*逆転検事4話の後。
*御剣20歳、冥13歳。


初法廷にはいずれ新しい舞台を用意する、と狩魔豪に言われて、御剣は改めて狩魔邸の自室で六法を開いた。

検事局では上階にある上級検事の執務室とは違い、新人の御剣は下の階の奥まったところに並ぶ狭い執務室のひとつを割り当てられていた。
歴代の新人検事たちの血と汗と涙が染みこんだデスクや本棚には感慨深いものもあるが、まだ検事になって日も浅く、なじんでいるのはやはりこの部屋だった。
デスクの前で、まだまだ多くある学ぶべきことに取り組むために、御剣は背筋を伸ばした。
幻に終わったデビュー戦には苦い思い出が残るものの、そんなことにいつまでもこだわっていてはいけない、狩魔の教えを受けたものとして今度こそ恥ずかしくない戦いをしなくては。
意気込んで眉間に皺を刻んだその時、ノックもなしにドアが開いた。
「あら、熱心ね」
顔を上げるまでもない。
招かれざる来訪者は、短いムチをヒュンヒュンとしならせながら振り回す。
「そうよね、二度も続けてブザマな失敗はできないものね」
御剣は短くため息をつき、分厚い六法全書を音を立てて閉じた。
「冥。言っておくが私は失敗したわけでもブザマな」
ヒュン。
目の前を、ムチが空を切った。
「そういうことにしておいてあげてもいいわ。……パパも」
「先生?」
あの日、検事と被告人が死亡し、あの女が逃げ出して裁判が続行できなくなったあと、狩魔は御剣に多くを語らなかった。
師が不機嫌なのがわかったので、御剣もただ頭を下げ、次の機会を待つことにしたのだ。
その師が、なにか言っていたのだろうか。
狩魔冥はムチを玩具のように振り回しながら、御剣のデスクに小さなお尻を乗せた。
御剣が、触れそうになった腕をそっと引っ込める。
「先生が、なにかおっしゃっていたのか」
冥は狭くて質素な執務室の中をぐるりと見回してから、御剣を見下ろす。
「別に。私の捜査がとてもしっかりしていた、と誉めてくれたわ。私……と、あなたの」
そうか。
先生は、誉めてくださったのか。
頭の上が、痛んだ。
見ると、冥がムチの先で御剣の頭をこづいていた。
「誉められたのは、私よ。あなたは、まあ、いい引き立て役を務めたということね」
相変わらず、すがすがしい負けず嫌い。
もう一度六法を開いた御剣に、冥は不機嫌そうにちょっかいを出してくる。
そういえば、先生は日曜だというのに今朝も早くからお出かけのようだ。
せっかくの休みに帰国しても、つまらないのかもしれない。

「そうだ」
思い出して、御剣はデスクの引き出しを開けた。
「……なによ」
差し出されたどらやきを見て、冥が言う。
「裁判所で買っておいたのだ。食べたいだろうと思って」
「バカバカしい。私が、そんなもの」
言いながら、目はどらやきに釘付けだった。
大好物だと聞いたことはないが、女の子らしく甘いもの全般が好きなのだろう。
「ウム。いや、私が食べたかったのだ。賞味期限が短いし、キミが手伝ってくれると助かるのだが」
ぽん、とデスクから飛び降りた冥が手を伸ばす。
「仕方ないわ。弟が助けを求めているのに、冷たくするわけにはいかないもの」
どらやきをひとつ手渡しながら、御剣は苦笑をかみ殺した。
「ム。感謝する」

備え付けのポットで入れたお茶でどらやきにかぶりついた冥が、御剣のデスクに広げられた専門書を覗き込む。
口の端にあんこを付けながら、目だけは真剣になるのはさすがというところだろう。
「いいのか、冥。試験はすぐなのだろう」
本当ならバカンスを楽しんでいる場合ではない。
「はら、わたひがひけんにおひるとれも、んぐ、おもって、いるのかしら、御剣怜侍」
ぴしっと指先が突きつけられる。
「あなたが受かったのだもの、私なら余裕で受かって検事になるわ」
本人はとびきりカッコつけたつもりかもしれないが、手には半分のどらやき、口の両端にはあんこではサマにならない。
「もちろん、余裕でトップ合格は間違いないと思っている」
御剣がそう言うと、冥は満足げに残りのどらやきに取り掛かる。
最後をお茶で締めてから、冥は未練ありげに御剣が手を付けずに置きっぱなしのどらやきに目をやっている。
「……で、次の法廷は決まったの?」
「いや、まだだ。先生が決めてくださる」」
そう答えると、冥は少しうつむいた。
「……そう。パパが」

自分は離れて暮らしているのに、いつも父の傍で学んでいる御剣に対して、冥がどう思っているのか、察しはつく。
御剣はポケットからハンカチを出し、急に黙った冥のほっぺたについたあんこをぬぐってやった。
当たり前のようにされるままに拭かせて、冥はしなやかな腕を伸ばした。
ひょいと御剣の目の前から、どらやきが取り上げられる。
「あなたが、どうしてもいらないというのなら」
御剣はできるだけ真顔を作って冥に向けた。
「……キミがもらってくれると、助かるのだが」
「しょうがないわね」
さすがに一度には食べきれないのか、冥は小さなポケットに大切にどらやきをしまった。
本当ならどこかに連れて行ってやったり遊ばせてやったりすれば喜ぶのかもしれないが、あいにく御剣も忙しい。
先生が捜査に裁判に飛び回っているというのに、子守とはいえ新人の身で遊園地やショッピングにうつつを抜かすというのも気が引ける。

良い考えが浮かばないまま本に目を落とすと、冥は軽く飛び跳ねるように部屋の中を歩き回り、本棚の本を眺めたり、取り出して少し読んでみたり、勝手に引き出しを開けてみたりしている。
「ねえ、レイジ」
ちっとも集中できない。
「なんだろうか」
冥は御剣のカバンの底から見つけ出したらしいピンク色の塊を目の前にかざしていた。
「これ、なあに」
「ム」
仕方なく立ち上がり、近づいて冥の差し出すものを受け取る。
手の平に乗るほどの大きさでそれなりに重さもある。
「ああ、執務室の引き出しに入っていた。前の人の忘れ物ではないだろうか」
「アロマキャンドルよ」
「それくらい私にもわかる」
冥が肩をすくめた。
「大事に持って帰ってくるなんて、あなたにこんなものを使う趣味があったのかしらと思って」
「いや。……気に入ったのなら、持って行くといい」
額に、痛みがあった。
「なぜ、ぶつけられねばならないのだ」
床に転がったピンクのアロマキャンドルを拾いながら、御剣が不満を述べた。
「そういう時は、気に入ったのならもっとかわいくていい香りのするものを一緒に買いに行こう、くらい言うべきではなくて?」
やはり、休みをもてあましているようだ。
「ウム。なんとかして、少し時間を作るか」
今までと比べ物にならない痛み。二度、三度。
「や、やめ、やめないか、冥!」
ヒュンヒュンヒュンとムチが振り回される。
「なんとかして?」
ビシ。
「少し?」
ビシ。
「時間を作るか、ですって?」
ビシ。

「あなたに哀れまれてさげすまれて同情されてどこかに連れて行ってもらうくらいなら、友だちのいない国でひとりで家に閉じこもって退屈な休みを過ごした方が、よっぽど、マシよっ」
なるほど。
友達のいない国で、ひとりで家に閉じこもって退屈な休みを過ごしているのか。
御剣は器用にムチをかわしながら、柔らかく冥の手首を握ってその運動を止めた。
「いや、ぜひつきあってもらいたい。部屋に閉じこもって六法と専門書を睨みつけているのに疲れたのだ」
うっすらと目に涙まで浮かべていた冥が、つんと顎を上げた。
「しかたないわね。弟の面倒はみなくては」
やれやれ。
御剣はやっと肩の力を抜いた。

天気のいい休日の昼間、御剣は冥と出かけ、不似合いな店の並ぶ通りを歩いてアロマキャンドルをいくつか買い、公園の移動販売車でフルーツジュースとクレープを食べて帰ってきた。
当たり前のように御剣の部屋までついてきた冥が、さっそくお菓子の形になったキャンドルをいくつもベッドに並べた。
「そんなところで、火を使わないでもらいたいのだが」
布団が燃えたら大変なことになる。
「わかってるわよ」
ひとつひとつの香りを確かめながら、冥が不満げに唇を尖らせた。
「ねえ、これ、イチゴの形なのに香りはお花みたい」
言われて御剣が近づくと、鼻先にイチゴの形のキャンドルが差し出される。
確かに、フローラルな香りがする。
「火を持っている?」
御剣が、ため息をついた。
冥の好奇心は止められないらしい。
「すぐに消すのだぞ」
ティーカップのソーサーにキャンドルを乗せ、御剣がマッチで火をつけた。
キャンドルが溶け始め、花の香りが広がる。
「……」
冥はイチゴから花の香りがするのが気に入らないのか、ソーサーに乗ったキャンドルを鼻先で動かしている。
もういいだろう、と御剣が言い掛けたとき、冥がベッドの上を振り返った。
「そっちのケーキ型の……」
「冥っ!」
勢い良く頭を降ったせいで、冥の肩にかかるほどの髪がキャンドルの上にかかる。
とっさに御剣がソーサーごとキャンドルを取り上げ、片手で火の付いた毛先を握り締めた。
「きゃっ!」
焦げた匂いが広がり、御剣の手の中で髪の毛が黒く砕ける。
御剣はそれを床に投げ捨てて、驚いている冥の頭を抱きかかえるようにして確かめた。
「大丈夫か!ヤケドは?!」
「だ、大丈夫よ……」
冥が乾いた声で言う。
びっくりはしたものの、火は髪の先をかすっただけのようだった。
「だから危ないと言ったのに。驚かせないでくれ」
わがまままな姉弟子に振り回されて、御剣はデスクに置いたキャンドルの火を吹き消してから、ベッドの上に散らばったキャンドルをかき集めた。
「没収だ」
「ええ?そんなの、ひどい!」
「今だって、一歩間違えたら大変なことになったのだぞ!ケガでもしたらどうするのだ」
御剣の厳しい声に、冥がびくっとする。
冥が黙ったことで御剣は冷静さを取り戻し、没収したキャンドルをショップの袋に戻してデスクに置き、冥の隣に腰を下ろした。
すくめた細い肩に触れるほどの近さで、片側だけ少し短くなった髪を撫でる。
「先生が見たら心配なさるだろうな」
「……叱られるかしら」
白い頬がぷっくり膨れた。
触れたら、柔らかいのだろうと思う。
「…ウム。だがお叱りを受けるとしたら私だ」
冥がぱっと顔を上げる。
近距離で見つめられて、御剣はとっさに体を離した。
「そんなのおかしいわ。だって、火をつけるといったのは私だもの」
「しかし、私がついていながらそうさせたのだからな。保護責任が」
「私、子どもじゃないわ!もうすぐ検事にもなるし、それに」
なにを言おうとしたのか、白い頬が今度はうっすらと紅に染まる。

「それに……、もう」
言いかけて御剣の顔を覗き込む。
「明日は、美容院へ行くわ。髪を切るの」
鈍感な男は素直に頷いた。
「……ウム」
首の後ろで手で髪をまとめて、冥が御剣を見上げた。
「うんと短くしてしまおうかしら。この髪型の方が大人っぽく見える?」
ふっと御剣は笑った。
どんなに強気なことを言っても、気にはしているのだ。
「ウム。とても大人っぽい。いや、もともと冥は大人びているし、もう」
そこで御剣は黙った。
もう、検事になるのだろう、と言うつもりだった。
検事になるなら、もう大人だと。
さっき、冥もそう言いかけたのではないのか。
それとも。
もう、冥は、大人なのだろうか。
その、そういう意味で。
「もう?」
冥が御剣を見上げ、体が触れる。
「……いや」
なんでもない、と言う為に息を吸い込むと、同時に冥の香りが飛び込んでくる。
しばらく見ないうちに、柔らかく丸みを帯びた体をぴったりと寄せられて、御剣はぎゅっと眉根を寄せた。
「その、冥、そんなにくっつくな」
「あら、どうして?」
「いや、もう君は子どもではないのだし、そんなに無防備に男に触れるものではない」
過保護な保護者の口調を取り繕ったつもりだったが、冥はいっそう体を寄せてきた。
「ねえ」
「……なんだ」
「私のこと、まだ子どもだと思ってるのでしょう?」
見つめられて、頭の奥がしびれた。
まずい。
相手は師の娘で、まだ13歳で、姉弟子だ。
「……ウム。キャンドルで髪を焦がしてしまうくらいにはな」
「ひどい」

しまった、怒らせたかもしれない。
娘に甘い先生は、冥に言いつけられたら自分を叱るだろう。
新人検事としては先生の怒りを買うのは得策ではない。
つまりここは、冥を怒らせないに限る。
怒らせないためには、わがままなお嬢さまの希望に沿うしかない。
それで、その冥の希望は。
「……なにをブツブツ言っているの、御剣怜侍?」
御剣は、ため息をひとつついた。
「自分の中で言い訳するのに、疲れたのだ」
冥がかわいらしく首をかしげたことで、御剣の中で何かが切れた。
「いや。冥がオトナになったので、ムズムズしているのだ」
「なあに?」
「ムズムズというか、……ムラムラというか」
言ってしまった。
ぽっと頬を赤くした冥が、逃げるどころか御剣の腕に自分の腕を絡めてきた。
「それって、あなたが私を女として見てくれているってこと」
答えの代わりに、小さな赤い唇をふさいだ。
驚いたように、冥がぱっと離れる。
「きゃっ」
もう、ダメだ。
御剣は冥を抱きしめ、耳もとに荒い息を吹きかけた。
「その、私も一人の、オトナの男として、だな」
冥がぎゅっと抱きしめ返してきた。
「いいわ。それ以上は、ヤボよ」
そんな言葉をどこで覚えたのか。

御剣は冥をそっとベッドに横たえた。
まだ細い手足、膨らみかけた胸、丸くなりつつあるお尻。
恥じらいと緊張で顔を赤くしながら、一糸まとわぬ姿にされても隠そうとしない気の強さ。
「なにをするか、わかってるか?」
華奢ながら、立派に女を感じさせる体に見惚れてから、御剣が聞くと、冥はツンと顎をそらした。
「あ、あたりまえじゃない。これから、私とあなたで、せ、セックスをするのよ」
甲は乙に対し、とでも言い出しそうな口調だった。
「ウム。で、具体的には」
「ぐっ、ぐた、ぐたいっ」
御剣の胸板から下に視線を下ろして、冥は耳から首筋まで朱に染めた。
「あ、あなたの、そ、それ、を、わ、私にっ」
これ以上はかわいそうだろう。
御剣は冥の折れそうな肩を抱き寄せた。
「わかっているようで、安心した」
誰に教わったのだ、と聞くと、冥は小刻みに震える腕で御剣の広い背中を抱いた。
「……保健体育よ」
ついに、御剣は小さく噴出し、冥に赤く跡になるほどつねられた。
お返しに、冥の白い柔肌を吸い上げて赤い花を散らす。
胸や腕を丹念に愛撫し、指先まで舐め、背中にもお尻にも手の平を滑らせていくと、冥が目を閉じた。
「いやだったら、そう言え」
「……ううん。きもちいい。小さいとき、怖い夢を見て一緒に寝てもらったときみたい」
その時は、こんなことはしなかったぞと言いたいのをこらえて、御剣は冥の体を探る。
まだ、肌と肌の触れ合いを心地いいと感じている段階のようだ。

しばらくすると、冥がぴくっと震えた。
「だいじょうぶか」
「……うん。なんかちょっと、ぞくってしたわ」
反応に素直だ。
「いいことだ。ぞくっとするところがあったら、教えてくれ」
「いいわ。……あ、今のとこ」
言われるままに、胸の膨らみの周囲に口付ける。
指先で先端の薄桃色の突起をつまむと、冥が開けた口から甘いため息が漏れる。
「レイジ……」
「きもちいいか」
「……ええ。こんなのなの?」
快感を、こんなの、と表現する冥をかわいいと思った。
「ウム。そうだな」
脇腹を撫で下ろし、脚の間に手を差し入れる。
閉じた割れ目を何度も何度もなぞってから、指先を入れる。
丹念な愛撫でそこはすでに潤んでいた。
小さな蕾に指先を当て、ゆっくりとほぐしていく。
「レイジは……、あ、ん…、レイジも、こんなの、なの?きもちいい?」
潤んだ目が、御剣を見上げた。
すでに、御剣のモノはパンパンに張り詰めて屹立している。
「そうだ。とても気持ちいい。…もっと、気持ち良くなりたい」
「……それって、その、それを」
上半身を起こした冥が、目を見張った。
「さっきと、違うわ」
「……ム。気持ちいいと、こうなる。知らなかったか」
「しっ、知ってるにきまってるじゃない。いいわよ、ほら」
こんな時まで負けず嫌いを発揮した冥が、膝をくっつけたまま足首を開く。
御剣がその膝に手を乗せた。
「ここを開いてくれねば、できない」
「ひ、開くわよっ」
言いながら、固く太腿を閉じている。
やはり、大きくなったモノを見れば、それが自分に突き立てられるのが怖いのだろう。
御剣は冥の細い腰を両側からつかんで持ち上げ、自分の上にまたがらせた。

「な、なに?」
「この方がいいだろう。自分で入れるんだ」
御剣の腰を挟んでベッドの上に膝立ちになった冥が、不安そうに自分の脚の間で天に向かっているモノを見下ろした。
「そうなの?」
「知らなかったのか」
「し、知ってるに決まってるじゃない。バカにしないで」
冥がそっと腰を下ろし、御剣が下から指先で冥の花びらを押し開いて手助けする。
「ん、ここ?」
ぎゅっと顔をしかめて、冥が腰を前後に滑らせる。
「ム……」
先端を擦られて、御剣が眉間にシワを刻んだ。
「そうだ……、そのまま腰を落として」
「ええ……」
言われた通りにして、冥が何度も腰を動かす。
なかなか入らない。
「冥。痛かったらやめても」
「やめたりなんかっ、あっ」
自分でぐいっと体重をかけ、恐らく予想外の痛みがあったのだろう、そのまま倒れこんだ。
「冥、だいじょうぶか」
先端を飲み込まれたままの体勢になり、御剣は冥の肩に手をかけて起こした。
冥が見尻に涙をためて、しゃくりあげる。
「い、いたぁい……」
負けず嫌いも、限界のようだ。
腰を引こうとすると、冥が御剣に抱きついた。
「いやっ、やめないっ」
「だが……」
「やめないの、するの!」
「冥、無理をしなくていい。やはりまだムリなのだ。入らないではないか」
「いやっ、いやいや!」
痛さに耐えながら、冥はガンとして言うことを聞かなかった。
「あなたがしてくれればいいわ。こういうの、やっぱり男がリードするべきよ」
溜まった涙が一筋、頬を伝っているのに、気の強いことを言う。
それがまたかわいく思えて、御剣は冥を抱きかかえてベッドに仰向けにした。
「いいか」
脚を大きく開き、ゆっくりと腰を進める。
「んっ」
冥が顔を横向きにして枕に頬を押し付ける。
きゅうきゅうと締め付けてくる幼い処女の膣内に、御剣は暴発しそうになるのを必死でこらえる。
「う、……め、冥、うぁ……」
「レイジ……、レイ……、ねえ、きもちいい?私、いい?」
「ム……、そう、だ、とても、良い……」
「よかった……私、ちゃんとあなたを気持ちよくしてるわね?オトナ、でしょ?」
自分は痛いくせに。

御剣は冥の頬に残った涙の跡をぬぐい、覆いかぶさるようにしてキスをする。
「……ん、ああ、きもちいい。せ、セックスは、痛いけど、キスはきもちいいわ」
「ウム……、そのうち、きもちよくなる……」
「そうなの、あっ」
御剣が身じろぎすると、冥が小さく叫んだ。
「痛むか」
「ん……、いたい……」
動くのはあきらめた方がいいだろうか。
御剣がそう思ったとき、冥が太腿で御剣の腰を挟んだ。
「いたいけど、……ちょっとへんなかんじ。ね、もう一回、して」
わずかに腰を引いてみる。
「どうだ?」
「ん、だいじょうぶ」
それならと浅く抜き挿ししてみる。
中から湧き出る潤滑液が増えてきて、動きもスムーズになってきた。
「冥……ちょっと、もうムリだ」
「え?……あ、ああっ」
御剣が一気に冥を突き上げ、冥は体を反らせた。
「あ、きゃ、バ、バカ、レイジっ、そんな急に、あん、あっ、な、なんか変っ、や、あんっ」
御剣の腕を強くつかんで揺さぶられまいとしながら、冥のか細い体は御剣の激しい動きに翻弄された。
だんだん、自分の中に未知の感覚が湧き上がってきたのか、悲鳴のような短い叫びを上げる。
「や、なに、レイジ、これ、これなにっ、あ、あああっ、あう、んーーっ」
「……それは、イクんだ。冥は、初めてなのに、イキそうなのだ。知らないのか」
「しっ、知ってるわっ、ああっ、それ、それ変になるっ」
「変ではない、イクんだ……っ」
「それって、それって、あんっ、あ、わ、私がちゃんと、オトナだか、らよね、ああっ」
御剣もそろそろ限界だ。
だが、冥より先にイクわけにはいかない。
御剣は冥の反応のいい場所を狙うように突き上げた。
「そうだ、冥はオトナだ。ちゃんとセックスでイケるんだからな……」
「そ、そうなの、あ、あっ、あっ、あんっ、あ……!!」
高い声を長く引いて、冥は御剣に腰を押し付けるようにしてイッた。
同時に、痙攣するように体をひくつかせた冥の中に、御剣も熱を吐いた。

手足を投げ出した冥は、まだ意識が朦朧としているようだ。
脚の間を拭いてやり、新しいシーツで包んでやるとミノムシのように御剣にくっついてきた。
「……出した?」
ぐ、と御剣が返事に詰まる。
「ウム……すまない」
「バカ。私もうちゃんと生理があるのよ。検事になる前にママになったらどうするのよ」
冥の言い方は穏やかだったが、御剣は背中に冷たいものが流れた気がした。
「そ、それは……」
「思ったよりは痛かったけど、思ってたより気持ちよかったわ。セックスって」
「……冥、その」
御剣の胸の中にすっぽりとおさまって、冥はフンと笑った。
「バカね。狩魔はカンペキなのよ。オトナの女性たるもの、常に危険日と安全日は把握しているわ。今日は安全」
「そ、そうか……」
「だいたい、あなたが頼りないから私がしっかりしないといけないの。ちゃんとコンドームを準備して頂戴」
さっきまで処女で、痛い痛いと泣いていた女の子に注意されて、御剣は苦笑する。
「ウム。心がけよう」
「あ、でも、だめ」
オトナの体が、御剣に抱きついてきた。
「あなたが持ってたら、他のひとと……セックスしちゃうでしょ。私が用意するわ」
やきもちも、オトナだった。

御剣が、髪を短くした冥を空港で見送ってから間もなく、検事の試験に合格したという知らせが届いた。
狩魔豪は満足そうで、御剣も嬉しいと同時に気を引き締めた。
御剣の初法廷は、明日。
冥に胸を張って報告できるかどうか、正念場だ。
失敗すれば、やっぱりなにをしても頼りない弟弟子ねと言われ、今度こそ生涯にわたる上下関係が決定してしまう。
手の平を見つめると、そこに残った冥の肌の感触が蘇る。
次に冥に会う日は、いつになるだろう。
その時には、自分も彼女も、立派な検事になれているだろうか。
御剣はわくわくするような、面映いような気持ちを手の中に握り締め、狩魔豪から手渡された調書を開いた。

――――被告の名は、オナミダミチル。

最終更新:2020年06月09日 17:22