ダークなネタなので、苦手な人はスルーしてね。

【設定】時期は逆転検事5話以降で、何故か冥が日本中心に活動してる

【注意】途中、限りなく「凌辱」や「精神攻撃」に近い表現あります!    
ただし、最後はハッピーエンドで終わらせたつもり。


その晩、冥のマンションを訪れた御剣は、特に変わった様子はなかった。
時に協力して仕事をすることがあるため、夜や休日に書類を抱えた御剣を迎え
二人で議論を交わすことは珍しくない。
だが、その晩、御剣が出してきたのは仕事の書類ではなかった。
「・・・これは、診断書?」
「例の飛行機事件の後、悪夢が復活したので病院に行った。」

“心的外傷と、それを20年近く放置したことによって、日常生活・社会生活に多大な支障をきたしている”
簡単にまとめてしまうと、診断書にはそうしたことが書かれていた。

「・・・どうして、これを私に?」
法廷にいるかのように表情を映さない御剣の目から、答えは見えているような気はした。
そして、やはり法廷で冒頭弁論を行うかの如き口調で、御剣が問いに答える。
「死亡した加害者の代わりに、その相続人に損害賠償を請求しようと思っている。」
その言葉は、予想の範疇の中にあった。
それでも、言葉の事務的さの裏に潜んだものに思いをはせると、戦慄を覚えずにはいられない。

「つまり・・・私と姉を相手に、民事で訴訟を起こすと言うわけね」
思ったほど、声に動揺が出ていないことに、冥は若干安堵した。
「そういうことだ」
御剣が、ニヤリと笑う。その日初めて見た彼の感情だった。
「はっきりとは言われなかったが、完治せぬまま私はコレを一生抱えていかねばならないらしい。
一生心の闇に脅え、人並みの精神的幸福も望めぬまま・・・私は死んでいくのだよ」
鋭い笑顔を浮かべた御剣の体が、震えている。
それは、絶望か、怒りなのか・・・それともその両方か。
「先生には、育ててもらった恩がある。だから今まで、この感情に蓋をし続けた。
だが、一生苛まれることがわかった以上・・・償いを求めずにはいられぬのだ」

とうとう、こんな日がきてしまった。
二人が、「きょうだい」でも「同職の仲間」でもなく、「仇」として対峙する日が。
どこかで覚悟してきたからだろうか。
初めてぶつけられる怒りの感情を前にしても、冥は案外落ち着いていられた。
「代理人なしで法廷に立てば、キミの望んでいた私との決着もつけられるな」
皮肉めいた笑顔を浮かべて、御剣が冗談を言った。
「その必要はないわ。」
冥がそう答えると、御剣が興味深そうな視線を送ってくる。
「姉さまを巻き込まないと約束してくれるのであれば・・・私が、あなたの望むままに応えるわ。
だから、訴訟を起こす必要はないわね。」
「フム・・・」
御剣は、しばらく考え込んで再び口を開いた。
「全面的に、私の要求に応じる、と?」
「そういうことね」
「それは、いくつでも、どんなことでも構わないと?」
「予め際限を設定しておくことは必要だわ。
ただ、契約の際、こちらから異論は唱えない。」
そう答えると、御剣が再び皮肉げに笑った。
「つまり、予めわかっていれば、死ねと言われても従う、と?」
「そういうことよ」
実際にそうなる可能性があることをわかっていて、冥はそう答えた。
数秒の沈黙の後、御剣が嘆息しながら笑顔を緩めた。
「さすがに、そこまでは望んでいない」
男はソファから立ち上がり、冥の目の前まで歩を進めた。
「私が望んでいることは、3つ。」

「ひとつは、謝罪の言葉。口頭と公文書、どちらもあるといい」
「・・・わかったわ。」
「ひとつは、慰謝料。これは判例から、判決文に記載された額を基準に相場をいただこう。
こちらも公文書を作成する」
「・・・了解したわ」
「そして、最後は・・・」
座った冥を見下ろす御剣の顔から、表情が消えていた。
「加害者の愛娘であるキミに、継続的に苦痛を与えること」
「・・・どうぞ、望むままに。」

その瞬間、男の手が伸び、冥の着ていたブラウスを音を立てて引き裂いた。
その音と力に、冥の体が本能的に竦んだ。
「さすがに、キミの生活や人生まで滅茶苦茶にする勇気はない。」
はだけた服の隙間から手を差し込まれ、ブラウスの下にあった下着の留め具が外された。
「だが、殺された父の苦しみ、父を喪い、過去から未来にわたって苦しみ続ける私の苦痛の一端だけでも・・・
キミには味わってもらわねば・・・。溜飲が下がらんのだ」
解放された下着と肌の間に手を差し込まれ、握りつぶすように胸を掴まれた。
「い・・・痛・・・!」
思わず顔を歪めて声をあげると、胸を乱暴に揉み潰すことを続ける男が、少しだけ目を細めた。
「もっと声を聞かせてくれ。泣き叫んでもいい。
・・・その分、私の心が慰められるのだからな」

しばらく胸の感触を楽しみ、苦痛に歪む冥の顔を見ているうちに
御剣の中で怒りとは違う何かが渦巻く。
このまま、彼女を滅茶苦茶に壊してしまいたい。
それは衝動に限りなく近い欲望だった。

片手で自分のベルトを緩めてファスナーを下ろす。
欲望を感じた時から主張を始めたその中身を取り出しながら、
もう片方の手で乱れた髪ごと、冥の頭を掴んだ。

露出された分身の前にその頭を近づける。
冥は、見慣れないであろうそれに怯えた表情を見せるが、
それでも何も言われていないのに口を開き、それに唇をつけようとしていた。
髪を引っ張ってその行動を否定してから、御剣は命令した。
「口を大きく開けろ。歯を立てないように。」
冥が従順に口を開いた瞬間、その中に一気に自分のものを入れ込んだ。
「んぐ・・・っ」
驚きと窒息の表情さえ、御剣を快楽に駆り立てる。
時に前後に突き、時に喉を抉るように責め立てると、くぐもった嗚咽が鼻から漏れ
目からは涙が溢れて零れ落ちた。
「・・・ふっぐ・・・む・・・・ん・・・むぐ・・・・」
口内の柔らかい粘膜と唾液が、自身に絡みつき、包み込む。
そろそろ限界を感じて、御剣は冥の口からそれを引き抜いた。

「はぁっ、はぁ・・・・っ」
鼻からの空気だけでは足りなかったのだろう。
ラグの上に倒れこんだ冥は、酸素を求めるように力なく喘いでいた。

御剣は冥の足元に膝をつくと、随分肌が露出した状態の冥から、残った布地を取り去っていく。
冥は時に腕を曲げ、体を浮かせてその行為に協力する。
何の抵抗もなく従う姿に、何故か苛立ちを覚えた。
ショーツを投げ捨て、冥を仰向けに転がして・・・膝に手を当ててその体を開く。
無造作に隠されていた部分に手をやると、そこは若干濡れているようだった。
それでも、それでも男を受け入れるには充分な湿りではなかった。
だが、苦痛を与えることが目的の御剣にとって、そんなことはどうでもいいことだった。

震える「妹」に自分の手で足を開いたまま固定するよう命じると、
御剣はその中心を開くように手を添え、まだ唾液の乾かぬ分身を突き入れた。
「い・・・・・・!!」
やはり中はきつく、一息では先端を入れ込むのがやっとだった。
叫ぶかもしれないと思ったが、冥は目を見開き、歯を食いしばって耐えている。
いかにも冥らしい反応だが、相当のダメージを与えていることは簡単に想像できた。

御剣は、自分の首元のタイを外して、冥に口を開けるように告げた。
震えながらも開かれた口に、外したタイを入るだけ詰め込んでいく。
「舌を噛むかもしれない。これを噛んでおくといい」
死なれてしまっては楽しめなくなるからな、と耳元で囁くと冥の目元に涙が滲んだ。

そのままの体勢で冥を抱きしめ、もう一度一気に腰を進める。
分身が、何かが弾けるような感触を感じた。
同時に、言葉を奪われた冥がくぐもった叫び声をあげる。
その声のほとんどは布に吸収されていったが、相当な痛みを感じているらしい。
そうした反応から一つの可能性を思いつくが、構わずに腰を進める。
中はきつく締められていたが、じわじわと滲み出した体液が御剣の動きを助けた。
奥に到達した御剣は、一度腰を引き、力を込めてそこを突きあげる。
快楽など微塵も感じられない叫び声が、耳元で響いた。
そのまま、自分の快感を高めるためだけに御剣は体を動かした。
まるで人格のない人形を相手にするかのように、乱暴に女の体を揺さぶり、
時にその胸を掴み、貪った。
次第に冥の叫ぶ声が小さくなり、体から力が抜けていった。
顔を蒼白にした彼女が気を失ったことに思い至っても、
途中で床に所々血が落ちていることに気がついても、御剣は動きを止めない。
御剣が冥の中に精を吐き出すまで、その行為は繰り返された。

それから毎夜のように、御剣は冥を抱いた。
次第に冥が快楽を覚え、「初夜」のような凄惨な「復讐」ではなくなっていたが、
それでも、望まぬ相手に望まぬ形で抱かれることは苦痛に違いない・・・そう御剣は考えている。


すでに冥は言われるままに借りていたマンションを引き払い、御剣の部屋で毎晩を過ごしていた。
それは、対外的には同棲以外の何物でもなかったが、その言葉に隠れる甘いものは、その部屋にはなかった。

ただ望まれるままに抱かれ、辱められ、言葉に傷つけられるだけ。
そこには、反発しながらも無邪気に慕っていた「兄」の面影はない。
行為よりも、言葉よりも、冥にとってはそのことが一番つらかった。


そんな日々が1ヶ月も続いただろうか。

勤務中の冥は、御剣に呼ばれて彼の執務室に寄った。
互いに淡々と仕事の話をして、書類を受け取り、冥は部屋を出ようとした。
その背中に、御剣が声をかける。
「最近、仕事中は私を避けているようだな」
図星だった。
変わってしまった御剣と顔を合わせることに、冥は苦痛を感じている。
せめて仕事中は解放されたいと、できるだけ御剣を避けていた。

「私が感じてきた苦しみは、時を選ぶことなどできなかった」
見透かしたように、御剣が言葉を発した。
「勤務中だからといって、逃げられるなどと思わないことだな。」
御剣が冥の手を掴む。
そのまま引っ張られるように、冥の体がデスクの方へ移動した。
御剣が椅子に座り、その目がその前の床をさす。

冥はそこに跪き、御剣の下腹部に手を伸ばした。
ベルトとファスナーを開けると、そこに顔を埋める。
衝動ではなく、冥を苦しめる意図から始まった行為なのだと、示しているかのように
まだそこは落ち着いていた。
球の部分の片方を口に含み、もう片方を手で包み、柔らかな刺激を与えていく。
呼応するように、御剣の手が冥の頭を優しく撫でた。

少し膨張した竿に手を添えてゆっくりと撫でていくと、さらにそこが膨らむ。
根元に口を移動させそのまま舐めあげると、男の体が少しだけ震えた。
先端の張った部分を丹念に舐めてから口に含み、舌を絡めながら吸い上げていく。

「フム、やるようになったものだな」
自分がそう仕込んだ癖に、男はさも他人事のように感心する。
「ならばそろそろ他にも・・・私を喜ばせる方法を覚えてもらおうか」
髪を掴まれ軽く後ろに引かれたのを合図に、冥は御剣から口を離した。
目が合うと、御剣が膨張したままのそこを指して冥に告げる。
「私は動かない。自分で入れて、自分で腰を動かしてみたまえ」

冥に、拒否権はない。
のろのろと立ち上がり、ブーツを脱ぎ、スカートの中からストッキングとショーツを外すと、
冥は大きな椅子に膝を立てて登った。

冥自身の前戯は特になされていなかったが、毎夜積み重ねた習い性のようなものか、
まるで条件反射のように、体の準備はできていた。
濡れた秘所に男の分身をあてがうと、冥は膝の力を抜いてそれを呑み込んだ。

「う・・・んっ」
最奥に固いものが当たって、冥は思わず声を漏らす。
それでもやはり、前戯なしで男を受け入れるのは、まだ経験の浅い彼女にはきつかった。
しかも、「自分で動け」と言われたが・・・どうすればいいのかわからない。
こういう体位をしたことがないわけではないのだが、
御剣の動きに合わせて動くのが、今の彼女の精一杯だった。
困り果てて男の顔を見ると、察したのか男が顔を緩めた。

「今は上手に動けなくてもいい」
御剣が、優しい声で冥を抱きしめる。
その声は、少しだけ「兄」のものと似ていた。
しかし、次の瞬間にはまたいつもの彼に戻っている。
「これから、こういう機会はいくらでもある。
跨ったまま私を満足させることができるよう、じっくりと仕込んでやろう」

私が興味をなくすまで、キミは私の人形だ。

御剣がそう囁き、冥は奈落に叩き落とされる。
そう。自ら飛び込んだ契約に基づいて、冥はこの男の慰みとなる立場にあった。
その先に絶望が待っていたとしても・・・
何も知らずこの男の背中を追い続けた自分の罪への罰だというのならば
甘んじてそれを受けるのが、彼女に唯一出来ることだった。

微動だにしない男に快楽を与えるべく、少女はひたすら腰を振る。
男の若干の表情の違いを必死にとらえながら、男の快楽だけを優先して男に縋りついた。

気持ちが高ぶったのか、男が冥の胸元に口を寄せる。
乱暴だが決して痛くはない、絶妙な愛撫に、冥は快楽の声を上げた。
「んんっ・・・」
ここが職場であることも忘れ、そのまま本能に身を任せようとした時・・・

「御剣、邪魔するぞ」
ガチャリと、ドアの開く音がした。

親友が、ドアを開け放って部屋に入ってくる。
その声を聞いた途端、自分に跨る冥の身体が固まったのがわかった。

そして数秒遅れてから、入口の男は悟ったようだった。
今ここで、何が行われているのかを。

御剣は、冥の体越しに親友に顔を見せた。
「すまないが、今は取込み中だ。1時間後に来てもらえるだろうか」
「わ、わかった、ゴメン!」

素早くドアが閉められ、部屋に静寂が訪れる。

途端に、冥の体から力が抜け、御剣の肩に支えられた。

「今のは・・・あなたが呼んだの?」
いや、単なる偶然だった。
だが、それは敢えて言わない。
「・・・キミの想像にまかせる。」

そう答えると、冥は体を震わせて動かなくなった。

御剣が見てきた限り、冥は今の男に深い興味を持っているようだった。
恐らく、恋心を抱いているのだろうと思う。
そんな相手に、違う男との濡れ場を見られたのだ。
どれほどの心痛を覚えているのか、想像できるはずがなかった。

「・・・憐れだな」

口からそんな言葉が零れ落ちる。
何故かやり場のないものを感じて、その代わりに御剣は腰を突き上げた。

たぶん、思い知らされたのだ。
彼女の心に、やはり自分はいなかったのだ、と。

だとしたら、いちばん“憐れ”なのは・・・・

浮かび上がる想念を消し潰すかのごとく、御剣は自身を冥の中に何度も叩きつける。

冥も何かしらの思いに苛まれているのだろう。
「あ・・・っ、いい・・・きもち・・・い・・・っ」
気付けば、彼女の方も激しく腰を振って、御剣に体を擦りつけている。
快楽に溺れて、全てを忘れてしまおうとしているかのような狂い様だった。

徐々に締め付けがきつくなり、冥が限界にきていることが感じられる。
「いやっ・・・もぉ・・・ダメ・・・っ!」
華奢な体を抱えて打ちつけるように何度も貫くと、冥が声をあげて達した。
強く収縮する、中の刺激に耐えられず、御剣も冥の中でその激情を爆ぜさせた。

気を遣った彼女を介抱しながら、御剣は消し潰したはずの想念に思いを馳せる。

トラウマを一生引きずる可能性は、医師に暗示される以前から感じていた。
そして、「妹」にとって自分が兄弟以外の何者でもないことも、わかっていたはずだった。

だが、あの日、あまりの悪夢の辛さに医師を訪れ、その場で明るくない予後を聞かされ・・・
その帰りに、検事局で冥を見かけた。
彼女は、御剣の親友の前で嬉しそうにはにかんでいた。
そんな彼女の横顔を見た時に、彼は唐突に決意をしたのだった。
――彼女への、“復讐”を。


それからも、2人の関係は特に変わることはなかった。
ただ御剣は、自分の気持ちに気付いてしまったことで、途方に暮れていた。
自分が、彼女に思慕の念を抱いているということ。
復讐を大義名分に、結局は彼女を自分のものにしてしまいたかったのだということ。
だが実際は、そうすることによって失ったものの方が大きいのだということも、実感し始めていた。

冥は、御剣の前でほとんど感情を映さなくなった。
彼女の心を暴く唯一の手段として、御剣は冥を激しく抱く。
冥はその時だけ行為に溺れるが、その後は余計に心を閉ざしていく。
それはまぎれもなく、悪循環だった。


ある晩、御剣は日付が変わってから帰宅した。
冥は、御剣のベッドの中で安らかに寝息を立てている。
久々に見る無防備な顔を眺めているうちに、御剣はほっとしたような気分になった。
そして同時に、やるせなさを感じる。

――自分は何をやっているのだろう。

初めの夜に、怒りは治まっていた。
むしろ、あそこまでできた自分を怖いとさえ思った。
あそこで「もう気が済んだ」と彼女を解放すればよかったのに・・・。

そう考えて、唐突に気がつく。
今からでも、解放してやればいいのだと。

「もう気が済んだ」と告げて、けじめとして、「謝罪」と少額の「慰謝料」を受け取って関係を断つ。
今さらだとしても、不毛な関係を続けて互いに堕ちていくよりは、ましなように思えた。

冥の髪を撫でると、うっすらとその目が開いた。
「レイジ・・・」
どうやら、起こしてしまったらしい。
「ただいま」
何気なく、そう応える。
冥は子供のように微笑むが・・・次第に自分が置かれている立場を思い出したのか
ゆっくりと笑顔が消えていった。
「・・・レイジ?」
「どうした?」
何を問われているのかわからなかったが、聴こえていることを表すために、返事をする。
すると、冥が起き上がった。
その目には、あふれそうなくらいに涙が溜まっている。
冥はそのまま御剣にしがみついて、声をあげて泣き出した。
御剣は突然の事態にうろたえて、とにかく彼女を抱きしめることしかできなかった。


“ただいま”
そう言った彼は、穏やかに微笑んでいた。
まるで、以前の彼が帰ってきたようだった。
気安く名前を呼んでも、優しい目がそれに応える。
都合のいい、夢なのかもしれない。
でも、それでもいいから、今はこの体温に甘えたかった。

「大丈夫だ。もう大丈夫だ・・・」
冥を包み込む腕に、力が篭もる。
「誓って、もう手荒な真似はしない。」
腕の感触とその言葉が、ここが現実であることを示していた。

冥が落ち着くと、御剣の腕が次第に解けていった。
顔を上げると、ばつが悪そうな表情で自分を見下ろす男と目が合う。
彼に何があったのかはわからないが、取り憑かれていた何かから解放されたようだった。
「おかえりなさい」
冥が改めてそう言うと、御剣は「ただいま」と小声で応えた。

関係の解消を申し出ると、冥がしばらく黙って考え込んだ。
「私とあなたはもう、対等な関係になったと見なしていいのかしら」
「それは、もちろんだ」
すると、冥が目を細めて微笑んだ。
「だったら、私は解消を拒否するわ」
「そ、それではまた同じ過ちを・・・」
予想外の答えに御剣がうろたえると、冥がはっきりと言い切った。
「過ちだとわかっているなら、正せばいいのよ。」
「・・・いや・・・それは・・・だが・・・・・・・・・っ?!」
言い淀む御剣の口を、冥がその唇で塞ぐ。
優しく唇を舐められて、体の奥底が震えた。
それからゆっくりと顔を離して、冥が言った。
「こんな関係になっても、あなたはキスだけはしなかった。」
確かに、彼女の唇を奪うことだけは、しなかった。

「愛情がないという意味だと思っていたわ。」
――違う。できなかっただけだ。
そこに触れてしまうと、何かが壊れてしまうような気がしたから。
御剣は、心の中で独語した。
「でも、今の反応から考えると、むしろ逆のようね。」
あっさりと、見抜かれる。

「レイジ・・・、あなたが少しでも私を求めているというのなら、
私はあなたの人生を・・・幸せにする手助けがしたいのよ」
そう言って寂しそうに笑った冥の顔が、もう一度御剣に近付く。

今度は、深く互いに求めあうように唇を貪った。
冥の腕が伸びて、御剣の首筋に絡みつく。
そのまま指先で首から背中を撫でられて、背筋がぞくりと震えた。
唇を離して、御剣は冥の耳朶を甘く噛んだ。
冥の体が、跳ねるように反応する。
今までにない強烈な衝動に理性を奪われそうになりながら、御剣はやっとの思いで囁いた。
「メイ、すまない・・・さっきの誓い、守れそうにない。」
すると、冥が縋るように御剣の体に抱きついた。
「いいわ・・・その代わり、優しく、して・・・」

言われた通り、御剣は優しく冥を味わった。
何度も唇を重ね、じっくりと愛撫を続けていくと、冥が甘い声で鳴く。
その中に腰を進めて探るように責め立てると、気持ち良さそうに表情が綻んだ。
冥が、幸せそうに自分を受けて入れている。
それは、これまでどれだけ肌を重ねても、手に入れられなかったものだった。

その晩、満たされる思いと共に、御剣は冥の中で果てた。


「しかし・・・本当に、このままでいいのか?君には好きな男がいると思うのだが」
朝になってから御剣が問うと、冥は「何を言っているの?」と怪訝そうな顔をした。
「前にあいつに“現場”を見られたではないか、あの後のキミは乱れ方は・・・うわっ!!」
久々に、冥の鞭が飛んできた。何とか避けて、間合いをとる。
冥が御剣をにらみつけ、言葉で怒りを露わにした。
「知り合いにあんなところを見られたら、自棄にもなるわよ!
それに、肝心のあなたが・・・あそこで偶然だと言わないから、
そこまでするぐらい嫌われてるんだ・・・って」
今にも泣きだしかねない冥の様子に、御剣は危険を承知で冥に歩み寄った。
「すまなかった」
後ろから抱きしめると、冥の手が御剣の腕をぎゅっと握った。
「私が追いかけているのは、・・・昔からあなたのことだけよ」


<了>

最終更新:2020年06月09日 17:22