From Northern Home '09
五原則
最終更新:
hokkaidosp
北大OBの大久保さんがコースの引き方について非常に分かりやすくまとめて下さいました。
それがコースの五原則で、北大では部として取り入れてこの五原則を基本としてコースを引いています。
まず、コースの五原則を勉強して下さい。
コースの五原則 (HPより引用)
- 常にマークを見る
- ロングを走る
- 一つ後ろの艇、一つ前の艇とレースをする
- 艇団から離れない
- 少しでもゲインを得たらミートを見に行く
(プラス1)どうしても片振れになってしまったときにはスターンを通ってでもタックして上に出る
ここでは、初心者のために補足説明を行います。
クローズやランニングでマークに向かうときのスターボードタックとポートタックの比のこと、または比の大きい方のタックのことをロングという。
北大では、スターボードタックとポートタックの比を
現在走っているタック 対 反対のタック
のように表す。(以下、対は:の記号を使う。)例を見てもらえれば分かりやすい。
図1の青艇のような位置から上マークまで到達するのに、長いスターボードタックと、短いポートタックを走らなければならない。
走らなければならない長さの比は、スターボードタック8のポートタック2で、今走っているタックがスターボードタックなので、
図1は『ロングは8:2』、『8:2でスターボードロング』な状況である。
ロングX:Yを表す時に、X+Y=10となるように表現するのが分かりやすい。
単純に自艇の位置によってはロングが生じる。
しかし、仮に自艇が5:5の位置から動かない場合でも、風が振れることによってもロングは生じる。
なぜロングを走るのか?を説明するための準備段階として風の振れによってできるロングについて簡単に説明しておく。
図2は風の振れに対応したロングの変化である。風が黒矢印の方向から吹いているとき、ロングは5:5で、スターボードタックとポートタックの長さは同じである。
ここで、風が右に振れた場合はどうなるだろうか。スターボードタックがリフト、ポートタックがヘッダーになることによって、スターボードロングに変化する。
風が左に振れた場合には逆にポートロングに変化する。
このように、ロングは風の振れによっても生じる。
『右に振れたらスターボードロング・左に振れたらポートロング』
この法則はコースを考える上で色々なところに出てくるので、毎回考えなくても一瞬で出てくるように暗記してしまおう。
ロングで下先行したい理由を理解することができれば、ロングを走るメリットを理解することができる。
簡単のため、2艇で上マークを目指している状況を想定しよう。
2艇の高さはイーブン、ポートタックで走っていて、ロングは8:2である(図3 (a) )。
この2艇の関係がこの後どうなっていくのか。場合分けして考えてみる。
① 風に変化がない場合
2艇の関係は変わらない。イーブンのまま。
②右に振れた場合(図3 (b) )
カバーできる差がつけばカバーして良いし、カバーするにはゲインが足りない場合も、もう一度下受けをすることで、ゲインを確定することができる。
③左に振れた場合(図3 (c) )
赤艇が一時的に勝つ。しかし、赤艇はゲインを確定するすべを持たない。
また、さらにロングがきつくなるため、スターボードタックには残りレグがないのでそのままポートタックで走り続けることしかできない。
残りの長いポートタックを走り続ける間に右に振れた場合には①または②に戻る。
④さらに左に振れた場合
オーバーセールしてしまう。
オーバーセールしてしまうと、いくら高さのゲインがあっても意味がない。
それどころかゲインがあるほど無駄に長い距離を走らなければなくなり、赤艇は勝てなくなってしまう。
以上をまとめると、
程よく左に振れて、そのまま振れ戻らない場合のみ赤艇の勝ち。
それ以外の、右に振れる場合や、左に大きく振れる場合、左に振れても右に振れ戻る場合は青艇の勝ち。となる。
さらに青艇に有利なことは、レグの序盤・中盤で、程よく左に振れてそのまま上マークまで風向に変化がないという状況はまずありえない。
一度左に振れてもその後、右に振れ戻ったり、さらに左に振れる事の方が圧倒的に多い。
このような事からレグの序盤・中盤でロングが存在する場合、下先行している艇の方が圧倒的に有利なのである。
レグの序盤・中盤では
『ロングを下先行している艇は、右に振れても左に振れても勝てる。』
①ロングで下先行するため
ロングを下先行している艇は、右に振れても左に振れても勝てることはすでに説明した。
ロングを走るということは、すなわちロングを下先行することに直結する。
早く走り始めれば走り始めるほどロングを走っていない艇に対して下先行することになる。
ロングを走ればロングを下先行することができる → 右に振れても左に振れても勝てる
②振れタック
なぜロングが生じるのか?で説明したように、ロングは振れによって生じる。
通常のレースでは、上マークは風軸に設定されることが多い。
風軸と上マーク角度がずれている場合もあるが、運営艇ではできるだけ風軸に上マークを設置するよう努力する。
例えばレースの運営艇では、「120°から100°で周期的に風が振れているから、上マーク設置角度は110°にしよう。」となることが多い。
そのように、周期的に風が振れるレースの場合には、ロングを走ることで振れタックをすることができる。
上マーク設置角度とスタート時の風向が同じ場合は、スタート時点でのロングは5:5となる。図 2の黒線の状況である。
風が左に振れているときは、ポートロング(ピンクの長方形)になるので、ポートタックで走る。このときポートはリフトなので、より上マークに近づくタックを走ることになる。
その後、風が右に振れたら今走っているタックとは逆のスターボードタックがロングになるのでそのときはタックをしてスターボードタックで走る。
このときもスターボードタックがリフトなので、より上マークに近づくタックを走ることができる。
リフトを走って、ヘッダーが入ったらタック、新しいリフトを走り、またヘッダーが入ったらタック。これはまさに振れタックである。
このように周期的に風が振れている海面では、ロングを走れば効率的にマークにたどりつくことができる。
③オーバーセールしない
オーバーセールをすると、風の強弱・振れに関係なく、確実に損をしてしまう。
そのため風の傾向に関係なく、避けなければならない状況である。
ロングを先に走ることで、オーバーセールするリスクを格段に減らすことができる。
④コースの選択肢が広がる
ロングを先に走ることで、好きな時にタックをするスペースを残しておくことができる。
さきにロングでないタックを走ってしまった場合は、後々ロングが残り、ひたすら真っ直ぐ走る以外の選択肢がなくなってしまう。
選択肢を残しておけば、次のような場面でより良い選択をすることができる。
・フレのゲインを確定させたい場面
・どちらかの海面にブローが降りてきた場合など、どちらかの有利サイドに寄せなければならない場面
・他艇にカバーされて逃げなければならない場面
・下側から勝負艇や勝負艇団が近づいてきている場面
五原則には弱点があり、五原則をただ盲信するだけでは、片振れの海面で大きく叩いてしまう。
ロングを走ると上記のような利点があるが、ロングにこだわりすぎてしまうと、片振れの海面に対応できない。
ロングを走っていて、リフトが入った場合、ロングがさらにきつくなるので、通常は五原則にしたがいそのまま耐える。
いつかヘッダーが入ってくれることを信じてそのままロングを走ることになる。
周期的に振れる海面や、左右に振れながらどちらかに偏っていくような海面では、ヘッダーが入るので、そのまま走っていればチャンスがあるが、
一方的にどちらかに振れていく場合には、ずっとロング(リフト)を走っていても結局最後に大きなヘッダーのレグが残り、大きな損を走らなければならなくなってしまう。
自分はリフトを走っているから、ロングを走っているから」と思い、そのまま走っている間に、
ヘッダーでもショートでも逆サイドに展開した艇に負けてしまう。
五原則を柱にコースを引いていくには、このような方振れの海面に柔軟に対応する必要がある。
それが大久保さんのまとめているプラス1の部分である。
大久保さんは、スターンを切った2艇に負けたら方振れへの対応をすると書いている。
方振れのときは大逆転を狙わず、負けを確定しても良いから傷が浅いうちに寄せなければならない。
また、ロングを走る利点で右に振れても左に振れてもチャンスがあると説明しているが、
これはあくまでも相手と風速が同じ時を仮定している。
つまり、乗艇位置が異なるようなブロー・ラルが存在する場合には、艇速自体が変わってしまうのでロングを下先行しているからといって勝てるとは限らない。
特に微風では風力の変化に対する艇速差が大きいので(極端には止まっている艇と動いている艇、という状況があり得る)、ロングを走ることは基本ではあるが絶対ではない。
ここがヨットレースの面白いところ。必勝法があるような競技は面白くない。
ロングを走ることは絶対ではないが、ロングを走ることで成績は確実に安定する。
片振れという弱点はあるし、ロングを走っていない艇にブローで抜かれることもあるが、
シリーズ通しての合計点で勝てば良いと考える。
片振れで伸びている艇やロングではないレグを伸ばしてブローを取りに行く艇は他のレースで叩いてくれるので、
片振れのようなロングを走る艇が苦手な海面ではじっと我慢して、致命的に叩かない対処をすることが大切である。
特に、インカレの団体戦の場合には、1位をとることよりも、
3艇がそろって良い順位を安定して取ることが求められる。
運頼みの一発コースを引くよりは、ロングを走り、3艇のスコアを安定させた方が、
大学としての順位は高くなると思われる。
平成16年度のスナイプ級の成績が最も良い例である。
中央大学がロングを走るのかは知らないが、このように安定したスコアをとり続けることが理想であり、
このスコアを見て「カッコいい」と思えるようになってほしい。
(早稲田の一番艇が一発コースという意味ではありません。多分普通に速いんでしょう・・・。)