キリオ×御剣

室内に備え付けられているベッドがまるで自らの品質を現すかのように
ギシギシと軽く、堅い音を部屋に響かせる。
決して居心地のいいとは思えないそのベッドの上で
しきりに身体を縦横させているのは、ロープで両手を後ろ手に縛られ、
両足首をくくられて、ナプキンの猿轡に顔をしかめる下着姿の男だった。
正常な健康状態ならば美形と言えるその顔も、
今は極度の疲労からかかなり憔悴して見える。
彼の身体を気遣ってか部屋は暖房で適温に暖められており、
冬の訪れを感じさせるこの季節に寒さを感じずにいられることは
男にとって幸せなことだったに違いない。

カチャ…。
控えめにドアが開かれると同時に、小柄な女性が部屋に入ってくる。
女性は辺りを注意深く目視した後、ドアのカギをかけて
男のいるベッドルームへと足を踏み入れた。

「さすがにお疲れの様子ですね…」
「……」
「ちょっと待って下さい。口のもの、外してあげますから」
そう言って女性は男の唾液で濡れた猿轡代わりのナプキンを解いた。
腹に力を入れて大きく息を吸いこんでから、男は改めて女性を見る。
「そんなにこわい顔をしないでください」
「なら早く拘束を解くことだ。そうすれば私は君をこんな目で見なくて済む」
苛立ちと怒りを含んだ低い声で、男は女性に言い捨てる。
かなりやつれているものの、仕事柄彼が持つ独特の雰囲気は
道行く人などと比べてもそれなりに凄みを感じさせるものだったが、
女性はそんな男の脅迫がかった言葉にも大した動揺を見せることはなかった。
「それはできないといったはずです。
 明日になれば外しますから、今晩だけ我慢してください」
手に持ったナプキンを小さく折りたたみ、備え付けのテーブルの上に置いてから、
女性は抑揚のない口調で男にそう告げた。

「明日……」
「そう、明日です。朝一番の便で着くはずですので」
「……メイか」
久方ぶりに口にするその名前は、男にどこか懐かしい感じを思い出させた。
「ええ。明日は本部の方へ顔を出すだけでいいそうで、
 すぐこちらへ向かうと」
そこで女性は初めて真っ白な歯を見せて笑った。
「冥さまは、あなたと会うのをとても楽しみにしてましたよ」
「(冥さま、か)」
昨日から彼女が度々口にするその呼び名に違和感を感じずにはいられなかったが、
逆にその呼び方で目の前の女性の位置付けをはっきりと理解することができたのも
また事実だった。
「それまでは御剣さん、あなたのお世話は私がしますので」
「華宮霧緒……君の病気はまだ続いているようだな」
『華宮霧緒』。そう呼ばれた女性が、男の言葉に眉をしかめる。

怪訝な表情を見せた彼女になおも男は続けた。
「留置所を出る日に会った君は、もう”病気”に悩まされることはないように見えたが…」
「でもあなたもわかっているはず。私の今の生活、御剣さんには簡単に推測できるでしょう?」
自嘲気味に笑う霧緒を男――御剣――はじっと見つめ、
頭の中にある疑問を凍解しようと話し始めた。
「君は……あれからメイと交流を持っていたそうだな」
「ええ。いろいろと相談に乗ってもらいました。
 冥さまは事あるごとに親身になってわたしにアドバイスしてくれたんです」
「君達の距離が縮まるのは必然だったという訳か……」
霧緒は部屋の中のさして大きくない窓際に移動し、外の景色に目を向けた。
以前なら自分の問題を口にされると取り乱したりもしたが、
今の彼女はとても落ち着いた様子で夜景を見ることができている。
「そうです。冥さまは私を受け入れてくれました。
 人に寄りかかる心地良さを知ってしまった私に、
 もう一度1人で歩き出す勇気なんてなかった……」
「それで私を拘束するよう命令されて従ったのか?」
「……いいえ。冥さまの希望を叶えるために私が独断で行いました」
意図しなかった答えを口にした霧緒を御剣が訝しげに見る。
「メイの希望だと……?」
「『御剣に会いたいので彼の居場所を把握しておくように』と。
 これは私なりに考えた上での行動です…」
静かに語る霧緒とは裏腹に、御剣の語調は驚愕と怒りを滲ませたものへと変わる。
「馬鹿な! たったそれだけの用事ならば口頭で伝えれば済むだろう!」
「……冥さまがあなたに会いたい理由を知ったら、
 御剣さんはきっとあの方を避けていたと思います……」
霧緒はその言葉を苦しそうな、悲しそうな、複雑な表情で吐き出した。
今まで見せなかったその表情に、御剣も違和感を抱く。
「私に会いたい理由……? それは一体何だというのだ?」
「それは私の口から言うことではありません。でも、きっと冥さまは、御剣さんに…」
霧緒とは違って、冥は父・狩魔 豪から無事に巣立つことができたという噂を
御剣は耳にしていた。
その冥が日本へ帰ってくる……ここで受けた様々なショックから
いくらか立ち直れたということだろうか。

彼女の顔は長らく見ていないが、何か心境の変化があったのだろうか……
それを知っているのは今目の前にいる華宮 霧緒だけなのかも知れない。
「ふふふ……冥さまのことを考えているんですね。
 やっぱり御剣さんも、冥さまのことが…」
「メイのことが……何だ?」
霧緒はそこまで言ってハッとした表情を浮かべ、そこでキュッと口を結んでしまった。
そのまま無言でゆっくりと御剣に近づき、彼のいるベッドへ上がる。
御剣は彼女の瞳の中に淫靡な灯を見つけ、思わず身体を硬直させた。
「お、おい……?」
「お話はそろそろお開きにしましょう。
 明日は早いですから、御剣さんにはもうそろそろ休んでもらいます。
 目が冴えているようなら昨日と同じようにお世話させていただきますが?」
霧緒は小さな眼を細めて、御剣に妖しい笑顔を見せる。
「……!」
「そうですね……。やはり御剣さんには気持ち良く休んでいただきたいので、
 私では役不足かもしれませんが精一杯ご奉仕させていただきます」
「い、いや、待て……!」
拘束されているため大きな動きをとれない御剣に生温かい息をフッと吹きかけてから、
霧緒は彼が身につけていた下着を脱がしにかかった。

膝を曲げて局部を隠そうと努める御剣の股間に顔を近づけて、
霧緒はまださほど元気のない彼のモノを手でそっと握る。
「昨日も拝見させていただきましたが、立派ですね……。
 ハンサムな上にこんなものまで持ち合わせているなんて、
 神様は不公平ですね……うふふっ…」
「く、ぉっ……!」
亀頭の裏筋、カリの部分を指先で弄られ、御剣がくぐもった声を漏らした。
蓄積した疲労が身体を重く感じさせるが、そんな状態であっても
局部への刺激は昨夜と同じ、いやそれ以上の快感を御剣の脳内へ刻み込んだ。
「昨日の匂いがまだ残ってますね……私と御剣さんの、イヤらしい匂いがします」
「うぉッ!?」
「冥さまと会う前に一度身体を拭いておいた方がいいですね」
「よ、よせ……っ!」
御剣の動揺する様を楽しみながら、
霧緒は目の前の肉棒にさまざまな方法で刺激を送りこんでいた。
霧緒の指が艶かしく動く度に肉棒は卑猥に膨張していき、
御剣の呼吸を早く激しいものへと変えていく。
「ふふ……相変わらず御剣さんはいい反応をしてくれますね。
 今までの私の相手はこんなに敏感じゃなかったのに」
苦悶の表情を浮かべる御剣に霧緒は楽しげにそう問いかけてから、
先ほどからビクビクと脈打って止まない肉棒の亀頭へ舌を近づける。
唾液でヌラヌラと光るその舌が自分のモノに迫る様を見せつけられ、
御剣は寒気に似た快感が背筋に走るのを感じた。
知的な雰囲気を漂わせている霧緒の見せる淫猥な表情が、
御剣の"男”の本能を芯からくすぐる。
「はむぅ……」
甘い息を混じらせて、霧緒の薄い桃色の唇が肉棒を飲みこんでいく。
彼女の小さな口には肥大したモノを全て包み込めるほどのキャパシティはなく、
血管を浮き立たせたままの竿の部分、その途中で霧緒の口は進行を止めた。
「んぐっ、んぐっ、んぐっ」
「う……むッ!」
口内の粘膜と動きまわる舌の感触に、御剣はただ呻くしかできなかった。
頭の中で彼女の行為を否定しようとも、自分の身体が悦んでいるということは
最早隠しようのない事実だったのだ。
その証拠に、
「んはッ……は、ふふ、ふふふっ、御剣さん…すごいお汁の量ですね。
 トロトロしたのが私の口の中にどんどん流れ込んできます……んむっ」
霧緒の喉に、我慢できずに漏れ出した先走りの液体が吸いこまれていく。
細い喉を嬉しそうにゴクゴクと鳴らしてから再び肉棒を咥えこみ、
霧緒は亀頭を上下の唇で捕まえて、頬をすぼまえてそれを吸い上げた。
「くおッ!?」
「ずず、ぶちゅ、ちゅぼっ、ちゅぼっ、んん、ちろちろちろっ」
舌先でカリをくすぐられ、怒張し切った肉棒にくすぐったい感覚と
こらえきれない射精感がせり上がってくる。
「だ、駄目……だ……」
御剣はそう小さく呻いて、霧緒の口の中へ欲望を勢いよく発射した。
「っ!……んむ、ふむ、んんぐ、ごくっ」

いきなり発射されたにも関らず、霧緒は少し驚いた程度で
口内に大量に吐き出された精液の固まりを丁寧に飲みこんでいった。
「……っ、ふぅ。まだこんなに出せるなんて男性の回復力というのは驚きに値しますね。
 それとも御剣さんだけ特別なのかしら…?」
「くっ……も、もう充分だ。下着を返してくれ」
屈辱に染まる御剣の顔を見ながら霧緒は数刻何かを考えこんだ後、
御剣の足枷となっていたロープを解いた。
何をされているのか、何をされるのかが読めなくて、御剣はただ黙って
彼女の動向に注目している。
「御剣さんは質・量ともに素晴らしいですが、耐久力に難がありますね。
 こんなに早く果ててしまったら、冥さまもガッカリされると思います」
「メイだと? 何故メイがここで出てくる?」
思わぬ名前が出てきたところで御剣はやや強い語調で問いかけた。
相手を威圧するような彼の雰囲気をさして気にすることもなく、
霧緒は御剣にのしかかるようにそのままベッドへ押し倒した。

「決まってます。明日の夜、こうしてあなたと寝ているのは
 冥さまかも知れないということです」
「わ、私とメイはそんな関係では…」
「明日、そんな関係になるかも知れないでしょう?いえ、きっとそうなるでしょう。
 そのために冥さまは日本へ帰ってくるのですから」
「……何だと?」
霧緒の言葉の意味が瞬時に理解できず、御剣は彼女に怪訝な表情を返す。
自分の置かれている状況より話の内容に興味を持つ彼がおかしいのか、
霧緒はフッと笑ってから自分の上着を脱ぎ捨てた。
「冥さまが楽しい時間を過ごせるように、御剣さんには
 もう少しお付き合いしていただきます…」
「ど、どういうことだっ?」
たじろぐ御剣を他所に、霧緒は彼に馬乗りしたまま器用にズボンを脱ぎ捨てると
その真下にある厚い胸板に掌をついて感触を確かめるように優しくさすり出した。
「念の為に、より消耗していただこうかと。今溜まっている精液を全て放出しておけば、
 もし明日冥さまと行為に及んだとしても少しは持つでしょう……
 あの方はハードですから、御剣さんの耐久力では3分と持たないと思います」
「………」

御剣は絶句した。
彼女の言う光景が想像できなくて、頭の中が混乱し始める。
霧緒の身につけているピンクのショーツが露わになっても、
彼の頭の中は冥のことで支配されていた。
「あなたは冥さまのもう一つの顔を知らないのですね……
 あの方は私ほど優しく接してはくれないかも知れません」
「メイのもう一つの顔……?」
御剣に顔を近づけて、霧緒は妖しく笑う。
萎え始めていた肉棒をぎゅっと握り、激しく上下に擦り始める。
「うっ…!」
「それは明日のお楽しみにとっておきましょう。
 今は精を吐き出すことだけを考えてください……」
再び硬さを取り戻しつつあったそれを、霧緒は下着をずらして自らの秘裂の入り口へ導く。
生温かい肉の感触にモノを包まれた御剣と同時に、異物を体内へ受け入れた霧緒は
甘い声を上げた。
「はぁん……っ!」

官能を示す彼女の喘ぎが御剣の身体を震わせる。
霧緒の声はそれだけで男に甘い刺激を与えられるほど、艶かしく魅力的だったのだ。
「き、君はどれだけ私を辱めれば気が済むのだ……っ?」
「今だけ……今だけ、です。明日からは私に代わって冥さまがあなたを
 可愛がってくれます。だから今日だけ、私に御剣さんの恥ずかしい姿を
 見せてください……っ」
硬さを取り戻しつつあったとは言えまだ完全な状態ではなかった御剣のモノを
霧緒は膣内で扱き出した。
手や口とは違う、絡みつくような感触がモノを奮い立たせていく状況に、
御剣には最早抵抗を試みようとする意志はなかった。
「大きく……なってきました……っ、御剣さん……?動きますね……」
「あぁ……好きにしてくれ」
いきり立つ肉棒を緩和するために分泌され出した霧緒の愛液が
御剣のモノと絡まり、ぬちゃぬちゃと卑猥な音を響かせる。
霧緒が腰を揺らす度に肉棒が膣内で暴れ、彼女に性的な刺激を送る。
「あぁぅ……素敵です……御剣さん、私が、男の人で……
 ……感じるなんて、うぅ、久しぶり……っ」

快楽を欲しがる身体の欲求に背くことなく、霧緒は腰の動きを大きくさせていく。
小振りの尻が御剣の腰に押しつけられ、その柔かい感触が彼のモノをより肥大させる。
求めずとも与えられる彼女からの快感に、御剣は先ほどの吐き捨てたくなる衝動が
腰の奥から再び上がってくるのを感じずにはいられなかった。
「御剣さぁん……どうですか? 気持ちいいですかっ……!?」
「ああ……認めたくないが君の中は最高だ」
「ふふ……うふふふっ、クールな答え、ですね……っ」
霧緒は上半身を御剣の胸に密着させ、彼の熱を直接感じようとした。
興奮をあまり顔に出さない御剣でも、火照る身体は抑えきれていなかった。
「はぁっ、はぁっ、はぁんッ……私、いい……私、感じてるっ……?」
自らも快楽の虜になり始めていることに気づいた霧緒の腰に、
御剣の腰が突き上げられる。
絶頂の時が近いのか、御剣が苦悶の表情で小刻みに腰を打ち出した。
「はいッ、ううぅ! ああ、あぁっ!! あくっ、く、くるぅっ……!」
ふいを突かれた霧緒の中にあった防波堤を超えて、大きな快楽の波が押し寄せてくる。

急な流れはせき止めることができず、
コントロールを乱された波はその主に襲いかかった。
「いッ、あっ、あ! ッ………くぅっ、来るっ、来るぅっ!!」
「うっ、ム……!」
どくッ!どくっ……どくっ……どく……
締めつける膣内に逆らうことなく、御剣は射精した。
熱い液体を体内で受けとめながら、
霧緒はしばし恍惚とした表情で荒い息を続けていた。
一時の余韻を楽しんだ後、霧緒は先ほどまでの艶やかな表情から一転、
もちろん彼の下半身を隠す下着を履かせてから、
いつもの済ました顔で御剣の足をロープ縛り出した。
「もうこんなことをする必要もないと思いますが……念の為、ですので理解して下さい。
 冥さまはあなたに会うのを楽しみにしています」
「わかっている。ここまでされて会わない訳にいかないだろう…」
霧緒はそんな御剣の言葉に眉を上げて笑顔をつくると、
落ちていたズボンを汚れてしまったショーツの上から強引に履き上げた。
その感触に顔をしかめるものの、下着を着けずに部屋を出たりまた
下着姿で部屋を出るよりはマシだと判断したのだろう。

「明日は8時起床でお願いします。その時に身体を拭く用意をしておきましょう」
「……」
黙々と語る霧緒に、御剣は黙って目をやった。
それを了解の意と捉えたのか、霧緒は満足そうに息を軽く吐いてドアのノブを回す。
「では、おやすみなさい」
「………」
パタン。
彼女が部屋へ来る前と同じ格好で、御剣は部屋の天井を見上げた。
虚脱感が身体全体を覆い、ゆっくりと睡魔が顔を覗かせる。
このまま眠るのも悪くない……そう感じた御剣は静かに目を閉じた。
「(メイ…おまえはどのように変わったのか……明日会うのが楽しみであり、恐くもある…)」
薄れゆく意識の中で、御剣は銀髪の女と初めて出会った時の懐かしい夢を見る…。


                完
最終更新:2006年12月13日 08:38