・若千尋と若巴でおっぱい談義。エロくない
・キャラがだいぶ壊れてる
・千尋も巴も男付き
・リアリティを求めてはいけない。おっぱいはファンタジー

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千尋のアパートに、大学時代の先輩である宝月巴が訊ねてくるのは久方ぶりのこと
だった。来訪が近況報告と愚痴の零し合い加えてささやかながらも酒宴の席となるのも、
随分と久々のことだった。
「それで、ですねえ。ひどいんですよ、その……センパイ? ともえセンパイってば、
聞いてます?」
「聞いてる聞いてます聞こえてるからお願い揺らさないで」
隣席の女に甘えるように──というかむしろタチの悪い絡み酒の様相で身を寄せるのは
この部屋の主人である千尋。潤んだ瞳と不満げに突き出される唇、そして同じところを
ぐるぐる回り続ける会話が、彼女の酔いが相当のものであることを示していた。
相対する巴は、千尋に比べると酔いがまだ浅い。酔っぱらいにブラウスの袖を掴まれ
揺すぶられ、その手をぺしっと痛くない力加減ではたき落とす程度には理性が残っている
らしかった。あくまで対比の問題でしかないが。
むう、と千尋は唸り、髪の一筋を貼りつけるちいさな顎だの谷間も露わな豊かな胸だの
を相手へ押しつけた。襟ぐりの深い部屋着から覗ける胸元がむぎゅっとたわむ。押しつけ
られた側の巴は、グラスを片手にしばし黙考し。
「千尋さん」
「どうしました?」
「また大きくなった?」
「う。」
千尋が青菜に塩の様相で巴から離れ、座卓上のグラスを手に体育座りを始める。
「……貴方も大変ね」
「そうなんですよ!」
我が意を得たり、と千尋が叫ぶ。
「サイズ上がっちゃったせいでブラを買い直さなきゃならなくなって、それだけならまだ
しも!」
ばあん。座卓を平手でぶったたき千尋が憤懣をブチ撒ける。巴はアルコールのボトルが
氷水を張ったボウル──ボトルクーラーなんて上等なものはないのだ。色気に欠けるが
致し方ない──から飛び出さぬよう、そっと支えた。
「あ。すみません、ともえセンパイ──それだけなら! まだしも!」
話が戻った。
「ま、だ、し、も!」
「そこは聞きました」
「一気に新調したのをカンづかれて、理由聞かれて、答えたら! ひどいんですよ?!
『それは揉んで揉んで揉みまくった成果』だの『お前の乳はオレが育てた』だの!
なにあのどや顔?!」
再度のテーブル叩き。つまみのチーズ鱈が袋から零れて散らばった。巴は相槌を打ち
つつチーズ鱈を片付ける。一袋百円の安物だが、それなりにイケる味だ。
「大体揉むのと大きくなるのとに因果関係なんて! あるんでしょうか?」
「ある、んじゃないかしら」
不意に真顔に戻る酔漢に、巴も真面目くさったツラで答える。適当に流そうという考え
の浮かばない時点で、巴も千尋ほどではないにせよ酔いが回っていた。
「あるんでしょうか」
「ある、と思うわよ。女性ホルモンとか」

「ホルモン」
「性的に興奮すると分泌が促進されるとか。……逆だったかしら」
首を傾げる巴だが、あやふやな知識を強固なものにすべく調べるとかぐぐるとかそんな
考えは微塵も浮かばない。面倒だし。第一酔っぱらいにそんな知恵が回るはずも無し。
「でも。育つ、ってことは、」
「ともえセンパイ?」
じっと見つめ合う二対の瞳。双方共に、潤んできらめく、酔いの色。
「上手いの?」
沈黙。千尋が口を疑問符のかたちに開ける。
巴もチーズ鱈を食み、氷水で冷やしたアルコールと一緒に胃へと落とし入れ、「その、
カレ」
沈黙──「たぶん?」
「多分、なのね」
「比較対象がそんなに……あ、でも相性がいいとか最高のオンナだとかは言いますよ」
「はいはいご馳走様」
というか二番目の台詞何だかクサいわねと思ったが、巴は口にはしなかった。のろけ話
にツッコミを入れるほど野暮な育ちはしていない。
「色々やってるせいもあるかなーとは思うんですけど」
「色々?」
「ホラ。挟んだりとか」
巴が座卓にグラスを置いた。「挟むって、おっぱいに?」
「おっぱいに」
「……ホントにやるのね」
「やるんですよ。スキみたいですよ、オトコのヒト」
ふうんと一言呟いて、巴は千尋の胸元を見遣る。シャツの生地を盛り上げる、溢れん
ばかりのたゆんたゆんの巨乳。ブラジャーはパールホワイト、右の肩紐だのカップの上部
だのが見えている、あられもない格好だ。
自分が男性か同性愛嗜好の女性であればさぞ面倒な事態になっただろうなァ──ごく
一般的な異性愛者であるところの巴は、深い谷間を羨みの視線で見つつしみじみする。
あればあったで肩凝り等で面倒なのがおっぱいではあるが、そこはそれ、隣の芝生は青い
もの。我が身を、決して無いわけではないが隣と比べれば悲しい程に見劣りする自らの
胸部に思いを馳せ、そっと憂いの息を吐いた。
「別にコッチは気持ち好くも何ともないんですけど。何なんでしょうね。ドコが楽しいの
かしら。ね、ともえセンパイ、ドコが楽しいんですか?」
「ごめんなさい。私も挟んだケイケンがなくて」
というか挟むモノがない。
「あ。じゃあ、挟んでみます? 構いませんよ?」
だというのに、あっけらかんと酔っぱらいの片割れはほざいてきた。
「なにを」
「ユビとか」
「はあ」
自分が発したのが納得の感嘆だったのか、呆れの嘆息だったのか、それとも単なる呼吸
だったのか。手を取られ豊かな乳房へと導かれる巴には判別できなかった。
互いに正座し向かい合い、手を取り取られ、対峙する。
女らしい繊手がやはりこまやかな手に導かれ、綿生地とパールホワイトのブラジャーに
守られた双丘の狭間へと触れる。胸元のあいた服装を好むせいだろう、僅かに日焼けした
肌は、酒精で熱を持ちほんのり赤らんでいた。酔いかそれともある種の興奮からか、胸は
速い呼吸につれそれと分かるほど上下する。
巴は、そっと。右手の人差し指を残し、残りの指を軽く握りこむ。ゆっくりと、手首の
内側を上向けるかたちに手を持ってゆき、

「――」
「――」
人差し指を、千尋の乳房に埋めた。
思ったより、熱かった。やわらかな肉と肉との間に沈む、むにむにという感触は、驚く
ほどの圧迫感──圧迫、というか、つつまれ、くるまれ、肉と熱とふわふわした脂肪とに
圧縮包装されてとくとく波打つ鼓動と共に揺らめくカンショクは。
「ごめんなさい。楽しさが分からない」
「ですよねー」
全く。ドコが良いのか理解不能だった。
「酔っていると触覚が鈍るコトもあるし、そのせいかもしれないわね」
「そうですね」
巴は手を引き、千尋もシャツの襟ぐりを正す。
巴はボウルからボトルを引き上げ、空になっていたグラスふたつに注ぐ。爽やかな芳香
と冷気、揮発するアルコールのかおりが鼻腔をくすぐった。
「ともえセンパイは」「うん」「挟んだりしないんですか?」
グラスのひとつを千尋に渡す。
渡したアトで考える。「ナニを」
「えっと……ちんちん?」
「直球ね。何故疑問符がつくのかがよく分からないけれど」
巴は己が胸を見る。ゆるやかな、女性らしいふくらみ。千尋がそびえたち登山家の矜持
と挑戦心を刺激してやまない大雪山なら、巴は爽やかな風吹きぬける高原の丘陵だった。
ちなみに上記の例えは酔った脳ミソでこねくり回したものなので当然なんの意味も根拠
も持たない。
「挟まない、いえ、挟めないわよ……足りないし」
「えー」
きちんと自己判断を下しての評価は、何故か不満を持って迎えられた。
「いけると思うんですけど」
「貴方くらいないと無理でしょうに」
「そんなコトありませんって! ホラ、店員さんに測ってもらうとブラのカップのサイズ
って上がるじゃないですか」
「そういう問題ではないと思います」
「いけますって、ね、確かめましょうよ。法廷では証拠が全てです!」
「はあ」
今度は掛け値なしの呆れを吐いている内に、千尋の手が巴のブラウスのボタンにかかり
ぷちぷち外してゆく。
「あ。かわいい。ドコのですか?」
駅前にある下着メーカー直営店の名を教えると、千尋は「いいなあ」と言った。
「このサイズが、デザインもいっぱいあっていいですよね。いいなー」
羨ましがる間にも千尋の手は止まらない。ブラウスを臍上まであけたところでようよう
ボタン外しを止め、そっと指を滑らせる。剥き出しの肌をなぞられて、巴がちいさく身を
震わせた。
「ダメですよ、センパイ。ちゃんとスリップも着けないと。汗で透けたらどうするんです
か?」
「んっ……今日は、だって、貴方の家、だし」
「センパイは危機管理が甘いですよ。ケーサツカンなのに」
「始終ムネを出してる貴方が言う?」
「私はいいんです。ファッションですから」
「弁護士の恰好じゃないわよ……」
「いいんです。ファッションですから。――それとも、ともえセンパイ? センパイは、
ブラウスからブラが透けるのをファッションだって言い張るつもりですか?」

「異議あり。綾里弁護士、証言の捏造は違法ですよ」
「ふふ。分かってますって」
細い指が蠢いて、フロントホックを外す。巴の乳房を隠していた布地が割れて、隆起に
かろうじて引っかかる。
その。最後の抵抗すらも、そっとはねのける僅かな力だけであえなく落ちてしまう。
外気に触れる肌が粟立ち、慎ましく埋もれた乳首がほんのり色づき始める。
乳房の元へと差しこまれ、持ち上げる手は、優しく、どこまでも生真面目だった。両脇
から掌を当て、包むように押し上げ、中央へと寄せる。痛みを感じたのか巴の眉がひそめ
られる。が、制止は行われない。二人の女は、よせてあげて生まれる曲線と谷間を注視
することに精魂を傾けていた。
やがて。千尋が、断言する。「大丈夫です」
乳房を解放され、巴がほっと息を吐く。「そう」
「センパイくらいあれば挟めますって! 自信を持ってください!」
「……ああ、ええ、ありがとう」
なにやらひたすらな不可解さを覚えつつも、巴は身なりを整える。横に座す千尋は酔い
も隠さずへろへろ笑っている。
巴は微笑む。
──酔っぱらいにつける薬なし。
自分含めて。


弁護士である千尋のアパートで、大学時代の先輩であり捜査官でもある巴と二人きりの
酒宴が饗されたのは、前回の宅飲みからそう間の明かぬころだった。
「……おっぱいが、何だって言うのよ……」
「ともえセンパイ、呑み過ぎですよー」
「……そんなにおっぱいが良ければ、自分の揉んでればいいのよ……」
よしよし、と千尋が二歳上の先輩の頭を撫でる。座卓に突っ伏した巴はされるがまま
に、先刻から同じくだをぐるぐる巻き続けている。
「大体、私だけが悪いわけではなかったはずよ」
「はいはい」
「ちょっと挟みきれなかったからってあの言い方はありません大体余ったのって貴方にも
責任があると」
「……どれだけ大きいんですか、センパイのそのヒト」
「しかも文句言ったら却って興奮するとか意味分かんない」
会話が成立していないのを確認しつつ、千尋はグラスの酒にそっと口をつける。
意味が分からないのは、どこも一緒らしい──男と女の深い齟齬を感じながら、千尋は
ちいさく苦笑した。
――それはそれとして。
「えーっと。ともえセンパイ?」
「うん」
「目の錯覚とか、アルコールの幻覚とかだったら、すみません。……私には、今センパイ
が、チューハイ缶をおっぱいで一生懸命挟もうとしているように見えるんですけど、コレ
はユメとかマボロシとかファンタジーとかその辺りですよね?」
「……やはり私が足りなかったのかしら……足り……」
「ぬるくなるので止めてください」
嗚呼あの証言台で冷然として捜査報告という名の証言を行い一個の“証拠”として在る
敏腕捜査官、敬服すべき千尋の先輩はいずこへ行ったのだろう。
“センパイ”というシロモノにどんどんユメだのアコガレだのファンタジーだのを抱け
なくなっている自分を悲しく思いつつ、千尋はアルコールを胃に落とす。
隔絶は、男と女の間だけにあるのではない──ひとつ、大人の階段を昇ったつもりに
なって、若き弁護士は酔った頭で頷いた。

最終更新:2020年06月09日 17:34