「相変わらずヒマだねえ、事務所」

 

ソファに全躯を預け俯せに横たわる真宵が、肘掛けで頬杖をついて呟く。
テレビでお気に入りの番組を観終わってしまった後の第一声だった。

 

「いい天気。」

 

立春の正午―
陽射しがあまりに強いので窓のブラインドを半分下げている。
室内は暖かかった。


ちょうど昼時だと、真宵は徐ろに携帯電話を握った。

「お腹空いたし出前、取ろうよ!」

「良いけど‥‥さ。」


成歩堂はぎこちなく笑いながら紙面にペンを滑らせている。


「なに?その何か言いたげな目は」

「真宵ちゃんってさ、雨女ならぬ暇女なんじゃないの?実は。」

「むっ。それってあたしがいるからヒマってコト?
失礼しちゃうなあ、あたしはこれでもれっきとした"トラブルメーカー"」だよ!

「‥‥‥‥(それも困るんだけどね)」

 

頬を膨らませ憤怒する。
そんな真宵を見て微笑む成歩堂。

 

平和だなあ、と成歩堂は思った。
でも何だか足りないな、とも。

それも、物騒な殺人事件とか、そんなものではなく―
平和な、"刺激"。


「そうだ!」

「な、なんだよ‥‥びっくりしたなあ」


突然鼓膜に響いた元気な声に瞬時に消されてしまった一考だが、真宵はそんな成歩堂の胸中を知りもせず。


「はみちゃん呼ぼうよ。二人より三人で食べた方が楽しいし」

「‥‥春美ちゃんは里だろ。
一人で来られる訳ないじゃないか」

「ううん。明日のトノサマンのショーのために今、みつるぎ検事のところにお邪魔してるから大丈夫」

「どっちみち同じだろ‥‥危ないよ」

「もーっ、ここまて言ってまだ分かんないの?みつるぎ検事に送ってもらうんだよ。ここまで」

「え‥‥いや、アイツも忙しいだろうしそんな」

「明日のトノサマンのショー、一緒に行くくらい?」

「‥‥‥‥」

「とにかく、今からはみちゃんに電話するから」

「はみちゃんに?御剣にじゃなくて?」

「みつるぎ検事にはなるほどくんが話ししてよ。まずは、はみちゃんに代わってもらうの」

「‥‥‥‥」


沈黙を強いられる返答に、観念の溜息をひとつ。


「良いよ。」


にも関わらず、真宵は早速笑顔で携帯電話のボタンをプッシュする。
呼び出し音だけが鳴っている。


「‥‥‥‥もしもし。」

「あ、みつるぎ検事ですか?」

「真宵クン。電話など珍しいな。春美クンのこと‥‥か?」

「わっ!さすがみつるぎ検事、なるほどくんと違って察しが良いですね。」


横で机上に垂れていた頭が此方を向き、睨んだ。


「あの、はみちゃんに代わってもらえますか?」

「構わないが‥‥わっ、わ!」


突然短い叫びの後声が途切れたので真宵は何事かと戸惑うや、直ぐに安堵を取り戻した。


「真宵さま!」

「あっ、はみちゃん!
みつるぎ検事から電話、ひったくったの?」

「は、はい。真宵さまからのお電話なんて嬉しくて‥‥!どういたしましたか?」


興奮しているのかやたら声が上擦り、早口にまくし立てる。
真宵がくすくすと笑いながら人の気配に背後を振り向くと、いつの間にか机から離れた成歩堂が、反対側の肘掛けに座っていた。
真宵は急いで姿勢を正しスペースを開ける。
小声でありがとう、と
成歩堂は真宵のすぐ隣に腰掛けた。


「はみちゃん、あのね。よかったら今から‥‥ひゃっ!」


真宵の肩が震えた。


振り向かずとも、何が起きたのかすぐに分かった。
耳に吐息を感じたから。


「真宵さま‥‥!?」

「あ、ううん。なんでもな‥‥」

 

真宵は背後に向いた。
案の定成歩堂と目が合うと、にやりと口許を歪め不適に笑った。

やめて、と口を開く前に背筋をなぞられ、のけ反った身体をすっぽりと収められてしまう。


「‥‥な、なるほどくん‥‥」

「ホラ、普通に喋らないと春美ちゃんに怪しまれちゃうよ?」

「はみちゃ‥‥あっ!」


なんとか言葉を、と慌てている間に
成歩堂は真宵の肩を装束から覗かせ、丹念に耳を舐め上げながらか細いそれに指を這わせる。
会話を催促するのに静かに攻めてきて。

意地悪、とは言えず襲って来るむず痒い快感に耐えながら真宵は懸命に電話を握り締めた。


「真宵さま‥‥具合が悪いのですか?」

「ううん‥‥!そ、そんなことない、よ。ごめんね」

「そ、そうですよね!なるほどくんがついていながら
病気の真宵さまがお電話をなさっていたら、どうしてやろうかと思いました!」

「は、はみちゃん‥‥っ、」


素直に喜べない。
無論喜ぶべき事なのに、今は背後から畏怖する指が、刺激が気に掛かる。

それなのに次第にエスカレートしてゆく成歩堂の攻め手。
やがて指はなだらかな斜面へと辿り着き、両腕で二つの山を包み込む。


そして頂点の蕾は抵抗する術も無く
尚も意地悪く、片方ずつ刺激を与えてくる。

もどかしい。
羞恥に赤らめ、歪む表情。


「あの、さ。はみちゃん、今‥‥から、あ‥‥あっ、えっと‥‥今から事務所に‥‥っ‥」


電話を落としそうになるくらいの電撃が、全身に走った。
いちいち片方を攻めていたのに、唐突に両方の蕾を指で擦るから。

会話が進まなくて不安になる。


「今から、事務所に‥‥ですか?」

「うん‥‥あのね、みつるぎ検事に送っ‥‥送ってもらって」

「はい!何か、大事な用事があるのですね?」

「あ、違うのはみちゃっ‥‥ちょっとね、ふあ‥‥あっあああ」


あからさまに声を漏らしてしまってから、喉を締めた。
後ろの成歩堂を睨んだつもりが、潤んだ瞳と切なく寄せた眉間では
きっと相手からはやらしく見えているんだろう、と
それでも無言で訴えてみると、笑みを浮かべたまま下半身へと腕を伸ばして来たのだからたまらない。


「ま、真宵さま‥‥あの」

「はみちゃん‥‥?」

「なんだか、その‥‥真宵さまの声、なんだかステキ」


ステキと来たか‥‥‥‥
って、


「ええええっ!?や、やだはみちゃんてば、そんなこと‥‥な‥‥」


震える声で必死に。


そんな真宵を見て益々掻き立てられる、何か。
ここぞとばかり捲った装束から見える下着の内へ手を侵入させ、あっという間に一番敏感な部分を探り当てる。


「今から‥‥なるほどくんと、さっ三人でお昼‥‥みそラーメン食べ、食べよっ‥‥‥‥」

「わあ、嬉しいです!
でもよろしいのですか?お二人の特別な時間に割り込んでしまって‥‥」

「い、良いの!大丈夫、寧ろ‥‥あっん‥‥‥‥早く‥‥」


陰核に激しい快感。

グリグリと強く、指の腹を押し当てて。

 

 

首筋に吸い付く成歩堂の唇
片方の腕は胸を揉みしだき


もうダメだ、と真宵は悟り、御剣に代わる事を言い出せず


ごめんね


と一言だけ伝えると電話を切り、ついに電話を床に落としてしまった。


止まらない指
激しくなる刺激


確実に何かが這い上がってくる。
"膣"ではないから、「イく」とはまた別の感覚。


「はああッんっン‥‥あ、ん!」


声を我慢する必要の無くなった真宵の喉はしなり、高らかに甘い声を上擦らせる。
もっとも、春美に悟られてしまっては
我慢出来ていなかったかもしれない


「真宵ちゃん‥‥可愛いよ」

「なるほどくん、意地悪‥‥しないでよ‥‥ン、ヒドいよ、ヒドい」


少しずつ高みに昇って行く真宵は
それ以上の抵抗を示さず悪あがきの言葉は成歩堂に届かなかった。


「来るでしょ?もうすぐ」


指の動きが速くなると頭が痺れ、腰が動いた。


「あん、ンっん‥‥は、あああん!」


そのまま陰核の絶頂を受け入れ、身体を震わせ快楽のままに声を上げる

余韻を消すべく腰を緩く揺らし、乱れた息を整えていると
成歩堂は真宵の耳元で囁いた。

 

 

「ドキドキした?」

「‥‥‥‥キライ」


ぷいと、そっぽを向き装束の乱れを直しつつ不機嫌を態度いっぱいに表しては
落ちた電話を見つめ、もう一度呟く


「なるほどくんなんか、キライ」

「ぼくは大好き。真宵ちゃんのこと」

「‥‥‥~~~~」

「何?その何か言いたげな目は」


せっかく落ち着いたのに、また顔が真っ赤になった。


「みつるぎ検事に言っちゃおうっと」

「え‥‥!?いや、まっ待った!それは無しだよ‥‥!」


初めて動揺を見せた成歩堂を見て気味よくほくそ笑む真宵。


その時。


「お待たせしました、真宵さま!」

「成歩堂、邪魔するぞ」


電話が切れた後急いで駆け付けた御剣と春美。
真宵は一度笑ってから玄関に走って行き、慌てて追う成歩堂。


しかし、孤独感と早い鼓動に悩まされる人物がそこにいた。


御剣だ―


何故なら春美をランチのため送って行くなら当然自分も事務所に寄るのだから、何も電話を春美に代わらず
自分に伝言をくれれば良かった。

まあ、図々しく言うなら一緒に行く自分も誘ってくれれば良いのにと思ったのだ。


そして春美の傍らで会話の内容を聴いていた御剣は当然、真宵の様子のおかしさの原因を悟っていたのだ。

 


この後、ランチタイムはポーンはナイトにどころか、
二人のクイーンに囲まれ追い詰められることになる。

-終わり-

最終更新:2020年06月09日 17:28