From Northern Home '09
帆走練習
最終更新:
hokkaidosp
北大では「帆走練習」と呼んでいますが、
スピードを高める練習のことです。
スピード練習と呼ぶのが一般的でしょうか。
新人スキッパーのトレーニング
このスピード練習をするときに、まず考えなければならないのは、
スピードをどう評価するか?ということです。
自分が起こしたアクション(コントロールロープをいじった、船底を磨いた、ブローを起こしたなど全て)が艇のスピードにどのような影響をおよぼしたのか?
単純に言ったら、速くなったのか?遅くなったのか?
そこを正しく評価しないことには、スピード練習を行う意味はありません。
スピードを上げるためには、色々と試してみて自分のとったアクションが正しかったのか正しくなかったのかを評価して、正しいものを積み上げていく必要があります。
セッティングに関してはもちろんそうですが、ハンドリングに関しても同様です。
自分の振れやブロー、波の対処が良かったのか、悪かったのか、正しく評価する必要があります。
自動車の場合、改造した車の性能を評価するときや、ドライバーの腕を評価するときに、
時速何km/hというスピードメーターでの評価や、コースを一周したときのタイムなどでも評価することができます。
しかし、セーリングの場合はどうでしょうか?
まずディンギーにはスピードメーターがついておらず、VMGを計算することもできません。
(クルーザーの場合には、このようなメーターが装備されているので、設計されたスピードに対してどれだけ性能を引き出せているか?という見方である程度の評価はできます。)
スピードメーターがついていたところで、毎回のコンディションが違うので、何ktの速度が出ていればOKで何kt出ていないからダメ。とは一概に言えません。
また、コースを一周したときのタイムも同様、コンディションの差が大きく評価になりません。
では、どのようにしてスピード練習の評価を行うのでしょうか?
結論としては、同じ形の船で、同じ風の中、同じ波の中を走り、相対的に評価する。という方法以外ありません。
複数艇で一緒に走って、相手の艇をスピードメーターにするしかないのです。
ウインズという映画を見たことがあるでしょうか。
アメリカがアメリカズカップを失って取り戻そうとする映画ですが、
同型の船を二つ用意して、セーリングチームも二つ用意して競わせながら船やセールのスピードテストをするシーンが出てきます。
アメリカズカップ級の船であっても最終的には実際に並んで走ってみて、相手との差で評価するのが一番良いのです。
他艇をスピードメーターとして使う際、気をつけなければならない事がいくつかあります。
同じ形(クラス)の船を使うことは良いとして、(SNIPEのスピードメータに470を使うとかはやめましょう)
同じ風の中を走るということが重要になります。
一艇だけブローが入っていて伸びているとか、一艇だけ風が振れて角度が違うとか、そういう状況では他艇をスピードメーターには使えません。
そのような状況を減らすため、艇同士の間隔を縮め、近づいた状態で練習しましょう。
また、全艇がフレッシュウィンドの中を走っていなければなりません。
他艇の影響がある艇は風が違うのでメーターとして使えなくなってしまいます。
そして、非常に重要なのが周りを見る事です。
自分のセーリングだけに集中してしまい、周りを見る余裕がない。
初心者にありがちですが、このような練習は極端に効率が悪いです。
メーターを見ないで速くなった遅くなったと言っても何の意味もないのです。
そして、他艇というメーターはしばしば狂うことがあるので、
メーターが正しく働いているのか?ということを常にチェックしていなくてはならないのです。
ブローが近づいてきていないか?風は振れていないか?全艇フレッシュウィンドは確保できているか?
それらのことを常に確認しながら走らなければ、自艇のスピードを評価することはできません。
繰り返しになりますが、同じ風の中を走ること。同じ風の中を走っていることを確認しつづけること。
風の変化で差がついたのなら、風の変化で差がついたときちんと認識できること。
がスピード練習の前堤となります。
練習パートナーを影響位置に置きながら走り続けるのは論外です。
クローズのスピード練習では、パートナーと近くで並びながら平行にクローズを走ります。
まず、練習を始める前に、並び方を決めておきましょう。
図1、図2のような二種類の並び方があります。
艇間隔はスピード練習の目的によって変えると良いでしょう。
それぞれの利点・欠点は徒然の井田さんの記事にも書いてあるので参考にしてください。
そちらを見て各チームで並び方を選択してください。
なんとなく並んで平行に走るのではだめ!!
ここでは、高さを合わせる並び方を使って説明します。
高さを合わせて走り始めた後、二艇の位置関係はそれぞれの艇のボートスピードの差によって変わってゆきます。
バウが出ているか出されているか?
高さが広がっているか?狭まっているか?によってボートスピードの差を評価します。
図は点線の位置で合わせて走り始めた後、赤艇の方が速かった場面です。
(a)、(b)両方の赤艇が、青艇に対して同じだけ勝っています。
この状況を「勝った」「負けた」だけで評価してはいけません。
「バウを出されて負けた」のか、「高さを取られて負けた」のか、
負け方によって青艇が次に修正すべき点が変わってきます。
バウを出されて負けたのなら、何故バウを出されたのか?を考えます。
ブローを起こせているか?上りすぎて止まっていないか?波で叩かれていないか?ウェザーヘルムが強すぎないか?など原因を考えます。
高さを取られて負けたのなら、何故高さを取られたのか?を考えます。
ヒールを起こせていなくて下流れしていないか?ジブの引き量は正しいか?セールが深すぎないか?
そのように原因を考え、ポイントをしぼって自分の走りやセッティングの改善をしていくと良いでしょう。
適当な位置で合わせてしまうと、どっちの艇がどれだけ速かったか、という評価ができなくなってしまいます。
毎回同じ位置から帆走練習を始めることで、より正確にスピードを評価することができます。
風がある程度安定している場合は、同じ高さで合わせて練習した方が、タックしたときに差が分かりやすく、
正確な評価がしやすいと思います。
そして、スピード練習を行う際に非常に重要なことは、相手艇とコミュニケーションを取り合うことです。
どちらかの艇が速い場合は、気をつけているポイントや、セッティングを相手と共有します。
自分が速い理由を内緒にしてはいけません。また、相手が遅い理由が分かったら教えてあげましょう。
そのようにして、パートナーと走り方やセッティングについて互助切磋琢磨していくのがスピード練習です。
ですから、自艇が何かセッティングや走り方を変えた場合も相手艇に伝えましょう。
振れやブローで差がついたのか走り自体で差がついたのかが分からなくなってしまった場合は、パートナーの艇に確認しましょう。
そうしなければ、何故差がついたのかが明確ではなくなってしまいます。
パートナーとの情報共有をスムーズにするために、帆走練習の合間にはミーティングを挟むと効率が良いでしょう。
北大では、帆走練習の間にミーティングを挟むのが慣習になっていますが、
ただの休憩時間であったり、艇内の反省時間として使われてしまっていることがあります。
パートナーとスピードに関する情報を共有するためのミーティングだということを理解しましょう。
クローズホールドのスピード練習を行う場合には、二艇ごとにペアを組んで、そのパートナーと高さを合わせながら練習するのが良いでしょう。
例えば、その日の練習を行う艇数が6艇の場合には、2:2:2の3つのグループに分け、それぞれのグループ内でパートナーと練習しましょう。
6艇全て一列になって練習しようとすると、他艇の影響に入ったり、他艇を影響に入れてしまったりすることが頻繁に起きてしまい、
長い距離を走ることや、同じ相手と何度も合わせることができなくなってしまいます。
それではスピード練習の効率が悪いのです。
二艇ごとにペアを組めば、何度も同じ相手と合わせられるので、スピードの差が明確に分かります。
また、いちいち頻繁に合わせる必要がないので、長い距離スピードを競うことができます。
そして、コミュニケーションをとりあいやすいというのが大きなメリットです。
前述のように、スピード練習ではパートナーとの情報共有が重要になりますが、
艇数が少ないほどコミュニケーションは円滑になるでしょう。
チーム内の艇数が偶数の場合には、ペアを組んで練習しましょう。奇数の場合には、ひとグループが3艇になります。
チーム内に、クローズ角度を頻繁に見失ってしまうレベルの艇がいる場合、
下側に熟練度の高い艇を配置して練習すると良いでしょう。
新人スキッパーも、下艇は意識しやすいため、クローズの角度が分かりやすいと思います。