成歩堂×真宵②

綾里家のインターホンが鳴った。
久しぶりの我が家で、風呂も済ませパジャマに着替えて使い慣れた布団にくるまって眠りに落ちようとしていた真宵は少々不機嫌に身を起こした。
春美は隣でぐっすり眠ったままだ。真宵は出来るだけ音を立てないように寝室を出た。
(誰だろうな、こんな時間に)
ペタペタと玄関まで歩きながら考えてみる。
(あたしが戻ってきたことを聞いて、近所の人が様子を見にきたのかな?)
しかし、誘拐されていたことを知っているのは関係者だけではなかったか。
心当たりが見つからないままとりあえず戸を開けると、そこには成歩堂が立っていた。
「なるほどくんっ、帰ったんじゃなかったの?」
真宵は驚いて声を上げた。今日は王都楼の裁判のあとみんなでディナーをして、成歩堂は真宵と春美をここまで送ってから自宅に戻ったはずなのだ。
「それが、電車がもう無かったんだよ」
「ええっ?それじゃ帰れないの?」
「そうなんだよな…」
 頭を掻いて苦笑する成歩堂に真宵はくすっと笑ってしまった。
 法廷では頼りになる成歩堂だが、たまに抜けているところがあって、そこが可愛いと真宵は思っていた。
「しょうがないな。泊まっていきなよ」
「あたしとはみちゃんだけじゃ心配だからって送ったのに、なるほどくんが帰れなくなるなんてねえ」
「うっ…」
 テーブルに肘をついてお茶を飲みながら言うと、痛いところを突かれてネクタイを緩めていた成歩堂の手が止まった。
 案内したのは春美が寝ている寝室の隣の部屋だ。畳が敷き詰められていて、正方形の小さなテーブルがひとつ。来客用の布団はさっき真宵が押入から引っぱり出したものだ。
「はみちゃんを連れて家に帰る事ぐらい、あたし一人でも出来るのに」
「そりゃそうかも知れないけど」
 ジャケットを脱いでネクタイを解いた成歩堂は、真宵の対面の座布団に座ってテーブルに置いてあった湯飲みにお茶を入れながら続けた。
「誘拐なんて事があった後だから、どうしても心配だったんだよ」
「なるほどくんの心配ぶりはディナーの時に聞いたよ。あたしが誘拐されてた時にどれだけ心配したか、すごく語ってたもんね」
「…僕そんな事そんなに喋ったっけ…?」
 今夜のディナーにはお酒もあった。成歩堂の酔った勢いによるものだろう致命的な一言を真宵は記憶していた。
「”真宵ちゃんがどれだけ大事な人かわかった”なんて言われたとき、あたしびっくりしたんだから」
 いたずらっぽい顔を投げかけて暴露する真宵に成歩堂は吹き出しそうになった。お茶が気管に入ってひとしきりむせた後、”そんな事言った気もするな”と赤面して呻いた。
 真宵は湯飲みの中のお茶を眺めながら気になっていたことを聞いてみた。
「あれって、出任せだったの?」
「いや、本心だよ」
 顔は動かさないまま上目遣いで対面の成歩堂を見た。成歩堂は赤くなってはいるが真面目な面もちだった。
「本当に?」
「うん」
成歩堂は真宵の目を見つめて続けた。
「今回の事件で、真宵ちゃんが僕にとってどれだけ大事な人かよくわかったよ」
「そ、そんなこと言われると照れるなぁ」
 目を伏せて、笑ってごまかす真宵に成歩堂は告白した。
「僕は真宵ちゃんが好きだ」
しばしの沈黙のあと、成歩堂がそっと手を重ねてきた。成歩堂が自分の返事を待っているのだと真宵は気が付いた。
「あたしも好き…」
真宵はぽつりと呟いた。

「真宵ちゃん」
 頬を撫でられる感触に真宵は顔を上げた。成歩堂はテーブルに片手をついてこっちに身を乗り出している。
「なるほどくん…」
 頬に添えられた手に促されて自分も身を乗り出すと、成歩堂の顔が近づいてきて、真宵は目を閉じた。
 唇が重なって心臓の鼓動が跳ね上がった。成歩堂と触れている唇と頬が熱い。自分の身体が火照ってくるのがわかった。
 成歩堂の唇が動いたかと思うと、柔らかい物が薄く開いた自分の口の中に入ってきて真宵は身体を小さく震わせた。舌を絡め取られ、歯をなぞられ、口の中を探られる。
一気に頭が痺れて、真宵は何も考えられなくなった。
 唇が離れて、真宵はぺたんと座り込んだ。うまく力を入れられない。初めて男に求められた感触の余韻に真宵は我知らず熱い吐息を漏らした。
 成歩堂は真宵の横で膝をつくと彼女を抱え上げた。成歩堂が軽々と真宵を運ぶ。
 正直、真宵は少々状況について行けていなかった。
成歩堂を家に上げたとき、久しぶりにふたりっきりになれるのは嬉しい(裁判所で再会してから、ふたりっきりになれる状況は今までなかったのだ)し、何かのきっかけでいい雰囲気になるといいなあ、などとは思っていたが、まさか一気にここまで進むとは考えてもみなかった。
この後されるであろう行為を想像して、真宵は緊張してしまった。
「なるほどくん、まだ酔ってるんじゃないよね?」
「もう何時間も経ってるからね。アルコールは抜けてるよ」
 布団に真宵の身体を横たえて成歩堂は聞き返した。
「これ以上続けるのは嫌?」
 成歩堂が相手なら嫌じゃない、と真宵は静かに首を横に振った。それを見て成歩堂はまたキスをした。

 胸のふくらみに添えられた成歩堂の手がそっと動き始めると真宵は目を閉じた。初めはただ恥ずかしいだけだったが、すぐに妙な感覚を覚えるようになった。
成歩堂に触られている部分が暖かい。そこから全身へ、ぴりっと電気のようなものが伝わっていく。ずっと感じていたいような、心地良い感覚。
 と、その感覚が途絶えた。かわりに真宵の胸元で何かしている気配がある。それがだんだん下に移っていって、パジャマのボタンを外しているのだと真宵は感づいた。
「身体、起こしてくれるかな?寝たままだと脱がせられないんだ」
「あっ、そうだね…」
 言われて身体を起こした。やはりパジャマははだけていて、あられもない姿になっている。真宵は胸を隠したくなるのをこらえた。
されるがままに着ているものを脱がされて、真宵の身体を隠すのはショーツだけになる。
 成歩堂はシャツを脱ぐとキスをしながら真宵をゆっくり押し倒した。

真宵は夢見心地だった。素肌同士が当たる感触が心地良い。
成歩堂の手が触れるか触れないかくらいで真宵の首筋や胸、背中、腰、お尻、太ももを行き来すると、真宵はどこかくすぐったいような、甘い刺激が全身に広がってくのを感じた。
むずむずするような感覚があそこに蓄積されていくのも。
「なるほどくん…」
 呟いた声がとても熱く、扇情的である事に気が付いて、真宵は驚いた。自分がこんな声を出せるなんて。
 成歩堂の顔が胸に埋まったかと思うと、強い刺激が走ってびくりと身体が震えた。出かかった声をすんでの所で止める(ふすま一枚隔てた部屋で春美が寝ているのだ)。
胸のふくらみの先端を、吸われたり、舐め上げられたりする度に快感が走った。真宵は成歩堂の頭をぎゅっと掴んで声を必死で押し殺した。
「真宵ちゃん、声を出してもいいよ」
 成歩堂の囁きは真宵にとってとても甘美な誘惑だったが、ヘンな声を出すわけにはいかない。
「駄目だよ…隣ではみちゃんが寝てるんだし…」
「えっ…そうなの?」
 成歩堂は上体を起こすと、寝室に続いているふすまを見て小声で問いただした。
「あたし声我慢するから…」
 中断の気配に喪失感を覚えて思わず口にした。ここまでしたのなら、最後までして欲しいと真宵は思った。
「だから…」
「わかった」
 成歩堂は真宵を抱きしめて耳元でそっと囁いた。同時に、太ももに強張りを押しつける。真宵はその生々しい感触に息を飲んだ。
 さっきからずっとあそこが疼いている。たぶん濡れてしまっているだろうと真宵は認めた。濡れていることがばれたくない、という気持ちと、あそこを弄ってこの疼きをどうにかしたい、という気持ちが交錯していた。
だから、成歩堂の指が太ももの内側をゆっくり這い上がってきてショーツの中心に添えられた時は、どうしていいのかわからなくなった。
 成歩堂の指が下着越しに割れ目に沿って動いた。その刺激を受けてひだが動いたかと思うと、中に溜まっていた液体が溢れてショーツの染みを広げたのを真宵は自覚した。
触っていた成歩堂もそれに気づいただろう。あまりの恥ずかしさに真宵は両手で顔を隠した。
「電気消して…」
 真宵の懇願を聞いて、成歩堂は部屋の明かりを消した。

 障子越しに月明かりが入ってきて部屋の様子を微かに照らしている。成歩堂は真宵のショーツを引き下ろすと、裸になって覆い被さった。
 成歩堂に身体のあちこちをついばまれて真宵は身をよじらせた。布団が圧迫される音、身体が擦れ合う音と、はぁ、と熱い息が喉から漏れるのが聞こえる。
視覚がほとんど意味を無くした代わりに音に敏感になった気がした。
 真宵の首筋を吸ったまま、成歩堂の手が肩から胸、腰、下腹部へと下がってくる。
手は入り口の周りの毛をしばらく愉しんでから、割れ目を押し広げてその中に指を進入させた。真宵の内部を指がゆっくりと探って後、絡みついた粘液を性器全体に塗り広げるように、ひだとその上端の突起を動き回っては、また中をかき混ぜる。
じんじん疼いていたものがはっきりと快感に変わっていく。特に、敏感な突起を擦られるとその刺激に腰が跳ねてしまい、真宵は堪えきれずにくぐもった声を漏らした。
 真宵が眉をひそめて目を瞑って指に耐えていると、成歩堂は耳に口を近づけて羞恥を煽る言葉を囁きかけてきた。思考が消し飛んで、恥ずかしい声が出そうになる。
「…もう、やめて…声、出ちゃう…」
「出るって、どんな声が?」
 指の悪戯を続けたままからかうように聞き返す成歩堂に、真宵ははっとした。
(遊ばれてる…!)
 そう思った瞬間、真宵の背筋に衝撃が走って何も考えられなくなった。
「あぁっ…」
 必死で抑えていた声が溢れ出した。
「あぁんっ……はぁ……」
 喘ぎ声を上げ始めたのを見て成歩堂は慌てて指を性器から離すと、真宵の呼吸が収まっていくのを待った。
「ひどいよ…やめてって言ったのに…」
「ご、ごめん…あんまり可愛かったから、つい…」
 あんなに乱れたところを見せた後に”可愛い”と言われるのは釈然としないものがあったが、成歩堂を激しく興奮させたのは確かなようだ。
太ももに当たっている成歩堂の性器がすごく大きく固くなっていて、時折震えながら粘液を吐き出していた。
「真宵ちゃん、いい?」
「うん…」
 成歩堂は真宵の足を割って身体を滑り込ませた。

 真宵の入り口にあてがわれた成歩堂のものがゆっくりと進み始めた。
「うっ…」
 狭いところを無理矢理押し広げられる。痛くて、真宵は思わず成歩堂の背中に回した手に力を入れた。
「大丈夫?」
「大、丈夫…続けて…」
 真宵は成歩堂にしがみついて、目をぎゅっと閉じて唇を噛み締めて激痛に耐えた。涙が浮かんで、脂汗が吹き出る。奥に達して成歩堂が止まると、痛みが和らいで真宵は息をついた。
 すると、成歩堂がのしかかってきた。強く抱きしめられて、ふたりの身体がひとつになったような感覚に陥る。
「痛くない…?」
「ん、ちょっとね…」
「動くけど、大丈夫かな?」
「うん…大丈夫…」
 言葉を聞いて成歩堂はゆっくり動き始めた。濡れているはずだったが、やはり痛い。
成歩堂の性器が中を前後する度に内側が擦られて痛みが真宵を襲った。入ってきたときよりも大きくなっているんじゃないかとさえ思えた。
「くぅ…」
 成歩堂の動きが大きくなってきて、痛みも増してくる。身体の中をかき回される激痛にまた涙が滲んだ。
「真宵ちゃん…」
 耳元で囁いた成歩堂の息が荒くなっていた。密着していた身体が少し離れて腰の動きが速まる。成歩堂が自分の身体で気持ち良くなっているのだとわかって、真宵は嬉しくなった。
「なる、ほど、くん…」
 だんだん抽送が激しくなってきている。真宵は痛みに耐えながら名前を絞り出した。
 成歩堂の呼吸が一気に荒くなったかと思うと、腰の動きが小刻みになった。一番奥に思いっきり突き込んで成歩堂の身体が強ばる。小さな呻きとともに、真宵の中で何度も脈打った。
 力を抜いて身体を預けてきた成歩堂を抱きしめながら、真宵はお腹の中に熱いものが広がっていくのを感じた。

 ふたりは布団の上に寝たまま余韻を味わっていた。
 成歩堂は横向きに頬杖を突いて、もう片方の手で漫然と真宵の髪を触っている。
 真宵は何とも言えない満足感に浸って気怠げに天井を眺めていた。あそこの中はまだじんじん痛んでいたが。
「まさかこんな事になるなんてねえ」
 真宵がぽつりと呟いた。
「もしかして後悔してる?」
「ううん。してないよ」
 成歩堂がほっと息をつくのが聞こえて真宵は可笑しくなった。
「あたしたち、これからどうしよっか?」
「真宵ちゃんはどうしたい?」
「…なるほどくんと付き合っていきたいな」
「僕もだよ。真宵ちゃんと一緒にいたい」
 成歩堂が手を握ってきた。微笑んで真宵も握り返す。
「汗かいたし、お風呂入ろうか」
 ”一緒に”という意味だろう。
 真宵は照れくさそうに笑って頷いた。

 (おわり)
最終更新:2006年12月12日 21:26