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とな藩・るしにゃん王国編

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第二回


『となりの藩国は面白い~るしにゃん王国編~』


「ねーねー、かんらんしゃどこー」
「そんなものはない」
「うそだーー、くるとき見たもん。きれいな家のすぐ近くにあったもん」

そりゃ観覧車じゃなくて水車だ。
綺麗な家とは神殿か王宮のことだろうか。
この湖の源流を辿っていけばそこにあるはず、なのだが...

「ねーねー、かんらんしゃー」
「五月蠅いなぁ。ガキは湖でも見てろ」
「みずうみはもうあきたよ~」
「じゃあ、森でも見てろ」
「それもあきたー」

るしにゃん王国は森に囲まれた国だった。と言うより森そのものである。
自然を愛し、自然との共存を尊重する。そんな思想の基に築かれた国家らしい。
国是とするだけあって、緑豊かな美しい国であるが、

「ねー、あっちの塔にいこうよ」
「あそこは行ったらだめって入国管理局に言われただろうが」
「じゃああっちの塔~~」
「どっちでも一緒。駄目なものは駄目」

それ故に旅人に対する規制が厳しいのが特徴だ。
観光客が立ち入れるのは、目の前の巨大な湖と、その畔に存在する市街地ぐらいである。
まあ、湖は綺麗だし市街地は市街地で北に大きな滝があるので見るに飽きないと言うことはない。
観光する分には充分だった。

「それより、あんまり離れるなよ。ただでさえ国全体が光学迷彩みたいな所なんだから」
「こーがくめーさいってなに?」
「ん、ああ...っと。そうだな、迷子になる魔法だ」

この国は外部からはただの森にしか見えないらしい。
森と一体化しているため、外から国があることを知るのは非常に困難なのだ。
国自体が理力の幻に閉ざされている、なんて噂もあるぐらいだった。
招かれざる者であれば、西と東に見える二つの塔を目印に追いかけてですら、路に迷うのだという。

「ひまーーー」
「ん、じゃあ水浴びとか」
「それはもうやったーー」

湖の畔では、耳長と猫耳をつけた森国人が数名、水浴びをしている。
衣服を着たまま足首を付けている程度なので、水浴びと言うよりは水かけ遊びか。
白衣を着た集団だった。医者なのだろう。
るしにゃんには名医が多いと言う。
自然を破壊することを嫌う王国だけあって、
学問も工学等よりも医療や星見学などに特化しているのだという。

(まあ、その割りには妙な施設が多いんだけど)

カムフラージュはしてあったが、
ところどころにどう見ても軍事基地のような施設が数カ所あったのを思い出す。
無論、立ち入ることなど出来はしない。

まあ、良くも悪くも神秘にして深秘と言ったところか。

例外と言えば、北東――神殿のすぐそばに存在する荒野だ。
訪れる際の遠景に視たそこは、
昨今共和国を脅かす根源種族の襲来によって焦土と化した地域だった。
あそこならば、国を迂回するように進めば立ち入ることも可能だろう。

絶望の荒野と呼ばれているらしい。

もっとも、そんな場所に行くつもりもないが。
美しい森を、醜く、残酷に刮りとった引っ掻き傷。
それが自然を愛し森と生きる彼らにどれほどの爪痕であっただろうか。
想像するには難くない。
一見穏やかな森のそこここに、肌の裏側がざらつくような寒気がひしめいていた。
それは、怒りだった。
彼らは静かに怒っているのだ。オズルに、この理不尽に。
そして、どうやら彼らは、この理不尽に抗うことを選択したようだった。
この国に、風を追う者が顕われた。
そういう噂が流れていた。

「あまり観光を楽しむ雰囲気でもないか...」
「つまんな~い」
「そんなことはない」

森の清廉な空気に囲まれながら、湖に映る太陽と雲のうつろいをぼんやりと見て一日を過ごす。
そういう贅沢も悪くはない。

...まあ、ガキには退屈だろうが。

「滝でも見に行くか?」
「さっきみずあびしたって言っじゃん~」
「別に水浴びだけじゃ滝じゃないだろう」

もう一つの名所である大きな滝も、見ているだけで充分に楽しい。
星見台が建つ崖を流れ落ちる大瀑布、
その上流は地下水路を介し王猫アルフォンスの坐す神殿に通じているという。
神殿がいくつもの水源から水を引き込んで集め、
そこで見目麗しい王猫の祈祷が捧げられてから居住区へと流すというのだから、大層な話である。
コップ一杯の水にまで王猫の祈りが行き届いているというわけだ。
マイナスイオンよりよほど御利益がありそうだった。

「ほら、湖に漁船も浮いてる。ああ面白い」
「お船なんていつも見てるからつまんない」

波のない穏やかな海の水平線を、漁船が右から左へ滑っている。
この国の主食は魚と小麦、森の動物は同胞という意識があるらしく
狩りは行わないらしい。
食糧自給率はなんと100%。この湖で、いったいどれだけ魚が捕れるのだろうか。
淡水であることを除けば、本物の海とたいして変わりがないのではないか。
実際、この湖を海だと勘違いしている国民もいるのだそうな。
それはそれであれだが。

もっとも――海のように広大とは言え、この湖だけで国民全員分の魚が確保できるとは思えない。

(まあ、なにか秘密があるのだろうさ)
昨日の宿で振る舞われた魚に、
目の退化した魚が混じっていたことには気づかなかったことにした方がいいのかもしれない。

「う~~、もういいもん」

あの魚は美味だった。
下手に触れてあの魚が卓に出なくなるのは、とても残念なことだろう。

まったりと昨日のご馳走に思い馳せていると、すぐ前を長耳の吏族らしき美女が通り過ぎていった。
速い足取りだった、観光客を縫うようにせわしなく歩いている。
あの様子だと尚書庁にでも招集を掛けられたのかもしれないが...

(足音、まったくしねえな...)

汗が頬を伝う。汗は森の冷気に晒されてか、冷たかった。
どういう理屈かは知らないが、あの吏族、ただ者ではない。まるで忍者である。
どうやら、この国。吏族までもが尋常ではないらしい。

「はぁ...観光はまた今度にした方が良さそうだな」

水を含んだ空気よりも思い息を吐いて、少しだけ陰鬱になる。

平和になったらまた来よう。

その頃には連れ合いも、自然の良さをおかずにおにぎりが食えるようになっていることだろう。
次は遊園地がある国にでも行こうかと思いつつ、周囲を見回す、と。

「いねえし...」

森の軟らかい土についた足跡は、真っ直ぐ馬鹿正直に塔の方へと続いていた。

「あ、の、ガキ~~~!」

この後、るしにゃん王国勇士による捜索隊によって山狩りが行われたのは、また別の話である。
どちらにしても、しばらく観光に訪れることは出来そうになかった。

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