オカシイ世の中覚え書き

第136回国会・衆議院商工委員会議事録 平成8年4月10日  野田聖子氏の質問部分

○甘利委員長 これより質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。野田聖子君。
○野田(聖)委員 自由民主党の野田聖子でございます。
 本委員会に付託されております訪問販売等に関する法律等の改正の議論に先立ちまして、まず初めに、現行法の生い立ちとか考え方をここでもう
 一度確認したいと思います。
 まず初めに、日弁連の「訪問販売法改正に関する意見書」という資料がございまして、それを読みますと、「連鎖販売取引」のところで、連鎖販売取引規制というのは、昭和四十九年七月の国民生活審議会消費者保護部会の中間覚書、または同じ年の十二月の産業構造審議会流通部会の中間答申の「基本的には、マルチ商法が上述のような種々の問題を抱え、社会的トラブルの原因にもなっていることに鑑み、その活動を実質的に禁止するよう厳しい規制を行うべき」との方針に基づくものであるというふうに述べられております。
 つまり、昭和五十一年に制定されている一番最初のこの法律というのは、マルチ商法というのができ始めてさまざまな被害が増大したから、これは実質悪であるという前提に立って、とりわけ連鎖販売取引というのが実質悪いものである、だから取り締まっていくというようなベースにあるのではないかと思っています。
 ところで、今非常にわかりづらいのは、訪問販売というのと連鎖販売取引というのの違いが非常にわかりづらい。むしろそれはリンクしているのではないかという感じがいたします。
 ただ、現実問題、この法律に基づいて、世間的に連鎖販売取引というのは悪名が高いものですから、その名を名乗るよりも、むしろその要件のうちの特定負担二万円以上にかからないものは、実態は連鎖販売取引であっても訪問販売ということを名乗れるわけですから、そちらの方が世間一般の通りがいいということで、多くの業界が、実質は連鎖販売取引の形態があるにもかかわらず、特定負担金が二万円以上でないということを理由に訪問販売という形をとらざるを得ない。訪問販売という名前の方が連鎖販売取引よりも世間の消費者の受けがいいというような、そういうねじれ現象を起こしているのではないかということを感じております。
 そこで、つまり私が申し上げたいのは、連鎖販売取引というのがあらかじめ悪質であるという前提に立ってこの法律が制定されているのではないか、そして、その連鎖販売取引というのはすなわち訪問販売の取引の一部の形であるということで、訪問販売というのと連鎖販売取引というのは別個のものではなくて、ほとんど同じものになってくるのではないかということを確認しなければならないと思います。
 そこで、これは昭和四十九年にそういう中間の答申があって、五十一年にできた法律ですけれども、平成八年の現在、訪問販売とか通信販売という業界はもう極めて日常的な消費活動になっているのではないかと思います。私自身、何か物を買うときも、デパートや商店街に行くことと同じぐらいの頻度で通信販売のカタログを利用したり、やはり友人がやっている訪問販売によって商品を買うということが日常茶飯事、当然のことのように行われている現在になってきている。
 また、それはただ感覚だけではなくて、実際に数字の上でもあらわれているわけで、例えば調査室が出してくださったこの資料を見てみましても、法律ができた当時、昭和五十一年の売り上げというのが六千八百億円であった訪問販売は、平成六年には三兆一千億円になっている。あわせて通信販売の方も、昭和五十一年、二千八百億円であったものが、平成六年においては二兆円を超える額になっている。非常に、消費者にとって通信販売とか訪問販売というのが当たり前の消費活動になっている中で、今回、その法律の改正が改めて行われることになりました。
 ところで、それとは別な話として、最近の日本の国における産業政策、これはまあ大臣も所信でおっしゃっておられましたけれども、やはり今までの産業構造では行き詰まってしまうから、新たに抜本的に変えていこうという意見が大であります。そんな中で、ベンチャービジネスとかアントレプレナーを育成していこうということに力点が置かれています。
 私はここで、訪問販売、これは連鎖販売取引の形をとっているものが多いわけですけれども、この業界こそいわゆるベンチャービジネスのさきがけとして存在しているのではないか。そうであれば、今までの連鎖販売取引イコール悪であるというような考え方を大きく転換しまして、この際、日本の次代の産業を支えるいわゆるベンチャービジネスの一つ、新産業としての認知をし、かつその業界の健全な発展を支援するというふうな立場で、これからはこの法律を通じて国は取り組んでいくのではないかということを考えております。
 それにつきまして政府のお考えをお尋ねしたいと思います。
○大宮政府委員 ただいま野田委員から御質問のありました、いわゆる新しいビジネスとしての取引のあり方ということでございます。
 我が国の例えば通信販売でございますけれども、今御指摘ありましたように、非常に景気が悪い状況でございますけれども、通信販売については売上高ベースで四、五%の成長を維持しておりまして、平成六年度にはその売上高が二兆円に達する、これは先生御指摘のあったとおりでございます。
 また、訪問販売につきましても、近年その伸びは鈍化はしておりますけれども、売上高は約三兆円でございまして、世界第一位の水準になっているところでございまして、私どもとしては、こういう訪問販売、通信販売は今後とも有望な産業分野であるというふうに考えております。
 また、規制緩和の流れの中で、消費者にも、自己責任の原則のもとに、みずから商品、サービス等の質、性能、効用を適切に評価、判断することが求められておりまして、いわゆる自己責任というものもこれから求めていかなければならないというふうに考えております。
 ただ、ただいまお話ありました連鎖販売、訪問販売等につきましては、大多数の事業者は非常に健全にやっておるわけでございますけれども、片一方にあっては、消費者が適切な評価、判断を行うために商品等の正確かつ十分な情報提供がないとか、あるいは、契約締結に際して冷静な判断環境が確保されねばならないというような状況がございまして、実際には、消費者と事業者の間で、情報量とか契約に至るまでのイニシアチブ等の面で非常にある程度の格差があるわけでございます。
 こういった観点から、訪問販売法では、これら消費者の適切な判断を阻害する悪質な勧誘行為を禁止するとともに、書面交付、クーリングオフ等の規定を置きまして、事業者と消費者の間のこういったギャップを是正し、消費者が適正に判断できる環境整備を図るというのがこの法律の趣旨でございます。
 今回の改正におきましても、電話勧誘販売等につきましては、事業者からの巧妙かつ執拗なアプローチに対応するため、電話勧誘販売につきまして訪問販売法と同様のルールを適用するというこ
とを考えているものでございます。
○野田(聖)委員 ただいまの御答弁ではっきりされなかったことは、昭和四十九年当時に日本国内で、いわゆるマルチ商法とか連鎖販売取引というのは悪いものであって、これはもう全面禁止していかなきやならないという基本的な考え方があったんだと思うんです。それについては、この平成八年の現在はそうではないということをおっしゃっていただけるのでしょうか。
○大宮政府委員 いわゆるマルチ商法といいますのは非常に業種、業態が多様でございまして、一体これをどういうふうに定義するか非常に難しい問題がございます。
 今御指摘ありましたように、昭和五十一年の訪問販売法の制定のときに、これについてもこの商工委員会で大変な議論がございまして、いわゆる悪質なマルチ商法については、これは法的に全面禁止してはどうかという議論もあったわけでございます。これについては、仮に悪質なマルチ商法を全面禁止にしょうとした場合には、罪刑法定主義の観点から非常に構成要件を厳密に、かなり狭く規定せざるを得ない。その結果、悪質業者による脱法行為が行われまして、取り締まりの観点から見てかえって適当ではないんじゃないかと、こういう判断が行われました。したがって、実は現行法体系では、悪質なマルチ商法を全面禁止するというよりは、むしろある程度緩やかな要件で定義を行いまして、網をかけた中で勧誘方法が不当である場合にはこの行為を規制し、それによって悪いマルチ商法を実質的に禁止するというのが有効ではないか、こういう考え方に立っております。
 この考え方は実は六十三年の改正時においても引き継がれておりまして、現在も我々としてはこういう考え方に立って、悪質なマルチ商法については広い網をかげながらその中で行為を規制していく、こういう考え方に立っております。
○野田(聖)委員 今の御答弁で、つまりマルチ商法とか連鎖販売取引という言葉自体は悪質ではない、正当な業であると、ただし、悪質なものと良質なものを区別してこれからは対応していくというふうに理解させていただきたいと思います。
 そんな中で、今回、禁止行為の対象が拡大されております。これは、今まではいわゆるリーダー格の人を罰するわけですけれども、今後は末端の人たちにまでその規制というか罰を、ペナルティーを科すというような大網をかけるやり方になっているわけです。
 確かに、これだけマーケットも大きくなり、悪質な業者が実際存在するということで、それらの人たちに対して厳しく取り締まりをしなければならないことは十分承知しておりますが、かえってこの方法をとることが一番いいことなのか。むしろ、例えば田んぼにある雑草を農薬で駆除しようと思ったら、いい作物まで枯れてしまう、そういうようなことになりかねないのではないかということを懸念しております。
 なぜならば、例えば、今回禁止行為の拡大をするものの一つに威迫行為というのがあります。これは、その相手をおどかして無理やり買わせたり、そういうことをしてはいけないということなのですが、ただ、この威迫という言葉は極めてあいまいで、非常に感情的だと思います。例えば、私がそういう意思がなく依頼したとしても、受け取った側には非常に威迫であったというようなことが人間社会の中で間々あるわけでございます。身近な例ではセクシュアルハラスメントがそのいい例で、男性からするとそんなつもりではなかったけれども、そのことをされた女性からするとこれはセクシュアルハラスメントであるという不毛の議論が、実際に今、日本で起きていて、それに近いものがこの威迫という言葉にも含まれているのではないかと思います。
 もし末端の人たちにまで禁止行為の対象を拡大させるとするならば、もう少し懇切丁寧に、具体性のあるものを提示していかなければならないのではないか。これは非常に感覚的なもので、あいまいではないかということが心配されるところです。むしろ、あいまいであるがゆえに、良質な活動を行っている人たちが非常に不安を感じたり、せっかく一生懸命頑張ろうと思っても、何だかちょっとしたことで自分たちは捕まるかもしれないというような、そういうおそれを抱かせて、せっかくこれから伸び行く良質のマーケットがしぼんでいくということは、これは非常に残念なことではないかと思います。
 そこでむしろ、現行法の規制の統括者へのペナルティーというのはさらに厳しくしたとしても、私たちは今後、消費者保護という、またこれもわかりづらい言葉なんですけれども、消費者を危ないものに近づけないという考え方よりも、やはり賢明な消費活動ができる国民を育てていくという方向に、少なくとも通産省は進んでいかなければならない。なぜならば、通産省が推進している規制緩和というのは、消費者等の自己責任が表裏一体であるわけです。
 そういうことで、むしろこの場合は、国が公権力を介入することによって大網をかけるというよりも、業界を発展させて、その中での自主規制とか商道徳を育てていくような、そういう支援を振り向けていくことはできないのか。また、消費者保護ということであれば、一たん受け取ったものに対して不満があれば、それを完璧な形で返品できるような、そういうものを担保した方が具体的な消費者保護につながっていくのではないかということを思っていますが、いかがでしょうか。
○大宮政府委員 ただいま御指摘ございましたように、まさに先生のおっしゃるとおりでございまして、基本的に消費者行政というのは、規制は最小限にしまして、いわゆる消費者の自己責任あるいは事業者の自主規制というものをベースに我々は基本的に考えたいというふうに思っております。
 ただ、今回我々が提案をしております、特に連鎖販売についての下位加盟者への規制の拡大でございますけれども、これは実は前にも、国民生活センターの統計によりますと、昭和六十三年ごろから一時鎮静化していた連鎖販売取引に関する苦情がここ数年非常に急増しておりまして、その実態の一つが、いわゆる統括者あるいは勧誘者と言われるリーダーだけを現在の法体系では縛っておるわけでございますけれども、むしろ実際には、下位加盟者が悪質な勧誘行為を行ってマルチ販売を行っておるという問題点が指摘されておりまして、そういった観点から、やはりそこを押さえなければ悪質なマルチ商法を取り締まれないという観点に立ちまして、今回法改正を提出したものでございます。
 それから、今御指摘ありました威迫困惑、これは禁止行為ということになっておりますけれども、確かに、この威迫行為、困惑行為というのは一体どういうものを指すのか。これは状況によって非常に変わるわけでございまして、私はいつも例で申し上げますけれども、おれは臭い飯を食って出てきたところだというふうに私が今申し上げてもだれも驚かないわけでございますけれども、夜、例えば電話でひそかに申し上げると驚く人もいるということでございまして、おっしゃるとおりでございますが、これは実は今回連鎖販売だけで取り入れたわけではございませんで、前から訪問販売法にも入っておりますし、政府のほかの法律体系、幾つかの、ゴルフ場事業法等にもございますけれども、そういう法律体系で、一つの法律概念としては確立した概念でございます。
 これは、具体的に判断するときは、今先生おっしゃったように個々のケースによって判断をするということでございますけれども、法律規定としてはこういった書き方でやむを得ないかなというふうに判断をしております。
○野田(聖)委員 時間がなくなりましたのでこれで終わりますが、この訪問販売には随分女性がかかわっております。そういう女性が健全な活動ができるように、なるべく厳しくするのではなくて育て上げていくような、そういう政策を考えていただきたいとお願い申し上げまして、質問を終わります。
 ありがとうございました。

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最終更新:2008年10月23日 12:08