キノウツン藩国 @ ウィキ

エスピオナージ

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SS エスピオナージ

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 国家に真の友人はいないという。
 その言葉を表す最たるものは情報戦によって顕わされる。
 各国家は敵より、場合によっては味方よりも、先んじて情報を握るためにしのぎを削る。
 これはアイドレス世界でも変わりなく、当然メイド喫茶の国として知られるキノウツン国でさえも例外ではなかった。
 いや、最も発展させた国であるとさえ言えるだろう。

 キノウツン国メイド学校には二つの側面がある。
 一つは国内・諸外国問わずメイド候補となる人々を集め、教育し、一流のスタッフとして育て上げること。国内においてはメイド喫茶要員の育成である。
 そしてもう一つの側面は各国に派遣したメイド達を中心に組み上げられたメイドネットワークシステムである。
 元来、美人で知られ、またメイドとしても一流であるキノウツン国のメイド達は各国の上層部に好まれ、雇われることが多い。
 それは自然と重要な情報に触れることとなり、その情報網からもたらされる情報がツン国の国家戦略に影響するケースは少なからず存在した。
 そして今回の騒動も、そのネットワーク末端の一つからもたらされる。

 その当時、わんわん帝国の争乱はキノウツン国の耳に少なからず入っていた。
 国内での責任問題と、それに付随する粛正騒動。
 特に顕著なのはジェントルラット藩国が国家をあげて亡命してきたことであろう。
 その為、ツン国情報部では各国のメイドラインの強化に務め、特にわんわん帝国の情収集強化に務めていた。
 そんな最中である。
 たけきのこ藩派遣メイドより
『藩王陛下が宰相閣下の命を受けてにゃんにゃん共和国に密使として派遣された。
そしてその内容は休戦についてである』
という情報がもたらされた。
 情報部の分析官は帝国が先の水泳大会、それに付随する粛正と改易により少なからず疲弊しているはずであり、休戦条項を含む内容は十分考えられる、とした。
 たけきのこ藩国からの道程は長くても数日であり、アウドムラ迎撃戦で疲弊しているにゃんにゃん共和国としてもこれを受け入れると見ていた。

 しかし第二報がこれを覆した。
「たけきのこ藩王が行方不明?」
 勉強部屋に押し込められていた藩主ツンはお付きのメイドである浅田からの報告に手を止めた。
「はい。たけきのこ藩派遣メイドの報告に拠りますと、にゃんにゃん共和国に向かった藩王陛下よりの無事を伝える定期連絡が途絶えている模様です」
 報告書片手に読み上げる浅田。
 普段とはうって変わり、それは情報戦のイロハを仕込まれたメイドとしての雰囲気を臭わせていた。
「この事に上層部は、ただ難航しているだけではなく、最悪の場合殺害、良くて拘束された、とみている模様です」
「理由あっての暗殺・拘束ならば発表、ないし共和国上層部からの正式な連絡があるはずよね?」
「はい。仮にも一国の藩王を処分した以上、あって然るべきです。ですがそのような情報は受け取っておりません」
「あんまり穏やかじゃないわね」
 鉛筆をクルクルと廻しながら考える。
「足取りは共和国内までは確認済み、か。発信の時間的に見ても、共和国内で行方不明になったとは考えにくい」
 愛らしい鼻の頭にしわが寄る。
「こんなことをしそうで、かつ出来そうなのは……どう考えても実際に謁見する大統領閣下だけよね」
「恐らくは」
 上層部への不信感の吐露。
 だがこんな会話も勉強部屋ならではであった。
 表向きはツンが勉強に集中できるようにと拵えられた部屋であるが、その機密性の今のように高さから情報収集・分析の際に用いられることも多い。
 その為、幾重にも盗聴などの防止策は巡らされている。
 ツン国情報の要の一つとさえなっている。
「機密レベル5。とりあえず、この算数のドリルが終わったら詳しい報告書を頂戴」
 キノウ=ツン12歳。彼女とて義務教育の例外ではなかった。

「対タマ用のカードとして使える情報よね……。犯罪として問えなくても国内での人気の低下は確実」
 唇に手を当てたまま、ツン様はたけきのこ藩王行方不明の報について考えていた。
「ただ私の国じゃ、タマに借金の時の借りもある上、国力的にも握りつぶされかねない。だとすると発表は無視できないほどの国力を持つ一国か、悪くて連盟か……。
 出来ればそいつはツン国に好意的な人物で、かつタマと敵対することも辞さない……。そんな都合の良い奴いるわけないわよねぇ」
 そんなツンを悩ませるものは何も情報問題や算数のドリルだけではない。
 他国藩王もまた、その例外ではなかった。
 防音の壁のくぐもったノックの音。
 誰何の挨拶が終わると、扉が開かれた。
「ツンさま、是空藩王陛下が本日もお見えですが」
「……またぁ?」
 取り次ぎの兵士が告げた言葉に彼女の愛らしい顔が微かに歪んだ。
「まったく……頭が痛い時期なのに。かといって大国の藩王である以上無碍にはできないし…」
 唇が嬉しげに歪む。
「どうなさいました、ツンさま?」
「なんでもないわ。是空陛下に身だしなみを整えて伺うので、お庭のティーテーブルでお待ちになって、と伝えて頂戴」
 兵士が静かに扉を閉めるとツンは楽しげに舌なめずりをした。
「ねえ、浅田。FEGって大国よね?」
 何を当然のことを、と思いながらも浅田は答えた。
「はい。にゃんにゃん共和国随一の大国です」
「当然、借金はない」
「はい」
「しかも私にしつこいぐらい好意的で、時期大統領選では現大統領と争う最右翼」
 ツンがそこまで語った時には浅田の顔にも笑みが浮かんでいた。
「はい。言い換えるならば、陛下にとってどうころんでも良い人物です」

 もはや恒例と言ってもいい表敬訪問に訪れた是空藩王。
 そして本日は機嫌が良かった。
 砂漠のツン国にしては風が穏やかな日であったこと。 中庭の緑が目を潤したこと。紅茶がいつもの出涸らし一歩手前のようなものではなく、最高品質のものであったこと。
 様々な要因もあるが、第一にあげるのはキノウ=ツンが機嫌良く彼を迎えてくれたことだろう。
 ツンは気性の起伏があることで知られており、善し悪しでツン期・デレ期と呼ばれる。
 そうか、俺にも漸くデレが来たか!
 機嫌を良くした是空藩王は普段は雑談で終始するのが慣例であった訪問で、珍しく政治のことも話題に上らせた。
「いやぁ、最近俺も忙しいわけよ。今度なんて、タマ大統領に『雑談』に呼ばれちゃってさぁ」
「まぁ、『雑談』に。お忙しいのですね」
 『雑談』とは藩王達の会話で何時の頃からか呼び慣わされている符丁で、特に大統領とくっつくと査問会、ないしそれに準ずる場合に使われる。
「やっぱり、選挙沙汰に関することだろうなぁ。下手に大統領選の事なんて口にするものじゃないね」
「ご苦労の多いことですわね」
 ツンは優雅に微笑むと紅茶に口をつける。
「ところで陛下。雑談に呼ばれる以上、手みやげが必要ですわね」
 カップをソーサーに戻すとツンは傍らのベルを振った。
「例えば茶飲み話のようなものはどうですか?」
 軽やかに響いたベルの音に呼ばれた浅田の手にはお茶菓子でも紅茶のお代わりではなく、白い紙の束が挟まれていた。
「面白いお話をお聞かせいたしますわ。タマ閣下の独特な使者のもてなし方についてなど、いかがですか?」
 たけきのこ藩王行方不明。
 それに関する情報はこうして是空の手に渡ることとなった。

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