成歩堂×千尋⑦

 …いけない。失態だわ。
目を覚ますと、電気をつけたまま着替えもせずに、ベッドの上で横たわっていることに気がついた。
ベッドサイドの時計を見ると、夕食を済ませて帰宅してからまだ1時間も経っていないことに安堵する。
朝だったら目も当てられなかったわね…。
 だるい体を起こしジャケットを脱ぐと、壁に立てかけられた縦長の全身鏡に髪を乱し化粧は剥げかけた姿が映った。
…いくら忙しい日が続くとはいえ、こんなことではいけないわねと溜息をつく。田舎のずぼらな妹を叱れやしない。
気を取り直してスーツの上下をハンガーに掛け、メイク落としで顔を拭う。
疲労と睡眠不足で化粧ののりが悪くなっては困るのだった(素顔が悪い訳じゃないわよ)。

 …今の自分に不満はないが、必ずしも満たされているわけではない。
そんな思いに、思わずベッドに仰向けにひっくり返ってしまう。
多分、少し疲れているのだろう。
いきなり倒れこんだのと、天井の灯かりに少し眩んで、腕で目を覆う。
こういう時は軽くアルコールでもとって寝るに限るが、あいにく今日はその用意がなかった。
疲れているのに身を持て余しているだなんてうんざりしてしまう。


 何とはなしに覗いた鏡の中の下着姿の自分。
しげしげと眺めてみると、自分で云うのもなんだが実り実った女の体である。
ブラジャーの上から少し重量のある胸を片手でぐいぐいと持ち上げてみる。
胸もお尻も自分の必要以上に育ってしまったものだ。まあ、なるべくしてなってしまったのだから
仕方がないが、これを維持するのもなかなか大変なのだ。
誰に見せるという訳でもないけれども。
 そういえば、最後に男と寝たのはいつだったろうか。
とっさに思い出せない自分に苦笑いする。
このところキスだってしていない…そもそも、する相手がいないのだけれども。
 …なんだか急に寂しくなってしまった。
いっそのこと泣いて一時の気を晴らしてやろうかとも思ったが、
腫れた目で朝を迎えるのはご免こうむりたい…などと考えていると、ふと口を付いて出た。
「ナルホドくん、もう寝たかしら…」
……。
…何で、ここにナルホドくんの名前が出てくるのかしら。
 私の部下でひよこ弁護士のナルホドくん。
結構しっかりしているのかしてないのか、頼りになるのかならないのか、度胸があるのかないのか、
でも正義感が強くて、真面目で、働き振りのいい、なかなか面白い好感の持てる二つ年下の青年。
綾里弁護士事務所に入ってから半年と少し経った。知り合ったのはもっと以前なのだが…。
 でも、別に先ほど帰りや食事が一緒だったしたわけでもない。
そもそも、彼は今日一日、他の弁護士事務所へ使いを出したせいでほとんど顔を合わせもしなかった。
それなのに、今、彼のことが頭に浮かんだ。
 …まあ、そんなおかしくはないかとも思う。
今、家族を除いては、一番自分に近しいところにいるといえる人間だし、彼は好ましい青年であったし。
しかし、そう思っていた割には、彼が自分の恋人になる姿を想像したことはなかった。
 …恋人?私とナルホドくんが?
その思いつきに、改めて自分で吹きだしてしまった。
なんともまあ、今まで考えなしだったのに急な展開だこと。
くすくす笑いながら、また壁の鏡を覗き込んでみる。

 ナルホドくん…彼は私のこと好きだったりするかしら。
恋に憧れる少女のような、勝手で拙い妄想をしてみる。
 ブラジャーホックを外すと、縛めがなくなったふたつの乳房は弾ける様に零れ出た。
こんな胸は気に入ってくれるかしらね。
長いこと覆われていたせいで敏感になった両の乳首を摘み上げると、
体の奥からじんじんと快感が攻め上がってきて、身悶える。
出来る事ならば、今すぐ後ろから包み込むようにこの胸を揉み上げて欲しかった。
 彼に頼んだら抱いてくれるかしら…そんな馬鹿な考えに浸りながら、
それが叶わない今、私は自分の乳首をくりくりと弄くり続ける。
彼の手が自分の乳房を、体をを蹂躙する姿を思い描くと、たまらない気持ちになってしまう。
 鏡には、自分で胸を寄せ上げ、その乳首に吸い付く女が映っていて、
こんな風に彼を誘ったら、私を哀れむだろうか、それとも襲いかかってくるだろうか。
事務所の床に押し倒され弄られ犯される光景は、体の芯をどろどろに熱くさせ、
私は蛙の様に脚を開き、自分の思い描いた姿に追いつくように感じやすい部分を弄りだす。
湿った下着の上から中が滑り、相手はなくとも受け入れる準備だけは整っているのがわかった。


 もどかしい気分で、ベッドの横に置いた棚を開けて何やら取り出す。
これならどうかと思うのだけれど…だいぶ前に買った小型のハンディマッサージ器である。
箱から出して早速スイッチをオンに入れると、ヴ…ンと振動音が鳴り出す。
逆手に持って下着越しにマッサージ器あてがうと、小刻みな振動が割れ目の上の小さな突起
一点を絞って伝わってくる。
「う…くぅ…」じんわりと下腹部に広がる感覚に、思わず声が漏れてしまう。
そのままベッドに沈み込んで、脚を強張らせ、思わずスイッチを切ってしまわないように耐え忍ぶ。
「ァ…や…、ぅ、うぁ…あ。だ、ダメぇ…」
 左手でマッサージ器を持ったまま、右手は下着の中の隙間に差し入れてとろりと温かい液体が
流れ出る膣内をちゅくちゅくと音を立てて慰めている。
 本当は、もっと深いところで感じたい…ナルホドくんに激しく奥まで掻き混ぜてぐちゃぐちゃにして欲しい。
あらん限り声を上げて、噛み付き、爪を立て、抱きしめたい。朝まで彼のペニスを食べ尽くしたい。
頭の中であらゆる痴態を繰り出す彼と自分に、私はいつも以上に濡れてしまったのだった。


 …自分ひとりの慰めでオーガズムを感じたのは初めてだったかもしれない。
その後、シャワーを浴びながらぼんやりと考えた。
しかも、それはナルホドくんを借りてしまったことで…。
…彼には少し申し訳ないけど、さっきは彼が適役だったのよね。そう、適役だったから。
それとも彼のこと好きなのかしらね。
………。
 まあ、それはぐっすり眠ってから考えましょう。今は何をして考える余力もないみたい。
そう、何も急ぐ事はないのだから…。

おわり。
最終更新:2006年12月13日 07:59