その夜、美雲は御剣怜侍のオフィスに向かっていた。糸鋸刑事から御剣がある事件の操作で行き詰まっていると聞いたのだ。
自分にできることはないだろうか?と考えた。いや、考える前に行動するのが一条美雲だ。ぬすみちゃんを持ってすぐに家を飛び出した。
暗い夜道を歩く。もう深夜だが御剣検事はまだ仕事中だろう。役に立てればいいけど…

「こんな時間に何してるのかな?」
振り返ると警官の姿。美雲は「しまった」と思った。
自分は検事と刑事の知り合いがいて、今から捜査協力に行くところだ……なんて、信じてもらえるわけない。しかし自分は急いでいるのだ。思わず地団駄を踏みたくなった。
「いやーわたしは、えっと…」
「見たところ未成年だよね。どこに行くのかな?もし家出なら…」

「待ちな!」

美雲が声のする方を見ると、見覚えのある男が立っていた。
「そこのお嬢ちゃんは俺の連れだ。わりぃな」
そう言って男は身分証を警官に掲げた。たちまち警官か慌てて敬礼をする。
「こ、国際警察……の方でしたか!失礼しました!」
警官が離れて行くと美雲は男の元に駆け寄りお辞儀した。
「ウルフだー!ありがとうございます!」
「こんな時間に何してやがる?カラスの嬢ちゃん」

事情を説明すると狼も検事局に用事らしい。
「アネさん……狩魔冥検事と捜査のことでな」
以前のように国際捜査官として活躍する狼には、一時期失われていたカリスマオーラが再び溢れていた。
「ロウさん、なんだかかっこよくなりましたね!」
美雲が率直な思いを言うと、狼の目が一瞬丸くなった、そして豪快に笑う。
「ありがとよ。お嬢ちゃんも可愛い女の子だ。夜道を歩くのはこれっきりにするんだな」
「無理ですよ!ヤタガラスは闇夜を飛んでこそヤタガラスですから!」
「アマイな!狼子、曰く!性犯罪は夜に多く起こるんだ!」
「せ、性犯罪ですか!うーん……」
そんな話をしている間に検事局に着いた。
同じ階でエレベーターを降りると、狼は狩魔冥の執務室に向かって歩き出す。
「じゃあな、カラスのお嬢ちゃん。あんまり無茶するなよ」
颯爽と去っていく狼の後ろ姿を見て、美雲はなぜか寂しさを覚えた。


「何を考えているんだ君は!」
御剣の執務室に入り助けに来たことを言うと、御剣は激昂した。
「いくら突飛な行動が趣味の君とは言え、こんな深夜に出歩くなど…」
「でも御剣さん、困ってるんですよね?」
「……せめて来るなら昼間にするか事前に連絡してくれたまえ!」
「ごめんなさい…」
御剣が心配ゆえに怒っていることは美雲にもわかっていた。

「あ、でも途中からロウさんと一緒に来たんですよ!」
「ロウ捜査官と?」
狩魔検事と捜査中らしいことを教えると、御剣の顔に笑みが浮かんだ。
「そうか、さすがロウ捜査官だな…」
狼のことを心配していたのだろう、御剣はホッとしている。美雲も話題を反らすことに成功してホッとした。
「またロウさんと一緒に捜査したいですよね!」
「ム?君は容疑をかけられたりしたこともあるが……?」
書類を読みながら御剣が答える。
「あはっ、そんなこともありましたね!でも今の狼さんは優しいし、わたしすごく好きです!」
途端に御剣が顔をあげ、険しい顔で美雲を見つめた。
「御剣さん?」
「ムゥ……そうか、美雲くんも17歳の女性だったな」
「なんの話ですか?」
「いや、そういったものは自分で気づくのが一番だろう。しかし……ロウ捜査官か……」
美雲には御剣の言ってる意味が全くわからなかった。

一方その頃、もう一つの執務室では国際捜査官が兼ねてからの疑問を同僚検事にぶつけていた。
「御剣怜侍との関係?……決まってるわ。あの男は私の弟弟子よ」
「あぁ、そんなこと言ってたな……だがアネさん、男と女としてはどうなんだ?」
狼の質問に冥の顔が一気に赤くなった。
「なっ!!そんな、私がどうしてレイジなんかと!!」
このうろたえぶりを見て狼は一人納得した。片思いか両思いか、どちらにしろ清廉潔白ではないだろう。

「な、なぜそんなことを訊いたのかしら?」
「……ここに来る途中、一条美雲に会ったんだ。御剣検事の仕事を助けに来たらしい」
「そう。相変わらずパワフルな子ね」
「本当に無鉄砲だ。こんな深夜に、男一人の部屋に行くなんてよぉ」
狼の言葉と表情から、天才検事はすぐ目の前の男の真意を読み取った。
「レイジのことを信頼しているのよ」
冥はさらに続ける。
「そして、レイジはあの子を娘のように思っているわ」
「娘?そうなのかい?」
「ええ。だからあの子の恋人になる男は苦労するんじゃないかしら」
冥の意味深な笑いに気づいて、狼も苦笑した。
「さぁ、捜査会議を進めましょう。狩魔の辞書に休憩の文字はないわ」
「当然だ。狼子の言葉にも休憩の文字はねぇ」
狼は美雲の無邪気な笑顔を頭の隅にとどめつつ仕事にとりかかった。


「……これで、明日の公判は問題ないだろう」
「どうですか御剣さん!正直、ぬすみちゃん大活躍でしたよね!」
御剣が言葉に詰まる。確かにぬすみちゃんのおかげで現場の矛盾を見つけることができた。しかし、もう夜明け前という時刻になってしまったのも事実。
「美雲くん、家まで車で送ろう」
「わぁ!ありがとうございます!」
二人で廊下を歩いていると、御剣がエレベーターの前で声をあげた。
「すまない、執務室に忘れ物をしたようだ」
エレベーターはもうすぐ到着してしまう。御剣がどうしようか迷っていると美雲は「先に駐車場、行ってますね!」と御剣の背中を押した。

御剣が去った方向を見つめていると後ろから声がした。
「よぉお嬢ちゃん。帰りも一緒なんて偶然だな」
「あっ、ロウさん!」
お互い頬が緩むのを無意識に隠し、到着したエレベーターに乗り込む。
「捜査会議はどうでしたか?」
「まぁ順調さ。標的はわかってるからな」
「へーっやりますね!」
狼の誇らしそうな、でも少し照れたような顔。その表情があまりに魅力的で、美雲は「このまま時間が止まればいいのに」とさえ思った。
そして、本当に止まってしまった。
……エレベーターが。

「えっ!?えぇーっ!?」
騒ぐ美雲に対し、狼は舌打ちをした。
その時、狼に冥からの着信。
「言い忘れていたのだけど、検事局のエレベーターはこの時間メンテナンスで急に止まることがあるの。乗らない方がいいわ」
「もう少し早く聞きたかったなぁ、アネさん」
狼は美雲と一緒に閉じ込められたことを言うと、冥が少し笑ったような気がした。
「私の方から管理会社に連絡しておくわ。開くまで待ってるといい」
そう言って冥は電話を切った。狼は美雲の方に振り返る。
「お嬢ちゃん、どうやらエレベーターのメンテナンスで……」
「くそーっ!」
狼は目を丸くした。美雲は下げているポシェットの中をゴソゴソ漁っている。
「鍵を開けたり縄を抜けたりする道具はあるんですけど、さすがにエレベーターから脱出する道具はありません!ドロボウ失格だなぁ」
美雲が腕を組んでため息をつく。
どこまでも前向きな美雲を見て、狼の胸はなんだか暖かくなった。


「まぁいいさ。時期に管理会社の奴が来る。それまで……二人きりで待つとするか」
「ふ、二人きり……」
美雲の顔が赤くなる。狼の様子を窺うと、狼の方はなんとも思ってないように見えた。
『ピピピピピ…』
「うわ!」
今度は美雲の携帯が鳴った。出てみると御剣の大声。
「美雲くん!エレベーターに閉じ込められたというのは本当か!」
「あ、はい!でもロウさんも…」
「エレベーターに閉じ込められた時の恐怖はよくわかる。だが今のエレベーターはとても安全な作りで…」
「だ、大丈夫ですよー!」
早口で捲し立てる御剣をなんとか宥めて電話を切った。なんだかお父さんに心配される娘の気分だ。
「御剣検事か?」
「はい。なんだかすごく慌ててました!」
笑いながら狼が床にドカリと座りこんだので、美雲も隣に座る。
「な、何か話しましょうか!暇だし…」
「おう、なんの話だ?」
「えーっと……じゃあ、ロウさんの恋の話とか!」
冗談めかしてみたものの、美雲は純粋に狼のことを少しでも多く知りたかった。狼は豪快に笑って返す。
「女子高生らしい話題だな。だが、俺の苦手な話題だ」
「えーっ、どうしてですか?」
「……俺の初めて愛した女は、犯罪者だった」

美雲はハッとした。
真っ白な髪の、狼の部下。それは自分の父親を殺した女のことだ。
狼とあの女が恋人同士だったなんて、美雲には想像もつかなかった。
「俺を、恨むか?」
狼が尋ねる。父親の仇を愛した男、その男を自分は……
「う、恨んでなんかいません!」
「本当かい?俺は、シーナと……」
「そんなの関係ありません!むしろ、わたしはロウさんのこと……好きです!」
狼は信じられないという目で美雲を見た。
美雲自身も信じられなかった。だけど今、自分の口から出た言葉にウソはないこともわかっていた。
初めは嫌な奴だったけど、数々の捜査を通して気付いたロウの優しさや真実を追う姿勢に、ずっと惹かれていたのだ。

「本気で言ってるのかい?」
狼の質問に美雲が頷く。
「そうか……お嬢ちゃんは本当に強いんだな。どんなことがあっても、全部その明るさで乗り越える…」
美雲と狼は言葉もなく見つめあった。そしてどちらかともなく顔を近づける。
「んっ……」
唇が離れて狼が囁いた。
「お嬢ちゃん、わかってるかい?オオカミの牙は、一度食らいついたら離れないぜ」
狼の言葉の真意を考えた。いつも犯罪者にこんなことを言って追いつめているんだろう。
だけど今回は違う。ロウさんは今から、わたしを……

緊張と不安を押し殺して、美雲は小さく頷いた。
 


再び唇が触れると、狼の舌が素早く美雲の口内に侵入した。
「んっ……んん……」
「嬢ちゃん……大丈夫かい?」
そう言っている狼の息も段々と荒くなっている。
――興奮してくれてるのかな?
興奮してるなら、確か体が反応するんだっけ。
そんなことが気になった美雲は半ば無意識的に狼の下半身に手を伸ばして確認した。狼の動きが一瞬止まる。
「なかなか……積極的なんだな?」
「えっ!?いや、すみません!興奮してくれてるのかなって、気になったら止まらなくて…」
美雲は急いで手を引っ込めた。
「ははっ、アンタらしいや」
狼は笑うと同時に美雲の服の中に手を入れて、器用にブラジャーのホックを外した。
「あ、ロウさんっ……」
すぐに狼の手は美雲の胸を荒々しく掴む。
「あぁっ!や、やだっ……!」
「アマイな。先に挑発したのはそっちだろう?」
更に狼はもう片方の手でスカートの中に手を入れた。
「やっ!待って……」
あまりの慌てぶりを見て狼は一旦手を止めると、「初めてか?」と尋ねる。
美雲は小さく頷いて「すみません」と謝った。
「謝ることはねぇさ。むしろ、大事な初体験が俺みたいな奴でいいのかい」
「あ、当たり前です!わたし、幸せです……」
「そうか。嫌になったら言ってくれよ」
「……はい!ロウさん、やっぱり優しいですね!」
美雲の笑顔につられて、狼も思わず微笑んだ。

しばらく優しく胸を揉んだ後、狼は再びスカートの中への侵入を試みた。
「あ、うぅ……」
美雲が緊張からなのか羞恥からなのか小さく呻く。
緊張しているのは狼だって同じだった。何しろ相手は17歳だ。若い体に対して歯止めが効くか、自分でもわからない。
そっと下着の中に指を差し込むと、クチュ、と水音が聞こえた。もちろん指にはぬるついた感触。
「濡れてるな、お嬢ちゃん……」
そう呟くと美雲は顔を真っ赤にした。
狼は更に指を動かす。
「あ、あぁんっ……やぁっ」
「嫌か?」
「だって、は、恥ずかしっ…」
「我慢しな。こうしないと後で痛い思いをするぜ」
“恥ずかしい”なんて、いつもの強気で天真爛漫な姿からは想像もつかねぇ言葉だな……
狼はそんなことを考えた。


そろそろ挿入してもいいだろう。
そう考えた狼はベルトを外し自分のモノを取り出した。
美雲は思わず目を逸らす。
「避けることはねぇだろう。これがアンタの中に入るんだぜ?」
「だ、だって、なんかすごくイメージと違ったんですよー!」
「どんなものだと思ってたんだ?説明してくれよ」
「い、嫌ですよ!」
美雲が少しいつものノリを見せたことに安堵して、狼は脚を開いて座ると美雲の手を引いた。
「なんですか?」
「またがってくれよ。こんな場所だし、そうするしかねぇだろう?」
「えぇっ!?」
美雲は困惑するあまり固まってしまった。
狼はそんな美雲が可愛くて仕方なく、ニヤニヤしながら美雲の体を引き寄せる。
「いやー!嫌です!恥ずかしい!」
「俺は良い眺めだぜ。それに、自分の痛くないペースでいれられる」
「……そうなんですか?」
そんな優しい理由を言われたら逆らえない。言われた通り狼の上にまたがった。

「んっ……!」
びしょ濡れの秘部に狼の硬くなったものがあたる。
少しずつ腰を落としていくと、予想以上の痛みが美雲を襲った。
「うあぁっ!い、た……」
「大丈夫か?痛いなら、やめてもいいんだぜ」
美雲は慌てて首を振る。途中で諦めるなんてことはサガじゃないし、せっかく狼と一つになれるチャンスを逃したくなかった。
「それなら、落ち着け。お嬢ちゃん……もっと力を抜きな」
狼に言われた通り力を抜いて、ようやく狼のモノを全て受け入れた。
「すげぇ、キツい……」
一方狼も、予想以上の締め付けに余裕をなくしていた。
それでも、美雲の痛みが落ち着くまで我慢しよう……と思っていると、なんと美雲がゆっくり腰を動かし始めた。
「オイっ……痛くねぇのか?」
「だって、動いた方が……気持ち良いんじゃ……ないですかっ……?」
美雲の苦しそうな表情を見てどうしようもなくなった狼は、思いきり美雲を抱き締めた。


狼は完全に理性がなくなるのを感じた。思いのまま、美雲の中に突き上げる。
「ロウさんっ……気持ち良い……」
「俺も、気持ち良いぜ」
お嬢ちゃん――
そう言いかけて、改めて言い直す。
「美雲……気持ち良い。お前の中で、イきてぇ……」
美雲は答えに窮しているようだった。
勝手に肯定と受け取って、狼は更に激しく突き上げる。
「あっ、あんっ……やぁっ!あ、ダメっ」
「美雲っ……良い……」
美雲が力の限り狼を抱き締める。
それに応えるように狼も優しく美雲の頭を撫でた。
「ロウさんっ……あんっ、好きっ……」
「俺も、好きだ……みくもっ……」
しばらくして、狼は美雲の中に射精した。

「……お、遅いですね!エレベーターの人!」
服を着て数十分待っても管理会社の人間はいっこうに現れない。
狼の中で生まれていた疑惑が、確信に変わっていった。
「アネさん……連絡なんてしてねぇかもしれないな」
「えぇっ!?わたしたち、忘れられてるんですか?」
あの優秀な狩魔冥が“忘れる”なんてありえない。おそらくハメられたんだろう。
そう推察した狼が試しに非常ボタンで連絡してみると、予想通り管理会社にはなんの連絡も入っていなかった。
「ひどいなぁ狩魔さん!」
「まぁいいさ。おかげでアンタとこうして……」
狼が美雲に近づいてゆっくり口づける。美雲は気まずそうに目をキョロキョロさせた。
「狼子、曰く……愛した女は一生守り抜くぜ」
「ど、ドロボウ子曰く……オオカミさんには、かなわないです……」

それからまた数十分後、無事2人はエレベーターから脱出した。
迎えた御剣と冥の目に飛び込んできたのは、美雲の首もとについた赤い痕。
美雲自身は気付いていないのかいつも通り元気に笑っている。
冥は自分の計画が成功したことにニヤリとして、当の狼士龍は御剣の殺気に気付かないフリをして颯爽と次の事件現場へ向かっていったとか。

最終更新:2020年06月09日 17:33