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新ジャンル「しろくろ」01_vol01

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新ジャンル「しろくろ」
1 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 09:23:59.82 ID:Wj605SIq0
変な女の子に出会った。
全身真っ黒の制服を着た子。うちの学校の制服じゃなかった。
靴下だけが真っ白で、体の色を抜けば全部黒。

変な女の子に出会った。
どうやら転校生だったみたいだ。
生憎僕の隣には座らなかったけど、斜め前の席で女子に囲まれている。

変な女の子に出会った。
昼休みになると、周りを囲んでいた人はいなくなった。
静かに本を読んでいた。僕は読まないだろう、難しそうな本。

変な女の子に出会った。


6 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 09:26:19.92 ID:bGER9Rx1O
空知の読み切りかと思ったやつは俺だけじゃないはず

7 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/20(日) 09:27:13.15 ID:6gzTxymH0
のらくろだと思ったのは俺だけでいい

8 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/20(日) 09:28:50.67 ID:1fDV0LiRO
>>7wwwwwwww

9 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 09:30:27.88 ID:Wj605SIq0
帰りのHR,その子の影はなかった。
家の片付けなんかがまだ終わっていないらしく、早退したらしい。
男子もひそひそと話しをしている。そんなところだろう。

靴箱に行くと、不思議な光景が広がっていた。
いくつかの靴箱が、戸を全開にされていて、全校の伊藤さんが不思議な顔をしていた。

家に近いコンビニに、あの子がいた。
話しかけようとしたけどやめた。別に話題がなかったから。

でも、逆に話しかけられた。


11 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 09:31:26.23 ID:BGuL1DHI0
お、ちょっと面白そう

12 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/20(日) 09:34:17.57 ID:toD+cJmMO
>>7
まさか俺がいるとは

13 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/20(日) 09:34:46.49 ID:4p/X1poMO
>>9
全校の伊藤さんって伊藤さん何人いるんだ

14 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 09:35:26.25 ID:Wj605SIq0
女「…」

「ちょっと」それだけを言って、彼女はだんまりを決め込んだ。

女「……名前は?」

あぁ、そっか。名乗ってなかったな。

男「男」
女「男……君」

「さん」には見えないと思うよ?

女「同じクラスの人よね?」
男「うん」
女「そっか」

いまいち何が言いたいのかわからなかった。

妙に黒い目が、さらに不思議な気持ちにさせてくれた。


16 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 09:42:11.89 ID:Wj605SIq0
男「伊藤さん?」
女「いいよ。伊藤さん沢山いたみたいだし……女でいいよ」
男「じゃあ女さん」
女「…」
男「どうしたの? なにか、用?」

そっけなく思われるかと思ったけど、それだけ言った。

女「ちょっと、時間を借りても?」
男「…」
女「無理ならいいです」
男「……いいよ」

特に用事もなかったし、どちらかというと暇。
その上、女の子の誘いを断るのもなんだかもったいない気がしたんだ。

女「うん。ありがとう」
男「どうすれば?」
女「案内して」
男「……え?」

案内。どうやら、この街のことを指しているらしい。
漫画みたいな展開。そう思った。でも、嫌いじゃないな。こういうの。

早退した伊藤さんは、制服を着ていた。真っ黒の制服。


18 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 09:48:46.45 ID:Wj605SIq0
男「どこを案内しようか?」
女「どこでもいい。適当に」

適当って。まあいいや。

男「……家はどっち?」
女「あっち。ほら、なんか大きな看板があった道の角」
男「あぁ、あの綺麗なガラス工房の看板だね」
女「…」
男「じゃあ「適当」に。近くをいろいろ案内するよ」
女「うん。よろしく」

思えば、学校の外で女の子を連れて歩くのなんて初めてだ。
こういうのってほかの生徒に見つかったら何か言われるのかな?

男「そうだね、あっちにちょっと大きなスーパーとかあるから行ってみようか」
女「おねがいします」
男「うん」

彼女のかばんには小さなキーホルダーが付いていた。
赤い…いや、紅い色をした小鳥のキーホルダー。鈴も付いていて、シャンと音がする。


19 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 09:59:36.72 ID:Wj605SIq0
男「…」
女「家に帰ったらさ」

最初に沈黙を破ったのは伊藤さんだった。

女「誰もいなかったんだ」
男「……あれ? 家の手伝いじゃないの?」
女「嘘。なんか適当に理由つけたら帰れると思ったんだ」
男「…」

転校初日から、なかなかのことをする子なんだって思った。
聞けば、いろいろ人が集まるのが嫌だったらしい。ありがちっぽいと言えばそうなのか。

男「あの家、変でしょ」
女「何が?」
男「蔦だらけだし、不気味なぐらい真っ青な屋根。おじいさんが住んでいるんだけど、変わってるんだ」
女「……へぇ。そうなんだ」

興味なさげだった。なんとか話題を作ろうとしたことを褒めてほしいよ。ほんとに。
じっと屋根を見つめると、寂しそうな顔でまた前を向いた。


20 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 10:00:34.40 ID:Wj605SIq0

男「ここの金物屋さん、いつも看板出てるけどやってないんだ」
女「そうなんだ」
男「うん。とっくに店の人が死んじゃってさ。一人身だったみたい」
女「……なんだか可哀相ね」

あら。意外と冷めた人かと思ったのに。
さっきとはまた違う悲しそうな顔をしてた。

ふと、気が付いた。

僕は…伊藤さんの顔をなんだか気にしていた。
理由はわからないけど、彼女の表情が気になった。

それだけ。


22 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 10:08:58.37 ID:Wj605SIq0
男「その制服。前の学校の?」
女「ん? 趣味で着てるとでも思った?」
男「そうじゃないけど」
女「前の学校。真っ黒で綺麗でしょ」
男「そうだね」

綺麗かどうかは僕には判断できないけど、真っ黒なのはわかった。
まるで喪服みたい。口にだせば失礼だろうから言わないけど。

男「ほら、見えてきた」
女「…」
男「でっかいでしょ。隣の市からもいっぱい人がくるんだ」
女「スーパーっていうか……や、スーパーか」
男「ショッピングモール?」
女「どうだろ」
男「どっちでもいいさ。入ってみる?」

伊藤さんは無言で進んだ。
その後ろを案内役の僕が歩く。

綺麗な髪だな。


25 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 10:16:44.95 ID:Wj605SIq0
女「でっか」
男「ね?」
女「うわ……すごいね。広い」
男「大概なんでもあるよ。二階にゲーセンもあるし」
女「ふぅん……」

ゲームセンターに対して、興味がないのか
僕の話に興味がないのか。
前者だった。

女「うろうろしていい?」
男「どうぞ。僕も適当に……」
女「一緒に来てよ。広すぎだもん」
男「…」

なんだか嬉しかった。
変な勘違いをしそうになったけど、軽いジョークになってどこかに吹き飛んでいった。


26 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 10:17:29.43 ID:Wj605SIq0

女「すっごいなー」
男「こういう所ってなかったの?」
女「うん。田舎だったし」
男「へぇ」
女「もっとこう、自然がいっぱいだったんだ」
男「あ、なんだか楽しそうだね」
女「そーでもなかったよ」
男「そっか」

そんななんでもない会話を楽しんだ。
どうやら、伊藤さんは話してみると面白い子みたいだ。

近寄りがたいイメージは、出会って数時間で消えた。


28 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/20(日) 10:21:09.07 ID:GEmYEcusO
オラwktkしてきたぞ

29 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 10:22:25.01 ID:Wj605SIq0
女「わっ、ペットショップ?」
男「変わってるよね」
女「わー……犬だ、犬」
男「犬好きなの?」
女「だって可愛いじゃん。ほーら」

ガラス越しに指で犬を誘ってる。
別にこの仕草を可愛いって思うのは可笑しくないよね…

女「わん。わんわーん」
男「……ふふっ」
女「ん?」
男「あ、ごめん。いや……面白い人だなぁって」
女「そう? 」
男「ごめんだけど、もっと怖い人かと思った」
女「第一印象で決められても困るねぇ」
男「だからごめんって。ほら、犬しっぽ振ってるよ?」
女「!」

小さなチワワがバカみたいな可愛い顔で興奮してた。
小型犬もいいな。うちにいる犬にも見習ってほしいかも。


30 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 10:29:41.17 ID:Wj605SIq0
男「なにか飲む?」
女「ん?」
男「おごるよ」
女「や、悪いよ」
男「ほらあれだ。歓迎ってやつ」
女「んー……ありがとう。なんでもいいよ」

エレベーターの傍に置いてあったベンチにかばんを置く。
向かい側にはカップのジュースが出てくる自販機しかなかった。
なんでもいいか…炭酸よりは、お茶のほうがいいかな?

男「はい」
女「ありがとう。…」
男「……?」
女「これ、なに?」

一瞬、やってはいけないことをしたのかと思った。でも違う。
伊藤さんは、紅茶かウーロン茶かっていうのを聞いてるんだった。
飲めばわかるのに。そう思ったけど教えた。

男「ウーロン茶。苦手?」
女「……あぁ。ウーロン茶か。ううん、ありがとう」
男「いえいえ」

そういうと、両手でコップを覆って口に持っていった。
まるでホットのお茶を飲むかのように。

また僕は、彼女の顔を見ていた。


31 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 10:34:14.77 ID:Wj605SIq0
女「男君はこの辺に住んでるの?」
男「うん。君の家とは逆方向みたいでけどね」
女「あ、そうなんだ。なんかごめんね?」
男「いいさ。暇だったし」

鞄を二つ挟んで、ひとつのベンチに座った。
あー、そうだ。こういうのって…恋人みたいにみえるのかな?

女「ねぇ」
男「!」

ちょっとびっくりした。
邪なことを考えていたのと、少しトーンが下がった声の所為。

女「今、何時?」
男「時間? えっと……5時」
女「……そろそろ暗くなるかな」
男「どうだろ。何? 門限とか?」
女「ううん。なんでもない」

また少し沈黙がやってきた。
食料品売り場のタイムサービスをするアナウンスが、やけに耳に残っている。


35 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 10:41:22.94 ID:Wj605SIq0
男「…」
女「目、悪いからさ」

また伊藤さんに沈黙を破られた。
なんだか申し訳ないな…

女「暗いと、道がよく見えないんだよね」
男「眼鏡?」
女「ううん。コンタクト」
男「そっか。僕もだよ」
女「あ、そうなんだ。……僕?」

可笑しいか。可笑しいよな…
でも口癖だし、治そうとも思わない。なんかの漫画でもいたし。
それが理由ってわけじゃないけど、一人称を恥じることはなかった。

男「俺のほうがいいかな?」
女「ううん。なんか印象通り」
男「人を第一印象で決めないでよ?」
女「あ、こらー。ぱくんなー」
男「あはは、ごめんごめん」

男として、第一印象が僕っ子なのはどうかと思ったけど。
なんだか古い友人のように、僕は伊藤さんと話をした。

何度も、何度もその唇を見ていた。
いけないことかもしれないけど…いつのまにか僕は、この子の顔から目が離せなくなっていた。


37 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 10:50:44.66 ID:Wj605SIq0
男「教室でさ、本読んでたよね」
女「うん、これ。知ってる?」
男「……知らないや。ごめん?」
女「どんな本が好き?」

はい、漫画です。
小説なんて、感想文を書くときなんかにしか読んだことありません。
…なんて言えばひかれるよな。でも事実だし。

男「あんまり本は読まないね」
女「そっかー」
男「漫画とかなら……」
女「うんうん。漫画も読むよ?どんなの?」

伊藤さんの指す「本」ってのは、なにも小説だけじゃなかった。
僕の思っている読書は、あながち間違いじゃあないらしい。

女「漫画は結構知ってるんだね」
男「兄貴の影響だよ。女さんもなかなか」
女「……本は面白いから」
男「?」
女「うちにも姉がいるんだ。ふふっ、えいきょーかな?」
男「どうだろうね」

楽しい。
滅多に女の子と話すことなんてなかったけど、なんだか楽しい。
適当にだべっているこの時間が今日一日で一番の思い出になりそうだ。

外はもう、夕日のトワイライトに照らされていた。


38 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 10:56:06.56 ID:Wj605SIq0
男「あれ、もうこんな時間だ」
女「あ……ほんとだ」
男「…」
女「帰ろっか」
男「そうだね」

僕からは言わなかった。
特に理由は…あるとすれば、もう少しここで話したかったってことかな。
あ、立派な理由か…

女「あーあ。暗いなぁ」
男「そうだね」
女「んー……あった」
男「?」
女「これがないと危なっかしくて」

懐中電灯。

まあ…気にすることでもないか。
田舎に居たって言ってたし。こんな所と違って、真っ暗な土地だったんだろうな。

家まで送ろうか?

そんな言葉がよぎったけど、口にしなかった。
めんどくさいってのもあったかもしれないけど…なんだかこのままの関係をもっと楽しみたかったから。
…じゃあなんでよぎった?…一緒に…居たいから…

伊藤さんの目は、暗闇を見つめていた。



43 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/20(日) 11:18:19.79 ID:2vbB+N4a0
パンダか脱獄囚のどちらかに5000ペリカ

46 >>42ガッ sage 2007/05/20(日) 11:27:31.72 ID:Wj605SIq0
女「変かな?」
男「なにが?」
女「これだよ。」
男「別に。暗いから……いいんじゃない」
女「そっか」

来たときよりも、伊藤さんは僕の近くを歩いた。
触れるほど近くじゃないけど、後ろじゃなくて隣。そう言える距離。

男「そんなに悪いの?」
女「……夜は特にね」
男「…」
女「でも平気。慣れてるし」
男「うん」

車が傍を通るたびに、伊藤さんの懐中電灯はそのヘッドライトを追っていく。
男として…やっぱり言うべきなのかな。

男「送ろうか」
女「うん。お願い」
男「……え?」
女「?」

あまりにも即答で返ってきた。
もじもじしていただろ、少し前の自分が恥ずかしくなって…
なんだかどきどきした。

ただ、それだけ。


51 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 11:50:07.16 ID:Wj605SIq0
男「…」
女「まだ土地柄わかってないし。あ、無理ならいいよ」
男「いいや。って、無理なら言わないよ?」
女「そうかな?男の子ってすぐそういうこと言うから……」

なんだかヒヤッとした。
すぐそういうことを言う…そんな印象を植え付けてしまったのかな?
でも、拒否しない伊藤さんにほっとした。

女「あ」
男「?」
女「やっぱいいよ。家、逆なんでしょ?」
男「気にしないでいいよ。危ないし」
女「でも……」
男「いいって」
女「…」

ヒヤッとした感覚が背中にも広がった。
まるでこれじゃ、しつこい男のお手本じゃないか。
…自分が少し、嫌いになった。


55 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 11:57:08.28 ID:Wj605SIq0
女「やさしいね」
男「え?」
女「なんでもない。この辺でいいよ。ありがとう」

気が付けば、僕はあの大きくて綺麗な看板の前に立っていた。
いつのまにか前を歩いていた伊藤さんが懐中電灯で僕を照らす。
眩しいけど…なんだか安心した。

女「なんだかごめんね?こんな時間まで」
男「ううん。楽しかった」
女「……あのさ」
男「?」
女「……なんでもない。じゃあね!また明日、学校で」
男「さようなら。気をつけてね?」

何かを言いかけて、飲み込んだ。
また明日。その一言は…なんだか嬉しかった。

明日、もう一度君に逢える。

数歩歩いて振り向くと、伊藤さんは角に消えていった。
結局僕は、何度伊藤さんの顔を見ただろう。

真っ黒の瞳を。


58 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 12:01:23.60 ID:Wj605SIq0
次の日、いつもより早く学校に着いた。
すでに伊藤さんは机に座っていた。ドアを開けると目が合って、軽く挨拶を交わす。

男「おはよう」
女「うん」
男「…」
女「昨日はありがとう」
男「どういたしまして」

そう言いながら席につく。
もう少し会話していたいけど…ほかの生徒も来てるし、転校してすぐに
変な話が立つのは彼女も嫌だろう。

男「…」
女「…」

結局彼女がもう一度こっちを向くことはなかった。
…僕はHRの間、ずっと彼女の後ろ姿を見ていた。


友達に冷やかされたけど…それだけで終わった。
また、昨日と同じように。僕は、彼女を意識している。



60 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 12:07:47.05 ID:Wj605SIq0
2時間目は体育だった。
男子は外。女子は体育館。
A組、B組の男子が一つの教室で着替えさせられる。女子は更衣室があるのに。

男「……っと」
生徒「あ、ごめん」

A組の生徒がふざけて遊んでいた。
遊び半分で突き飛ばされた生徒が女さんの机にぶつかった。
その拍子に、鞄が鈴を鳴らした。

生徒「あ、そういえばB組転校生いるんだっけ?」
男「うん。その席」
生徒「どんな子?」
男「普通の子だよ」
生徒「ほんとかー?」
男「ほんとだって」

普通。
普通の、まだ制服の違う女の子。黒い髪が綺麗で、目の悪い女の子。

…僕はまだ、彼女を意識していた。
みんながグラウンドに向かうのを見送って、教室の鍵を閉める。
女さんの机をまっすぐにした。小鳥が澄んだ声で鈴を鳴らしてくれた。


61 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/20(日) 12:12:35.95 ID:pu/dQNbAO
なんか…いい
ほしゅ

63 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 12:12:51.30 ID:Wj605SIq0
昼休み、僕は食堂に向かった。
そこに彼女の姿はなく、なんだか少しがっかりした。

男「…」

少し高い所に置いてあるテレビには、毎日この時間を占領している番組が流れていた。
僕が生まれる前から放送してる長寿番組。

女「ねぇ」
男「!」

後ろから呼ばれた。
振り返るとやっぱり伊藤さんが居た。
彼女は少し困った顔と、笑顔を一緒に込めて僕に話してきた。

女「あ、邪魔だった?」
男「ううん。どうしたの?」
女「あのさ……図書室ってどこ?」
男「あぁ。向こうだよ」
女「そっか。ありがとう」
男「あ、ちょっと待って。案内する」
女「?いいよ。ご飯食べてるんでしょ?」
男「こんなのすぐ片付けるからさ……んっと」
女「?」

素直に言えば、嬉しかった。
食堂はいろんな生徒がいるおかげで、彼女が転校生であることはそんなに目立っていなかった。
それが、僕をなんだかあせらせて…喜ばせてくれたんだ。


65 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 12:17:05.77 ID:Wj605SIq0
男「三階なんだ」
女「ふーん。珍しいね?」
男「そうかな?」
女「そうだよ」

なんでもない会話をする。
途中でクラスの人とすれ違わなかったのは、今の僕と伊藤さんにとって+なんだろうか?

女「あー。ここか」
男「伊藤さんは小説とか好きなんだもんね。しょっちゅうここにいそう」
女「む?」
男「あ、ごめん」
女「そうじゃなくて、また伊藤さんって」
男「……あ」
女「女。女でいいよ?別に呼び捨てでも」
男「……うん」
女「その代わり、男って呼んでもいい?」

もちろん。
でも、なんだか恥ずかしいな…

男「好きなように呼んでよ。……女」
女「うん。これからよろしくね?男」

僕の心の中で、伊藤さんはより一層近くなった。
…特別な関係…なのか。わからないけど、嬉しいのは確かだった。


66 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 12:21:03.15 ID:Wj605SIq0
さすがに隣に座って本を読む度胸はなかったので、教室に帰った。
教室は数人のグループに分かれて、机がぐちゃぐちゃになってしまっている。
僕の机も。女の机も。

男「?」
生徒「ん?」

いつも僕がいる友人達が大富豪をしていた。
それだけなら疑問符は浮かばないけれど…一人が女の机に座っているのが気になった。
ただ、気になっただけ。それだけ…のはず。

男「俺も座らせて」
生徒「ん」
男「次から参加するよ。だれが大貧民?」
生徒「こいつ。500マイナーだよ」
男「あーあ」

さりげなく椅子をもらった。
生温かいのがなんか嫌だったけど…安心できる。
…変態…



68 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 12:23:34.54 ID:Wj605SIq0
予鈴が鳴ると同時に、生徒達はぞくぞくと戻ってきた。
その中に、女もいた。僕のほうをみて、少しだけ笑ってくれた。

女「…」
男「…」

笑ってくれただけで、あとは午前中と同じだった。
静かにノートをとる。その姿を…僕は見つめていた。
だんだんと…それが自然になっていくのがわかる。

僕は、おそらく…彼女を特別な存在に思っている。


69 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 12:30:10.94 ID:Wj605SIq0
次の日も。またその次の日も。
僕は相変わらず彼女の後ろ姿を見ていた。

何度か話しているうちに、黒板の字が見えにくいとくがあるって言われた。
僕がきちんとノートをとるようになったのもそのあとから。

みんなの前でも話せるようになった。
それはでも、ほかの生徒もそうするようになったからであって…
図書室に行くようになったのは、それが原因かもしれない。

あの転校初日の、伊藤さん靴箱事件の真相もわかった。
担任の説明不足だったそうだ。しろ枠とくろ枠で男子女子が分かれているのを伝えなかったのかな?
なんにせよ、靴箱で話し込むことも増えた。

いろいろ変わった。

彼女が来てから、僕はいろいろ変わったんだ。

……一番変わったことがある。それは、初めは勘違いであって、それ以外のなんでもないって…


僕は、彼女が好きになった。



71 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 12:37:41.99 ID:Wj605SIq0
男「どうしたの?」
女「あれ? ……ない」

何度目かの靴箱での会話のとき、彼女は変化に気がついた。
小さな変化。おそらく、ついさっきの出来事だと思う。

女「キーホルダー……ない」
男「あ、ほんとだ」
女「落としたかな? ……どこだろう……うぅ」
男「一緒に探すよ。もしかしたら教室からここまでの間かもしれないし」
女「うん。ありがとう」

少しだけ焦っているのがわかる。
どうやらあれは、女にとって大切な物なんだろう。
紅い鳥は、どこに飛んで行ったのだろうか。

女「ない……」
男「まだわからないよ。もっとよく探そう」
女「……うん」


72 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 12:38:25.24 ID:Wj605SIq0

手洗い場の下、消火器の後ろ、黒板の上…
ありえないと思う場所も探した。
でも、見つからなかった。

女「…」
男「…」

いつ以来かな。
彼女との会話に…沈黙が帰ってきた。
それを破ったのは、今度は女じゃなかった。

先生が僕らに話しかけてきた。

先生「どうしたの?」
男「あ、先生」
女「…」
先生「?」
男「キーホルダーとか、見ませんでした?」
先生「キーホルダー?」


73 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 12:41:20.09 ID:BGuL1DHI0
大切なものか

74 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 12:42:04.00 ID:Wj605SIq0
先生はもちろん知らなかった。
でも、僕の少し後ろでオロオロしている女を見て、話しかけた。

先生「伊藤さんの?」
女「……はい」
先生「どんなキーホルダー?」
女「鳥のキーホルダーです。鈴の付いた……」
先生「そう。色は?」
女「え……あの……」

先生はなんでもない質問をしている。
動揺したように、女は口を止めた。
……紅い鳥……だよな。

男「紅い鳥です。綺麗な、鮮やかな色をした小鳥のキーホルダー」
女「……赤……そうです、赤い色の……」
先生「?わかったわ。先生も探してみる」


75 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 12:45:47.83 ID:Wj605SIq0
結局見つからないまま、僕は女と帰路を共にした。
うつむいたまま…会話のない道続く。

男「…」
女「…」
男「そんなに大切な物?」
女「…」

振り向いてくれなかった。
何度も見た…あの後ろ姿だった。

女「……おねーちゃんがくれたの」
男「…」
女「今、外国にいるんだけど……送ってくれたんだ」
男「……そっか」

贈り物。
それは確かに、君がそんな顔をするのがよくわかる。
…初めて人の感情を理解して、悲しくなった。

雨が、降ってきた。


77 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 12:49:54.54 ID:Wj605SIq0
男「雨だ……走ろう」
女「…」
男「ほら」

自然と、でも少し強引に手を引っ張った。
突き放される仕草もなかったけど…力もなかった。
ただ、走った。振り返らず、走った。

男「……ふぅ」
女「…」
男「ちょっとひどいね」
女「…」

こんなときなのに、僕は相変わらず女に見惚れていた。
濡れた髪すら、可愛く思えた…雨はどんどん酷くなって、空は灰色に染まっていく。

女「……ふ……っ」
男「?」
女「おねーちゃん……ごめんね」
男「…」

声が震えている。
…雨が頬を伝っているのだと、無理矢理にそう解釈するしかなかった。
鞄二つ分離れた空間に、小さな泣き声だけが響いた。

雷すら、聞こえなく思える…小さな声が。


79 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 12:54:32.68 ID:Wj605SIq0
男「…」
女「ひっく……」
男「…」

何も言えない自分が、これでもかと言うぐらいに悔しくなった。
僕は確かに、女に惚れた。好きになった。

…そんな人が、隣で泣いている。

どうすればいいか、妄想だけなら理解できた。
それを行動で表すことが……こんなに難しいことだとは思わなかった。

女「ひっく……ひっく」
男「…」
女「ぐす……っ」
男「あの……」

声が出ない。
あんなに女は声をだしているのに…僕はどこまでできていない男なのだろうか。
十数年生きてきて、満足に好いた女の子すら慰められない。

悔しい。それしかなかった。


僕の心の弱さに鉄槌を下すように、雷が近くに落ちた。
轟音と共に…僕と女は鞄の距離をなくしてしまった。



80 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/20(日) 12:58:11.42 ID:iVGV9XxEO
wktkが止まらない

82 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 12:59:45.36 ID:Wj605SIq0
男「あっ」
女「……あ……」

一瞬のことだった。
恐ろしい音で鳴り響いた雷は、泣いている女に恐怖を。
悔しがっている僕に驚きを与えた。

か細い腕が、僕のシャツを掴んでいて、
中学の時にハンドボールで鍛えた腕は…濡れた制服を握っていた。

女「…」
男「…」

真っ黒な瞳は、涙に犯されても黒いままだった。
こんなに近くで人の顔を見るのは…異性なら初めてだろう。
喧嘩や試合を除くと、僕の人生にとって初めての経験になった。

それは、好きな人。

そして…その人は泣いている。
僕は、今この状態でなにができる?

あぁ、そっか。

たった一言。言えばいいだけじゃないか。


83 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 13:01:43.05 ID:Wj605SIq0
男「…」

女「…」



男「……君が……好きだ」


女「……えっ」


また雷が鳴った。

それは、僕が言葉を発した直後。
彼女が聞き返す…少し前だった。


時間がゆっくり過ぎていった。
相変わらず、黒い瞳は僕を捕らえていて…
今になってようやく、自分がなにを言ったのかを理解した。



85 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 13:06:05.45 ID:Wj605SIq0
長い沈黙の後、女は裾を放した。
僕の手は、僕の意思に反して…すでに地を掴んでいた。

女「…」
男「…」
女「……あ……」

なにか言わないと。
そう思っていたら、女が何か言おうとして、止めた。

また僕は、君に沈黙を破いてもらおうとした。

…だめだ。

僕は、伝えたいことを伝えないと。

男「あの……」
女「…」
男「……ごめん……でも、僕……好きだ」
女「…」
男「…」

二回目は素直に言えた。
でも、それだけ。
ただ、口を動かしただけだった。



86 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 13:09:53.71 ID:Wj605SIq0
心臓が今までないぐらい脈を打っている。
まっすぐ顔が見れない。地面とにらめっこしか、できない…
雨音はいつのまにか、鳴り止んでいた。

女「…」
男「…」
女「……こっち……向いて」

すぐに反応した。
そこに…泣き顔はなかった。
真っ黒な瞳は、僕をしっかりと見つめてくれていた。

女「……私の目、見える?」
男「……うん」
女「何色?」
男「黒……綺麗な黒だよ」
女「……そっか……」
男「…」

鞄一つ分、彼女は顔を寄せてきた。
僕がどきっとする前に、女は言葉を続けた。


88 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 13:12:31.93 ID:Wj605SIq0
女「……私の顔……見える?」
男「……見える……」

女「何色?」
男「色?……肌色」

女「瞳は黒で、顔は肌色?」
男「…」

女「……じゃあ、ここは?」
すっ。

僕の手を、女は唇に寄せた。
湿った温度と…手の温もりが伝わってきた。

男「……桃色……綺麗な、ピンクだよ」
女「…」



89 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 13:13:35.24 ID:Wj605SIq0





女「でも私には、全部しろくろでしか見えないんだ」






90 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 13:13:50.64 ID:puuuQI320
なんか月の盾を思い出した

91 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/20(日) 13:15:20.76 ID:iVGV9XxEO
久々に切なくなってきたお…

93 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 13:18:18.28 ID:Wj605SIq0
男「……え?」
女「…」

うっすらと、女は笑った。

女「私の目はね?色がわからないの」
男「色……が?」
女「あなたの顔。まるで漫画のようにしかわからない」
男「…」
女「青い屋根?私には黒にしか見えなかった。綺麗な看板?それも……わからない」
男「……あ」

女「紅い小鳥。……そんな色だったんだね」

背筋が凍りついた。
その瞬間、僕はなにを思ったか…いや、なにも思っていなかった。

ただ、鞄を持って走った。

振り向くこともなく、また降りだした雨の中を…ただただ走った。


94 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 13:20:59.00 ID:T1xmeIMF0
何でそこで逃げちゃうんだよ…

96 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 13:24:44.01 ID:Wj605SIq0
家にどうやって帰ったのか、わからない。
気が付けば、階段を駆け上がって自分の部屋に居た。

濡れた制服を乾かすことも考えず、鞄を乱暴に放り投げて
ベッドに埋まった。さっきとはちがう感情が、僕の中を廻っていた。

色が分からない?

しろくろ?

わからない。わからない。わからない…
僕は、何故逃げたんだ?僕は何故震えている?

僕は…あの子が好きなだけじゃないか…

雨は止んで、雲は空に消えていた。
ただただ、黒いなにかが…ずっと僕の中を廻っていた。



98 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2007/05/20(日) 13:30:01.12 ID:Wj605SIq0
その日は、朝まで下に降りられなかった。
ずっと自分の部屋で布団に潜って眼を閉じていた。

瞼の裏は、黒しかない。

…どんなに思い描いても、そこには黒い色しか見えない。

女は今頃、なにをしているだろう?
僕が突然逃げた所為で、また泣いてしまっただろうか?
また一人でキーホルダーを探しているのだろか?

僕の思いは…………


届いたのかな?


それを確かめるのが…この世のなによりも怖かった。


朝はそれでも、僕の元に帰ってきた。




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