・厳徒×巴。和姦
・SL-9号事件より前
・厳徒と巴は愛人関係っていう妄想前提

・ガントモがバカップル。というか馬鹿
・書いてる本人も驚いた


「えー、本日はお日柄も好くー、上級捜査官のおふたかた、刑事課、鑑識、そして
聞きこみ捕り物お茶汲みとダイカツヤクだったイトノコ……あ、ごめん、本名……
イトノコギリ? そうそう、糸鋸巡査クン。あー、ここにいます皆々様方のー努力
実りーこのたびの事件も無事解決ー……」
「カチョーちゃん。長い」
「す、すいません!」
だらだら続く刑事課長の長口上をさくっとヒトコトで遮り、にこにこ笑顔の厳徒が
ビールジョッキを掲げた。
「それはともかく。本日付けで事件解決。捜査本部解散。や、良かった良かった。
ってコトで、みんなお疲れさま! カンパイ!」
『カンパーイ!』
音頭に合わせての乾杯コールがテーブルのあちこちで上がり、ジョッキやらグラス
やらが打ち合わされる音が響く。気の早いところなどもう追加注文にとメニューを
広げており、居酒屋の一室はなかなか賑やかな眺めになっていた。

巴は刑事課長と談笑する厳徒の隣できちんと正座しつつ、それを見ていた。手には
小さなグラスがあり、中ほどまでビールが残っている。
彼ら──警察局の人間が浮かれるのも無理はない。
ここにいる人間は、とある事件の捜査担当者だった。巴も厳徒もそうだ。
今日の法廷でその事件に決着がついたのだ。結果は有罪。捜査員のここ一ヶ月の
苦労が報われたかたちになる。
「明日っから通常勤務だ!」
「定時帰宅だ!」
「掃除する! 今日で腐海とはおさらばだチクショウ!」
「これで子どもに『遊園地つれてってくれるっていったのにパパのウソつき!』って
言われなくて済む!」
等々。涙交じりの歓喜が聞こえてくる。
家族持ちは特に大変なのよね──自身も齢の離れた妹を扶養する巴は、彼らの叫び
に内心しみじみと同意した。
「あ! 宝月捜査官!」
「きゃっ」
突然横合いから声を掛けられて、巴は驚く。ついでにグラスを落としそうになり、
慌てて握りしめた。
幸いビールは零れなかったが、揺らした拍子で表面についた水滴が滑り落ち、巴
の指を伝って、テーブルにちいさな水溜まりを作る。
「す、すまねッス……あの、大丈夫でしたッスか?」
「え、ええ」
大きな身体を縮こまらせてしょんぼりする男へ、巴は微笑んでみせる。
誰だっただろう。確か先程名前を呼ばれていたような──「心配は要りません、
糸鋸巡査」

「そ、そッスか」
安心したのか、糸鋸の緊張が目に見えて緩む。
「あの、宝月捜査官」
「何でしょうか」
糸鋸は巴の隣に正座し、真直ぐに巴を見つめ、
「アンタ、最高に格好よかったッス!」
「え? え、あの」
「証言台でビシビシ証拠を出してくアンタの姿、もー痺れたッス!」
「えと、その、あ、ありがとう」
ああ多分酔っているんだな、とは理解した。
ここまでストレートな賛辞を受けるのは巴としてもついぞ無い経験で、上手い返し
が思いつかない。
「ジブン、刑事を目指してるッス! アンタは憧れッス!」
糸鋸はおそらく巴と同世代だろう。しかし、酔いが手伝っているとはいえ、彼の
瞳はきらきら輝いて見えた。
巴には眩しすぎるくらいだ。
「イトノコー、こんなトコで口説いてんなよー」
「ノコさん、もっとムードを考えましょうよ」
「はっ?! いや、ジブンはそんな」

「──何? ボクがいない間に楽しいコトになってるねー」

糸鋸が硬直し動きを止める。
巴も動けなくなる。主に、背後から肩に回された腕の重みのせいで。
「困るなあ。キミ、イトノコギリ巡査? ボクに許可もなくトモエちゃんを口説く
なんて。さ」
何時の間にやら厳徒が来て、巴の肩越しに糸鋸へと笑顔を向けている。糸鋸は硬直
したままだらだら脂汗を流している。『居るだけで室温が三度上がる』と評判の厳徒
だが、今の糸鋸にとってはむしろ冷気のカタマリを押しつけられたようなものだろう。
しかし。
「許可、とは、どういう風に出すつもりですか。主席捜査官」
「そうだねー。トモエちゃんのトコに来る前に、ボクに口説き文句を披露してもらう
とか? で。採点して、合格点が出たらトモエちゃんのトコに行ける。なんてのは
どうかな?」
――それなんて羞恥プレイ。
厳徒の台詞に声無きツッコミが複数入った。気がした。
巴は内心溜息をつく。
上司の悪い冗談を収めるのも部下の役目だ。
「糸鋸巡査」
「へあっ?!」
妙に裏返った返答をする男へ、巴は微笑む。

「また、一緒に仕事が出来るのを楽しみにしています。今度は、刑事として」
「あ──」
タイミングを計り、ゆっくりと頷いて。
男泣きを始めた糸鋸が同僚に引っ張られたのを機に、場の雰囲気は元に戻った。
巴の肩からも重みが外れる。
「――お上手」
巴にしか聞こえない囁きと、
「――あまりイジめないでください」
厳徒にしか届かない呟きと、
呟きへの返答である押し殺した笑いを、残して。


些か間の悪い瞬間を生みつつも一次会はつつがなく終了し、九時前には解散、後は
各自帰宅するなり有志で二次会に突入するなりの流れになった。
巴は二次会への誘いを断り。
しかし、帰路につくでもなく。
「……」
タクシーの後部座席で揺られている。
隣には厳徒。
目的地はホテル。
「酔い覚ましに。下でコーヒー、飲んでこうか。あそこのコーヒーは結構イケるよ」
全く酔ってなどいない様子で厳徒が誘う。
分かりました、と答える巴も、しかし酔ってはいない。二人ともアルコール類に
殆ど口をつけなかった。巴はあまり強い性質ではないからだが、厳徒は違う。ザル
とまではいかないがいけるクチだと聞いている。
唯、嫌いなのだ。
酒が──というより、酒に起因する醜態が。
「人前で。酔うほど呑むモンじゃないよ」
冷やかな評価は、糸鋸に限らず今日の席で酔っていた全員へのものだろう。
巴は窓の外へ目を遣る。
対向車のライトが流れてゆくのが、綺麗だった。
(終電前には帰らないと)
家で待つ妹の顔が、浮かんだ。


コーヒーは確かに美味しかった。


カフェインと熱いシャワーで最後のアルコールを抜き、巴は浴室から出る。洗面台
の鏡の前でバスローブを羽織り、手櫛で髪を撫でつけた。
そして洗面台に手をつき、鏡を見る。
女の姿が、そこにはある。
ひとつ。ふたつ。髪の毛から拭いきれなかった水滴が落ちる。

あの男。
浴室の外、寝室でくつろいでいるであろう男に付き従うようになってから、自分
は変わっただろうか?
幾度も繰り返す自問と、幾度も与える自答。答えはイエスとノー。変わったもの
もあり、変わらなかったモノもある。
そう。巴が厳徒との関係を続ける理由は、今も昔も同じだ。
欲しいものを手に入れる。そのための対価。そのためならば巴はいちばん大切な
もの以外なら何だって差し出す覚悟だった。
身体が冷え切る前に巴は鏡から離れる。

巴には、欲しいものがある。
立ち止まってなどいられなかった。


備え付けのイージーチェアに深く背を預け、厳徒は手元のファイルに目を通して
いた。トレードマークの手袋は外して鏡台に置いてあり、身につけているのは眼鏡
とバスローブだけだ。紙をめくる微かな音が室内に流れ。
「……おかえりー。トモエちゃん」
浴室の扉の開閉音、もしくは巴の気配に気づきファイルを閉じて鏡台へ放る。
ラベリングのされていないファイルだが、巴には中身の見当がついた。捜査資料、
但し今日解決したとは別の、巴に見せる必要のない──巴に見せたくないたぐいの
資料だ。
鼻先で隠し事をされるのには慣れている。厳徒のパートナーとして当たっている
捜査ですら往々にして起こるのは困ったものだが。
しかし。
今日は、そんなことはどうでもいい。
緊張を悟られぬよう殊更背筋を伸ばして歩み寄る。
椅子に腰掛ける厳徒の正面に立ち。
「――ふうん?」
身を屈め、厳徒の肩へと両腕を回す。
厳徒の視線が巴の顔からゆっくり下方へ向かい。
「トモエちゃん。今日はズイブンとサービスいいねえ」
「……っ」
バスローブの帯が解かれる。

巴の肌が露わになる。震える喉元、鎖骨、重力に引かれているせいで普段より
大きく見える乳房。その先の突起は肌寒さからか尖り始めている。
厳徒の手が片方の乳房をすくいあげるように掴む。
巴の背がびくりと震え、秀麗な眉根が寄せられた。唇も同じく固く結ばれ、拒否
の言葉は出ない。
無駄な肉のない腹、臍下の翳りさえ晒されているのに、巴は黙ったまま厳徒の好き
にさせていた。
俯き加減の頬や耳が赤いのは、湯上りだけが原因ではなかろうが。
色付きレンズの向こうで、厳徒の目が眇められる。
「せっかくサービスしてくれてるコトだし。トモエちゃん」
呼びかけは、ひどく朗らかだった。
「じゃあ。リクエストしようかな」
「……リクエスト、ですか」
「そうそう」
巴の乳房から手を離し、厳徒はにこにこ笑いつつ、
「口でしてよ」
沈黙。
「――――――は?」
ぽかんとする巴へ、厳徒は言葉を継ぐ。
「フェラチオ。そのトシで知らないってコトはないよね?」
とりあえず真っ赤になった様子から知識があるのは知れた。
「で、でも、私、経験が」
「やるの? やらないの?」
厳徒は姿勢も表情も一切変えず声にのみ凄みを混ぜ、
「……」
沈黙。
厳徒の肩から細い腕が離れる。
ひざまずく女の姿に、厳徒は声もなく口の端を歪めた。


厳徒自身は全く動こうとしなかったので、巴は仕方なく彼のバスローブをはだけ
前を露出させた。
年齢を感じさせない腹、その下、赤黒い男性器は首を下に向けている。
どうしたものか、途方に暮れた巴が視線を上げると、それはそれは楽しそうな具合
の厳徒の視線とかちあった。
「あ。口でって言ったけど、別に手も使ってイイよ?」
誰も聞いてない。
「歯は立てないようにね」
だから聞いてない。
とりあえず。乏しい知識やあれやそれを総動員し、まずは刺激を与えて勃起状態
に持っていくことが先決と結論づけ、覚悟を決めて手を伸ばす。

うなだれたソレは、ずっしりと重かった。
これが自分のナカに入ってくるのだと考えると、今更ながら身震いする。
だが、その、挿入時の凶器になるんじゃないかとまで思えるような硬度は今のソレ
には見られず奇妙な柔らかさについ握る手のまま指で押してみる。芯とかは何処に
あるのだろうか。裏側を擦ると皮膚の下に管のようなものが通っているのが分かる。
これだろうか。芯。

さて。
厳徒からすれば正直稚拙すぎてそんなに気持ち良くないのだが。
普段は怜悧な雰囲気を漂わせ副主席捜査官として他の男どもを従える才女が頬を
赤く染めつつ自分の股間の一物をいじっている──慣れない様子で眉根を寄せて、
かつ証拠品取り扱いさながらの厳粛さでつんつんしたりぐにぐにしたり包んだり。
肉体的刺激としては全く足りていないわけだが、この眺め自体はいい。
屈辱か羞恥か、微かに震える肩。手。白い額から整った鼻梁へと落ちる影、高い
頻度で繰り返されるまばたき。見下ろす胸の谷間は──まあ、ここについては多く
は語るまい。
今は。何事も一遍にやるのは良くない。

「トモエちゃん」
巴が慌てて顔を上げる。僅かに狼狽の色がある。何か不作法をしてしまったのでは
ないかとの不安を滲ませている。
こんな時巴が見せる幼い表情を、どれだけの人間が知っているだろう。
「楽しい?」
「え」
苛めるポイントは絞った方がいい。的確に、セイカクに。
「や。一人で楽しまれても困るなあ。それに。トモエちゃん、下手だし」
「へ……下手……」
本来は動揺する必要なぞ何処にもないのだ。未経験の相手に熟達の技を望む方が
間違っている。
巴の頭がそこまで回らないのは、やはりこの状況下だからだ。
男根を包むてのひらに、微かに力が加わる。
だが行為の目的は、男への意趣返しでも、ましてや握りつぶすなんて物騒なこと
でもなく。
おそるおそる伸ばす舌を、ソレに、上手くつきつけるためだった。
ざらりとした感触が亀頭を這う。何処がきもちいいのか皆目見当がつかないよう
で、ひたすら闇雲に唾液を塗りつける。
雁の部分を、丁寧になぞるように舐める。頭の位置を固定しては不可能な動作
だったから、当然姿勢も変わる。右手が陰茎から外され、厳徒の大腿部に置かれる。
それについて制止も拒否もされなかったので、巴はなるべく負担にならない範囲で
体重を預けた。

「ん」
顔を傾け、くびれに舌先を差し込むようにして一周させる。柔らかかったソレが、
急に硬度を増した気がした。
横合いから、啄むように順繰りに唇を落とす。男根は、はっきりと興奮を示して
いる。唇ではさみ、舌でつつく。根元まで行く。止まる。少し悩んだ末に、裏側、
精管に沿ってぺったりと舌をつけ舐め上げる。上に、だ。
巴の瞼は固く閉じられている。己の姿を省みたり、ましてや男の反応を確認する
余裕はとても無い。
最初に「歯を立てるな」と注意されたからだろうか。刺激は必要以上に遠慮深い。
だから、彼女の口淫は、稚拙で、微妙に外していて。
その物慣れなさと必死さとが、これが恋人なら即抱きしめてベッドに場を移す、
いじらしさを醸し出していた。
ま。
奉仕させているのは恋人じゃないので。
「トモエちゃん」
「……は、はい……」
口と頬を汗と唾液と先走りでべったべたに汚している彼女に向かい、
「はい。コレ」
「……何ですか」
「着けて」
巴の眉がひくりと動いた。
「これを?」
「そ。キミが、ボクに」
「そのくらいご自分で──」
「聞こえなかったかな?」
巴の顔が強張る。
椅子に腰掛ける男と、跪く女。上下関係は、あまりにも明確だ。
「ボクは『着けろ』って言ったんだよ」
厳徒は冷笑とも取れる表情を浮かべ巴を見下ろす──コンドーム片手に。
巴は唇を噛んで小さなパッケージを受け取る。
「あ。ウラとオモテ。間違えないようにね」
巴が怒りより恥ずかしさの方が多い視線で厳徒を刺す──コンドーム握って。
小さな溜息。
何時までも睨んでたって事態は解決しない、と悟ったのか、巴が動いた。目の前
のモノにゴムを被せてゆく。各種体液が潤滑油になり、巴が考えるよりずっと楽に
作業は終わった。
再度の溜息。
言われずとも、何を求められているのか、巴は理解する。
明らかに嫌そうな面持ちで、ゴムに包まれ逆にグロテスクさを増した箇所へ、舌
を這わせた。
違和感はすぐにきた。
ゴムの味。感触。しかしそればかりではない。唾液が塗りつけた端から乾いて舌を
ざらつかせる。不快感。これならさっきの方がマシだとさえ思う。

 

最終更新:2020年06月09日 17:36