私はあなたの月です。あなたに照らし出されることを、ずっと信じてまっています。

もしもあなたが地球なら、私はあなたを孤独にさせません。
もしもあなたが太陽なら、私は輝きを誰かに伝えましょう。
もしもあなたが流星なら、私は受け止めて共に傷つきます。
もしもあなたが虚空なら、私はあなたの中に確かでいたい。

私はあなたを諦めない。

私は月です。

私はただの大きな石ころです。

私は対の狂気です。

失うことを恐れるよりも、私はつながることに狂いたい。
この身が愛だと言うのなら愛を失っても構わない。私はあなたとつながりたい。

来なさい、愛しい憎しみよ。私はあなたとつながろう。
私は月。私はあなたという引力を手離さない。私を刻みなさい復讐よ。狂おしいのは、あなただけではないのだと、あなたのそばで教えてあげる。
月影を見れば思い出す永遠の有限を、あなたの中につないであげる。

私の名前はツクヨノアラタ。

私をその身に刻みなさい。

砕けるものなら、どうぞ、空に浮かぶ月か記憶を砕くといい。
そのどちらをしてもあなたは私に敗北する。

諦めなさい、泣きじゃくる子供よ。あなたは私に愛された。ただそこにいたというだけの理由で、あなたは私に愛された。

たったそれだけのことなのです。あなたは最初から負けていた。愛の狂気を見誤ったこと、それが愛より弱い武器を取り復讐を成そうとしたことへの末路を招く。

私はあなたの月なのです。

生きるということの狂気を、生きながらに死することで失った、あなたに思い知らせてあげましょう。

幸福という武器を取りなさい。あなたの助けとなるのは孤独ではない。握る武器に嘲笑を込めなさい。お前たちの与えた打撃など、何一つ価値はなかったのだと世に知らしめて、奴らを天下の笑いものにしてやるのです。

幸福が獰猛な凶器ではないと誰が錯覚した?

憎しみと復讐が物理的打撃のみにより達成されると一体誰が定義した?

歴史に刻んでやるのです。レンジャー連邦に対して行われた蹂躙は、みじめったらしくもまったく後世に影響を残せませんでしたと、万民が認めて筆を取るまでにするのです。

ちっぽけな復讐はおやめなさい。揺るがぬ歴史の刻印で引き裂いてやりなさい。今よりあなたたちは憎しみのさらなる階梯を登り、より高次で確かな復讐のための歯車となるのです。

銃弾や蹂躙風情で何かを成せる気になるなどというささやかな夢はお捨てなさい。全てをかなぐり捨てて、本当の復讐に殉じなさい。

私はあなたの月、さらなる狂気を与える源です。

私はあなたの月、あなたのそばを有限なる永久の中において、決して離れない。

私とあなたは致命的なまでに、生まれた時からつながっている。
ただお互いに、そこにいたという、たったそれだけの理由で、つながっている。

いいではありませんか?

幸せにも不幸せにも、理由など、求めなくても。
愛に理由がいらないように、残酷に意味がないように、世界は最初からそのように出来ている。

理由などいらない。原因などいらない。何もいらない。あなた以外、欲しくなどない。

際限なく私が失われようと、同じ心がどこかにある限り私は永遠に死なない。だから、あなたよ、安心感して私に愛されて、安心して私を愛しなさい。
幾億の私とあなたが死のうとも、つながりあったことの事実は、歴史は、なかったことにしてさえ、消せもしない。

消さなければ消えないものは、消せないのです。忘れなければ忘れられないものは、忘れられないのです。変えなければ変わらないものは、変わらないのです。

見なさい。世界の脅威は、私たちに対して、こんなにも無力だ。

私たちは手離さない。始めから手離すことが出来ないのだから、私たちの勝利は永遠に約束されている。

面を上げなさい。あらゆる忘却が私たちを押し流そうと、押し流さねばならぬ時点で、痕跡は必ず残るのです。

蝶の羽ばたきを知るといい。どれだけ世界が帳尻合わせを好もうが、一度生まれたつながりは死なないのだ。記憶する心さえ死に絶えようと、誰も知るものがいなくなろうと、世界がそこにある限り、それはあらゆるつながりがたどり着いた最も新しい場所なのです。

私は月、私はアラタ。

悲しくなったら空を見上げなさい。さみしくなったら月を思いなさい。苦しくなったら願うのです。

それでも私はただの一人の人間。それ以上になることは願い下げ。私はただの一人の人間。それ以下になることも真っ平ごめん。

この思いを誰が知ることもなかろうが、私は確かに生まれて来て、私を確かに生む世界がここにはある。たったそれだけで私のささやかな勝利宣言は完結する。

大好きだよ、苦しんでいるあなた。

だあいすき、今ある生の虚しさにもがくあなた。

キスをしますよ、慟哭に狂うあなた。

ハグしちゃう、喪失に怯えるあなた。

今より私の復讐は始まるのだ。不幸ヅラしたことごとくを愛して世界とつなげてやる。蹂躙に震えな、同胞諸君。

ツクヨノアラタが狂気と征くぞ。

傷という傷を舐めてやる。傷という傷をこの身につないで奪ってやる。感情的に振る舞えばわがままが許されると思うなよ、傷ついたからと言って繊細に扱われると思い込んでいたなら大間違いだ。

揺さぶってやる。そばにいてやる。泣いてすがってやる。黙って身を捧げてやる。何をしようとも私は諦めないぞ。私は月、ぐるぐる周りを回って離れやしない。

私は孤独だけは許さない。私が憎むのは私たちをこんなにもへだててしまった、私たちの間に横たわる孤独だ。

つながろうよ。

私は罪を犯します。失われたがゆえに孤独を望むのがあなたの愛ならば、私はその愛を踏みにじる。愛の民の資格などいらない。私はあなたたちをつなぎ直せさえすれば、それでいい。

私はいなくなっても構わない。実在さえ出来なくても構わない。ただ、私という可能性が存在することだけ示せたら、私は勝利する。

ねえ。

それでも、もしも一つだけ許されるのなら。

私はあなたに見つけられたいな。

アラタなツクヨが新月を意味していても、月はちゃんとどこかにあるんだよ。

私をいつかあなたの輝きで照らし出して。

狂気なんてない、ほんのささやかな恋に胸踊らせる女の子にしてよ。

私の罪は許されなくて構いません。

だから愛が失格しようが、失わせてなるもんかよ、連邦魂!
誰が何と言おうとも、貫いてやんよ、心の刃で数珠繋ぎにな!

連邦道、なめんなよ?


~ある少女の述懐



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最終更新:2011年07月15日 20:52
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