約20年前、現在リアルワールドと呼ばれているこの場所はどの地域でも混乱が起こった。
その時に私達人間の前に現れた人間でも動物でもない存在――デジタルモンスターは現在………

「フォル、サークル活動に行くよ! 早くおいで!」
「ユウ、弁当忘れてるぞ!」
「あ…」

現在、人間と共存して仲良く(?)暮らしていた。



RANDOM DAYS
  第0話 とある日、午後9時の憂鬱

side:ユウ



中学生になる直前の春休み、それが今。
私の名前は緋之谷 優雨(ひのや ゆう)。趣味は読書。その所為か、視力が落ちたのでメガネをかけています。
そして、幼年期デジモン育成が主な活動のサークル『BABY ANGELS』に所属している…けれど、
現在、その所為で少し先行き不安で胃痛や頭痛が…。
それもこれも、今日のあの出来事の所為だ、絶対。


遡る事、約9時間前。


 その日、私は寝坊しかけた。
 春休みだから学校はないけれど、現在、幼馴染の2人と一緒に入っているサークル活動(…というべきなのか?)の待ち合わせにも遅れかけた。
原因は自業自得。本を夜中遅くまで読んでいたからなんだけどね…。
その所為で現在、自転車を全力で走らせて……。

「こんな事になるなら、もっと早く寝とけばよかった…」

自分では小さな声で言ったはずだった。けれど、目の前のカゴの中にすっぽり収まっている ピコデビモン――私のパートナーで、名前はフォル――には聞こえていたらしく、

「何言ってんだよユウ、夜中まで小説読んでたくせに。オレは忠告したぞ」

と言ってきた。
確かに、忠告を聞かなかった私も悪いけどさ…。
ハルちゃんやリュウちゃん、怒ってなければいいけど…。
そんな事を考えながら、私は待ち合わせ場所である市民センターに向かった。


全力で自転車を走らせて来たから、当然のごとく息を切らせながら市民センターに着いた。
当然、疲労困憊状態……。
待ち合わせ場所には金髪碧眼の少女――幼馴染の一人、『ハルちゃん』こと霜月晴香と、 黒目に茶色がかった髪で、…なぜか前髪の一部をゴムで縛った少年(というか、青年)、『リュウちゃん』こと一牧竜也が既にいた。
何故かリュウちゃんの前髪は、休みの日はゴムで縛ってある――大抵、女の子向けの飾りのついたゴムで。
理由はもう聞かないことにした。『触らぬ仏に祟りなし』と言うし。
(「『仏』じゃなくて『神』だよ。」 BY フォル)

「遅刻ぎりぎりだよ~」

と言われながら、ハルちゃんにチョップされた。 顔は笑っているけれど、目は笑っていない。 だけど、まだ軽いノリだったから良かった。本当に本気でやってたら冗談抜きで痛いのよね…アレ。

「あと1分で待ち合わせの時間だった。もう少し余裕をもって来い。」

リュウちゃんにはやや呆れられたような感じで言われた。 確かに一理あるけれど…ギリギリ間に合ったんだから別にいいじゃん…。


その後、市民センター内に設置されたデジタルゲートを使い、デジタルワールドにやってきた。 デジタルゲート――通称『ゲート』は近年、リアルワールドとデジタルワールドの決められた施設に設置されている。 その為、どちらの世界にも行き来可能になったのだが…まだ設備(主にお金の問題)や法律の関係で、リアルワールドに来ることができるデジモンは少ない。 それでも昔に比べれば、遥かに多くなっていると聞いた。

今日はサークル活動ということになっているが、本来の活動内容は『幼年期デジモンの育成』…もとい、『遊び相手』がメインだ。 ただ、今日はそのメインの活動ではない。 今日は『友人からの要請』で、その『友人の仕事の手伝い』だったりする。(ただし、この『友人』という表現には疑問符が付く。) 人手はいくらあっても、この時期は足りないそうだ。

というわけで、その友人(と言えるかどうかはともかくこの際置いといて)、 ラスイルことロイヤルナイツのデュークモンの仕事場…というか、執務室に行ってみると、その部屋の持ち主は…


書類に埋まっていた。


その書類というのが、机の上に山積みにされている(というか、されていただろうと推測される)だけでかなりの量になるのだが、それが崩れて彼の上に覆いかぶさっている。

「また?」 「まただ」 「まただね」

実は、手伝いに来る度に似たような状況に陥っていることが多い。 ちなみに、今の発言は私→リュウちゃん→ハルちゃんの順だ。

「とりあえず、助けてあげろよ」

フォルが言った事ももっともだった。 とりあえず発掘――もとい、救出(?)を開始。


――30分後――

「助かった、礼を言う」

あの後、あの書類のあった部屋の隣にある応接室に移動していた。 書類に紛れて割れ物系の物(しかもかなり貴重らしい)が一緒にあり、自力で脱出しづらかったそうだ(本人談)。

「ところで、今日は全員で手伝いに来てくれると言っていたが…セラムとフランはどうした?」

セラムはハルちゃんのパートナーのピッドモン、フランはリュウちゃんのパートナーのシードラモンだ。 本来、デジタルワールドではパートナーがいる場合、すぐ傍にいるのが普通なのだけれど…

「幼年期たちがまとめて風邪にかかって、院長とナースだけじゃあ手が足りないから、そっちを手伝うとのことだ」

リュウちゃんが少し心配そうな感じで言う。 院長とナースは、いつも活動している場所唯一の医者と看護士である。 院長はデジモン専門の医者のケンタルモンの通称、ナースはその助手をしているテイルモンの名前である。

「そうか…」

そう聞くと、ラスイルは何だか心労が更に増えたような感じの表情になった…。

「で、今日の仕事は?」

ハルちゃんが質問し、ラスイルが本題を切り出す。

「主に書類整理だが…今日は早く終わったら他の仲間の手伝いもしてくれ。この時期はどこも忙しいからな…」

『幼年期たちが風邪を引いた』と聞いた辺りからどんどんテンションが下がっている…。

「……じゃ、じゃあ、私たちは執務室の書類整理からやっとくね。ラスイルは少し休んでていいよ。」

そう言って私達は部屋を出て作業を開始しようかと思った…けれど、

「なら、少し休んだらすぐに私も戻る。そういえばユウ、レミから届け物が着いているぞ。受け取ったらすぐに見て欲しい、とのことだ」

そう言うとラスイルは細長い、デジタルワールドでもリアルワールドでも一般的に使われている規格の情報記録端末を差し出した。


レミさんというのは、ほんわかとした性格で、『BABY ANGELS』のリーダー…いや、元リーダー。先日引退したが、次のリーダーを決めていなかった。 私たちは別に誰がリーダーでもよかった。元々人数が5人というサークルで、残ったのは私たち3人だけだったのだから。 ちなみに、レミさんと同じ時期にもう1人も引退した。

で、本題。 引退した元リーダーからの連絡、まだ次期リーダーを決めていないこの状況。 次期リーダーは現在のリーダーが中心となって古参のメンバーの意見と多数決で決めるという変な感じがする伝統。 明らかに(個人的に)嫌な予感がする。


ハルちゃんとリュウちゃん、そしてフォルは先に作業を始め、私は端末の内容を見てから始めることにした。 とりあえず部屋の端の机の上にあるPCを使い、渡された端末を接続する。


端末の内容は、記録映像だった。 そこに映っていたのは青銀色の長い髪、ほんわかとした雰囲気を体現しているような女性。 聞こえてきたのは、やはりほんわかとした口調の…レミさんの声だった。 簡単な挨拶もそこそこに、映像に映された彼女は本題を切り出してきた。

『ユウちゃ~ん、新しいサークルリーダーは貴方になったわよ、頑張ってね~』

………はい? 空耳が聞こえたような気がするんデスガ。

「年から言って、新しいリーダーはリュウちゃんかと思ったんだけど…」 『ちなみに、リュウちゃんは今年受験~』

確かに、今年度はリュウちゃんは中3、高校受験の年だ。 サークルが勉強の邪魔になってはいけないという配慮だろう。

「じゃあハルちゃんは?!ハルちゃんの方が性格とかしっかりしてるでしょ!!」 『ハルちゃんは家庭の事情で忙しい~』

確かにハルちゃんは『家庭の事情』で活動に来る日が私に比べて少ない。 消去法でいけば、私しか残ってないわけだ。 しかし、これは本当に記録映像なのか疑問に思った。リアルタイムじゃないの?

『ちなみに、これはちゃんと映した映像だから~』

思わず机に突っ伏した。ずれたメガネを元の位置に直す。 映像に言われても説得力が無い気はするけれど、映像の表示は確かに『通信』ではなく『再生』になっている。 しかし、抜け目無い。この分だと、必要な手続きや引継ぎ事項ももう…

『必要な手続きも引継ぎ事項も全部終わってるから、必要なものはラスイルにもらって~、預けてるから~』

うわぁ…やっぱり終わってる。

『というわけで、あと頑張って~。たまには手伝いに行くからw』

レミさんが満面の笑みで手を振りながら、映像はフェードアウト。

私ががっくりとうなだれてると、ラスイルが何かを差し出してきた。

「これも、預かってたんだが…」

ラスイルが目を背けながら渡してきたそれは、先ほど渡された伝言メッセージとは別の端末だった。 規格は一緒だが、端末に貼り付けられているシールを見る限り、記録できる容量はこちらの方が圧倒的に多い。 『サークル運営の心得』なるものとかその他諸々の後に必要になるかもしれないデータが入っているのだろう。 ……それにしてもこの端末、書類データを入れるだけにしては容量大き過ぎないかなぁ?


というわけで、胃痛や頭痛の原因はきっとリーダーにさせられた事なんだよね…。

私はリーダーとかやるのは苦手だけれど、 ただ、やらなければならない事は頑張らないといけない。 それが『押し付けられた事』だとしても。たとえ嫌でもね……。 まぁ、今までリーダーとかそういうことは気にせずにやってきたサークルなので、 今までと大して変わらないかもしれないが…今後も、胃や頭が痛くなる事はきっと間違いない。


最終更新:2009年05月17日 22:13