冥×糸鋸(未完)

糸鋸は残業中、冥に呼び出され、説教を受けていた。ここ数日来、
毎晩遅くまでののしられ、失敗をなじられ、鞭で叩かれていた。
「バカはバカゆえにバカげた失敗をバカバカしいほどするものね!」
──バシンッ!
「んギャアアアアアアアアアアアアアァァァァァァッス!!」
「いい!あなたの単純な捜査ミスで私が何度恥をかかされたと思うの!」
冥は怒りに燃えた形相で再び鞭を振りかぶった。鞭を避けようと思わず糸鋸が首をすくめて手をかざす。
「す、すまねッス、狩魔検事、ゆ、ゆるしてほしいッス!」
──バシンッ!
糸鋸はかざした右手に鞭をもろにくらってしまい、裂けた皮膚からじわじわと血がにじんだ。
「これだけ罰を与えられて、よくも毎度毎度同じようなミスができるわね!
 何年ニンゲンをやってるつもり?!」
糸鋸は冥に気づかれないようにその手をコートのポケットにしまった。握り締めた手の中で、
流れた血がねとねと粘つく。そんなことなど冥はもちろん気づかない。
「私が‥私が‥法廷で‥許さない‥、許さないわ!成歩堂龍一!」
怒りのせいで頬を紅潮させ息も荒く、さらに何度も糸鋸を打ち据える。
──バシンッ!バシンッ!バシンッ!‥‥
糸鋸は黙って鞭を受けていたが、
(あ‥、マズイッス‥)
ズボンの中で性器が半勃ち状態になったのを感じて、糸鋸は焦りだした。
自分に被虐趣味があるとはそれまで思ってもみなかったが、毎日夜遅くまで鞭に
よる折檻を受けて、興奮してしまうのは紛れもない事実だった。
おまけに冥は若く魅力的だ。整った顔立ちも、凛とした態度も、そして法廷を
離れてじっくり見ると驚くほど小さい身体も、なにもかもいけない。
もちろん冥に毛ほども気づかれるわけにはいかない。
「か、狩魔検事、もう許してほしいッス!帰らせてほしいッス!」
糸鋸が懇願する。言いながら、コートのポケットに入れたままの手を移動させ、
コートで股間をさりげなく隠した。
「なぜ?!バカな失敗をするバカがこれ以上バカなことをしでかさないように
罰を与えているのよっ! 逃げるなんて許さないわ!!」
冥からキツイ目でにらみ返される。それがさらに糸鋸をあおった。

「も、もう限界ッス!失礼させてもらうッス!」
冥にかまわず部屋から出て行こうと背を向けた。その瞬間、
──バシンッ!
最も強烈な一撃を浴びた。
右肩から左の腰にかけて一直線に燃えるような激痛が走り、糸鋸は思わず
膝を折って床に手をついた。痛みと興奮した体の熱を逃がそうと二度大きく
息をつく。
冥はわざとカツカツと靴音を立て、うずくまる糸鋸の前にゆっくりと向き直った。
涙でにじんだ糸鋸の目に冥の靴が映る。服と同じで奇妙な靴だと糸鋸は思い、
その靴から続く足首を小枝みたいに細いと思った。
見上げると、氷のように酷薄な目をした冥と目が合った。糸鋸の背筋を何かが
ぞくぞくと駆け上がった。
冥は鞭の柄で糸鋸の頭をこづきまわした。
「まだ話は終わってないのよ。さあ‥」
立ち上がりなさいと、仕草で命令する。しかし糸鋸は立ち上がれず、それを見て
取った冥は鞭の柄を逆手に持ち替え、柄の底で糸鋸のこめかみを強く叩いた。痛
みで朦朧となっていた糸鋸はあっさりと横倒しに倒れてしまった。力がぬけて
ぐったりと床に転がる。

「‥そうね、なぜそんなに帰りたいのか、理由を示す証拠を見せてもらおうか
しら。そうしたら、 帰してあげるわ。」
(この場を逃げ出したいと思ってるんでしょうけど、そうはいかないわ。)
冥の言葉は、見せられるわけがないという嘲りを含んでいた。
糸鋸は意を決した。自分を抑え切れなくなっては冥にとんでもないことをし
てしまう。その前に、たとえ軽蔑されようと、なんとしてもこの場を離れた
いと思ったからだ。
「証拠‥証拠は‥‥これッス‥」
コートで隠していた股間を冥に示した。性器がズボンの下で生地を突き破り
そうなほど盛り上がっていた。

「バ‥バカはバカでバ、バカなことしか考えられないバカのようね!」
ズボンの上からでもわかるほど大きい盛り上がりを見た瞬間、冥ははじかれる
ように後ずさり、背中がドアにぶつかった。冥は強気に罵ったが声は明らかに
うわずっていた。鞭を持った手で口元を覆い、糸鋸の股間を信じられない
物を見るような目で直視している。
「バカがバカみたいに興奮して‥」
なおもののしる冥に糸鋸は腹が立った。「早く出て行け」と言ってくれれば、
すぐにドアから退いてくれれば、自分はこの部屋から離れられ、そして、それ
で済む話なのだ。なのに、冥はドアの前ででくのように突っ立っている。

うろたえる冥、頬を上気させた冥、床に伏せた糸鋸の目にちらつく細い冥の足首、
そこからなめらかで美しい曲線を描いて登る細い足‥。
それらが糸鋸の目に凶暴な光を宿らせ、視線を合わせた冥は焦った。
冥の行動は素早かった。ごく最近まで凶悪犯ばかりのアメリカで検事として働い
てきたのだ。冥は反射的に手錠を取り出した。そして、背中の痛みで満足に動け
ない糸鋸の両腕を後ろ手に締め上げ、そのまま手錠をかけてしまった。
「ひ、ひどいッス‥」
糸鋸は床に横倒しになったまま呻いた。性器がズボンの中ではますます大きくなり
痛いほど窮屈になって、無駄なことではあったが、なんとか股間を押さえつける
生地に余裕を作ろうと、身体をふたつに折り曲げた。
冥は胸に手を当てて、ドクドク鳴る心臓と弾む呼吸を整えた。
横たわる糸鋸の巨体は動けなくなった大型の獣を思わせた。
糸鋸の目に野性的な光を見た刹那、冥の中で嫌悪とは別の感情が激しく生まれた。
冥は沸き起こる衝動と自分の行動が信じられなかった。
最終更新:2006年12月13日 08:34