ナルマヨ+ハミ


今日はあたしとはみちゃんとなるほどくんの3人で、バンドーランドに遊びに来た。
タイホ君ファミリーを探し回り、園内のポップコーンを全種類買占め食べ尽くし、一通りのアトラクションを楽しんだあたし達はどこかで休憩しようという事になった。
すると、今まであたしの行動に付いて行くだけだったはみちゃんが、急に積極的になり「ボートに乗りましょう!」と勢いよく挙手をしながら提案した。
正面ゲートにある橋は、恋人同士で一緒に渡ると幸せになるという言い伝えがあり、それを知ったはみちゃんは「そこを流れる川でボートに乗る」というシチュエーションにとても魅力を感じた様だ。
はみちゃんらしい理由ではあったが、あたし達ははみちゃんの提案に従う事にした。

あたしもなるほどくんとはみちゃんとボートに乗りたかったから…。

「わたくし、ボートに乗ったのは初めてです!」
「あたしもー!」
「そいつは良かった。じゃあ乗ろうか…えーと…5番のボートは…。」
「…あ!向こうに見えますよ!」
「本当だ!!さ!行こう行こう!!なるほどくん!!」
「…そ、そんなに急がなくても、時間は沢山あるよ…!!」



葉桜院の事件の後、あたしとはみちゃんは倉院の里に帰り、お母さんの葬儀や家元の襲名で慌しい日々を送っていた。
そんなある日、なるほどくんから電話がかかって来た。

「忙しい時期に連絡するのは気が引けたんだけど、そっちの様子も気になったし電話してみたんだ。
この前新しい遊園地が出来たんだ。バンドーランド。そうそうあのホテルのだよ。
だからさ、今度春美ちゃんを連れて3人で一緒に行かない?倉院の都合もあるし、真宵ちゃんの空いてる日でいいからさ」

簡単な用件のみで終わった電話だった。
けどそれを聞いたはみちゃんは、あたし以上に張り切ってスケジュールを組み直し、たったの2週間で1日空きを作るという荒行をやってのけた。
流石に誘った本人も、こんな早くに返事が返って来るとは思っていなかったみたいで、電話の向こうで驚いていた。

「さ!なるほどくんと真宵様は向かい合ってお座りに!…わたくしは此処で1人で景色を眺めていますから!!」
「え!?…な、何言ってるのはみちゃん!一緒に座ろうよ~!」
「いいえ!ココは恋人同士で一緒に渡ると幸せになるという橋の下を流れる川です。お久しぶりに再開したお二人の逢引を邪魔してはいけません!」
「あ、逢引なんかじゃないってば!もう!はみちゃんったら!!」
「なんならわたくし、お二人の会話が聞こえないように耳栓を…」
「はははみちゃん!!そ、そんな事しなくてもいいってば!!」

(…ぼくと真宵ちゃんの邪魔はしたくない…けどボートには乗りたい…春美ちゃんの葛藤が垣間見えるなぁ…)



結局、はみちゃんの勢いに押されなるほどくんが真ん中で、後ろにはみちゃん、そしてなるほどくんの向かいにあたしが乗ることになった。
なるほどくんの大きな体で、あたしからははみちゃんが見えなかった。

「じゃあ進めるよー。」
「………」
「は、はみちゃん…なにか喋ってよー」
「………」
「春美ちゃーん…何か言わないと進めないぞー」

「………」
「………」
「………」

「…わたくしは今、岩です。」

「「は?」」

「岩の様に自然と一体になっています。ですのでお2人は気になさらず…」
「逆に気になるよ!!」
「…やれやれ…春美ちゃんは、こうなったら本当に岩みたいに動かないぞ…仕方ない…進めるか…」

「………」

ひと悶着の後、ボートは進んだ。
バンドーランドにやって来た家族の騒ぎ声が段々と小さくなって行き、次第にボートが進む音に混ざり聞こえなくなった。

「なるほどくんと一緒に遊ぶの、久しぶりだね…」
「そうだね…」
「…はみちゃん、黙々と湖を見てるね…」
「…そうだね…」

「今回は事件に巻き込まれないといいね!」
「おいおい…縁起でもない事言うなよ…」
「ふふふ…もしかしたら、プロトタイホ君が背後から襲って来るかもしれないよ~なるほどくんに」
「ぼくなのかよ!」
「あはは!けど、大丈夫!橋から落ちても平気だったんだから、そのぐらいで死なないよ!」

「………」
「…なるほどくん…?」
「…本当、無事でよかったね…真宵ちゃん…」
「…う、うん…そうだね…」

なんだか急に雰囲気が重たくなった。
冗談で言っていい話題ではなかったようだ…。

「…真宵ちゃん…」
「…な、何?…なるほどくん?」

「…こうやって、また春美ちゃんと3人一緒に遊べて…とっても嬉しいよ…」
「そ、そうだね…」
「本当…ずっと…こうだと思ってたよ。…千尋さんが亡くなってから、2人で事務所を経営して…」
「うん…」
「春美ちゃんがそこに加わって…この3年間とても楽しかったし、充実してた…」
「…私も…なるほどくんの事務所に行くの…大好きだった…」

「………」
「………」

互いに本音は言わないけど、なんとなく言いたい事は理解出来た。
けどそれは我侭な事だから、互いに言えないだけ…。

「…ま、真宵ちゃん…」
「え!…な、なるほどくん…!?どうしたの…?」

「静かに…」と小さな声で語りかけ、なるほどくんがゆっくりと動いた。
そ、そして…なるほどくんの顔がどんどん近づいてきた…。

「!」

な、なるほどくんの…く、唇が…あ、あああああたしのく、くくく…。

状況が理解出来ないまま、あたしは目を見開いて硬直してしまった。
なるほどくんの向こうで、はみちゃんが一瞬こっちをちらりと盗み見し、あたしと目が合い、はみちゃんの髪の毛が「ぴょこっ!」と動いた。
そして真っ赤になって体ごと後ろを向いてしまった。

「な…なるほどく…は、はははみちゃんが…」
「…岩だよ…」

そう言って一瞬離れた唇が、再び角度を変えて合わさった。
…なるほどくんの瞳は真剣だった。

あたしは目をつぶった。
唇から伝わる、なるほどくんの体温が温かかった。

…なるほどくんの唇が動き出した。
ぱくぱくとまるで私の唇を食べているような動きと、それにあわせて小さくちゅちゅと音が聞こえた。
それにつられる様に、あたしの唇も動き…次第に互いの息遣いが荒くなって言った。
止まらない…そう思った時だった。

「…!!!!」

口の中にぬるっとした生暖かい何かが入って来た。

そ…それは!!それはまずい!!はははははみちゃんが!!!はみちゃんが居るのに!!!

あたしは手でなるほどくんの肩を掴み離れようとした。
しかし、それを阻止するかの様になるほどくんが両手であたしの頭を鷲づかみにした。

「ふ…ん…ふぅ…は…」

なるほどくんの舌があたしの舌を捕らえて、口の中で蠢いた。
初めての感触になるほどくんの肩を掴んでいた手に力が入る。

恥ずかしい…とても恥ずかしい…。はみちゃんはもしかして見ているかもしれない。
そう思うと閉じた目を開ける事が出来なかった。
しかし、もしかしたら…そう思えば思うほど、はみちゃんがこっちを見ているような錯覚に陥り、
恥ずかしさと口の中で蠢く物体のせいで頭がおかしくなりそうだった。

一通り蠢き終わったなるほどくんの舌はあたしの口の中から出て行った。
なるほどくんとあたしを繋いでいた互いの舌に透明な糸が出来ていた。
しかし、なるほどくんの顔とあたしの頭を掴んだ手は離れなかった…。
あたしは半ば放心状態で、息も絶え絶えになるほどくんの顔を見た。
なるほどくんの顔は真っ赤で呼吸が荒かった。
きっと今のあたしも同じ状態なんだろうと思った。

「な…なるほどく…」
「静かに…春美ちゃんにばれちゃうよ…?」

耳元で小さく囁いた。
しかしどう考えても、既にはみちゃんにはばれている。
なるほどくんの体越しにはみちゃんを見ると、はみちゃんの小さな背中が更に小さく丸まってしまっていた。

「なるほどくん…駄目だよ…こんな所で…は、はみちゃ…」
「異議あり…今この船に乗って居るのは、ぼくと真宵ちゃんと岩だけだ…」
「う…さ、さっきはみちゃんにばれるって…!矛盾してる!!」
「…だったら、ぼくに証拠をつきつけてみなよ…」
「え!?」
「…けど、今春美ちゃんに話かけたら…さっきまでしてた事がバレちゃうよ…?」

なるほどくんの表情が強気になった…。
この顔は…まるで法廷で犯人を追い詰めている時のようだ。

「ぼくは、あるよ?…春美ちゃんが岩だという証拠が…」
「…ふえ?…む…ふん…!!」

なるほどくんの舌があたしにつきつけられた。
はみちゃんは、あたし達の戯れが終わらない限り、ずっと岩になって居るだろう。
「止める人が居ない」それが、証拠だった。

子供のはみちゃんにこんな過激な事情を見せる訳にはいかない。
なるほどくんだって、勢いでこんな事をしているだけだろうし、あたしが此処で我を忘れてはいけない…。
そう思うのに…。

「むふ…は…はう…ん…ふぅ…はあ…」
「ま、まよ…ちゃん…はあ…」

頭の中が段々となるほどくんの舌の動きに犯されて…ぼうっとして来た。
はみちゃんにこの声が聞こえてはいけないと思うほど…体が熱くなっていった。
もう何も考える事が出来なかった。

目を閉じてしまえば、あたしの中に残ったものはなるほどくんの感覚だけだった。
真っ暗な世界でなるほどくんだけが存在していた。
なるほどくんの体温があたしに伝わって、舌の感覚に捕らえられ…気が付くとあたしも舌を動かして、互いに求めあっていた。

この世界には、あたしとなるほどくんしか居ない…。


おまけ


***



「おー!!!お熱いですねー!!流石恋人同士が幸せになるという橋!」
「こ、こら!美雲くん!!…君にはまだ刺激が強すぎるぞ!!!」
「なーに言ってるんですか!美雲ちゃんはもう立派な大ドロボウなんですよ~!!男女の逢引を盗み見たって平気です!」
「そ…そういう問題ではない!!」
「じゃーどういう問題なんですか~??」
「ム…とにかく…男女の逢引は当人達だけで楽しむのが大人のマナーだ…」
「大人のマナーなら、あんな人前でいちゃつきませんけどねー!」
「と…とにかく事件を解決する事が先だ!!…もう行くぞ…!!美雲くん!!」
「はいはい。分かりましたよ~御剣検事!」


成歩堂め…何を平和そうに彼女と暢気に戯れているのだ…。
こっちは殺人事件に巻き込まれるわ監禁されるわで散々な目に遭っていると言うのに…。
せいぜい現実に戻った時に、周囲から白い目で見られ冷や汗をかいて慌てるがいい。


おわり

最終更新:2020年06月09日 17:27