なんというか流れを読まずに投下します。

【注意】

* 熟年版テンカイチ×ツカサ。検事2-3後の設定。当然、ネタバレ含みます。
* 前半は司視点、後半は天海視点。妄想設定が多分に混入しております。
* というか天海のコレジャナイ感が拭えませんが、仕様です(泣)


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とろりと濃厚なカラメル・プティングを金色の匙で口に運び、感嘆の溜息をひとつ漏らす。
美しくきつね色に揚がったドーナツを小さく頬張ると、懐かしい味とともに砂糖衣が舌のうえでほどける。
舌が甘みに飽いたところで、香りと苦みの強いチョコレートをひとつ。その風味にうっとりとして、目を閉じた。

女はゆっくりと、ひとつひとつの菓子をじっくり、味わうように口に運ぶ。
時折紅茶を口にし、その口元に微笑みをうかべながら、視線はテーブルの上をさまよう。次はなにを味わおうか、と。
……大きなテーブルには、そのほかにもおよそ思いつく限りの菓子が並べられていた。
その様相はまるで童話に出てくる、魔女のお菓子の家のごと。鼻腔をくすぐる甘い香りが、それが御伽話でないことを物語る。
ナイフを入れるのも躊躇われるような繊細な細工が施されたチョコレートのホールケーキ。つややかな果実が零れんばかりに盛られたタルト。
かごに盛られた素朴なクッキーもあれば、見事なチョコレートの彫像もあった。
そして、その奥。テーブルの向かい側。
まるで綿菓子のように白くふわふわした髪の老人が、優しい笑みを湛えた瞳で女を見ていた。
二人の間に、会話はない。
時折食器がたてるカチャカチャという音以外、食卓は幸福な沈黙に包まれていた。

白髪の男はかつて世界一と謳われたパティシエ、天海一誠。
その名声は不運と呼ぶにはあまりにも痛ましい事件とともに失われたが、職人としての彼の腕まで失いはしなかった。
天海は、今日のためにおのれのすべての技量を使って菓子をつくり、焼き上げた。おのれの思いをすべて、この菓子たちに込めたのだ。
……今更、言葉は要らなかった。
恍惚と菓子を味わう彼女の笑顔で、その想いが伝わっていることがわかる。
女は天海と目が合い、少し恥ずかしそうにほほえんだ。
その目元にわずかに浮かぶ皺に、喪ってしまった年月を思い知らされる。
女は天海の助手であり、弟子であり、養女であった。
そして冤罪であるはずの天海の境遇を嘆き、ついには殺人未遂という重い罪に手を染めた……。
今日、彼女…緒屋敷司がその刑期を終え、出所したのだ。

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「……天海さま、さすがにこれは作りすぎだったのではないでしょうか」
ナプキンで行儀よく口元を拭いながら、司が恨めしそうに言う。未練がましく下げられる皿に視線を送る。
まだこの愉悦の味にひたりたいと思うのだが、そろそろ限界だった。せっかく身に納めた天海渾身の菓子を、胃薬などで汚したくもない。
「やっぱり、司もそう思うかい?」
みな少しずつ手のつけられた菓子の皿をサービスワゴンに戻しながら、天海は小さく肩をすくめ、苦笑する。
途中から天海も参戦したのだが、菓子はあまり減ったようには見えなかった。
「まあ、流石に一度で食べきれるとは思っていなかったけれど……。これでも今までお世話になった方々に、だいぶお裾分けしたんだけれどね」
頭をわしわしと掻く天海。司の脳裏に、懐かしい顔が浮かんだ。
怜悧な瞳の若い検事は、今はもっと彼の父親に似てきただろうか。忍者の舞台衣装のような装束の娘は、きっととても喜んで食べてくれるだろう。
そういえば出所手続きに立ち会ってくれた信楽も、私をさんざんハグしまくった後に、天海から何か大きい包みを受け取っていた。
他にも、渋い見た目なのに甘党の元・刑事や、色々駆け回ってくれた大きな身体の刑事や、どうにも憎めない年齢不詳の薬剤師や……。
あの方々とも、この口福が分かち合えていればいい、と思った。
身の回りが落ち着いたら、一度きちんとご挨拶に行かなくては。

「それより、司。腹ごなしも兼ねて一曲お相手願えないだろうか?」
部屋の照明を少し落とし、レコードを選びながら天海が誘う。
司の顔は一瞬輝き…しかし恥ずかしそうに睫を伏せる。
「……天海さま、わたし、もう何年もちゃんとレッスンできていないのです。上手く踊れるか自信が…」
「気にしないさ」
目をむく司。天海が司の前で片膝をつき、うやうやしく手を差し出したからだ。
「あの、天海さま、そんな」
やがてプレーヤーから流れ出る、スローワルツ。
優雅な旋律に誘われるままに司は天海の手をとる。
司が知っているかつての天海の手より、ずっと皺が増え、老いのためかすこし小さくなった、手だ。
……触れただけで、涙が出そうになる。
私はもういちど、この手に触れたかったのだ。


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司は捨て子だった。
クリスマス・イブの日に、屋敷の門のところに置かれていたのだという。
サンタクロースからの贈りものだと思ったんですよ、と、大真面目に天海は言っていた。
司が施設に預けられもせず、使用人の間で生活し、この屋敷で成長したのは、そんな理由からだったのだろうか。


天海は仕事の合間をみて、歌いながらおやつを作る。
それは新商品の試作だったり、簡単なまかないだったり。自分の息抜きのための気軽なおやつだったから、まだ幼い司にも手伝わせてくれた。
出来上がったお菓子を食べるのも勿論大好きだったが、玉子や粉や砂糖やバターが、天海の手で魔法のように姿を変えていくのを見るのが、何よりも好きだった。


夜半を過ぎると他の使用人たちはほとんど、彼らの家に帰ってしまう。
昼間の明るさが嘘のように、石造りの屋敷は重く、暗く、静まりかえる。
そんな時間に目を覚ましてしまうと、司はよく天海の部屋を訪れた。
天海は怒りもせず、目にいっぱい涙をためた司を部屋に入れた。
そして不安な司が寝入るまで、大きな掌で頭をなでてくれた。
天海は年若い館の主人である前に、司にとっては年の離れた優しい兄であり、父であった。


……とおいむかし、幼いときの、優しいその掌の記憶が、いままでの司を支えてきた。


もう20数年も前になる……すべてが失われた、あの事件。
ダンスイーツは即刻打ち切られ、天海の屋敷からも司は放逐された。
天海という後ろ盾を失い、それでも司は、彼から仕込まれた歌とダンスで生きていこうと思った。
その技で立派に生きていくことで、自分にも、天海にも、誇りが持てる気がしたのだ。
しかしどんなに司が反論しようと、世間的には彼女は殺人者の養い子で、彼女を使ってくれるほど世の中は、甘くなかった。
司は必死だった。役を得るために、なんでもやった。
……そう。なんでも、やったのだ。
幸か不幸か、まだ若く見目よい司には、”営業”の声がかかることが多かった。


脂ぎった手にいやらしく体中をまさぐられながら、司は思い浮かべる。かつて優しく頭をなでてくれた、彼の大きな掌を。
執拗な愛撫にあえぎ、その夜限りの男の名を、嬌声とともに呼びながら…胸の内では、別の男の名を呼んでいた。
やさしい養い親に愛されていると無理矢理思い込めば、相手の男のどんな要求にも耐えられた。


それはたぶん、逃避だったのだろう。
敬愛する天海をも汚す行為だったのだろう。
それでも、司は、すがるしかなかった。
満ち足りて、幸福で、幸福すぎてそれと気がつかなかった時代の記憶に。
あの優しい掌の記憶に、すがるしかなかった。


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天海の手に包まれた指が、じん、と熱く痺れている。
足は完璧にステップを踏めているはずなのだが、どこかふわふわとして、現実味を感じられなかった。
これはゆめではないのだろうか、と司は訝しむ。
実はまだ自分は刑務所にいて……もうすぐ、檻の奥の固い寝台で目覚めるのではないだろうか。
すぐ近くに、天海の顔がある。
目が合うと穏やかに笑んでくれる。その息づかいが、体温が、司の思考を混濁させていく。
くるりと優雅にターンしたつもりが、足がもつれ、天海に抱きとめられた。

そして、司の胸の中のなにかが、簡単に飽和した。
大きな胸にしがみつく。
喉からかすかな嗚咽が漏れた。
舞曲は終盤にさしかかり、繰り返す軽やかなフレーズが部屋を満たす。
天海は、腕の中で小さく震える司の肩を抱き、熱い雫が己の胸に零れるに任せた。

これではまるで十代の小娘ではないか、と洟をすすりながらぼんやり司は思う。
元女優としては、今日一日を笑顔で演じきる自信があった、つもりだった。
今までだって天海は毎日面会に来てくれていたではないか。
穏やかに、和やかに笑いあえたではないか。
しかし、あとからあとからあふれる涙を止めることができない。
今は天海の大きな胸にしがみつき、涙とともに感情の嵐が収まるのを待つしかなかった。
天海は司の背に手を回し、時折ぽん、ぽん、と優しく叩く。
まるで……ちいさなこどもをあやすように。
そろそろ四十に手が届く女に対してする行為ではない。……幾つになっても、私はこのひとのむすめなのだ、と今更当たり前すぎる事を思い、それがひどく腹立たしく悲しく、それでもやっぱり嬉しくて、ふたたび涙がこぼれ落ちた。


やがて舞曲は、長い余韻を残して終わる。
「……すこしは、落ち着きましたか?」
顔をあげた司の頬に触れ、涙をぬぐってくれる。
自分を気遣ってくれる、少しかすれた深いバリトンに、司はたまらなくなる。

天海に触れられた頬が、背中がどうしようもなく熱く。
その熱で、ゆっくりと融けながら浮かび上がってくる感情がある。
ずっとずっと昔に固く凍らせて、心の奥深くにしまい込んでいた、秘すべき感情……。

きゅ、と天海にしがみつく腕に力がこもる。
泣き疲れ、甘くしびれた脳は、とうに正常な思考を手放していた。
「……天海さま……」
ようやく絞り出した声は力なく、熱っぽい囁きにしかならない。
「天海さま、お願いが……ある、のです」
かの人の目を見て話すことができない。顔を伏せ、おのれの涙でぬれそぼるシャツに頬を押し当てる。
「言ってごらん、司」
その低く深い声で名を呼ばれるだけで、腰のあたりが甘く、うずく。
ただ一度だけでいい。愛されたい。
……いや、愛とか、そんなもの、なくても、いい。
もっと、触れたい。触れてほしい。このひとの体温を、鼓動をじかに、感じたい。
飢えにすら似た、あさましい情欲が、身に満ちる……。

心のどこかに残った理性が警鐘を鳴らしていた。
その続きを言ってはいけない。言ったら、二度と戻れない。
……けれども、もう、止められなど、しなかった。

「……こいびとのように、だいて、ください……
………………いちど、だけで……いいですから…………」

体重をあずけていたせいで、天海がぴくりと身を固くしたのがわかった。
ああ、やはり。
すっと血が下がる。わかっていたことなのに。
……軽蔑、された。
身を振り払われるのを覚悟して、司は天海から離れようとする。
しかし、背中に回された天海の手の力は少しもゆるまず、もう片方の手が伸びてきて司の顎に触れた。
狼狽える司の顔を上げる。
「……ずるいですね、司は」
いつもと同じ、優しい微笑み。すこし翳りを帯びて見えるのは、何故だろう。
「そんなふうに、そんな顔で言われたら……私は、叶えるしか、ないのですよ」
そのまま、唇と唇が重なる。
最初は、軽く触れあうだけ。
一呼吸おいて、むさぼるように激しく舌を絡め合う。


そのくちづけは、今日食べたどんな菓子よりも、刺激的で、甘かった。


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彼女はだいたい、面会終了時間ぎりぎりにあらわれた。
盾之くんが同席する日もあったが、彼女だけは毎日訪れた。毎日、欠かさず、だ。
収監されはじめの頃は、面会途中で急に泣き出したりもしたが、長い刑期が確定した頃には、あまり事件のことを話さなくなった。

司が女優として売れ始めてきた頃、やはりスケジュールに無理をして来ているのだろう、疲れが抜けない彼女の顔を見るのがつらくて、もう無理に来なくていい、と何度も言った。
しかしその次の日も彼女は来て、他愛のない話を一方的にしていった。
翌日は来訪を告げられても、面会を拒否した。
彼女が来なくなるまで続けるつもりだったが、十日目で、逆に自分のほうが罪悪感に音を上げた。
久しぶりに会う彼女は恨み言ひとつ言わず、あまりにもいつも通りに振る舞うので、ひどくこたえた。

それから、十年以上。
厚いアクリル板越しの、数分間の逢瀬が続く。
彼女の仕事の愚痴を聞く日もあれば、自分が所内で作った菓子の話をする日もあった。
何も言わず、ただ座って顔を見るだけで満足な日もあった。
気分が良い日は、二人して高らかに歌い、付き添いの看守に睨まれた。
毎日、面会終了時間間際のひととき。
そのわずかな時間だけは過酷な刑務所生活を忘れ、あの穏やかな日々に戻ることができた……。



冤罪が証明されたと聞いた時、解放される喜びよりも、彼女を罪を犯させてしまった事に、ただ打ちのめされた。
たとえ、彼女自らが望んで行った事だとしても。
確かに犯人は憎いが、自分がもうあと数年耐えれば。刑期さえ明ければよいことだったのに。
自分の存在が彼女の人生を台無しにしてしまった。その事実は焼印のように身を灼き焦がし、苛む。

私の残りの人生はすべて彼女のために在ろう、と、思った。
彼女が、自分にそうしてくれたように。
老いてしまった自分に、あとどれだけの事ができるかは、判らないけれど……。


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何度も、何度も、舌を絡めるキスをする。
彼女の口内は、チョコレートの味がした。
ようやく離れた司の紅い唇から、艶っぽい吐息が漏れる。
ずるずると床に崩れそうになった彼女を天海は慌てて抱きとめた。
すっかり力の抜けてしまった彼女を胸に抱きかかえたまま、自分の寝室まで移動する。
また唇をかさねながら、背中のファスナーを探りあて、一気に引き下げる。
深緑のドレスを足下に落とし、下着姿となった司をおのれのベッドに横たえた。
額に、首筋に、鎖骨に、触れるだけのキスを落とす。
「……てんかい、さま……?」
それまでされるがままであった司の唇が、うわごとのようにうごく。白い手が伸びてきて、天海の顔に触れる。
手は天海の額から目尻、頬、鼻梁をなぞっていく。その存在を確かめるかのように。
お返しに天海も、同じように司に触れる。司は目を閉じ、くすぐったそうに笑った。
「ほんとうに……ゆめでは……ないのですね?」
「さあ…?夢かも、しれませんね」
ブラジャーの横から指を侵入させ、豊かなふくらみを手で包んでみる。パン生地のようにそのままそっと捏ねる。
「んッ…はぁっ……」
鼻にかかった甘い声。固く尖りきった中心の果実を親指で押しつぶし、つまむと、司はさらに切なく身を震わせた。
「すこし……まって、天海さま」
彼女自ら背に手を回し、胸の束縛を外す。ふるん、と解放された乳房はほんのり桃色に染まっていた。
均整のとれ、ほどよく脂ののった女の身体を感嘆を込めて眺めると、その無遠慮な視線に恥じたのか、上掛けを引っ張り上げて隠してしまう。
「……もうすこし、綺麗な時に見てもらいたかった」
「そんな事は。今だってとても綺麗ですよ、司」
「…………ね。天海さまも…」
上掛けの下から伸びる手が、ひとつずつ、シャツのボタンを外してくれる。アンダーシャツとズボンも脱ぎ、寝台に滑り込んだ。
すぐに司を捕まえ、背中から抱きしめる。
少し高い彼女の体温を全身で感じる。肌と肌が直接触れあう感覚が、心地良い。
と、腕の中で身じろぎしたのを感じて力を緩めると、司はこちらに向き直り、正面から抱きついてきた。
お互いの背中に手を回し、ぴたりと肌が密着する。
しばらく、そのまま、そうしていた。


「天海さま、わたしのこと…むすめ、みたいなものだって……言ってくださった、のに」
自分から求めておいて、ぽつりと、今更そんなことを言う。
「……自分の娘を愛して何がいけないんだい?」
長い栗色の髪を梳きながら、うそぶく。
耳たぶを食む。うなじから背中、そのまま腰のラインに沿って手を滑らせる。豊かな尻を円を描くように撫でまわす。
「…………ッ」
熱い吐息が肩にかかる。微かに反応する腕の中の女に、かわいいな、と思う。
「ふふ、司は敏感なんですね」
「……だって……天海さまに、こんなこと、されるなんて」
全く同感だった。
ただ……なんとなく、いつかはこうなってしまうような予感はしていた。
多分、私たちは長いこと、お互いに寄り掛かりすぎていたのだ。
すこし肌を触れあわせたぐらいで、相手と融け合いたいと願ってしまうぐらいに。
司には申し訳ないが、私では彼女を満足させられないかもしれない、けれど。
もう何十年も女性と褥を共にしたことなどないし、年齢的にも……。
懸念をぬぐうように、濡れて誘う唇に吸い付く。とろけた唇を甘く噛み、舌で歯の裏をなぞり、ねっとりと舌を絡める。
口内を舌で犯したまま、両手で乳房をもみしだく。しっとりと汗ばんだ双丘に簡単に指は沈み、形を変える。乳首を強くつまみ上げると、たまらず司は口を離し、大きくあえいだ。
自分と彼女の唾液がまじった液が、糸をひいて落ちる。
「ふぁ、ああっ!」
固くしこり立った乳首に軽く歯を立てると、司は喉をのけぞらせた。
その姿はひどくなまめかしく扇情的で……背徳感があおられる。
片方の乳を揉みながら、もう片方の乳首に舌を這わせ、赤子のように吸いつく。甘噛みし、舌で転がす。
そのたびに司の身体はびくびくと震え、切ないあえぎ声を漏らす。
このまま強く歯を立てたら、口の中のやわらかな果肉は熟れきった桃の味がするのではないか。
勿論そんなことはありえないが、せめて甘みを楽しみたくて、白い果肉を強く吸い上げる。
彼女の胸の上に、紅い花がいくつも咲いた。

胸から腹へ、その下へ。ゆっくりと手を移動させていく。女の蜜ですっかり下着は濡れそぼっている。
下着をずらすのを司は腰を浮かせて助けてくれた。さわさわと柔らかい毛の感触を楽しみ、蕩けた蜜壺に手を這わせる……と、その途中で司に手首を握られる。
「わたしにも……天海さまを、きもちよく、させてください……」
司の手が己の下腹部に伸びる。下着の上から天海自身を優しく撫でられたかと思うと、下着を下げられ、自身が解放される。
こくり、と司が喉を鳴らすのが聞こえた、気がした。
白い指がためらいがちに触れてくる。既に質量を増していた自身の欲望に、安堵し、失望する。
……いっそ不能であってくれれば、楽だったかもしれないのに。
竿の根元を軽く握られ、指はそのままゆっくりと上下する。裏筋の上を指が這うと、寒気のような快感が背筋を走る。
思わず、うめきが漏れた。
それに気を良くしたのか、司は口に含んで舌で愛撫を始める。
先端に軽くキスをした後、舌は鈴口をなぞり、先走りを啜る。紅い唇が亀頭をくわえ込み、ねろりと舌先でカリのくびれをなぞる。
水音をたててしゃぶる。すぼめた舌で竿を擦りあげる。おいしい飴をなめるように、かすかな微笑すら浮かべて。
あまりの快感に、あまりにエロティックなその姿に、気が遠くなりそうだ。
「天海さま……きもちいい、ですか?……」
口を離し、そう言って妖艶に笑む。
女優の仕事にはこういうものもあったのだろうか。それとも盾之くんあたりにでも仕込まれたのだろうか。
自分が収監されている間の彼女が、どのような経験をしてきたのかなど、今更、知りようもないのだが……目眩がした。
ただ、わかっているのは、このまま悦楽に流され果ててしまってはならない、ということ。
再び股間に顔を埋め、腰が溶けてしまうような舌使いでフェラチオを再開した司を、苦労して引き離す。彼女の下腹部に頭を向けた。
「私にも、司を味わわせてくれませんか」
太股に手をかけて広げると、むっと女が香る。その奥の泉に舌を差し入れた。
「あっ、ふぁッ…!」
お返しとばかりに、わざと音をたてて司の愛液を啜りあげる。ひくつくクリトリスを舌先で突つく。吸う。唇で包み、激しく愛撫する。
「ひッ、あ……あッ…!あ!あッ!あ!はあッ!」
白い喉をのけぞらせ、司は高く高く鳴いた。
「だめ、てんかいさま、ッ!きもちい、きもちいいようッ!」
その切迫した喘ぎに、嬌声に、自分自身も更に昂ぶっていく。
もっと、もっといやらしく、かわいらしい声で歌って、つかさ。
秘芯を舌で愛しながら、愛液を吐き出しつづける穴に指を差し入れる。人差し指と中指で中をくちゃくちゃとかき混ぜる。指を曲げ、やさしく膣壁をこする。
司の身体が跳ねた。
「……あ!…あッ!……!!……!……ッ!!」
もう声も出ない。熱いるつぼとなった司の中が、指をきゅうきゅうと締め付ける。
白い身体が弓なりにしなり、びく、びくんと二度大きく痙攣する。


達したばかりで、まだ息の荒い司の足をさらに大きく開かせる。
指が抜かれ、物欲しげに蠢く膣口に、屹立した自身を当て、ゆっくりと押し入る。
「痛くは、ない?」
先端だけ入れたところで一度動きを止める。司の中は熱く、思った以上に狭い。
とろんと快楽に濁った瞳が見上げてくる。蕩けた顔で笑った。
「少し……いたい、けど、大丈夫」
言いながら、両手をひろげる。だっこをねだる子供のように。
そんな仕草を見せられたら、もう抑制など効かなかった。彼女の一番深いところまで一息に、貫く。
「んぁッ………!!」
それだけでまた軽く達したのか、眉根をきゅっと寄せ、息を止めて微かに震える。
深く、深く、繋がったまま、司を強く抱きしめる。彼女もまた、背に手を回し抱き返してくる。
互いをむさぼるキス。肌にふれる熱い吐息。背に立てられる爪の感触。熔けそうなほど熱く包み込まれる感覚。ああ、どうにかなってしまいそうだ。
ゆっくりと、律動を開始する。
粘膜と粘膜が絡み合う。彼女との結合部からはちゅぷ、じゅぷりと湿った水音が響く。
司はふたたび、切なく、甘く、歌い始める。


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彼女がとても小さなころから、とことこと後ろを付いて歩いてくる姿を、昨日のことのように思い描ける。
自分がすべてを失ってしまっても、傍らに立ちつづけていてくれたひと。
絶望に壊れ、自分のために人を殺めかけたひと。
その罪の結果として、真実を明らかにする契機を生んでくれたひと。
彼女に抱く感情は、贖罪なのか感謝なのか愛情なのか、もはや判然としない。

この身には、彼女の人生を狂わせたという事実が、焼印のように押されている。
かつてはひどく身を灼いた痛みも、時とともに薄れ、今はもうあまり感じることはない。
それは、彼女が自分を想ってくれた証でも、あるのだから。


自分の横で微かに寝息をたてる女の頬に、そっと触れる。
一度だけ、恋人のように。彼女はそう乞うたが……もう、父と娘のような関係に戻ることなどできないだろう。
少なくとも自分は、この歓びを知ってしまった。
栗色の髪に触れる。
怖い夢に怯えて身を寄せ、自分の腕の中で安心しきった顔で眠りに落ちた少女と同じ髪を、撫でる。

昔のように穏やかで、昔以上に刺激的な生活も、悪くないと思えた。



FIN.

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なんというか、予想以上に細切れになってしまって青ざめておりますが。(タイトル間違えて(3)が2つあるし)
ここまで長文におつきあいいただき、ありがとうございました。
それではまた、機会があれば。



以下、蛇足的なこと。

・とりあえず司は5年ぐらいの懲役として、天海(62)×司(39)のつもりで書いてます。経過年数はお好みで加減してください。
・司の依存度を上げるために天海の両親は存命ですが別居生活。薬剤研究のため海外生活中心とか…?亡くなったのはコンテストのすこし前くらいと妄想。
・ゲーム中の状況だと養子縁組とかはしてない気がするので、今後もいちゃいちゃしてればいいと思います。(まあ、養子でも別に構わないけど)

最終更新:2020年06月09日 17:33