キノウツン藩国 @ ウィキ

とな藩・鍋の国編

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第五回


「かんらんしゃー」
「はいはい、後でな。とりあえず、飯だ」

「鍋のれん」と書かれたのれんをくぐりながら。


『となりの藩国は面白い~鍋の国編~』


「いらっしゃい 1人かい?」
恰幅のいい親父が出迎える。
「いや...1.5人ってところだ」
「はいよ、二人鍋ご案内~」
「なべ~~」

鍋の国。
あまりにもガキ(名前)が観覧車と五月蠅いので観覧車のある国に連れてきたのだが。
この国、とにもかくにも鍋(とメガネ)の国である。
南国なのに鍋の国というのがツッコみどころなのだろうが、
それにツッコむことはあらゆる意味で負けなんじゃないだろうかとも思える。
至る所鍋だらけ。国民は1人1個My鍋を持っている。
1世帯に1個ではない。1人に1個、生まれたその日から持たされるらしい。
なにせ図書館にさえ鍋がある。鍋をつつきながら本が読めるのだ。

うちの国もたいがいだが、この国も負けず劣らずである。


座敷に案内され、コンロが備え付けられたテーブルに座る。
すぐに親父が水をもって来た。
ガキが一気に飲み干そうとするのを、腹壊すからやめろとたしなめる。

「兄妹かい、鍋は自分のを使うかい?」
「そんなところだ」実際は親子だが「鍋は持ってない。よければかしてくれ」
「あいよ。西国の人のようだが、観光かい?」
「ああ、観光というか取材と言うか」

王立観光局、フェア推進部。
他国の文化風習や郷土料理などを取材してイベントを企画する部署。その調査員が自分である。
そして当然、鍋の国名物である鍋料理も調査対象なのだった。

「はぁ、キノウツンの人か。メイド喫茶で鍋を出すのか」
「需要はありますね」
営業モードになって答える。
「交易路に「絹の道」って言う和風割烹のメイド喫茶がありまして。
そこではこう、お袋の味的なものがコンセプトなんですけど」
「ほぅ、お袋の味的なものを」
「ええまぁ、貿易で旅付かれた客にはそういうのが人気ありまして」
「はぁ、なるほど。それで、お袋の味的なものを」
「いやまあ、別に繰り返して言うほどのことじゃありませんが。
鍋フェアとかもよくやらせて頂いているんですよ。
これは、メイドさんがその場で鍋を作ったりよそってくれたり
鍋を囲んで一緒に食べたりしてくれるんですが。結構人気ですね」
鍋を囲むという家庭的な雰囲気が、独身の多い貿易客のツボを突くらしい。

「メイドさんと一緒に鍋を食べるのか。いいねえ」

親父さんが天井を見上げながら、ぼそりと呟いた。
親父がトリップしている間に壁に貼られたメニューを右から左へと見ていく。
鶏団子、鶏団子豆乳、キムチ、豚、豚キャベツ、餃子、モツ煮込み、つくね、
あんこう、チキントマト、きりたんぽ、フルーツ
「鳥団子」や「豚」としか書かれていないがおそらく鳥団子鍋や豚鍋なのだろう。
ラーメン屋がいちいち下にラーメンをつけないのと一緒だ。しかし、

「餃子ってのは、やっぱり...」
「んぁ。餃子鍋にするのか?」
トリップしていた親父が素に戻って尋ねてくる。
「いや...もう少し見てから決めるよ」
餃子も鍋らしい。
「フルーツ」と書かれた品書きが物凄く気になったが、聞くと恐い結果がまってそうだった。
一番後に、雑炊(単品では注文できません)という札があった。
まあ、そういうものなのだろう。

「で、なににする」
「オススメとかあったら。変わった物とかでもいいけど」
「そうだな、変わった物というなら眼鏡鍋というのがあるが。
どんな鍋かというと、まず眼鏡を、」
「――鶏団子鍋でたのみます」


/*/

「だんごくれ!!」
「断る。野菜もちゃんと食べろ」

ブーイングが起る中、鶏団子鍋が煮えている。
冬野菜と鶏肉の入った普通の鍋である。
昆布ベースの薄味のだしに鳥団子の汁が染み出て、極上の旨みを醸し出している。
白菜等もあらかじめ茹でてあるのか柔らかく、だしがよく染みていた。
ガキも貪るように食べている。
南国なのに冬野菜なのは地下での室内生産によって賄われているから、らしい。
室内プラントまであるとは、さすがはにゃんにゃんでも有数の農業国といったところだが、
なにかとてつもない無駄遣いをしているのではという気がしないでもない。
反逆精神溢れる国家だなあとは思う。

鍋の中身が半分になったところで親父がまたやってきた。

「雑炊は食べるかい。それとも、そろっとうどんでも入れるか?」
「おじや!」
「そうだな、雑炊にしてくれ」
「あいよ」

そう言ってまた引っ込む。店内は、広い店にもかかわらず、親父しかいなかった。
寂れている、と言うわけではなく他の従業員は「祭」 の屋台に出向いているらしい。
なんでも現在、鍋の国にはACEが二人もやってきているらしく、
鍋の国はそれの祭で大盛況なのだった。
客もそっちの方に言ってしまってるから、親父一人で大丈夫、という話だ。
というか、根本的な問題として、鍋の屋台があるのか、この国。

「そんなに騒ぐことなのかねえ」
「お祭好きの国だからな」
雑炊セットを運んできた親父が、わははと笑った。
「そういや祭は取材しなくていいのかい」
「今回は鍋の取材で来てるからなあ」
「鍋の? なんだいなんだい、うちの鍋の味でも真似しようって言うのか?」 
「していいのなら、是非したいですね」
「かはっは。そいつは嬉しいね。けど、残念だが、だしは企業秘密だぜ」
「そりゃ残念」

実際この店の鍋料理は美味しい。お世辞ではなくツン国のフェアに取り入れたい料理ではある。
が、まあ今回はお世辞っぽい雰囲気で話をかたづけておくことにする。

「まあ...大ざっぱなコンセプトとかはともかく、味まで盗んだりはしませんよ。
もしフェアをすることがあったら、あらためて取材をしに来ますよ」
几帳面に断りを入れる。
案の定、親父は拍子抜けした様子だった。
「はぁ、そりゃあなんだ。ずいぶんお堅いんだな」
「イメージ商売ですから。裏はけっこう堅実でしたたかなんですよ」
と言いつつも、鍋の中に冷やご飯を放り込む。
「キノウツンには鍋料理はないのかい?」
親父が何気なく聞いてきた。
「そうですねぇ...竹を煮て食べる鍋の話を聞いたことは?」
「ああ、虎の油がいるんだろ」
にやりと言い返す親父。
「なるほどな。確かに堅実で、したたかだ」
「今度また、正式な取材に来たときにでも紹介しますよ、ウチの名物料理」
こちらも含み笑いで返す。
そんな空気を気にせず、ガキはのほほんと卵をかき混ぜていた。


/*/

「貴様か! 我が国をコソコソ嗅ぎまわっているのは!」

店を出たとたん、囲まれた。
頭に鍋を乗せた迷彩服の女性だ。
身なりからして、鍋の国の歩兵部隊だろう。
学業から取り組むパイロット養成所、更なるエリートで構成された舞踏子部隊。
アメショーのデザインコンペで見事採択を勝ち取った優れたI=D開発機関。猫士による歩兵。
および偵察部隊。
隠れた強国――なにげに軍事でも秀でているのが鍋の国である。

「嗅ぎ回る? なんのことです」
「白々しい...貴様が一日に何軒もの鍋料理屋を歩き回っているのは確認されている。
大方、我が国の鍋の秘密を探りに来たスパイだろう」
「スパイ」
「鍋スパイだ!!」
「あらためて言わなくても」

どうしよう。向こうの言っていることは、大きな意味では正しい。
ただ程度の問題に開きがありすぎる。
別に、法に触れるようなことはしていないのだ。
鍋料理屋の親父にも言ったが、企業秘密を盗むような行為はしていないし、
もし味の秘密が知りたいのなら、後日、きちんとした取材をするのだから。

(滞在日数が限られているとは言え、梯子しすぎたな)

まさか軍に伝わるほど目立っていたとは思わなかった。
きちんと説明すれば解ってもらえるのだろうけど。

「…つか、借りに企業スパイだったとしても鍋料理調べて回っただけなのに軍隊って」
「貴様! 今、鍋を馬鹿にしたな! あやまれ、鍋の神様にあやまれ」
「んな、おおげさな」
「もしくは眼鏡にあやまれ」
「なぜっ!?」

しかしまあ、そういうものなのだろう。
観光を繰り返すうちに何度も心の中で呟いた言葉が過ぎる。
ウチの国でもメイド喫茶調べ回っているあやしい奴がいたら、
軍隊が出動するのだろうなと、考えをあらためる

「ただの旅するルポライターですよ。
まあ、文化の取材ってのは確かにスパイ行為ではありますけど、
貴国の機密に関わるような取材は行っていません」
「ふん、どうだか...」
冷たくあしらって、女性歩兵――たぶん偵察部隊の隊長だろう――は腕を組んだ。
自分を囲む兵たちがじりじりと包囲を完成させていく。
こちらの退路を断つ完璧な配置。何の合図もないはずなのに、ひどく統率された動きだ。
(なんだか、見えないところでサインを出し合ってるって感じだな)
にこやかにへらへらと笑ったままそんなことを思う。

「貴様は、我々と同じ臭いがする」
「そりゃ鍋を食べたばかりですから」
「はぐらかすな。その目、ただの観光調査にしては鋭すぎる。
佇まいもそうだ、恐らく、なにかしら戦闘の訓練を受けている筈だ」
「買いかぶりすぎですよ。だいたい、こっちは子づれですよ。スパイなんてできるわけないでしょう」
「子...連れ? そう言えば、さっきから横でちょろちょろしているようだが」

言われて、彼女はようやくガキに気づいた様子だった。
ガキは腰にかじりついて、恨めしげに自分を睨んでいた。

「って、なんで怒ってるんだよ」
「てめー、このずんべらぼー! あたしにないしょでナベたべてやがったなー!」
「それかよ!...仕方ないだろ。おまえ、すぐ腹一杯になって半人前も食べられないんだし。
こっちは一日に十何軒も回らなきゃならないんだぞ」
「あたしにもたべさせろーーてっちりー!すきやきー!!」
「誰だ! そんなおそろしい単語教えたの!? DBか!? 青狸か!?」

噛みついてくるガキを女隊長の前に突き出しながら。

「ほら、お姉さんに挨拶しろ。前に教えただろ」
「がるるるるる」
「あとでお菓子買ってやるから」
「おねえちゃんこんにちわーーー。おかえりなさいませーー」

燃料を与えられて、無敵スマイル(外見+1)で挨拶するガキ。
キノウツン国の猫先生が教える基本的な挨拶である。

「う...かわいい、」

女隊長が、くらくらしながら手をわきわきさせた。
尻尾と耳がぴくぴくと動いている。
(ん? いま一瞬、統率が乱れたような…)
疑問の正体を探ろうと集中しようとするが、

「――はっ! だ、だまされんぞ!! あぶないところだった、」

女隊長がその前に気を取り直して、こちらを睨め付ける。

「と、とにかく、スパイと違うという貴様側の主張は了承したが、
いずれにせよ詳しい話を聞く必要はある。
後ろ暗いことがないというのであれば、潔く従うがいい!」

どうやら、結果は中間判定だったようだ。

「勘弁してくださいよ。観光できなくなるじゃないですか、ただでさえ滞在期限が迫っているのに...」
「馬鹿を言え。すぐにも国外へ脱出すると言うのであれば、なおさら逃せないだろうが」
「それはそうですけど」

なんとかならんかな...と周囲を見やる。
探しても鍋のれんの店先に飾られた観葉植物ぐらいしかなかったが。と、
――ふと、ある植物に目が行く。
自分にとってはおなじみの、見慣れた植物だった。

「…見逃してくださいよ。見逃してくれたらとっておきの情報を教えますよ」
「はん、不審者との交渉には応じるわけがなかろう」
「そんなこと言わずに。ウチの――我が藩国で名物のとっておきの鍋ですよ」
「――鍋、だと?」

頭の鍋に隠れてはいるが――
それでも、耳がぴくんと動いたのを見逃さない。
よし、

「ええ、その名も仙人.鍋。美人の名産キノウツン藩国特性の美容効果抜群の鍋ですよ」

ぴくぴく。他の歩兵達の耳も尻尾も小刻みに動く。

「し、しらじらしい。そ、そんな鍋。鍋書庫にさえ記述がない。あ、あるわけが...」
「それは当然ですよ。その鍋は――今でこそ一般に食べられていますが、
ちょっと前までは一部の王族しかそのレシピを知らなかったのですから。
そのため覇王.の鍋とも言われていたのですよ」
「お、王族が...」
「そう、あのツン王女だって食べているのです。
この鍋を一口食べればお肌はつるつる、外見が+3シフトですよ」
「ぷ、ぷらすさん...それは、すごいな...」

尻尾ぴくぴく。

「ええ、そんな凄い鍋ですが、レシピはいたって簡単。
いま教えることだって出来ますよ。主要な材料だって...ほら、ここにあります」

ざわめき。女隊長の尻尾が揺れて、包囲が緩む。
さり気なくガキのフードを掴む。掴まれたガキは喜びながら、その手にぶら下がった。

「こ、これが材料なのか? まさか、こんなのが食べられると」
「ええ、しかも意外と美味しいし鍋にもあうんですよ。
ウチの国では普通に水炊きにして食べますけど、
鍋の国ならもっと美味しく作ることが出来るはずですよ」
「そ、そうだな。我が鍋の国ならそれぐらい容易いことだろう」
「ええ、ぜひ食べてみたいですねえ。鍋の国の仙人.の鍋」

尻尾がぶんぶん揺れている。統率があきらかに乱れていく。
(なるほど、尻尾でサインを送ってたのか)

「じゃ、実際に下準備の仕方をお教えしましょう。まず“これ”をですね...」

“それ”を手にとって、女性に手渡す。

「――これのトゲを抜きます。一本一本丁寧に」
「なぬ、一本...一本だと? これを、全部か?」
 彼女の表情が、少しだけ曇った。どうみてもめんどくさそうだ。
 瞳を輝かせながら、押し切る。
「ええ、ここで手を抜くと後の味が全然違ってきますからね。
慎重に、このピンセットをお貸しします。ほら、他の方達も手伝って...」
と、自分を囲む歩兵連中にも声を掛ける。にこやかに。
「わ、我々もか」
「数が多いほど手間が省けますから。ほらほら、」

言いつつ、フードにぶら下がったガキの頭をこづく。
こづかれたガキは、スイッチを押されたかのように、

「おねがいしますー」

と、無敵スマイル(外見+1)で言うのだった。

『う、かわいい...』

今度はどうやら大成功のようだった。


/*/

数十分が経過した。

「むぅ。案外、難しいものだな。だが、コツは掴んだ。もうすぐだ!」
「隊長! できました!
「こちらもできました!!」
「そうか、よし。わたしも今終わった!」

鍋を頭に乗せた女隊長の顔がぱあっと明るくなる。

「おい、次はどうすればいい!!」

隊長は周囲を見回して男に声を掛けた。
が、男はいなかった。
その代わりに鍋のれんの親父がいた。

「あいつなら、とっくの昔に尻尾巻いて逃げていったぞ」

静寂。ものすごい沈黙があたりを支配する。
遠くから祭の歓声が聞こえるほどだった。

「あ、あ、あ」
女隊長は、トゲを抜き追えて丸坊主になった“それ”を握りしめ、叫んだ。
「あのクソ猫~~~!! 次に見つけたら絶対にブチ殺す!!」


/*/

「くしゃみが出そうだ」
空港まで逃げ切った親子連れの旅人が、手を繋ぎながら話をしている。

「な~、せんにんでなべってなに?」
「ショベルカー使う芋煮会じゃないのは確かだな」
「おいしいの?」
「まあ、うまいんじゃないか? 白菜みたいなもんだろ、」

「仙人掌(サボテン)なんて」

ツン国名産の「うちわサボテン」はコラーゲンたっぷりで美肌効果があるのだった。


/*/

鍋のれんの親父は猛り狂う女性偵察兵の持つ、トゲの抜かれたうちわサボテンを見て溜め息をつく。

「それ、弁償してくれよな。まあ、鍋にするっていうなら、うちの座敷を貸すが」
「こんなもの、どうやって食せというのだ!」
「さあなぁ。虎の油と一緒に煮れば、いいんじゃないか?」
「どこのとんち話だ、それはっ!?」

また溜め息をつく親父。
あのあと、男からサボテン鍋のレシピをこっそり教わったということは、
――もう少し怒りが収まってから、言った方が良さそうだった。

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