御剣怜侍がアメリカの狩魔邸に来るのは、久しぶりだった。

少年のときに狩魔豪に師事してから、早く学業を修めるために数年ここで暮らした。
多忙で日本を出ることがない狩魔豪はなぜか、末娘が2歳のときに妻と末娘を移住させたのだ。
それが、あの事件の直後だったと御剣怜侍が知るのは、まだ数年先。

かつて私室として与えられていた部屋がそのままで、御剣はデスクの前に座って冥を眺めていた。
娘しか持たない狩魔豪が、跡取り候補として御剣をアメリカに送ったとき、まだ小学校に上がったばかりの冥は顔を真っ赤にして怒ったものだ。
「私が検事になるわよ!」
自分と母を放り出して会いにも来ない父親への抗議と、息子のように扱われる御剣への子供らしい嫉妬だと思った。
そして本当に猛勉強し、御剣が日本へ帰った後、彼が初法廷に立った去年、同時にアメリカで検事になった。
御剣は二十歳、冥は13歳だった。

初法廷で、いまだに忘れられない苦い思い出を作った御剣に反し、冥は順当に連勝しているという。
その冥が、法廷での大人びた服装を解いて、少女らしいふんわりした可愛らしいワンピース姿で、専門用語を連ねている書類に目を走らせている。
さっきから同じところを何度も繰り返し呼んでいるようだったが、急に顔を上げる。
「キトウを舐めると、どうなるの?」
椅子から落ちるかと思った。
「なんだと?」
冥は黙ってファイルごと突き出し、御剣は立ち上がり、デスクを周って冥の座っているソファの前まで行った。
「・・・・・・ム」
一目見て、その案件が婦女暴行事件だというのがわかった。
こんな事件を、14歳の女の子に扱わせるのか。
しかも、被害者は強姦で訴え、被疑者は和姦を主張している。
「君は、検事局で嫌われてはいないだろうな?」
史上最年少というだけで、面白くない先輩はたくさんいるだろう。
困らせようとしてこんな事件を押し付けているのかもしれない。
冥は御剣が返したファイルを受け取って、ふんと笑った。
「考えすぎ。どんな事件でも同じよ。ただちょっと、わかりにくいことがあるだけ」
書類に目を落とし、指先で単語をなぞる。
「被疑者が合意の上だったと主張する根拠なんだけど」
淡々と取り調べの内容を読み上げる冥に、御剣のほうが赤面した。
「・・・世間話の途中で被害者は、被疑者の足元に膝をつき、こうね」
ふいに、冥が御剣の正面で立ち膝になった。
「ム・・・」
「そこで被疑者は前を開けて陰茎を取り出す。ほら」
「ほ、ほら?」
真剣な目で、冥が御剣を見上げている。
「手伝ってくれないの?」
前髪の間から見つめてくる瞳に、ドキドキする。
最後に会ってからそう何年もたっていないのに、わずかな間に急激に子供っぽさが抜けて、大人びた顔をするようになった。
ちいさな子供だと思っていたのに。
冥はいきなり御剣のズボンに手をかけた。
「ぬおっ?!」
「被害者によると、すでに陰茎は勃起していた。しかし、被疑者はそれを否定」
冥の細くて冷たい指に触れられ、外気にさらされる。
話題が真剣なだけに、突き放していいものかどうか、それにしても狩魔の完璧主義というのはここまでするものなのか。
「これって、勃起してるの?」
片手で御剣をつまみ、反対の手で床に置いた書類をめくる。
「い、いや、これは、まだ」
「どうしたら勃起するの?」
まさか、再現するつもりなのだろうか。
背中にじっとりといやな汗がにじみ、局所が熱くなる。


「被疑者の主張は、被害者が陰茎を口に含み亀頭をなめたことにより勃起、と」
ぱく。
「め、冥!」
「ひがいひゃのしゅひょうは、ひぎひゃが、もっきしたいんけいを、むいやい、くちに」
正直なところ、検事になることだけを考えてきた御剣にも、女性経験はない。
いきなり女の子に咥えられて、変化するなと言うほうが難しい。
「んっ」
冥は口の中で形を変えたそれを、離す。
「なにこれ・・・・・・」
「ム・・・、その、ぼ、勃起、だ」
「これが?」
珍しいものでも見るように、上下左右に振って観察する。
「い、いや、それは」
「キトウってどこ?」
御剣は観念したように、天を仰いだ。
「今、君がつまんでいるところだ・・・・・・」
「んー、さっきはするっと出てきたけど、この状態でズボンから出すのって大変じゃない?」
「ま、まあ、状態にもよる、が、うっ」
冥が亀頭を口に含んでちろちろと舐め、御剣はうめいた。
「そ、それはどっちの供述・・・」
「あ、これは私の好奇心」
カンベンしてくれ。
冥の両肩に手を置いて、大きく息をつく。
「もう、いいだろうか」
「被害者は、そこでいきなり被疑者がベッドに押し倒して下着をはぎとり、行為に及んだと主張」
「・・・・・・」
「被疑者は、被害者がすでに陰部を濡らしており、合意と認識」
まさか、そこまで再現するつもりでは…。
「どういうこと?」
冥はまだ、大きくなった御剣を片手でもてあそんでいる。
「つ、つまりだな、被害者は、被疑者がすでに自分だけで準備をしていて、無理に行為に及んだと言っているのだ」
「被疑者が勃起してたから?」
「う・・・ム、だが、被疑者は、被害者によって勃起させられ、ひ、被害者も合意だったと」
「『陰部を濡らしていた』から?」
「ま、まあ、そうなのだろう。ところで、もういいだろうか」
「これって、このままだとどうなるの?」
あまり刺激しないでくれ、と言いたいのを押さえて、御剣は息を吐く。
「いや、なんとか・・・うおっ」
冥が御剣の両手をつかんで、ぐいと引き寄せる。
はずみで床に冥を押し倒す形になって、御剣はあわてた。
生地の薄いワンピースの上から、胸の形がはっきりわかる。ノーブラだ。
立てた膝の間に身体を入れていることに気づいて、御剣は冥の手を振り払おうとした。
「ここで、合意がなくて強姦する気もない場合、どうなるの?」
それも、必要な疑問なのだろうか。
御剣はゆっくり冥の手を床に押し付けた。
「相手に、よるのではないだろうか」
「どういうこと?」
やはり、アレだ。
冥も、私も、これからその、ふ、婦女暴行のような事件を扱うことを考えると、必要なことではないだろうか。
自分の中で言い訳しながら、御剣は腕を曲げて冥の唇にキスをした。
「・・・・・・こんなの、供述の中にあったかしら」
唇を離すと、冥がつぶやいた。
「供述によれば」
御剣は冥の手を離すとそのまま手をすべらせ、ワンピースの裾をたくし上げた。
「下着を剥ぎ取ったとき・・・・・・」
引き下げようとしても、冥が腰を落としているので途中で引っかかる。
「ウム。ちょっと浮かせてくれ」
「・・・・・・こう?」
「そう。つまり、被害者が腰を上げないと、そう簡単に下着を剥ぎ取ることは出来ないわけだ」


足首に小さな白い布地をからませて、冥がうっすらと頬を染めた。
「つまり、被害者が嘘を?」
御剣が冥の脚を何度も撫で上げ、撫で下ろす。
「で、でも、力ずくで無理やりなら出来るのではない?」
「しかし」
内腿を撫でていた御剣の手が、冥の秘所に触れた。
「きゃっ」
「『被害者は、陰部を濡らしていた』」
膝をつかんで脚を開かせ、指でなぞる。
そこは、じんわりと湿っている程度だったが、乾いてはいない。
これがどの程度濡れている状態なのか、御剣にもよくわからない。
ただ。
女の子というのは、なんと柔らかくて暖かくて、壊れてしまいそうに華奢なのだろう。
「今の君に・・・、行為に及ぶと、これは強姦だろうか」
「お、及ぶの?」
「被疑者は、及んだのだろう?」
「で、でも」
冥は必死に脚を閉じようとしたが、御剣の腰を挟みつけることしかできない。
「被害者の供述は?」
「え・・・ええと、下着を取られて・・・、い、いきなり・・・」
御剣は身体を起こしてズボンを下げた。
冥が顔を背けて両手で覆った。
「いきなり、だな」
先ほど指で確認した場所に、先端をあてがう。
「や、ちょっと!」
冥が抗うまでもなく、そこはとても受け入れられる状態ではなかった。
「う・・・。やはり、その」
このまま突き進んでは本当に強姦になってしまう。
御剣は身体を引いた。
かすかに、違う感触があった。
そっと手を当てると、そこには確かに先ほどなかった水気があった。
「ム。なるほど」
「な、なによ」
「濡れてきている」
「え・・・、なに?」
「この場合、私は君によって勃起させられ、君は私によって濡らされたということになる」
冥が、耳まで真っ赤になった。
「被疑者は、嘘をついていないというの?」
「被疑者の供述が、ありえないことではない、ということだな」
指をそっと差し入れる。
「あんっ」
「だが、それで被害者の供述が嘘だと決め付けるわけにはいかない」
御剣は指を動かしながらもう片方の手で、ゆったりしたワンピースの裾から手を入れて、まだ小さな胸に触れる。
先端の突起を挟みこむようにして揉みしだいた。
「じゃ、じゃあ、どういう」
「とりあえず」
御剣は冥の唇をふさぎ、そのまま首筋と鎖骨に口付けた。
「被疑者の主張を、立証してみよう」
強く吸って、朱を散らす。
「脱がせたいのだが」
耳元に熱い息とともに囁くと、冥がそっと身体をひねる。
背中のファスナーを下ろすと、あっけなく白い裸身がさらされた。
小さくも形のいい丸い胸、先端のピンク色の花、白く滑らかな肌。
「・・・これは」
そそるな、という言葉を飲み込んで、御剣は痛いほど張り詰めた自分自身を冥の秘所に押し当てた。
そのまま入り口で動かしながら、冥の乳首を舐めた。


「ん・・・っ」
「供述で・・・、被害者の乳首は立っていたのだろうか」
「・・・あ、んっ、そんな、記述は、あっ」
「濡らしていたなら、立っていたのではないか?こんな風に?」
「あ、あんっ」
そのなまめかしい声に、御剣もどうしようもないほど冥が欲しくなる。
「合意、を確かめたいのだが」
御剣が腰を動かすと、くちゅ、という音がした。
全身を舐めつくされ、ピリピリするような快感が立ち上ってくる感覚に、冥は御剣に抱きついた。
「いい、わ・・・」
ゆっくりとめり込ませていく。
冥は一瞬苦しげに眉を寄せたが、しがみついた腕を解こうとはしなかった。
そっと動かすと、冥の吐息が御剣の肩にかかった。
そのまま速度を速める。
冥の息遣いが肌に感じられる。
暖かで柔らかい粘膜がからみつく感覚が、こんなにも良いものなのかと思った。
自分の下で、冥が恍惚の表情で揺れている。
こんなにも愛しい存在に、初めて出会った気がした。
「あ、ああ、あっ」
冥の声が漏れる。
動きの速度を落として、大きく回すように動かす。
「あんっ」
「・・・く」
冥が身体をそらせ、圧迫されて御剣も呻く。
身体を横向きにして脚を抱え、違う角度で動くと、冥が切ない声を漏らした。
「あ、や・・・っ、そんな、あんっ、怜侍っ」
冥の腰を持ち上げて、突き上げる。
「あ、そ、そこっ」
腰を抱える御剣の腕を強くつかみ、脚をからみつかせる。
激しく打ちつけ続けると冥の腰がビクビクと震えた。
「あ、ああああああっ!」
その表情が可愛く愛しく、御剣はそのまま動きを止めて、じっと冥に見とれた。
達した冥の中が痙攣するように収縮し、御剣は身体を引いた。
このまま、中に出してはいけないという理性は残っていた。
するといきなり冥が起き上がって、御剣のモノに口付けた。
「う、わっ」
引き離すより前に、冥の顔が白濁した液で汚れた。
「・・・ん」
顔をしかめた冥に、御剣はあわてて冥の顔を指でぬぐった。
「すまない、その、調整ができなかったのだ、つい」
くす、と冥が笑った。
「こんなの、供述にはないわ」
「・・・ウム」
冥の頬に手を当てたまま、御剣も少し笑った。
「ベタベタになってしまったな」
「しかも、結局なんの立証にもならなかったわ」
冥の白い腕が、もう一度御剣の首に巻きついた。
発達途中の華奢な胴を、そっと抱きしめる。
「いや、そんなことはない。私は一つ、立証した」
「なにを?」
「私に、大切なものがあるということだ」
囁いて、唇を重ねる。
「・・・ニガいな」
冥が、声を立てて笑った。

アメリカから帰ってきた御剣怜侍は、あれほどのダメージを受けていたとは思えないほど立ち直っていた。
無理に時間を作ってアメリカに行かせた効果があったことを、狩魔豪は確信した。
御剣怜侍はその後、黒い噂を身にまといながらも連勝を重ね、天才検事の名を欲しいままにしてゆく。
そして、同じく不敗と天才の名を冠して、狩魔冥が日本の法廷に立つのは、まだ数年後の話。

最終更新:2020年06月09日 17:21