キノウツン藩国 @ ウィキ

とな藩・レンジャー連邦編

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第六回


愛の国レンジャー連邦。
小さなハート型の島と群島からなる小さな国。

かつてこの島には4つの王国に別れて争いを繰り返し~

「中略」

~その4つの国を統一し、今のレンジャー連邦を作りせしめたのは、紛れもない、
王子と王女二人による「愛」だったのだ。

「めでたしめでたし」
「はしょるなーー」
「まあ、詳しくは実際に観光する人の楽しみってことで」


『となりの藩国は面白い~レンジャー連邦編~』


愛の国レンジャー連邦。
またの名を「愛と芸術と学問の国レンジャー連邦」。
東西南北の四方に大学を持つこの国らしい呼び名といえば呼び名だろう。
イカーナ岬から見える海は、どこまでも青く雄大だった。
遠くに小島を望む狭閒の海、鯨が時折跳ねては潮を吹いている。
落下防止柵から見下ろす波は、実に穏やかだった。
イカーナ岬。
くだんの王子と王女の愛の終着点である。イカーナとはその王子の名前らしい。
話の詳細はまあ、前述通り実際に訪れる人に任せるとしよう。

「まあ、ロミジュリだよな」
「ろみじゅりってなに」

ガキ(名前)が小躍りしながら訊いてきた。
子供にはなんの興もない景色だろうが、楽しそうである。
今日のガキは機嫌がよかった。

「ロマンってことさ」
「ろまんかがやく」

エステル、ではなく今この連邦に逗留しているのはカール・T・ドランジと言うACEパイロットである。
アウムドラ追撃戦後の軍事見直しのため、戦術・技術アドバイザーとして招かれているのだ。
名目上は。
同時期に舞踏子部隊も新設されていたりする。
まあ、レンジャー風に言うなら特別講師というところか。

「さぁて、これからどこに行こうか」
「はーい! まーにゃんランド!!」
「却下だ。十年早ぇ」

愛と芸術と学問の国にも歓楽街がある。
中でも北最大の歓楽街にある「まーにゃんランド」は特に有名な雀荘だった。
愛と芸術と学問も麻雀には道を譲るのであろうか。

「むーー。じゃあ、ぎじどー」
「ぎじどーねえ」

愛の国ではあるが、そんな国でも今熱いのは軍事だった。
国民の守護、治安維持、迅速ですみやかな議事、戦力、戦術の強化。
それらすべてが驚異的な速度で輪を描き、回り出している。
おそらく、愛ゆえに。
具体的には15,000rpmぐらいで。
議事堂もその一つだった。
先の藩国改造の折、護民官とともに新設されたのである。
と、

「やめておけ、若いの。面白いものなどなにもないぞ」
「ふぁ?」

遠くから声がした。
渋みのある力強い声、海の方からだ。
海側にいたガキの方が早く見つけたようで、こちらからは見えない何かに向かって近づいていく。
海面の上にゴツゴツした岩が並ぶ、そんな場所だった。
海釣りには最適だと思っていたら、実際に釣りをしている老人がいた。
レンジャー国民らしい服装、露出した二の腕からは、
老体ながら筋肉が張りつめているのが見て取れる。肌も鍛えられた革のように黒光りしている。
漁師だろうか。
声は彼から発せられたらしい。回り込むように、岩場を降りて近づく。

「こんにちは。この国の人、ですよね」
「ああ、そうだとも。見たところ西国の人のようだが、酔狂な奴だな」
「何故です?」
「この国の観光と言えば、ここと砂漠と蜃気楼ぐらいだ。
西国の者なら、どれも見飽きているだろう」

微かに笑う。無骨で、どこか男臭い老人だった。
海の漢は確定だろう。この国では捕鯨をするらしいから、鯨ハンターかもしれない。

「...たしかにまあ、景観は似たり寄ったりですけど。
4大学や芸術を見て回るのも割と楽しいですよ」
「わしにゃ学もゲージュツも分からんよ。その嬢ちゃんは妹さんか?」
「いえ、義娘です」

片眉を上げて、老人は気むずかしげな顔をした。

「娘さんには刺激が強い国だと思うんだが」
「どうしてもキタイって言いましてね」

似たような理由でイナガキが反対し、わびすけが羨ましがっていたことを思い出す。
ガキはと言うと、やっぱりくるくると踊っていた。
踊りと言うより好き勝手手足を動かしているという感じだが、
今のガキは踊り子のように腹部が露出した衣装を着ているため、
それっぽく見えないこともない。

まあ、よくてお遊戯だが。

そうそう。
別段、娯楽めいた施設に行ってもいないのに、ガキの機嫌がいいのはこれが理由である。
レンジャー連邦では旅行客に自国の民族衣服を貸与するサービスを行っているのだ。
腹部が露出したこの衣装は
「未婚の男女は腹部を露出すべし」と言うレンジャー独自の掟ゆえの物である。
愛と情熱で裏打ちされたレンジャーの衣装は、キノウツンでも人気のある服装である、
ナニワのコスプレセットと並んで一度は着てみたいと思っているメイドも多い。らしい。
確かに、自分から見てもなかなかに刺激的な服ではある。

何一つ発育していないガキが着ていなければ、であるが。

「やいてめー、いましつれいなことかんがえただろ!」
「なにか言ったか残念な子」
「ぷちころす!!」

挑みかかるガキので子を押さえながら、釣をする老人に向き直る。
バケツが横にあったが、中には何もなかった。

「魚、いないんですか? その...海に」
「しらん」こちらのやり取りに呆れながらも老人は釣り竿を揺らす「海のことは海に聞け」

海は穏やかだった。レンジャーの漁業は鯨や回遊魚などが主らしいが、
まあ岬で海釣りが出来ないというわけでもないだろう。

「おーーい、いるのかーーー!!!!」

今の雄叫びで逃げたかもしれないが。
魚が逃げるだろと、言って額をかるくこづく。

「構わんよ、どうせ釣果を期待するわけでもない」
「やめておけ、というのは?」
「議事堂のことか? あそこは今頃、旗でも処分しているだろうからな。
観光者には面白くもなんともないだろう」
「ああ...」

「レンジャー救済法」
糞の役にも立たなかったくせに、屈辱と恩着せがましくも厚かましい借りだけ与えた悪法。
公金をばらまくだけばらまいて、市場の体力を考慮しなかった愚かな人気取り法案。

「返したんですね」
「返す目処がついたのだ、いつまでも金庫を暖めておく必要ない」

いや、考慮できなかったのは特需につけ込み、値を吊り上げ、
空売りかましてまで設けようとした、投資家の食い汚さか。自爆したが。
一部の投資家に甘い汁を吸わせるために、
借金と言う形で公金を放出したんじゃないかと邪推するのも、まあ無理はないのだろう。
「レンジャー救済法」などと名を打っておいて、
当のレンジャーがびた一文とて手をつけることもなかったというのがなんともお粗末である。
なんの恩典もなかったくせに、当たり前に注文をしただけで、
好き勝手にレンジャー連邦の惨劇などと呼ばれ...ふざけんなと怒ってもいいはずなのに、
この国の藩王は、それでもほうぼうに謝って回ったのだ。
60億。何に使うこともなく、ただ非難だけを受け、そして完済した。
ようやく返済できたのだ。
その喜びは同じ藩民だけが味わうべき物であろう。

「いや、面白そうですけど、遠慮しておこうかな」
「...あんなもの、必要なかったのだ」

耳の痛い話だ。

キノウツンもまた、あの救済案で借金をした。
そして必要もない貸しだけを作る結果になった。
まだ返済すらしていない。

「貧しさは苦ではない。我が国民は背負った重みを力にする術を知っている。
それよりも愛を謳う我が国が、愛もない連中に踏みにじられる、そのことが心に痛い」

老人の目は、遠く海を彷徨う。
その瞳は、自らの生よりも古い昔を思っているようだった。

「4つからなる連邦ゆえに――愛ゆえに、戦いを憎み、正しくあろうと誓った。
不正を許すことを感とせず、ゆえに自らの無力をも許さなかった。
...なあ若いの、その結果が惨劇と呼ばれるのであれば、この共にして和する国には、
あとどれほどの愛が残っているというのだ」
「...」

ともすればこの共和国、大炎上中と噂の犬の国よりもひどいことになっているのかもしれない。

「けど...おかげで戦争が潰れましたよ」
おかげでってのは変かもしれないが、あえてそう言った。
「本当は俺も出兵する予定だったのに、その予定は市場が崩壊して、
食料が買えなかったことで白紙になった。そして、今はこうして観光をしているんです。
そのことが、本当にありがたい。礼を言いたいぐらいに」

視線の向こうで、ガキがくるくると踊っていた。

「...若いの、おまえは愛を知っているか?」
「萌えなら」

しまった。あきれられた。
割とまじめな風に言ったのだが。
正直、愛という概念は自分にはまだ無いのだろう。
そういう意味では、自分にもこの国は10年早かった。

「も、萌えだと?」
「ええ萌えです」
「いらっしゃいませ~~!」

何を思ったのか、ガキが岩場でくるりと回転して挨拶をした。
潮の臭いに微かな花の香りが混じる。
それは、花の箪笥に収納されている外套の残り香だったが。 

「もえ?」
「いや、萎え~」
「じょうとうだこのやろーー!!」

ガキの飛びモモパンを距離をずらすことで無効化し、喉輪攻めで反撃する。

「今はこいつの母親を捜すんで、精一杯なんですよ」
「逃げた女房か?」
「いえ、そんな愛のあるもんじゃないような」

ガキはその手にかじりついて飛びつき腕十字に移行しようとしたが、腕を下げることでそれを阻む。
ガキが飛ぶ瞬間を見計らって、かじりつく腕を下げることで、
結果的に足が岩場に吸い付くことになって、飛ぶ機会を失うのだ。
合気術に、手に乗った鳥の飛び立つ瞬間に手を浮かせることで
飛び立たせないようにすると言う技があるが、それに似ている。
くだらない攻防が続いている間も、話題は続いた。

「ふむ。今は、その子で手一杯と言うところかの」
「否定は...しませんがっ、このっ」
「まあ、それもまた愛だ」

と、老人は釣り竿を握り直す。

「観光をしたいのならACE招聘の祭りにでも参加すればいい。
よくは判らんが、萌えオレンジジュースとか言うのが売られていたはずだ」
「はぁ。それは本当によく分かりませんね...」

握りなおしたとたん、釣り竿がしなった。

「うおっ。かかっとったのか。話に夢中になりすぎたのう」
いいつつそれで、老人は魚にかかりきりになり、
「っと、今度は恋人と来るんだな、お二人さん」
「ええ、そうします」

これ以上邪魔しても悪いと思い、ガキの手を引く。

「じゃあねーー」
「ああ、またな。May the love be with you!」

えらく流暢にそう見送られて、
――二人はイカーナ岬を後にした。

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