ。決まってるじゃない」
「だが、星影先生は・・・」
「御剣怜侍が引き受けたわ」
神乃木は、腕を組んだ。
御剣怜侍。
千尋の初公判の時の検事だ。葉桜院の事件でも、会っている。
だが、なぜ。
「よほど引き受け手がなかったんだな、俺は」


「・・・・」
「御剣は狩魔検事の弟子だったか。あんたと同門というわけだな。それで、迎えに来てくれたのか?」
「御剣怜侍は自分で来るつもりだったけど、急な仕事が入ったのよ。それで」
冥が細い指でハンドルを叩いた。
「私が車を借りてきたの」
「これは、アイツの車かい?」
「こんな乗りにくい車、私の車なわけないじゃない」
忌々しげに冥が、今度はマニュアルシフトのギアを叩く。
そのしぐさが子供っぽさを感じさせて、神乃木は気づかれないように笑った。
「へぇ。アイツは真っ赤な車でも乗り回してそうなイメージだけどな」
「真っ赤な車にはイヤな思い出があるそうよ。・・・渋滞にはまったわ」
インパネの時計で時間を確かめて、冥はサイドブレーキを引いた。
「動かないけど・・・まだ時間もあるし」
神乃木は、車と人でにぎわう街に目を移した。
星影弁護士が、身元引受人をしぶった・・・。
ひさしぶりに出てきた娑婆も、生きにくそうだ。

「そういや、成歩堂はどうしてる?」
ふいに、冥がクラクションを鳴らした。
前の車が、のろのろと車間を詰める。
「気の短い検事さんだな」
「バカ歩堂のせいよ!」
急に、今までにない高い声で冥が叫ぶように言った。
「・・・なんだ?」
「あのバカ、弁護士バッジを剥奪されたわ」
「・・・なんだと?」
冥は車を無理やり横道へ入れると、街中から離れた。
弁護士バッジ剥奪?
どういうことだ?
街を見下ろせる丘の上の公園へつくまでに、冥はあの事件を語った。
成歩堂が捏造証拠を提出した、あの裁判を。

人の少ない公園の駐車場に車を止め、冥は神乃木を見た。
腕を組んだまま、じっと考え込んでいる。
そっとシートベルトをはずす。
神乃木を一人にさせようと、ドアに手をかける。
「いてくれよ、狩魔のお嬢さん」
「・・・・」
小高い丘から見下ろす街は、その中で今も沢山のいさかいを起こしているに違いない。
その幾つかは、法廷に持ち込まれる・・・。

神乃木は一言も口を利かず、身動きもせずに黙ってその街を見つめていた。
心が落ち着くまで。
そして、その隣で冥もやはり黙っていた。


「なぜ、アイツは・・・それくらいのことで負けたんだ?得意のハッタリで幾らでも言い逃れできそうじゃねぇか。あのオトコが、捏造なんてシャレた真似をするとは思えねぇんだ。誰がハメたんだ?」
それがひとり言なのか、冥に向けて言ったものなのか、神乃木自身にもわからない。
「おまえさんは、なにもしてやらなかったのか?御剣も?」
今度は、はっきりと顔を左に向けて言う。
冥が唇を噛んだ。
「外国にいたの。御剣怜侍は。私もアメリカに」
「・・・そうかい」
「御剣怜侍は、その事件を知ってすぐに向こうを引き払った。でも遅かった。弁護士協会が成歩堂龍一から弁護士資格を剥奪して除名した後だったのよ」
「それは、どのくらい後だ?やけに早くねぇか?」
神乃木の目の前で、ラベンダー色が動いた。
冥の腕が上がり、髪をかき上げる。
「あなたは、これからなにをするつもり?」
ふいに話題を変えられて、神乃木は冥の横顔を見つめる。
狩魔は完璧を持ってよしとする、と言ったのは彼女の親父さんだったか。
彫刻のような、整った顔立ちだと思った。
「さあな。弁護士もやった、検事もやった。おまけにム所暮らしもやった。あとはなにをやるかね」
「・・もし」
冥が、初めてまっすぐ神乃木を見た。
「あなたにその気があるなら、手を貸してくれるかしら」
「・・・・そりゃ、ことと次第に」
「成歩堂はハメられたのよ。それはハッキリしてる。そこまでは、突き止めた」
「・・・突き止めた?おまえさんが?」
「・・・動いているのは成歩堂自身よ。私と御剣怜侍はその手助けをしている。あともうひとり、警察関係者」
「警察?」
「アメリカ帰りの現場捜査官だけど、科学捜査にも詳しいわ。彼女も、成歩堂に恩があるそうよ」
「そこに、元弁護士の元検事も加えようってわけかい」
「・・・・」
「なるほど、それが俺の身元を引き受けた理由か?」
「今の話は、私の独断よ。御剣怜侍は知らないわ」
「なんでお嬢さんは、俺にそんな話をしようと思ったんだ?俺が今の話を餌に弁護士協会に掛けこまねえとは限らねえだろうぜ」
神乃木がそう言うと、冥は左手で自分のジーンズの膝をつかんだ。
「・・・仮釈くらい、いつでも取り消せるのよ」
驚いた顔で、神乃木はクッと笑った。
「検事さんが、脅迫か?それとも」
狭い車内で、神乃木は大きな体をねじって冥に向けた。

「短い時間で、信用されたもんだな、俺も」
冥の顎に、指をかける。
車内という密室で、男に触れられてもビクリともせず、まっすぐ睨み返してくる。
気の強いオンナだぜ。


そのまま、唇を寄せる。
「・・・!」
触れた瞬間、冥が逃げた。
ドアに背中がついて、それ以上距離が取れない。
神乃木は手を伸ばしてドアをロックした。
「キライじゃないんだろ、俺が。だからそんな話をしたんじゃねぇのかい、お嬢さん」
「・・・っ」
「いいぜ。あんた次第では協力してやるよ。成歩堂のために」
成歩堂の名を出されて、冥は振り上げた手を下ろせなくなった。
調査も、行き詰まりかけている。
わけありとはいえ、弁護士に詳しい協力者が欲しいところだった。
成歩堂のために。御剣のために。
冥が力を抜いたのを見て、神乃木はシートを倒した。
セーターの裾から手を入れる。
細い胴に手が触れる。
わずかにあばらが感じられる。
なで上げて、背中に回した手でホックをはずした。
そのまま背中をゆっくり撫で回しながら、唇をふさぐ。
舌を差し入れる。
抵抗する気がなさそうなのを見て、神乃木は大胆になった。
セーターをたくし上げ、ジーンズを膝まで下げるとそのまま覆いかぶさる。
「こんなところですまねぇが」
目の前にこぼれ出した形のいい二つのふくらみ。
片手ですっぽり覆って、ゆっくり揉む。
もうひとつのふくらみの突起に吸い付く。
じっくりと味わうように舐め、舌でつつき、吸い上げる。
次第に口の中でちいさな塊が硬くなる。
両の乳房を弄びながら、片手で腰をさする。
ショーツに指をかけ、一気に引き下げた。
「・・・っ」
冥の体が、一瞬震えた。
手を股間に添える。
そのまま指を割れ目にすべりこませた。
熱が、伝わる。
胸からの刺激と敏感なところを擦られる刺激で体が火照りを帯び、冥は顔を背ける。
御剣怜侍の車の中で、こんなこと。
神乃木の指が膣の入り口を探し当てた。
そのまま浅いところをかき回す。
乳首を吸い上げたまま唇を離すと、淡く色づいた乳房がぷるんと揺れる。


「いいながめだぜ・・・お嬢さん」
唇がうなじを這い、耳朶を咬み、冥の唇を吸う。
その間にも乳房を揺らし、蜜のあふれ始めた秘所に指が進入する。
かき回されながら敏感な肉芽をぐりぐりと親指でこねられ、冥の唇から吐息がもれた。
「触ってくれ」
冥の手を導いて、取り出した神乃木自身を握らせた。
「・・・あ」
触れたそれは、熱く硬くなっていた。
「こするんだ・・・そう」
ぎこちなく、冥の指が神乃木をつかみ、上下する。
「クッ・・・上手だぜ、お嬢さん。そう・・・いい気持ちだ」
中に入れた指を二本に増やし、激しく抜き差しする。
「・・・っは・・・、あんっ」
冥のしなやかな体が反り返り、神乃木は片足をジーンズとショーツから引き抜くと、肩にかつぎあげた。
開いたそこを激しくかきまわし肉芽を擦ると、冥の手がぎゅっと力をこめて握った。
「おイタをしちゃいけねぇぜ・・・お嬢さん・・・」
「ん・・・あ・・・、あんっ」
駆け上がるような快感に、冥が手を離すと、神乃木ははちきれんばかりになったソレを、冥の股間に当てた。
びくんと体がはねる。
冥の予想に反して、神乃木はゆっくりと進入した。
「・・・んはっ、ああっ」
神乃木の胸に手を置いて、冥があえぐ。
「動くぜ」
引き抜かれ、差し込まれる。
その繰り返しの中で、冥の中に灯っていた火が燃え上がる。
「あっ・・・あっ・・・」
神乃木は狭い空間で自由に動けないまま、緩急をつけて冥を攻め始めた。
浅い位置で何度も奥深くを突く。
抜けるほど引いて、突き立てる。
挿れたまま、かき回す。


「ん・・・、あっ、やっ・・・ああんっ」
熱く締め上げられると同時に、目の前で揺れる乳房と涙ぐんであえぐ顔に神乃木はいっそう欲情した。
「いいぜ・・・、すげえ締めてくる・・・。最高だ、アンタ」
「ああん、あ・・・あんっ」
「イキそうか?どうだ?気持ちいいか?」
「あ・・・、はぁっ」
「イケよ、イっちまえ。お高く止まった天才検事さんよ。人の車の中でこんなみっともねぇ格好で、そんなに気持ちいいかい?とんだエリートだぜ」
「・・・く・・・あぅっ」
「ガマンするんじゃねぇ・・・これでどうだい」
冥の腰に手を当てて持ち上げ、角度を変えて突く。
「い・・・あっ」
それまでと違うところに当たる感覚に、冥は白い喉を反らせる。
「ここがいいのかい、お嬢さん!気持ちいいのはここかい!なんとか言いな」
「・・・ふ、・・・あっ、あんっ、あっ、あっ、あっ!!」
「言えよ、言ってみろよ。どうなんだ、ええ?」
「いっ・・・」
「いいのか?感じるのかい、俺をくわえ込んで、気持ちいいのかいっ」
神乃木が、息を乱しながら腰を振った。
「あああ・・ふっ、そんな、んんっ・・・あん」
指で、敏感な肉芽に触れる。
「あああっ!」
「イくのか?イっちまうのか?ええ?」
「ああん、ああ、あ・・・んっ・・・はぁっ」
激しく突き上げながら指でこね回されて、冥の体はビクンビクンと痙攣する。
「いい顔だぜ、お嬢さん」
神乃木がそこで一度動きを止める。
あえいでいた冥が、神乃木にぎゅっと抱きついた。
「さあ、お嬢さん・・・ここまでにしようか?」
いじわるく囁く声も、興奮にかすれている。
「どうだい・・・、抜いちまってもいいのかい」
言いながら、手で胸のふくらみを持ち上げるように揺らす。
「ん・・・・あんっ」
「さあ・・・どうなんだ」
乳首をつまんで擦り合わせる。
「や・・・」
「ん?なんだい?聞こえねえぜ」


神乃木の腰が動いて、冥の中をかき回す。
「あっ・・・」
「さあ、おしまいだぜ・・・」
「いや・・・やめ・・・ないで」
その言葉を引き出すと、神乃木はいきなり最奥を突き上げた。
「おねだりが下手くそだな、お嬢さん・・・」
「ん、ぁ・・・っ」
「だが・・・ク・・・あんたのここはたまらねえっ」
再び神乃木の腰が激しく動き始め、冥を攻め立てる。
体が揺れるほど強く突き上げられて、冥はまた押し寄せる快感におぼれた。
「んは、ああっ・・・!すご・・ああ、いいっ」
「俺も、俺もいいぜ!うぉっ・・・」
「あっ・・・!」
絶頂を迎えた冥が体を反らせて、きつく神乃木を締め上げた。
「クッ・・・いいぜ、も・・・うっ・・・」
冥の奥に神乃木が熱い情欲を吐きだし、うめいた。
「・・・すげえ・・・良かったぜ」
冥の乱れた髪を撫で、ぐったりと目を閉じたままの頬に唇を押し当てた。
うっすら上気した頬を、舌で舐める。
「こんな場所でなければ、何度でもお願いしたいところだぜ・・・」
「・・・っ」
顔をそむけようとする冥の頬を両手で包む。
「本気になりそうだぜ・・・冥」
下唇を挟むような軽いキス。
着衣を整えて、神乃木は名残惜しそうに冥の体をつつんだ。
「なんとか、言ってくれねえかな」
シートを起こして、両腕に抱きながら耳元で囁く神乃木に、冥は目を閉じてもたれかかった。
「・・・強引なオトコは・・・キライではないわ」
神乃木は喉の奥でクックッと笑い、ぎゅっと冥を抱く手に力をこめた。
「行こうぜ。俺の身元引受人のところへ。成歩堂の名誉は、必ず回復してやるぜ」

最終更新:2020年06月09日 17:49